2019/01/27

犬のこと、バカって言う人がバカ!



(photo by skeeze )

このブログも含めていろんなところで「頭のいい犬種ベスト10」のような文章に異を唱えて来ています。
先日も「大型犬は小型犬に比べて頭が良いのか?」という文章を読んで「またくだらないことを」と思っていたところでした。
その文章とはブリティッシュ・コロンビア大学の心理学教授のスタンリー・コーレン博士が、科学誌「アニマル・コグニション」に掲載された「犬の脳の大きさと認知機能に関連はあるのか?」という内容の論文について書いたものでした。

コーレン博士、犬関連の学術記事が多いサイコロジー・トゥデイに寄稿しているので、私も彼の記事はちょくちょく目にするのですが「賛成できんなあ」と思うことが多いんですよね〜。

さて、前述のコーレン博士の文章に「大型犬は小型犬よりも頭がいいかと言う問いがある。確かに私の著書『犬の知性』でも作業と従順性の知性をランク付けしたところ上位20%に入っていた小型犬はパピヨンだけだった」という一文があり、なんじゃそれは!?と思って、ちょこっと検索してみたら出てきたのが「Dumbest Dog Breeds(バカな犬種)」というリストでした。(これは他の人がそう呼んでいるだけで、コーレン氏自身がそう言ったわけではない。)

スタンリー・コーレン博士という人は1994年にThe Intelligence of Dogs-犬の知性という本を著しており、そこに120の犬種の知能ランキングというものが掲載されているらしい。
😑
コーレン氏の言うところの知能とは次の三つ
1. 本能的な知能ー牧畜や狩猟のように、そのために育種されたタスクを実行する能力
2. 適応の知能ー自主的に問題を解決し、以前の経験から学ぶ能力
3. 作業及び従順の知能ー人間によって教えられたことを学ぶ能力

なるほど、ここまでは特に異論はありません。
けれど、本の中では何故か3番目の作業及び従順の知能だけが高い順からリストアップされているそうです。
私はこの本を読んでいないので、あまりどうこうとは言いませんが、この25年も前に出版された本の中のリストはいまだに色々なところで引用されており、その多くは私と同じく「はぁ?なんじゃそれは?」と批判的な論調です。

『犬の知性』が出版されてから、この25年の間に犬の認知機能に関する研究は大きく進み、新しく判ったことがあったり過去に発表されたことが覆ったりしています。
それなのに他の研究者による最近の論文について、四半世紀前の自著のデータをあたかも周知の事実のように堂々と書いているのは科学者として恥ずかしくないか?コーレン氏。

参考までに書きますと、コーレン博士による「作業及び従順の知能」が高い犬種のベスト10は

  1. ボーダーコリー
  2. プードル
  3. ジャーマンシェパード
  4. ゴールデンレトリーバー
  5. ドーベルマン
  6. シェトランドシープドッグ
  7. ラブラドールレトリーバー
  8. パピヨン
  9. ロットワイラー
  10. オーストラリアンキャトルドッグ
おなじみの感じですね。
でもボーダーコリーが従順かと問われたら「そうじゃない個体もいっぱいいるよ」と言いたくなるけどね。
従順じゃないからダメということではなくて「この指示に従う価値があるかどうか?」を自分で考えて判断するようなところがある気がします。
意地の悪い言い方をすれば、ボーダーコリーに認められる人でなければ飼えないような。

他の犬種だってみんなそんな単純なものじゃないですよね。
全部「賢い犬だから〜」って能天気に飼い始めたら痛い目に遭う犬種ばかりだ。まあそれはどんな犬でもそうですけどね。

(photo by Capri23auto )


そして、問題の最下位からの10犬種。これが色々なところで「じゃあこの犬たちは頭の悪い犬ワースト10だとでも言うのか?」と長年に渡って批判されているわけです。
  • アフガンハウンド
  • バセンジー
  • ブルドッグ
  • チャウチャウ
  • ボルゾイ
  • ブラッドハウンド
  • ペキニーズ
  • ビーグル
  • マスティフ
  • バセットハウンド
もうね「ふざけんな」ですね(笑)
頭が悪いとは言ってないとしても、ランキング付ければ下位ができるのは当たり前。しかもそのランキングの根拠も乏しいと来ては、怒ってもいいよね?

