2017/08/20

犬の胃拡張・胃捻転リスク問題の補足

このブログを書き始めて、今のところの一番の功績は(自分で功績とか言っちゃうのもどうなのよって感じですね。すみません。)6月に書き下ろしでアップした「犬の胃拡張・胃捻転(GDV)リスク要因」の記事ではないかと思います。

何しろPVがじわじわと増え続けて22000を越えるという、dog actually現役時代並みの数字を出しております。

さて、様々なリスク要因を挙げた中で、一番反響が大きかったのが「フードの器を台の上に乗せて食べさせるのはGDVのリスクを高くする」というものです。

「器を高い位置にすることでリスクを低減する」と言われて実行していた方も多いだけに、「えーっ!」と思った方も多いのは尤もだろうなと思います。
そこで、今回はその補足。

アメリカでも「早食いを防止する」「食後の運動を控える」「一度にたくさん食べさせない」などはすんなりと受け入れられているのに比べて、この『器を高くする問題』は熱い議論になりがちなんですよ。

多分、反対のことを教えられ実行していたというのと、フードの器を床に置くと人間の視点では食べにくそうに見えるという2つの点が大きいのではないかと思います。
でも「dog GDV raised bowl」(犬 胃捻転 器 高くする)で検索すると、器の位置を高くすると危険としている情報のほとんどは獣医師や獣医学の研究者が書いたり監修したりもので、「器の位置を高くした方が良い!」と主張しているのはほとんどが一般の飼い主によるもの、たまにブリーダーを名乗る人がいるという状態です。

犬の体の構造を落ち着いて考えてみると、床や地面の高さのものを食べる方が自然なことなのはストンと腑に落ちるんですよ。


言葉で書いて説明するとちょっとわかりにくいので、図にしてみました。

まずは器を台の上に置いて高くした場合↓

確かに口と器の位置関係で言えば食べやすそうに見えます、
けれど、この姿勢では犬の食道は曲がった状態で食べ物を胃に送り込むことになります。その際にどうしても空気が余分に入ってしまいますよね。


次に、器を床の上に置いた状態↓


頭を下げた姿勢で食べることで犬の食道は胃に向かってまっすぐの状態になります。

この食道がまっすぐになっている状態というのを意識すれば、とても脚の長い犬種で床に直置きではどうしても食べにくそうな場合は、ごく低い台を使っても良いと思います。
ただ、食べにくいということは早食いの防止=つまりGDVのリスクの低下要因にもなるわけですから、食べにくいことが必ずしも悪いわけではないのです。

野生の狼や狐などは皆、地面の高さで食べているわけですから、体の構造が低い位置から食べるのに適しているのは理にかなっていますね。

リスク低下要因を全て実行してからと言って、発症を100%予防できるわけではないのは、他の病気と同じですが、わざわざリスクを高くすることは避けたいですよね。





God Made a Dog


dog actuallyの過去記事を再掲するというこのブログも、最近は更新が遅くて面目無いしだいです。

このGod Made a Dogの記事はちょっとした息抜き記事としてアップしたのですが、自分でもなかなか気に入っているもののひとつです。

このビデオを見るたびに「犬って本当に可愛いよなー」としみじみ胸を熱くしております。


(以下dog actually 2015年2月22日掲載記事より)

今年の2月、アメリカの国民的スポーツ行事・スーパーボウルの時に流れるテレビCMで、クライスラー社が「God Made A Farmer(神は農夫を創られた)」をテーマに自社トラックのコマーシャルを放送しました。このCMはたいへん好評で話題になったのですが、その10日ほど後にそのスタイルを真似た形で「God Made a Dog」というビデオが作られ、Youtubeにアップされました。
ビデオは6月の下旬にインターネット新聞のハフィントンポストで紹介されたのをきっかけに、ツイッターやフェイスブックなどSNSで爆発的に広がり大人気となりました。
犬を愛する人なら必ずやクスッと笑った後、ジーンと胸が熱くなるこのビデオ、まずはご覧くださいませ。



ナレーションの日本語訳は以下の通りです。
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そして9日目に、神は自らが創造された純真な目の子供らを見下ろし、こう言われた。
「あの者達には友が必要じゃ」
そこで神は犬を創られた。
神は言われた。
「朝には喜んで飛び起きてキッスの雨を降らし、樹の根元にシッコを引っかけて、1日中眠りこけ、また起きてまたキッスの嵐、そしてテレビの光を浴びながら真夜中までも起きている。そういう者が必要じゃ」
そこで神は犬を創られた。


神は言われた。
「自ら進んでオスワリをして、次はマテ、それからゴロンとでんぐり返り。広い心で、必要の無い帽子をかぶせられても、わけの分からない衣装を着せられても文句も言わぬ、そういう者が必要じゃ。
気にすることも考えることもなく屁を放ち、尻尾をクルクル追いかけて、股ぐらをフンフン嗅ぐ。棒をくわえて持って来て、ペロッとなめて元気をくれる、そういう者が必要じゃ。
そなたが何も成さなかったとしても、何も得られなかったとしても、勝利を収めなかったとしても、成功しなかったとしても、そんなことまるで気にせず評価することもなく、ただいつもと同じように愛してくれる、そういう者が必要じゃ。」
そこで神は犬を創られた。

神は言われた。
「橇を引いて走るほどに、爆弾を探し出すほどに力強く、それでいて赤子を愛し、盲人を導くほどに心優しい、そういう者が必要じゃ。
心が傷ついた時にはそっと頭をもたせかけ、優しい瞳で慰めながらソファーの上で何もせずに1日中付き合ってくれる、そういう者が必要じゃ。」
そこで神は犬を創られた。
(photo by skeeze )


「たとえ孤独の中にあっても、我慢強く忠実な、そういう者でなくてはならぬ。
いつもそなたを気にかけ、寄り添い、鼻を押し付け、元気づけ、心鎮め、イビキをかき、ヨダレをたらし、ゴミを漁り、リスを追いかける、そういう者が必要じゃ。
明るい無私の心で家族をひとつにする、そういう者が必要じゃ。
一番の親友が「ドライブに行こうか」と言うとワンワン吠えてハアハア息を切らし、尻尾をブンブン振って返事をする、そういう者が必要じゃ。」
そこで神は犬を創られた。
(photo by TessDeGroot )

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いかがですか?
少し解説を付け加えますと、このナレーションの下敷きになっている「God Made A Farmer」というのは、1978年に大規模な農業のコンベンションにおいて、当時の人気ラジオパーソナリティーだったポール・ハーヴェイ氏が行ったスピーチです。聖書の第一章「創世記」の中で1日目~6日目に神が光や天地や人間を創造され、7日目に休息を取られたという説話を基に、「そして8日目に神は自らが創造された大地を見下ろし、これを世話する者が必要だと言われた。そこで神は農夫を創られた。」というフレーズで始まったスピーチで、農業に従事する人々を讃えるものでした。犬の讃歌であるこのビデオは、農夫に続いて神が創造されたのは犬であるということで、「そして9日目に」で始まっているというわけです。
さて、良かったらもう一度、ビデオを見返して愛犬のそばに腰を下ろしてみて下さい。目尻を下げて「もう、まったく犬ってやつは」って笑いたくなったり、愛犬を抱きしめたくなったり(こういう場合、たいてい犬は迷惑そうですが 笑)、優しい気持ちになっていらしたら幸いです。

2017/07/18

レスキュー活動におけるビジネス的運営の成功2

前記事からの続きです。ここからがもっとNHK朝ドラ的なところです。

日本でもアニマルレフュージ関西(ARK)など、ビジネス的な視点で活動をしている団体はありますが、残念ながらまだまだ少数です。(ARKさんはdog actuallyでも記事にしていますので、これも再掲します。)SNSなどで保護活動に縁の薄い一般の人の書き込みなどには「犬を引き取ろうと思ったらお金を要求された!保護犬で金儲けしてる!」というようなものもチラホラ見受けられます。
↓の記事の本文にも書いていますが、こういう高いレベルでの活動が広まることで、一般の人の意識も変わっていきます。

