2017/07/11

レスキュー活動におけるビジネス的視点


タイトルに『ビジネス的視点』という言葉を初めて使った記事です。
「保護活動をビジネスだと考えてるなんて酷い!理解できない!」この言葉、このところSNSなどで本当によく目にします。
でもビジネス的に考えて、効率良く資金を調達し、効率良く保護犬を家庭に送り出すということの恩恵を一番受けるのは当の犬たちです。(猫でもうさぎでも同じ)私はこのポイントをずーっと説き続けていきたいと思っています。

また、この記事で紹介したシェルター医療プログラム(これは私が訳した言葉です)最近はいくつかの犬メディアで本家カリフォルニア大学デイビス校の日本人教授の方が『シェルターメディスン』という言葉で詳しく紹介する記事を書いていらっしゃいます。

(以下、dog actually 2011年11月7日掲載記事より)

前回は「犬種別レスキューという考え方」をご紹介しました。
これは"必要とされる所に適切な情報と供給を"という、ビジネスのマーケティング的な視点で立てられた戦術であるとお話しましたが、今回は動物のレスキュー活動におけるビジネス的視点についてもう少し詳しくご紹介しようと思います。
カリフォルニア大学デイビス校にはコレット・シェルター医療プログラムという独立財政のプログラムがあります。シェルターに収容されている動物達に適切な医療を提供するための活動や教育を行っており、寄付金によって運営されています。せっかく保護された動物が、ワクチン接種をしていなかったために伝染病に罹ったり、シェルターの医療体制が整っていないために助けられた命を落としてしまうことを撲滅していくことがこのプログラムの目的です。
この医療プログラムのディレクターでもあるケイト・ハーレイ獣医師は犬や猫の殺処分をなくすためにはビジネス界の戦術を取入れることが大切であると説き続けています。
ハーレイ獣医師がシェルターの戦略に「マーチャンダイジング」という言葉を使い始めた時「動物を物品扱いしている」と批判を多く受けました。
マーチャンダイジングとは、消費者の要求に適う商品を、適切な数量、適切な価格、適切なタイミングで提供するための活動のことを指します。
商品を流通させる時に避けて通れない生産量と品質の管理。
この考え方もシェルターの動物達のために形を変えて取入れられています。
コレット・シェルター医療プログラムは、低所得者向けの安価な避妊去勢手術の提供や、野良猫のTNR活動(Trap - Neuter - Return 猫に避妊手術を施した後、元の場所に戻す。)を積極的に行い、シェルターに連れて来られる動物の数を減らすことに力を入れました。

(Photo by spotreporting

シェルターが過密状態であることは、衛生、医療の面で望ましい状態ではなく、それは里親希望の訪問者の減少という悪循環を招いてしまいます。
避妊手術の提供やTNR活動を通して注意深く動物の出生を管理することは、シェルターの動物達の環境改善(つまりは健康状態の改善)と、殺処分数を減少させる最も効果的で低コストな方法であると、ハーレイ獣医師は力説します。
これらはまず最初にサンフランシスコの動物虐待防止協会のシェルターを皮切りに始められ、殺処分数の減少に目覚ましい効果をあげました。
現在では他州でも多くの自治体で、生まれて来る動物の数を減らす戦略や、公営シェルターから私営シェルターや団体へ動物を移動させる「アダプション協定」が取入れられ、シェルターに収容された動物の90%以上の譲渡率を達成する自治体も多く現れています。



その他にも、多くの成功しているアニマルシェルターが取入れているビジネス的視点がいくつかあります。 

優れたカスタマーサービス

正確な知識、親切な応対、アニマルシェルターやNPO団体と言えども、これらはとても重要な事柄です。
感じの悪いシェルターには寄付金もボランティアも集まって来ないし、里親希望者も寄り付いてこないでしょうから。 

場所や営業時間の利便性

言うまでもないことですね。シェルターによっては午後3時くらいに閉まってしまうところもあります。
仕事をしている人でも気軽に立ち寄れる場所であることは大切なポイントです。 

積極的な宣伝活動

里親募集中の動物を効果的にアピールすること。優れたデザインのウェブサイトや、雑誌・テレビなどメディアへの露出。これらはとても重要です。 
ハーレイ獣医師は言います。
「生産量や品質の管理といった言葉を使うことは冷たく聞こえるかもしれません。
私達の社会はマーチャンダイジングという分野に多大な知恵とエネルギーを集結させて、優れたノウハウを確立してきました。動物達を救う為にそのノウハウを利用していくことは決して冷たいことではないはずです。
言葉の問題に捕われて、合理的に成果をあげるチャンスを失うことの方が、動物達にとっては悲しむべきことでしょう。」
とてもアメリカ的発想だなと思いますが、1頭でも多くの動物を救う為に知恵を絞り、心を砕く人々の努力は同じだと思います。
ビジネス的視点、悪くないと思いませんか?



0 件のコメント:

コメントを投稿

従来の不妊化手術と性腺温存型不妊化手術を比較

pic by  Mohamed_hassan from Pixabay 犬の不妊化手術(避妊去勢)の新しい流れ 犬の不妊化手術は飼い主にとって「どうする?」 の連続です。 10年ほど前に不妊化手術による健康上の影響についての研究結果が発表されるようになってからは、さらに悩みも増...