リストの10犬種のうち3つがサイトハウンド。アフガンハウンド、バセンジー、ボルゾイの3犬種。視力が優れていて目の端に動くものを見つけるのが得意で独立心に富む彼ら。確かに従順とは程遠く訓練はしにくいでしょうが、独立した自主性の高さは知性の証ですよね。

そしてセントハウンドも3犬種。ブラッドハウンド、ビーグル、バセットハウンドですね。
彼らはその素晴らしい性能の嗅覚を使って獲物をとことん追い詰め主人に知らせるというのに、作業と従順の知能が低いですって?ちょっと!あなたの知能は大丈夫か?って言いたくなります。

残りのブルドッグ、チャウチャウ、ペキニーズ、マスティフは頑固さに定評のある犬種で訓練をするには忍耐が必要です。でもそれは知能が低いこととイコールではないですよね。むしろ全然関係ない。失礼にもほどがある。

でも上で私が書いたような、犬種ごとに「こんな特徴があって、こんな性質」と一括りにすることもやっぱり無理があるんですよ。

犬は人間との長い共同生活の中で、働く目的に合わせて選択育種されて作り上げられて来た生き物ですから、犬種ごとの傾向は当然あります。
けれど例えばラブラドールでも、盲導犬と爆発物探知犬ではその適性が全く逆です。盲導犬の落第生の中から探知犬候補をスカウトして来る団体もあるほどです。
でも誰も盲導犬と爆発物探知犬はどちらが賢いか?なんて言いませんよね。

以下はコーレン博士と同じく、サイコロジー・トゥデイに寄稿している環境学と進化生物学者のマーク・ベコフ博士の言葉です。

「犬であれ他の動物であれ知能というものにはいくつもの種類がある。そしてもちろん個体差というものがある。
賢さにも種類があり、誰が一番賢いかなど決められない。皆それぞれの環境に賢く適応したのだ。」


↑これが全てですよね。
以前に「頭のいい犬種ベスト10?冗談じゃない!」という記事を書きましたが、今回はさらに悪くて「ふざけんな」なんて言ってしまいました。

でも犬の知能を一元的に捉えて、それをランキングにするなんて本当に馬鹿げていて、なんの役にも立たないことです。

最後にちょっと小学生みたいなことを言わせて。
犬のことをバカって言う人間が一番バカですーっ!







2019/01/08

「立ち止まって、肉球を嗅ごう」


2016年11月に書いた記事です。

dog actuallyに書いた記事の中ではちょっと異色のもので、ニコとニヤのことについて自分の思うところを書いたものです。SMILESブログよりもちょっと改まった感じですが、好きな記事のひとつでした。

本当は去年の11月に再掲載すればよかったのですが、あの頃いろんなことが重なって記念日のことをブログに書くことも、このブログも後回しになっていました。
そんな自分の余裕のなさに、ニコもニヤも自分も年をとったのだなあと、ここに書いてあることが尚更心にグッとのしかかってくる気がします。

だけど大丈夫!今日も元気に肉球を嗅ごう!






(以下dog actually 2016年11月14日掲載記事より) 

11月はわが家の犬たちの家族記念日月間だ。匹の犬たちはどちらも11月に家族に迎えた。
シェルター出身の保護犬であるうちの犬たちの正確な誕生日はわからないので、わが家にやって来た日は推定で決められた便宜上の誕生日よりも大切な日だ。
その記念日も今年は先住犬のニコが11回目、後から来たニヤが9回目を迎えて、重ねた月日の分だけズシリと重みを増してきた。


しみじみとありがたいことだと思うのだが、うちの犬たちは今のところ大きな怪我や病気をしたことがない。
だから差し迫った危機感とともに彼らを失う恐怖を感じたことはまだない。
それなのに心のどこかで漠然と「あとどのくらい一緒にいられるだろう」と逆算しているところがある。

思えば、11年前に推定生後6ヶ月のニコを迎えた時に「さあ、これから15年(いや18年くらい?いやいや20年でもいいな、なんて思いながら)責任重大だねえ」と家人と笑いあった時から、心のすみっこの逆算時計は動き出していたのだろう。

犬が若いうちは、そんな漠然とした思いなど気にも留めずに過ごしていたものだ。けれどこの数年のうちに、いつもの公園や散歩コースで知り合った犬たちの訃報を聞くことが増えていった。訃報だけでなく、病気の治療の話、手術や安楽死の決断などのシリアスな話題もよく耳にする。そんな時には「自分だったらどうするだろう?」と頭の中で様々なシミュレーションをして、真剣に考え込むことも多い。
訃報や闘病の話に触れて、自分に引き寄せて考える機会をもらうことは私にとってはとてもありがたいことだ。
何かしらの決断をして、その話をする飼い主さんを見ていると、愛犬のために真剣に考えて出した結論はどんな結果であれ正解なのだと思う。