保護活動をビジネスに例えて説明すると「ひどい!信じられない!」という声があがるのもたくさん見てきました。これは受け手の意識が低いというよりも、発信側の工夫が必要な点だと思います。イメージが悪くならないよう、わかりやすく伝えるというのは、ビジネスの広報では当たり前のことだからです。

そして、その後も他の場所でも何度も引用しているのが「保護団体の運営は、優しい美しい心だけではできないのです。」というシンディ・シャパイロ氏の言葉です。より多くの動物を救いたいなら何より大切なのは破綻しないこと。実際に活動に参加している人でなくても多くの人がこれを知っているだけで、無責任な賛美や、自己満足の丸投げの抑止力になるのではないかと思います。


(以下dog actually 2013年4月22日掲載記事より)
(photo by Elizabeth Thomsen)
前回、1975年にウォールストリートジャーナルで紹介された動物保護団体North Shore Animal League(以下NSAL) とその運営責任者アレクサンダー・ルーイット氏を紹介しました。
ジャーナル紙のその記事を読んで感銘を受けたのが、当時25歳の女性シンディ・シャパイロ氏。アイビーリーグの名門・ハーバード大学の経営大学院を卒業したばかりの、前途洋々たる人物でした。記事を読んだシャパイロ氏は「これこそが私がやりたいこと!このためにこそ今まで勉強してきたんだ!」と閃いたと言います。
シャパイロ氏は電話帳からルーイット氏の自宅の番号を調べて電話をするという大胆な行動に出ました。そしてルーイット氏が成し遂げたようなアニマルシェルター運営を、自分も同じように地元マサチューセッツで始めたいと、思いの丈を伝えたのです。
ルーイット氏は最初はまるで父親のようにシャパイロ氏を叱りつけました。最高の教育を受けて未来が開け始めたばかりだと言うのにもっと現実的になりなさい、と。動物保護というのはいったん関わり始めると一生を捧げる覚悟が必要だし、胸が張り裂けるようなことの連続だ。それにもちろんお金が儲かるものでもないのだよ、とも。
ルーイット氏は散々威したにも関わらず全く引く気配を見せないシャパイロ氏にとうとう根負けし、「そこまで言うなら」と彼女をロングアイランドの自宅に招待しました。
シャパイロ氏は週末をルーイット氏の自宅で過ごし、シェルターの見学にも訪れ、何がどのように運営されているのか、見聞きしたこと全てを書き留めました。シャパイロ氏の熱意を目の当たりにしたルーイット氏は、「実を言うと、自分がこうして動物保護のために作り上げたノウハウを継承してくれる人物がいればとずっと考えていた。君は私の眼鏡にかなった初めての人だよ」と打ち明け、最終テストとして10問の課題を出しました。課題は財政計画、マーケティング(市場調査~流通経路~広告を含む、計画から最終販売までの全過程)など、シャパイロ氏が実際に組織を運営する能力があるかどうかを見極めるものでした。
ルーイット氏が求めるシェルター運営のビジネス理論は、当時の既存のシェルターのあり方とは大きく異なるものでした。しかし幸いなことにシャパイロ氏は従来のシェルター運営のことは全く何も知らず、持っているのは財政やマーケティング、マーチャンダイジングに関する豊富な知識と溢れる熱意でした。与えられた課題を見事にクリアしたシャパイロ氏のもとに、ルーイット氏から5,000ドル(現在の日本円にすると300万円くらい)の小切手が送られて来たのは、それから間もなくのことでした。
シャパイロ氏はその資金を元手に、まず動物病院の地下室を間借りしました。広さにして約36坪強、ちょっとした一軒家くらいの床面積の、猫12匹犬25匹を預かることができる施設で、里親を探すリホーム活動を開始しました。当初は動物を計画通りに送り出せず、場所がいっぱいになれば自宅で犬達を預かることもありました。ダイニングテーブルの下には親のない子犬達が、リビングルームでは別の犬が出産して育児をしているというような状況を、ご主人と一緒に乗り切ってきたそうです。
この動物病院の地下室での保護活動を始めたのが1976年。現在もシャパイロ氏が責任者を務める保護団体Northeast Animal Shelter(以下NEAS)の始まりでした。
NEASは東海岸のニューイングランド地方(コネチカット、ニューハンプシャー、バーモント、マサチューセッツ、メイン、ロードアイランドの6州)の中で最大の私営NO KILLアニマルシェルターとして、大きな成功を収めています。現在は、活動当初の10倍以上の広さの屋内施設と屋外の複数のドッグラン、自前の医療施設、30名の常勤スタッフ、15名のアダプションカウンセラー、400名以上のボランティアを擁する団体です。利用者の便を考えて、施設は年中無休で朝10時から夜の8時までオープンしており、地理的にもアクセスの良い場所にあります。
(photo by Elizabeth Thomsen)

この成功は1975年にルーイット氏がウォールストリートジャーナル紙に語った、「どんな犬でも...そう、たとえハンディキャップを背負った犬であっても適切な層に適切なアピールを効果的に行うことで、家族を見つけてやることは可能です。資金調達に関しても同じことです。闇雲に活動するのではなく、この原則に従って戦略を立てて活動を続けること。これが成功の鍵です。」という言葉を、シャパイロ氏が忠実に実行し続けた成果です。
上に揚げた2つの画像は、どちらもNEASがリホームした犬達の同窓会イベントの様子です。こうして犬の里親になった家族とつながりを持ち続けることで寄付金も集まり易くなりますし、また次に動物を迎える時にもこのシェルターからという動機付けにもなります。
動物達による地元の老人ホームの訪問サービスも、NEASの大事なプログラムのひとつです。老人ホームに連れて行くのは、知らない人に撫でられても大人しく振る舞うことが出来る、注意深く選抜された動物達です。訪問される側のシニアの皆さんの喜びはもちろんのこと、このようなプログラムに参加できるというのは、新しい家族を見つける上での大きなセールスポイントになります。
また、子供達を対象にしたバースデープランも実施されています。レクリエーションルームを子供のバースデーパーティーのために1時間最低150ドルで貸し出すというものです(貸出料は団体への寄付金とみなされるので、もっと大きな額を寄付するのも大歓迎です。普通にレストランなどを借りるのと違って、この出費は税金控除の対象にすることができます)。飲み物や食べ物の持ち込みは自由、子供達は施設の見学ツアーに参加することができます。つまり資金調達と地元へのアピール、そして次世代への教育活動が同時に出来るというわけですね。
これら様々な戦略を立て、実行し、分析し、継続して来た結果、NEASは活動開始以来10万匹以上の動物をレスキューし新しい家族へと送り出して来ました。現在ではシャパイロ氏のところに、かつて彼女自身がやったように「私もあなたのような活動がしたいんです。勉強させて下さい。」という問い合わせが入って来ます。
「そうやって問い合わせて来る人々に、私はかつて自分がルーイット氏から言われた同じことを繰り返しています。NEASと同じ規模で成功を収めようと思ったら、経営学の学位か、実際のビジネスの経験が必要不可欠です。一般社会に通用する常識も身につけていなくてはなりませんし、マーケティングを実行する知識も必要です。通常のビジネスを開業するのと同様に、少なくとも最初の5年間は利益が出なくても持ちこたえられるだけの経済的基盤を準備しておくことも必要です。昼夜、週末、祝日を問わず働かなくてはならないし、胸がつぶれるように辛いことがあっても前に進み続けなくてはならない。時には、助けが必要な動物がいても背を向けなくてはならないこともある。保護団体の運営は、優しい美しい心だけではできないのです。」
幸いなことに、ルーイット氏やシャパイロ氏のような視点や考え方での保護団体の運営は、少しずつ浸透して広がり始めています。そして大切なことは、こうして高いレベルでの活動が広まることで、一般市民の意識も変わっていくということです。
NEASでは、犬や猫をリホームする際、295~395ドルのアダプション料金を設定しています。ここには、避妊去勢手術、州外や国外からの動物の運搬費用、ワクチンやマイクロチップの費用が含まれ、また次の活動への資金にもなっています。我が家の犬達をシェルターから引き取った時にも250ドルと275ドルのアダプション料金を支払いましたので、これはごく一般的な料金設定だと思います。公営のシェルターなどであれば料金はもっと低くなりますが、シェルターから動物を引き取るからといって、それが無料であると思っている人はアメリカにはまずいないでしょう。
日本で動物達のために活動している団体を拝見していると、どこも皆、資金の捻出に苦労していらっしゃる様子が見て取れます。何もかもアメリカ流を取り入れる必要もないし、無理な面も多々ありますが、それでもマーケティングやマーチャンダイジングの考え方をベースに戦略を立てるという視点が日本のレスキュー活動にも浸透し、一般の人々の意識も変わっていくといいなと思っています。
dog actuallyの読者の皆さんの大半はレスキュー活動にも理解があり認識の高い方々だと思うのですが、活動に携わっている方からは「動物を"引き取ってあげる"のにお金を払うんですか!?と言われた」などの残念な声もよく耳にします。浅く広く寄付金を募ることも容易ではないため、会費制を導入しているグループも多いようです。
アダプション料金を負担して動物を迎えることは、ペットショップの動物にローンを組むよりもずっと気持ちがいいものです。寄付金は何も数万円、数十万円単位でするものではなくて、最寄りの保護団体や保護をしている個人の方にペットシーツやフードを差し入れることでもいいのです。
アメリカの大きな保護団体が歩んできた軌跡を伝えることが、日本のレスキュー活動の少しでもお手伝いになれば幸いです。

