2017/05/25

ミズーリ州におけるパピーミルを巡る闘い (2)

これは一つ前の記事の続きにあたります。
パピーミルと呼ばれる繁殖施設に対して広さやケアの回数など具体的な数値で規制を求めることで、逃げ道をなくしようとした法案がどんな風になったかを書きました。

(以下 dog actually 2011年7月4日掲載記事より)

(photo by Mary Haight )

前回、2010年のミズーリ州の住民投票において、パピーミルを規制する法案が通ったところまで書きました。
賛成派が僅差で勝利を得た「法案B」は「Puppy Mill Cruelty Prevention Act(パピーミル虐待防止条例)通称PMCPA」と正式名称が定められ、2011年11月から施行されることになっていました。
しかし民主主義の基本を無視したとも言えるドンデン返しが起こったのは 2011年4月13日のことでした。ミズーリ州下院議会において、この住民投票の無効を訴える議員投票が実施されたのです。しかも賛成多数の結果、住民投票の結果が却下され、PMCPAの犬の扱いに関する改善案がすっかり削除されてしまったのです。
予定通りに条例が施行されることになれば、多くの繁殖施設が立ち行かなくなるとして犬繁殖業の代表が議会に直訴したことが、この議員投票のきっかけと考えられています。
この議員投票の結果を承認するか、または拒否するかは最終的に州知事の手に委ねられます。
もちろん民意を無視したこの投票には多くの抗議の声があげられました。ASPCA(米国動物虐待防止協会)を始め多くの動物保護団体が、州知事宛にこの投票結果を拒否するように嘆願を送ろうと全国に呼びかけました。
もしもこのままミズーリ州がパピーミルを認める方向へと進んで行くと、パピーミルに関して同じような傾向のあるオクラホマ州やテキサス州、ネブラスカ州、ハワイ州などでも同じような悪い方向へと流れていく可能性が出て来ます。問題はミズーリ州民のことだけではないのです。
結果としては、州知事もさすがに投票結果をまるごと承認するわけには行かなかったようで「妥協案」を提案してきました。そしてPMCPAは驚くべき早さで思わぬ方向に転がって行きました。議員投票からわずか5日後の4月18日にミズーリ州農務局、犬繁殖業の代表者達、そして地元の動物保護団体などが一堂に会して「妥協案」を承認したのです。「妥協案」はさらにその2日後には上下院両議会を通過し、4月27日には州知事の署名を得て、正式に法律として成立しました。
ミズーリ州のパピーミルの状況改善にあたって、ずっと先頭に立って行動してきたASPCAはこの場には呼ばれず、妥協案の承認には一切タッチしていません。なぜならこの妥協案は、到底ASPCA(ひいては心ある動物福祉関係者ならば誰でも)が容認できるものではなかったからです。
絶対に外すことはできないと考えられていた具体的な数値による規制。これらの数値が全て削除されたのです。ケージの具体的な広さや高さが法令の中に組み込まれることはありませんでした。室温についても同じく、具体的な数値は削除されました。運動や獣医師による検診も法によって強制することはできなくなり、何よりも悪いことに雌犬の出産回数の制限も設けられることがなかったのです。
これらの広さ、高さ、回数、温度といった具体的な数値こそがこの法案のキーとも言うべきものであったのに、ミズーリ州議会と州知事は多数派の住民の意思を無視する形でこの法案を骨抜きにしてしまったというわけです。
ミズーリ州の州政は人々を大きく失望させましたが、諦めさせることはできませんでした。ASPCAもHSUS(米国動物保護協会)もミズーリ州の犬繁殖施設へのチェックの目をより一層厳しくしており、この州には今多くの国民の注目が集まっています。
ミズーリ州知事は、妥協案を取入れた新しい法をより厳しく実行するため、繁殖施設を管理する州農務局関係機関に資金と人員を追加することを発表しました。
ASPCAは現在、有権者の権利を守るための活動をしている団体とタッグを組んで新たな法改正または元々の「法案B」の復活、それに向けての住民投票をおこすべく活動を始めています。今度は議会によって民意を覆されることがないように、慎重に緻密に計画を進めています。
ミズーリ州におけるパピーミルをめぐる闘いは今も激しく続いています。そんな中、6月中旬にテキサス州において犬と猫の商業繁殖施設を規制する法律が正式に州知事の署名を得て施行されることとなりました。テキサス州もミズーリ州と同じく「パピーミル野放しの州」の1つだったのですが、11頭以上の雌犬または雌猫を飼育し、年間20頭以上の動物を販売している施設における動物のケージの大きさや材質についての規定が設けられることになったのです。また今までは繁殖施設への立入検査というものは行われていなかったのが、取り締まり機関による検査が実施されるよう法で定められました。決して十分とは言えませんが、これをきっかけにアメリカにいくつか残された「野放し地域」にも正しい規制が作られていくことを願って止みません。
これはASPCAの捜査チームがミズーリ州のある犬繁殖施設に出向き、70頭の犬達を保護した時の動画です。

ケージの床面がむき出しの金網なのは、排泄物の掃除の手間を省くためです。犬達の肉球には金網が食い込み、怪我を負います。ここにいる犬達はこの金網の中以外の場所を知らずに生きて来て、こうして保護された時に生まれて初めて人間に撫でられたり抱かれたりということを経験したのです。
アメリカの例をあげて記事を書きましたが、日本にも全く同じような施設がたくさん存在します。そしてこういう場所で産まれた犬の多くは生体展示販売をしているペットショップに卸されたり、インターネットでの通信販売で流通されます。そういった所で動物を買うことが、パピーミルに資金をつぎ込むことになるのだと多くの方が認識して下さることを望みます。
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この記事を書いてから書いてから6年が経つ2017年現在もミズーリ州における動物繁殖施設の数値規制は実現されていません。けれども世論の高まりに押される形で、施設への視察や査定は頻繁に行われるようになったようです。2017年に政権が代わり、ミズーリ州のみならず動物福祉に関しては一つ進んだかと思うと二つ後退したような状態が続いていますが、諦めることなく闘いを続ける人々がいることは忘れずにいたいと思います。


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