<参考書籍>
『Little Boy Blue』 by Kim KAVIN

レスキュー活動におけるビジネス的運営の成功1

 この記事は、前回と前々回の記事で取り上げた「レスキュー活動におけるビジネス的視点」のシリーズになっています。

この記事のエピソードは旧SMILES@LAで紹介したことのあるキム・ケイヴィン氏著の『Little Boy Blue』に掲載されていたものに、当該保護団体のサイトに掲載されている情報などを加えてまとめたものです。一冊の本の中の一章だけのエピソードなのですが、これだけでNHKの朝ドラが一本できそうなくらいのドラマが詰まっています。なんでアメリカの話なのに朝ドラなのよって言われそうだけど、なんかすごく朝ドラのヒロインっぽい話なんですよ(笑)

旧SMILES@LAで紹介したのは、この本の前書き。マイケル・ヴィックのところから保護された犬たちのストーリーTHE LOST DOGSの著者ジム・ゴーラント氏が書いたものです。これもとても素敵なので、読んでいただけると嬉しいです。

(以下、dog actually 2013年4月8日掲載記事より)

犬のレスキュー活動において、マーケティングやマーチャンダイジングといったビジネス的な視点で戦略を立てて取り組んでいくことの大切さは、過去にも何度か書いたことがあります。
これは活動を破綻させることなく継続させ、より多くの犬の命を救い、犬にも人にも住み易い社会を作って行く上でとても大切なことなので、今回はPart2という形でまたご紹介したいと思います。(※再掲にあたって、タイトルを少し変更しました。元のタイトルは「レスキュー活動におけるビジネス的視点Part2」)

今から38年前の1975年、ウォールストリートジャーナルに、ある動物保護団体の記事が掲載されました。ウォールストリートジャーナルと言えば、経済や金融に関する記事を掲載している新聞です。動物保護の話題とはあまり縁がありそうにないジャーナル紙に取り上げられたのは、North Shore Animal League。記事の見出しは『正しい戦略を打ち出せば、3本足の猫にも市場有り。大企業を手本にした小さなアニマルシェルターの成功』というものでした。
North Shore Animal League(以下NSAL)は、世界でも屈指の大規模な動物保護の公益法人ですが、ジャーナル紙に記事が掲載された当時は、まだまだ小さな団体でした。1944年に設立されたNSALは、60年代の後半まで昔ながらの資金調達の方法、富裕層に寄付のお願いの手紙を送るという方法をとっていました。
さてジャーナル紙の記事の主人公であるアレクサンダー・ルーイット氏は、50年代に「アメリカのトップセールスマン12人」という書籍で、ホテルチェーンのヒルトン氏、コカコーラのファーリー氏などと並び称されたこともある人物です。訪問販売のルーイット掃除機は、戦後のアメリカの大ヒット商品でした。
1969年のある日、ルーイット氏は寄付金お願いの手紙を受け取った奥さんから「NSALに100ドル寄付したいのだけれど」と相談を受けました。現代の日本の感覚なら5~6万円というところでしょうか。
ルーイット氏は自分の寄付金がどんな風に使われるのか好奇心がわき上がり、NSALのシェルターを訪ねてみました。そこで会社を経営というもののプロであった彼の目に映ったのは、あまりにもお粗末な組織運営でした。シェルターが開いているのは平日のみ、しかも1日2時間だけ。フルタイムで働いている人間はたった1人。資金繰りに困窮して、電灯を点けておくことさえままならず。とにかく犬を保護するたびに赤字が増えていくという状態を何とかしなくてはと、ルーイット氏は決意したのでした。
彼はNSALの責任者にダイレクトメールキャンペーンを提案指導しました。地元の出版物印刷所に協力を依頼し、子犬と子猫の可愛らしい写真をあしらったDM28,000通を作成しました。DMの内容は「1ドルの寄付をお願いします。この子達の命を救う為に!たったの1ドルです!」そして、当時人気シンガーだったペリー・コモ氏もこの運動に参加しているという写真とサインを掲載する契約も取り付けました。
キャンペーンは大成功でした。集まった寄付金は11,000ドル。現在の価値に換算すると約67,000ドル相当になります。当時66歳でビジネスの世界からは退いていたルーイット氏は、NSALの責任者として組織の立て直しに取り組み始めました。ルーイット氏就任後の5年の間に職員は25人に増え、シェルターは年中無休に、宣伝広告費として毎年50,000ドルを計上するまでになりました。


(photo by spotreporting)
ルーイット氏は会社を経営するのと同じ手法でシェルターの運営にあたりました。
「シェルターに連れて来られる動物達は"仕入れ"です。新しい里親に送り出すことができれば"売り上げ"。仕入れたものが動かず"在庫"が多くなれば、商品のプロモーションを行って販売促進をする。多くのアニマルシェルターは高い志を持ってはいるものの、資金調達の方法もビジネス的組織運営も知らない人々によって運営されている。彼らが破綻せずに済んでいる唯一の理由は、毎年どこかのお金持ちの老婦人が遺産を残してくれるからです。」
ずいぶんと冷徹で辛口に聞こえるかもしれません。しかし資金繰りがままならず経営破綻してしまっては、しわ寄せが来るのは保護されている動物達です。
ルーイット氏が就任した年、NSALが家庭へと送り出した動物達は年間約2,000頭でした。現在のNSALは年間約60,000頭の動物が入っては出て行くNO KILLシェルターです。ルーイット氏は1988年に79歳でこの世を去るまで、NSALの運営に携わっていました。
ルーイット氏が亡き後も、NSALはビジネス的手法での組織運営を引き継ぎ、今では年間3,000万ドル以上の収支を計上する組織になっています。行き場のない動物達のレスキュー、リハビリ、リホーム、全国のシェルターや保護団体への支援、一般の人々への教育啓蒙活動といったNSALが果たしている役割は、40年以上前にルーイット氏がビジネス的手法で組織の運営立て直しを図らなければ、実現することがなかったものです。つまり大事なポイントは、大きな組織だからビジネス的運営が必要なのではなくて、ビジネス的運営を取り入れた結果、ここまでの大きな組織になったということです。
さて、1975年にルーイット氏のことが紹介されたウォールストリートジャーナルの記事を読んで、大きな感銘を受けた人物がいました。その人の名はシンディ・シャパイロ。ハーバードビジネススクールを卒業したばかりの、25歳のうら若き女性でした。
シャパイロ氏が取った行動は?それは次回にまた、じっくりとご紹介したいと思います。

<参考書籍>
『Little Boy Blue』 by Kim KAVIN

2017/07/11

レスキュー活動におけるビジネス的視点


タイトルに『ビジネス的視点』という言葉を初めて使った記事です。
「保護活動をビジネスだと考えてるなんて酷い!理解できない!」この言葉、このところSNSなどで本当によく目にします。
でもビジネス的に考えて、効率良く資金を調達し、効率良く保護犬を家庭に送り出すということの恩恵を一番受けるのは当の犬たちです。(猫でもうさぎでも同じ)私はこのポイントをずーっと説き続けていきたいと思っています。

また、この記事で紹介したシェルター医療プログラム(これは私が訳した言葉です)最近はいくつかの犬メディアで本家カリフォルニア大学デイビス校の日本人教授の方が『シェルターメディスン』という言葉で詳しく紹介する記事を書いていらっしゃいます。

(以下、dog actually 2011年11月7日掲載記事より)

前回は「犬種別レスキューという考え方」をご紹介しました。
これは"必要とされる所に適切な情報と供給を"という、ビジネスのマーケティング的な視点で立てられた戦術であるとお話しましたが、今回は動物のレスキュー活動におけるビジネス的視点についてもう少し詳しくご紹介しようと思います。
カリフォルニア大学デイビス校にはコレット・シェルター医療プログラムという独立財政のプログラムがあります。シェルターに収容されている動物達に適切な医療を提供するための活動や教育を行っており、寄付金によって運営されています。せっかく保護された動物が、ワクチン接種をしていなかったために伝染病に罹ったり、シェルターの医療体制が整っていないために助けられた命を落としてしまうことを撲滅していくことがこのプログラムの目的です。
この医療プログラムのディレクターでもあるケイト・ハーレイ獣医師は犬や猫の殺処分をなくすためにはビジネス界の戦術を取入れることが大切であると説き続けています。
ハーレイ獣医師がシェルターの戦略に「マーチャンダイジング」という言葉を使い始めた時「動物を物品扱いしている」と批判を多く受けました。
マーチャンダイジングとは、消費者の要求に適う商品を、適切な数量、適切な価格、適切なタイミングで提供するための活動のことを指します。
商品を流通させる時に避けて通れない生産量と品質の管理。
この考え方もシェルターの動物達のために形を変えて取入れられています。
コレット・シェルター医療プログラムは、低所得者向けの安価な避妊去勢手術の提供や、野良猫のTNR活動(Trap - Neuter - Return 猫に避妊手術を施した後、元の場所に戻す。)を積極的に行い、シェルターに連れて来られる動物の数を減らすことに力を入れました。

(Photo by spotreporting

シェルターが過密状態であることは、衛生、医療の面で望ましい状態ではなく、それは里親希望の訪問者の減少という悪循環を招いてしまいます。
避妊手術の提供やTNR活動を通して注意深く動物の出生を管理することは、シェルターの動物達の環境改善(つまりは健康状態の改善)と、殺処分数を減少させる最も効果的で低コストな方法であると、ハーレイ獣医師は力説します。
これらはまず最初にサンフランシスコの動物虐待防止協会のシェルターを皮切りに始められ、殺処分数の減少に目覚ましい効果をあげました。
現在では他州でも多くの自治体で、生まれて来る動物の数を減らす戦略や、公営シェルターから私営シェルターや団体へ動物を移動させる「アダプション協定」が取入れられ、シェルターに収容された動物の90%以上の譲渡率を達成する自治体も多く現れています。



その他にも、多くの成功しているアニマルシェルターが取入れているビジネス的視点がいくつかあります。 

優れたカスタマーサービス

正確な知識、親切な応対、アニマルシェルターやNPO団体と言えども、これらはとても重要な事柄です。
感じの悪いシェルターには寄付金もボランティアも集まって来ないし、里親希望者も寄り付いてこないでしょうから。 

場所や営業時間の利便性

言うまでもないことですね。シェルターによっては午後3時くらいに閉まってしまうところもあります。
仕事をしている人でも気軽に立ち寄れる場所であることは大切なポイントです。 

積極的な宣伝活動

里親募集中の動物を効果的にアピールすること。優れたデザインのウェブサイトや、雑誌・テレビなどメディアへの露出。これらはとても重要です。 
ハーレイ獣医師は言います。
「生産量や品質の管理といった言葉を使うことは冷たく聞こえるかもしれません。
私達の社会はマーチャンダイジングという分野に多大な知恵とエネルギーを集結させて、優れたノウハウを確立してきました。動物達を救う為にそのノウハウを利用していくことは決して冷たいことではないはずです。
言葉の問題に捕われて、合理的に成果をあげるチャンスを失うことの方が、動物達にとっては悲しむべきことでしょう。」
とてもアメリカ的発想だなと思いますが、1頭でも多くの動物を救う為に知恵を絞り、心を砕く人々の努力は同じだと思います。
ビジネス的視点、悪くないと思いませんか?



犬種別レスキューという考え方

確かこの記事を書いたきっかけのひとつがSNSで偶然見かけた言葉でした。「犬種別レスキューというのがあると初めて聞いたけど、自分の好きな犬種だけしか助けたくないって感じがする。」という内容で、違うの!犬種別レスキューってそういうものじゃないの!って誤解を解きたかったんですね。

そしてメインの理由はこちら。「動物保護活動にビジネス的な視点を取り入れる大切さ」を訴えたかった。
これは今もずーっと言い続けていることで、文字にして発信したのはこの記事が初めてだったと思います。
今は日本でも発信するイメージにまで気を配り、資金調達も効率良い方法を取る保護団体が増えてきたけれど、この記事を書いた2011年はまだまだごく少数でした。
東日本大震災が起きた年だったから、日本の保護団体の多くはそんななりふり構っていられないという状態でもあったんですけれどね。でも、そんな時だからこそ、こういう考え方も紹介したいと思ったんですね。

「ビジネス的視点」の話は、何度か書いているのですが、このブログでは順番を変えてこの記事の後に続けてまとめようと思っています。

共感をいただけたら、シェアなどしていただけると嬉しいです。


(以下、dog actually 2011年10月24日掲載記事より)
(photo by paulicek0 )

一般的にシェルターやレスキュー団体から犬を引き取るというと「雑種犬しかいないのでは?」「私には特定の好きな犬種があるから無理。」というイメージが強いかもしれません。
しかしHSUS(米国動物保護協会)の調べによると、アメリカのシェルターにいる犬達のうち4頭に1頭は純血種であると言われています。
そしてそれら特定の純血種をメインに預かる犬種別のシェルターやレスキュー団体が数多く存在します。公営・私営を問わずシェルターの中には純血種の犬が入って来ると、当該犬種専門のレスキュー団体に連絡を取って一時預かりの家庭を探してもらうプログラムを設けているところも多く、犬種別のレスキューという考え方は深く浸透しています。
これは決して雑種よりも純血種の方が助ける価値があるからなどということではなく、犬のレスキュー活動にもビジネスにおけるマーケティングのような考え方を取入れることで、より効率良く多くの犬を助けられるようにという発想から来ています。
犬種別のレスキュー団体の多くは全国の同犬種の団体とのネットワークを構築しており、時には州を超えて一時預かりや里親探しに協力し合っています。これらのネットワークはアメリカンケネルクラブのParent Clubと呼ばれる犬種ごとのブリーダーのクラブがもとになっていることが多く、現在150以上の犬種のクラブが存在します。レスキュー活動や動物福祉の場面においてはあまり評判の芳しくないAKCですが、当初の犬種別レスキュー活動はAKC登録のブリーダー達がメインになって行っていました。

なぜ犬種別のレスキュー活動が効率が良いか?ジャックラッセルテリアのレスキュー団体ネットワークRussell Rescue Inc.(以下RRI)を例にとってご紹介いたしましょう。
(photo by nataaliaml )
dog actuallyでもおなじみ。「一筋縄ではいかない犬種」の代表、ジャックラッセルテリア

RRIでは全国の一般シェルターに、ジャックラッセルテリアまたはそのミックス犬が保護された際、ネットワーク本部への連絡を依頼しています。連絡があれば、該当する地域の一時預かりボランティアがシェルターから犬を引き取り、里親が見つかるまでの世話をすることになります。一般シェルターも、こうして犬が引き出されることでスペースに空きができて新しい犬を保護することができ、殺処分を回避することができます。
一時預かりの家庭や専門シェルターが見つからない場合もRRIのウェブサイトには地域別に「○○地域の××シェルターに3歳のオスのジャックラッセルが保護されています。」と言った情報が写真とともに公開されます。ボランティアの家庭などで一時預かりされている犬達の情報ももちろんサイトで見ることができます。
つまりジャックラッセルを家庭に迎えたいと思っている人はRRIのサイトを訪れると、どこにどんな犬が保護されているかを簡単にリサーチできるというわけです。
これは近所のシェルターに行ってみてジャックラッセルがいるかどうか探してみるよりもずっと効率がよく、犬達にとっても早く新しい家庭を見つけることができて一石二鳥。
さらに犬種別レスキュー団体の人達はその犬種と長年付き合い続けているので、リハビリやトレーニングをする際、どんなことに気をつけなくてはいけないか熟知しているというメリットもあります。
このdog actuallyの中でも史嶋桂さんがいつも書いていらっしゃるように、ジャックラッセルテリアのような初心者向けではない犬種というのは、特にこのような知識と経験豊富な人が仲介に入ることは重要です。
RRIのサイトでは「ジャックラッセルを家族に迎える前に」として「これでもか!」と言うくらいに注意事項の長いリストをあげています。(※注 このリスト、現在はRRIのサイトにもう掲載されていません。)
元々は猟犬であることから来る性質や行動、並外れた運動能力と体力・・・・ジャックラッセルは本当にあなたのライフスタイルに見合った犬ですか?と。
これは他の犬種でも同じで、ジャーマンシェパードやポインター、ボーダーコリーなど、「あなたは本当に彼らが必要とするものを与えることができますか?」と問いかけ、多くの場合家庭訪問をして犬を譲渡するかどうかを見極めます。
(面白いなと思うのは「犬があなたにふさわしいか」ではなくて「あなたが犬にふさわしいか」が問われるところですね。自分自身を振り返っても、ちょっと耳が痛いような気がします。)
このように、特定の犬種を求める人のために必要な情報を提供し、犬のためにも人のためにも相応しい縁組みを見つけやすくなるのが犬種別レスキューの一番のメリットです。
最初にも書きましたように、犬種別レスキューというのは決してその犬種以外の犬はどうでもいい、その犬種だけを助けたいという気持ちから作られているわけではありません。多くの団体はその犬種のミックス犬も対象にしており、時には全く別の犬種を預かることもよくあります。
一般シェルターでは、犬種レスキューに犬が引き取られて空きが出ることで、より多くの他の犬達を収容しておけるというメリットがあります。
「ニーズのあるところに必要な情報やものを」というビジネスマーケティングの基本に乗っ取った活動、そのうちのひとつが犬種別レスキューです。
ビジネス戦略の考え方をアニマルレスキューに応用するということ、犬種別レスキューの他にも色々あるのですが、これはまた機会を改めてご紹介したいと思います。

【参考サイト】

2017/06/23

犬の胃拡張・胃捻転(GDV)予防手術について

このブログは基本的にdog actuallyに掲載した記事の記録として始めたものですが、da最後の記事のコメント欄で、グレートデーンの飼い主さんから胃捻転予防の為の手術についてのご質問をいただきました。
できれば記事にしたいような内容だったのですが、あいにく最終回のコメント欄だったため、ここで書くことにします。

前回、前々回と胃拡張・胃捻転のリスク要因について書いてきましたが、胃捻転の究極の予防法として、あらかじめ胃を腹壁に固定する手術を行っておくというものがあります。

(photo by Pexel )
GDVのハイリスクグループのグレートデーン。4歳以降のGDVの罹患率は25〜40%とも言われます。


この手術は英語でGastropexyと言い、よくPexyと略して呼ばれます。「うちの犬にPexyを受けさせるべきか」というのはアメリカでもよく議論が起こりますが、グレートデーンなど超大型犬の飼い主さんでは避妊去勢手術の際に同時に行うという人が多いようです。(アメリカでは避妊去勢手術はほぼ義務に近い形です。手術をしない場合、ほとんどの自治体では届け出と通常の数倍の登録料が必要になります。)
中型犬より小さい犬では、予防手術を受ける例はほとんどないと思います。(身近でも聞いたことがない)

手術の方法は大きく分けて、開腹をする一般的な手術と腹腔鏡を使った手術があります。
それぞれにメリットデメリットがあるので、手術を受ける場合は医師にしっかりと確認しておきましょう。

開腹手術は一般的な手法なので、手術を受ける病院を探すのが比較的簡単です。
術後の回復には2週間程度かまたはそれ以上かかる点はデメリットと言えるでしょう。
開腹手術の中でも、固定する箇所などによっていくつか種類があり、それぞれに固定の強度、手術の難易度、術後に起こり得るリスクも変わってきます。

実際に胃拡張または胃捻転が発症してしまって手術が必要になった場合は、再発を防ぐために胃を腹壁に固定する処置を行いますが、健康なうちに行う予防手術に比べて固定強度は低くなるようです。

腹腔鏡を使う手術は傷口や出血が開腹手術に比べてうんと少ないので、犬への負担が少なく術後の回復が早いのが大きなメリットです。
ただし、開腹手術よりも技術が必要で、経験のある病院を探すことが重要です。

胃捻転の予防手術だけでなく、腹腔鏡の手術は患者への負担を考えるととても良い方法なのですが、残念ながら日本の動物病院で取り入れているところはあまり多くないようです。興味のある方は「動物病院 腹腔鏡手術(または内視鏡手術)」などで検索なさってみてください。

この予防手術は胃が捻れることを防ぐもので、胃拡張を防ぐことはできません。ですから予防手術をしても、前々回にあげたリスク要因を避ける努力は必要です。しかし症状がシンプルな胃拡張だけならば処置も簡単に済むことが多く、救命率は格段に高くなります。

胃捻転も100%予防できるわけではないようですが、胃拡張から胃捻転に移行する時間を稼ぐことができれば命を救う確率も高くなります。

アメリカの場合、予防手術にかかる費用は500〜1000ドルくらい。決して安くはない金額ですが、胃捻転になった場合の手術費用は1500〜10000ドルと言われ、まさにゼロが一つ増える額になります。日本の場合、予防手術の費用はもう少し高い場合が多いようですが、胃捻転が起こった場合にゼロが一つ増えるのは同じようです。

超大型犬のブリーダーは手術を勧める人が多いようですが、日本ではまだあまり浸透していない手術なので、こういう方法もあると心に留めておかれると良いかと思います。

病気のリスク要因の曖昧さ、一筋縄でいかない生き物の身体

前回の「胃拡張・胃捻転のリスク要因」おかげさまで多くの方に読んでいただくことができました。
いくつかご質問を頂いたり、体験談を書いてくださった方もいらっしゃるので、シェアしたいと思います。


食前食後の運動について

Purdue大学のレポートでは明確に述べられていないのですが、確かに食後に激しい運動をしていてGDVが発症したという例は多く見聞きします。けれども食事をした時間から何時間も経った夜中などに発症した例も多く、他の多くの要因と同じく「GDVの原因は食後の運動」と単純に言い切れるものではありません。
とは言え、人間だって食後すぐに運動すると気持ち悪くなるのと同じ、避けるに越したことはありません。食べ物を消化するためには胃周辺に血流が集まる必要がありますが、運動をすると体の他の部分に血流が回らざるを得ず、消化不良の原因となりますから、体に良くないことは明らかです。
食前の運動に関しても、長い長いロングウォークやアジリティの訓練などの後は、同じく血流のクールダウンが必要ですから水分補給だけしたら、食餌までは少し間を空けるべきですね。ただしお腹が空きすぎると早食いが過ぎて空気をたくさん飲み込んでしまうような犬ならば水分補給とともに少量のヨーグルトや茹でて小さく切った鶏肉などで落ち着かせることはリスク減少につながります。
また、ちょっとそこまでトイレ散歩なんてのはクールダウンが必要な運動には含まれませんよね。

食前食後の水分摂取について

ドライフードに水分を加えて与えることはリスク増加要因であるという統計結果が出ています。けれど、食前食後の水分摂取を極端に制限することもまたリスク増加要因とされています。適当な量の水は他の病気の予防のためにも飲まなくてはいけません。
Purdue大学のレポートは原因と結果の因果関係を解明するためのものでなく、この行動をしている場合この結果となった例がどれくらいあるかという相関関係の統計ですから、なぜドライフード(特にクエン酸を使用されているもの)に水分を加えるとリスクが高まるのかは明らかになっていません。
フードに水分はNGだが、フードを食べた後適量の水を飲むのはOKなのは、胃の中に入った食べ物は唾液や胃液に含まれる消化酵素に触れているからというのも一因ではないかと思います。(これは私の推測です。)
水を飲むことがリスク増加要因となるのは食後に極端に大量の水を飲むことです。


(photo by 584652 )


運動にしても水分摂取にしても「適量」とか「大量」とか曖昧な表現が多いですよね。でもこれは相手が犬という生き物ですから仕方のない部分だと思うのです。
工業製品ではない生き物の身体は「体重に対して何%の水」とか「運動というのは時速何キロ以上の速さで歩くこと」とか決められなくて当たり前。その一筋縄でいかないところが生き物と付き合う醍醐味でもありますよね。
GDVだけに限らず、犬の身体に良いこと悪いことを見極めるためには、正しい知識をベースにした上で自分の犬にとってのベストの塩梅は飼い主にかかっていると心しなくてはいけないと私はいつも思っています。

そして先にも書いたように、前回の記事で紹介したレポートは因果関係を科学的に解明しようという性質のものではなく、相関関係を統計で示したものですから、「明確な理由はわからないが○○をすると××という結果になった件数が全体の○%だった」という報告になるのは当然のことです。

そしてGDVが発症する明確な原因は未だ明らかになっていません。ですから何をした時に発症しているかの統計からリスク要因を減らしていくことが大切なんですね。


(photo by tpsdave )

さて、前回の記事に胃拡張が発症し始めた秋田犬の動画を貼り付けて「みるみるお腹が膨らむ」とか、「痩せている犬はお腹が膨らんだ時にわかりやすい」と書きましたが、そうではない例もあるようです。

Facebookでいただいたコメントを引用します。
3年ほど前に知人のワイマラナーが胃捻転から生還しました。
今までに聞いたことのない鳴き声をあげたのが始まりだったそうです。
胃のあたりはそれほど腫れておらず、ゲップや吐きそうにもしない。
けれど、口の中が白に近い薄いピンクになっていることなどから、すぐ病院へ。
レントゲンの結果、狭い胸郭に胃が入り込んでたために、体の外から胃の膨らみが分かりにくくなってたことも判明したそうです。

↑こんなこともあるんですねえ。
ワイマラナーの細いウエストなんて異変があればすぐに判りそうと思っていた私が浅はかでした。
とにかく異変があれば、すぐに病院に駆けつけることが大切だとよくわかる例ですね。

他にも、一般的に言われる大型のハイリスク犬種ではないけれど何度も胃拡張を繰り返した経験のあるダックスフントの例もありました。ダックスフントはあの体型のため、小型犬の中ではハイリスクグループに分類されます。

また、日本の獣医師のブログなどを読んでいたら、動物病院に勤務を始めて数年の若手の先生ですが、GDVの患者が来たことがないと書いている例もありました。大都市などで小型犬中心の病院ではそういうこともあるんですね。いざという時に頼れる病院を普段から確保しておくことの大切さを感じました。特にGDVの手術は規模の大きな施設が必要になりますので、普段のリサーチが生死を分けることにもつながります。


今までもSMILES@LAやdog actuallyでも何度も書いてきましたが、マニュアル通りの一筋縄ではいかないのが生き物の身体。ベースになる知識はしっかりと持った上で、最終的に判断してケアしていくことは飼い主にしかできません。
きちんと知って、しっかり観察して、普段から考える癖をつけておく。
自分自身にもいつも言い聞かせていることです。

【参考サイト】

2017/06/20

犬の胃拡張・胃捻転(GDV)リスク要因

犬の胃拡張、さらに進んで胃捻転、どちらも怖い病気です。特に大型犬と暮らしている人にとってはその恐怖は切実です。

2011年、テレビの動物番組にレギュラー出演していたラブラドールが胃捻転で急逝した時にSMILES@LAで「胃捻転鼓腸症候群(GDV)について」としてその症状やリスク要因について書いたことがあります。もう6年も前のことなので追加情報も含めて、また書いておこうと思います。

(illustration by GraphicMama-team )

これらはいずれもハイリスクとされる犬種ですが、小型犬や中型犬でも起こり得ます。
うちのブログにコメントをくださる方のミニピン君も胃拡張で救急にかかったと教えていただきました。

胃拡張捻転症候群(GDV)とは

胃拡張というのは何らかの理由で胃にガスまたはガスと水分が溜まりパンパンに張る症状です。緊急の疾患で前触れもなく突然に起こるので、日頃からこの病気のことを知っておくことが大切です。膨らんだ胃が周りの臓器を圧迫して血流を妨げたり壊死を起こすこともあるので、早急に病院で処置を受けなくはいけません。

膨らんだ胃は体内で回転して捻じれを起こしやすくなっています。捻じれが起きてしまうと胃捻転という状態になり緊急性はさらに増し、手術が必要になります。

正式には胃拡張捻転症候群(英語ではGastric Dilatation Volvulus Syndrome でGDVと呼ばれます)アメリカでは犬の死因としてガンに次いで2位とも、ガンよりも多く1位とも言われる疾患です。

原因はまだ明確になっておらず「○○をすればGDVになる」というような単純なものではなく、いくつもの要因が複雑に重なり合った時に起こると考えられています。

そのリスク要因となる事柄については、アメリカの大学の研究チームによるリサーチが発表されているのでご紹介します。従来「胃捻転を防ぐために」と言われていた事柄がリスクを高める要因になっている例もあるので、ぜひご確認ください。

GDVのリスク要因と考えられる事柄

以前にSMILES@LAに書いたリスク要因のリストも、以下のリストもアメリカのPurdue大学獣医学部グリックマン博士の研究チームによるリサーチに基づきます。
英語で「dog(またはcanine)bloat(またはGDV)risk factors 」という項目で検索すると、ほとんどの情報はこのリサーチを元にして書いていると明記してあります。
(残念ながら日本語での検索では、残念なキュレーションメディアの情報が上位に来てあんまり役に立ちません。日本語で検索する場合は、動物病院のサイトや獣医師などが書いている情報を選ぶことをお勧めします。......このブログも素人が書いてるんだけど 笑)

Purdue大学のリサーチは1994年に開始され、約10年にわたる追跡調査によって導き出されたものです。ですからこのリサーチは科学的なメカニズムを解明するものではなく、事実が数字に表れた統計です。調査はグレートデーン、アイリッシュセッターを始めGDVのハイリスクグループとされる胸の深い大型犬11種1914頭を対象に行われました。対象の犬たちは皆、調査以前にはGDVの病歴がない個体が選ばれています。その後、それぞれに生活習慣や食習慣の統計を取り、どのグループでその後GDVの罹患があったかを調査してリスク要因を割り出しています。

ハイリスクとされる犬

(illustration by gdakaska )
カットの仕方によってはわかりにくい場合もあるが、胸が深くウエストの細いスタンダードプードルもハイリスクグループに入る。


・グレートデーン、ドーベルマンなどのように胸が深くウエストの細い犬は肋骨の内側で胃が動くスペースの余裕があるため、GDV発症のリスクが高くなります。また内臓脂肪が付いていれば、胃が動く余裕が少なくなるため、痩せている犬の方がGDVのリスクは高くなります。(ただし肥満によって内臓脂肪が付いている場合は他の病気のリスクが高くなりますので、太っている方がヘルシーというわけでは決してありません。)
痩せている犬の場合、胃が膨らんで来た時にわかりやすいというメリットもありますので、注意深い観察を!

・年齢が上がるほど、胃を支える靭帯が伸びた状態になるためGDV発症のリスクは高くなります。
大型犬では5歳以降1年ごとに20%ずつ、超大型犬では3歳以降1年ごとに20%ずつリスクが上昇すると言われています。

・GDVは遺伝病ではありませんが、一親等以内にGDV発症歴のある犬がいる場合、発症のリスクは約1.6倍になります。

・早食いの犬は、食べる時に空気を多く飲み込むためリスクが高くなります。早食い防止ボウルなどの利用を。

・神経質、攻撃的、臆病な犬はリスクが高くなります。普段それほど臆病でない犬も長くストレスにさらされた後にはリスクが高くなります。


生活の中のハイリスク要因

・最重要要因は食餌の回数。1日1回だけ大量のフードを与えるやり方は最もハイリスク。
食餌は1日2〜3回に分けて。ドライフードで言えば、体重15kgあたりカップ1杯を上限とする(ただしアメリカの計量カップなので250cc)
大量のフードが胃に入ると、重みで胃を支える靭帯が長時間伸びた状態になるため。

・与えているのがドライフードだけ。ドライフードの粒が体のサイズに比べて小さすぎるのもリスク要因。
普段から違うタイプの食べ物を与えておくことはリスクを低下させる。手作りフードをローテーションに加えた場合のリスクは59%低下、缶詰フードを加えた場合のリスクは28%低下したと報告されています。

・ドライフードに水分をプラスして与えるのは発症リスクを高くします。特に保存料としてクエン酸を使っているフードの場合、水分を加えることでリスクは4倍以上になります。
クエン酸は合成保存料無添加のプレミアムと呼ばれるフードの多くに使われています。

・フードボウルを台に置いて高い位置で食べさせることは、空気を飲み込む量が増えるためリスクが2倍以上高くなります。フードボウルは床の上で!
フードに水分を加えることとフードボウルを高い位置にすることは、過去には胃捻転予防になると言われていたのですが、統計では全く反対の結果になっています。くれぐれもご注意ください。


・フードの原材料一覧の最初の4つ以内(原材料は含有量が多いものから順に記される)に脂肪が含まれているフードはそうでないものに比べて2.7倍のリスク。
統計的にはそれほど有意ではないものの、フードの原材料一覧の最初の4つに複数のコーン食材(コーンミール、コーングルテン等)が含まれるフードはややリスクが高くなっていることも確認されています。
また反対にタンパク源が動物性由来の肉や魚のフードではリスクが低下しています。
コーンなど植物性のタンパク源を使用している場合、風味を補うために脂肪を多く添加するので、この関連性は理にかなっています。


このリサーチが開始された1994年を基準にすると、1964年から1994年の30年間の間にアメリカでの胃拡張または胃捻転の罹患率は16倍にも増えています。
理由のひとつとして考えられるのは経済成長に伴って、大型犬の飼育数が増えたことが考えられます。
もうひとつ考えられる理由は、ドッグフードの普及です。中でも簡便なドライフードの普及は胃拡張または胃捻転の増加に比例しています。アメリカに比べてオーストラリアやニュージーランドではドライフードを与えている人が少ないそうですが、この2国ではハイリスクグループといわれる犬種でもGDVの罹患率はアメリカよりも低いそうです。
残念ながらドライフードがGDVのリスク要因であることは間違いないようです。

とは言っても、手軽に栄養バランスの取れるドライフード無しでは難しいという方も多いですよね。だからこそリスク要因をよく知っておいていただきたいと思います。

最後に、今までにも何度も紹介している動画を貼り付けておきます。
シェルターから新しい家庭にもらわれてきたその日、記念の動画を撮っている最中に胃拡張を発症した秋田犬の動画です。
お腹が見る見るうちに膨らみ、苦しそうに吐きそうな様子などが見られます。
こんな様子が見られたら、一刻も早く病院に連れて行ってください。あらかじめ病院に電話をして胃拡張または胃捻転で救急であると伝えておきましょう。

この動画の犬は無事に命を救われました。



次回は、再度GDVについて。予防手術のことを書きます。


【参考サイト】
Risk Factors for Canine Bloat http://goldenrescuestlouis.org/Bloat.asp

2017/06/19

IT企業創設者のレスキュー活動

私がdog actuallyに書いた記事は、時事的な話題を取り入れることが多かったのですが、この記事にもスティーブ・ジョブズ氏の逝去という言葉が入っていますね。もう6年も経つのかと感慨を感じると同時に、その後彼のバイオグラフィーを読んだり映画を見て新たに感じた思いもあって、時の流れを感じます。

さて、この記事で紹介したMaddie's Fundというのはアメリカの動物保護活動を語る時に絶対に外せない大きな大きな存在です。何しろ、ちょっと大きなチャリティイベントの協賛や主催者の名を見ると、Maddie's Fundの名を見ないことの方が少ないくらいですから。

動物好きな人が「もしも私が億万長者になったら、犬や猫のサンクチュアリを作りたい」という言葉はよく見聞きしますが、Maddie's Fundはまさにそんな夢が現実の形になったものです。巨額の財の使い途、こういうのはかっこいいですよね。

(以下、dog actually 2011年10月11日掲載記事より)
(photo by Maddie's Fund)
マスコットの向かって右の男性がマディー基金創設者のデイブ・ダフィールド氏。

世界中を揺るがせたアップル社設立者のスティーブ・ジョブズ氏の逝去から数日が経ちました。
今この記事を作るのにもiMacのお世話になっている者として、また彼の一ファンとして哀悼の意を表します。
さて、有名IT企業の設立者の中に、アメリカの犬レスキューの世界ではジョブズ氏同様に尊敬され、愛されている人物がいます。それは人事管理ソフトウェアなどで一躍名を馳せたピープルソフトという会社の設立者の一人デイブ・ダフィールド氏です。
(ピープルソフト社は2005年にオラクル社に買収されています。)
ダフィールド氏には10年をともに過ごした愛犬、ミニチュアシュナウザーのマディーがいました。(上の写真の着ぐるみのマスコットはマディーなのですね。)
会社を設立したばかりの頃、彼はマディーを抱き上げこんな約束をしました。
「もしもこの事業がうまく行ったら、僕はそのお金をお前やお前の仲間達のために使うことにするよ。たくさんの犬と人が僕たちみたいに幸せになれるようにね。」
果たして、ダフィールド氏はシリコンバレーの大成功者の一人となり、巨額の財を成したわけです。

マディーはすでに天に召されていましたが、ダフィールド氏と妻のシェリルさんは、マディーとの約束を守りました。サンフランシスコ動物虐待防止協会をサポートするために3億ドル超の基金を設立し、それを「マディー基金」と名付けたのです。

(photo by Maddie's Fund)
この犬もマディー基金によって救われた犬の一匹。


サンフランシスコ市は動物の守護聖人とされる聖フランシスコの名を冠する街だけあって、動物保護にはたいへん熱心に取り組んでいます。1995年にサンフランシスコ動物虐待防止協会の代表は「この街においては、公営私営の別を問わず、全てのシェルターで健康な犬や猫の殺処分をしないことを目標にする。」と宣言しました。とは言え現実は厳しく、理想の実現への道は遠いものに思われていました。
しかし、2005年にサンフランシスコ市内にたいへん大規模な虐待防止協会のシェルターが設立されて事態はがらりと変わりました。協会は市の公営動物シェルターと「アダプション協定」を結び、保護後一定期間を経ても引き取り手の現れなかった動物を、可能な限り協会やその他の私営のシェルターに移動させるというシステムを確立しました。
これにより、従来ならば健康であるのに殺処分せざるを得なかった犬や猫の命が飛躍的に多く救われることとなったのです。
その大規模なシェルター設立に使われたのがもちろんマディー基金からの資金です。シェルターの名前は「マディーズアダプションセンター」
清潔でお洒落な雰囲気のアダプションセンターには、見学者、アダプト希望者、ボランティアなど多くの人が出入りし、活気に満ちています。マディー基金のおかげで、サンフランシスコ市は全米で一番「NO KILL」に近い街となっています。
マディー基金のレスキュー活動サポートはサンフランシスコのみにとどまらず、今やアメリカの多くの都市にシェルターを建設したり、シェルターの医療設備の改善などを続けています。ただ単に団体にお金を寄付するのではなく、マディー基金では動物達の環境を改善し、健康な動物を殺処分にしなくてよいシステムを構築するために、お金の使い方については非常に注意深く検討されています。
ダフィールド氏とシェリルさんのご夫妻に「すべての犬がマディーのように幸せになれるように。」との願いを授けたマディーの姿はこちらです。


現在では基金はサンフランシスコだけでなく、アメリカの全域で動物保護活動への支援、シェルター医療や教育システムへの補助金といった形で活動を行っています。3億ドルという巨額の資金が単なる寄付ではなくて、基金設立という形で使われたことで、その運用益や寄付金などで1994年の設立以降ずっと継続して全米の保護活動への支援が行われています。


大手ペットショップチェーンのチャリティ活動

この記事を書いた2011年には、まだロサンゼルス市のペットショップの規制条例は成立していませんでしたが、大手ペットショップでの定期的な譲渡会はこのように行われていて、ごくごく普通に受け入れられている状態でした。

PETSMARTとPETCOという二大チェーンが運営するそれぞれのチャリティ団体は譲渡会やシェルターへの寄付の他にも、様々なリサーチ活動も行っています。そこにはもちろん、母体である企業へのメリットや宣伝活動的な意味合いもあるとは思うのですが、本文中にも書いた通り、それで恩恵を受ける犬や猫がいるならOKというのが私の考えです。

そう言えば、本文中で「日本では譲渡活動はペットショップの営業妨害になるという声」と書きましたが、最近はそういうのを耳にする機会が減ったような気がするんですが、どうなのでしょう?6年前に比べると、日本でも譲渡活動が少しずつ広がって根付いてきたかなあ、そうだと嬉しいなと思います。

(以下、dog actually 2011年9月26日掲載記事より)
地元の公営シェルターからペットショップ店内の譲渡会に出席していたトイプードル。推定7〜8歳。

9月の9日~11日、アメリカの2大ペットショップチェーンPETSMARTPETCOの各店舗で一斉に犬や猫の譲渡会が催されました。これは数ヶ月に1度定期的に開催されるナショナルペットアダプションウィークエンドと称されるイベントです。
このイベントはペットフードやペット用品のメーカーがスポンサーになっており、場所を提供するのはペットショップ。そして譲渡対象の犬や猫は地元のシェルターや保護団体から連れて来られます。9月のイベントでは全国のPETSMARTで合計17,833匹の動物が新しい家族に迎え入れられることができました(PETCOの集計は未発表)。
全国のショップで一斉にというのは数ヶ月に1度なのですが、これらのショップではたいてい月に1度は店舗単位で地元のシェルター等と共同でペットの譲渡会が催されています。
PETSMARTを例にとって、大手チェーンのチャリティと商業活動をご紹介いたしましょう。
PETSMARTは、フードやペット用品、魚、爬虫類、小鳥、ハムスターなどを販売する上場企業です。日本のいわゆるホームセンターくらいの大きな店舗のすべてがペットに関するものばかりという様子に、渡米直後の私はその大きさと規模に驚いたものでした。リードをつけていれば犬も歓迎なので、天気の悪い時などは犬の散歩代わりに歩かせてもらうほどです。

店内に設けられたアダプションコーナーで、ボランティアの人と共に新しい家族を待つ犬達。シェルターから連れて来られる犬の数は限りがあるが、このようなイベントがきっかけでシェルターに直接足を運ぶ人も多い。また、このような環境で落ち着いて振る舞えるのは成犬ならではのメリットで、それを多くの人が実際に目にすることができるというのも大切なことだ。

同社は犬・猫の販売は行っておらず、92年から店内にアダプションセンターを開設して、シェルターや保護団体と提携して動物の譲渡活動を行っています。
94年にはPETSMART CharitiesというNPO団体を立ち上げ、ドッグウォーキングやチャリティショー等様々なイベントを催して寄付を募り、提携しているシェルターへの資金援助や自社のチャリティー活動の資金としています。
例えば店舗で買い物をすると、毎回ではありませんがたまにレジ担当の人から「シェルター支援のために1ドル寄付をなさいませんか?」と聞かれることがあります。たいした金額ではありませんから、たいていの人が余分に1ドルを支払って寄付する光景が見られます。
このようなチャリティー活動をすることは、企業のイメージアップ作戦の一環でもあり、また税制上の戦略のひとつでもあります。企業ですから、それぞれの活動が利益を誘導するものであるのは当然のことですし、個人的にはそれはそれで良いのではないかと思います。
どこの州のどこの町にでもある大きなチェーンのペットショップで日常的に動物の里親を募集し、寄付を募っていることで、それらは多くのアメリカ人にとってごく当たり前のこととして定着していると感じます。
また、これらのペットショップの店内では犬のトレーニング教室とグルーミングサロンも常設されています。店内の譲渡会で犬を家族に迎えた人は、これらのサービスの重要な潜在顧客でもあり、店舗に足を運ばせることで、フードや玩具等の購入にもつながるというわけです。

店内のトレーニング教室のコーナー。いつ見ても常に犬と飼い主が5〜6組いるので、利用者はコンスタントにいるようだ。

日本の場合、保健所や保護団体が犬を譲渡することはペットショップに対しての営業妨害になるとか、ペットショップは子犬の販売をしないと商売が成り立たないという声を時折耳にします。
しかし本当にそうでしょうか?ビジネスに関してシビアなアメリカで実現していることが、日本で不可能だとは思えません。
日本の企業の努力と方向転換を可能にするべく、飼い主・消費者の意識も改革していかなくてはなりませんね。

犬の胃拡張・胃捻転リスク問題の補足

このブログを書き始めて、今のところの一番の功績は(自分で功績とか言っちゃうのもどうなのよって感じですね。すみません。)6月に書き下ろしでアップした 「犬の胃拡張・胃捻転(GDV)リスク要因」 の記事ではないかと思います。 何しろPVがじわじわと増え続けて22000を越えるとい...