他の人の経験に触れ、自分も大好きだった馴染みの犬たちが目の前からいなくなる経験を繰り返して、少しずつ心の準備が始まっている。
一方で、どんなに手を尽くしてもどんな選択をしても、犬たちを見送ったあとには必ず後悔が残ることもわかっているし覚悟もしている。

犬と暮らすことは、いつも心のすみっこで見送る時のことを考えて準備しながら生きているようだとよく思う。おかしな習慣だとも思うけれど、犬を残して自分が先に行くわけにはいかないので、それでいいのだ。

心のどこかでいつも見送る準備をしていると言っても、決して後ろ向きにウジウジしているわけではない。
記念日のズシリと来る重みも心地良く、犬と一緒に過ごす時間はどんな時も幸せだ。むしろ心の中の逆算時計のおかげで、今手の中にある幸せをいっそう強く噛み締めていられる。

Stop and smell the rosesという言い回しがある。直訳すると「立ち止まってバラの香りを感じよう」だが、「少し肩の力を抜いて、人生の美しい部分に感謝して楽しもうよ」という意味で使われる。
私にとってはまさに犬と過ごす時間を表すような言葉だ。

顔に白いものが目立ち始めた犬たちと過ごすなんでもない日常は、感謝して思い切り楽しむべき人生の美しい部分。

バラの香りよりも、ポップコーンみたいなあの匂いの方が幸せのイメージが強いのは犬バカゆえ。

「Stop and smell the paws 立ち止まって、肉球を嗅ごうよ。」

2019/01/05

繋がれて生きる犬

2016年に書いた記事の再掲載です。

自分が住んでいる場所の関係で、アメリカの動物保護活動や法律についてコラムにすることが多いのですが、何度もしつこいくらいに書いているとおり、アメリカは決して動物保護の先進国ではありません。

けれども、動物保護活動ということに関しては実にユニークな多様性があると常々感じています。
色々と事情や環境が違うので、今すぐ日本で取り入れることはできなくても「こういう視点もあるんだ」というウェイクアップコールになればいいなと思って、紹介する記事を書いています。

このDDBという団体もユニークな活動をする団体のひとつです。
寄付金を集めて大きな施設を作り、犬をただ引き取り続けることを動物保護活動だと考える人が増えて欲しくない、そんな思いを込めての再掲載です。



(photo by vicart26 )


(以下dog actually 2016年9月5日掲載記事より)

インターネットで、写真にちょっとボケたセリフを付けて楽しむお笑いサイトがありますね。先日「犬のお笑いセリフ」というのが目に入ったので覗いてみたら、ほとんどは楽しく笑わせてもらったのですが、ひとつ「ふーむ、やっぱりそうか。」と考え込んでしまったものがありました。

それは、ちょっと嫌がる様子の柴犬の両前足を飼い主が軽く握っている写真に「大丈夫だよ。隣のドーベルマンは繋いであるから怖くないんだ。さあ散歩に行こう。」というセリフのついたものでした。

ドーベルマンが怖い犬のアイコンになっていること、そしてそのドーベルマンは庭先に繋がれているという前提が当たり前に笑いのネタになっていること。多分、犬と暮らしていない人が作った作品なのだろうなと思いつつ「犬は繋いで飼うもの」という考えは未だに一般的なのだと改めて感じた次第です。

私が住んでいるカリフォルニア州では、3時間以上連続して犬を繋いだり、クレートに閉じ込めておくことは州法で禁止されています。ですから近所では、庭仕事をする飼い主さんを木陰に繋がれて眺めている犬をたまに見かけるのがせいぜいです。
とは言っても、すべての人が法律を守るわけではないし、そもそもそういう規制のない州や自治体も多くあります。地域によっては庭に小さな小屋と鎖に繋がれた犬がポツンと1日中過ごしている光景が珍しくないこともあります。そういう繋がれて孤独に生きる犬たちを助けようというNPO団体と、その活動を紹介したいと思います。

団体の名はDogs Deserve Better(=犬たちはもっと良い暮らしに価する。以下DDB)DDBの活動は2002年、最初の犬を鎖から解放したことから始まります。
DDBのメインの活動は鎖に繋がれた犬の生活を、もっと犬らしいものに改善することです。DDBの救済の対象となるのは、24時間外に繋ぎっぱなしで散歩にも連れて行ってもらっていない犬たちです。屋外で暮らしていても暑さ寒さをきちんと防ぐ犬舎があり、フェンスに囲われた庭で運動をしているような犬は対象外です。

彼ら自身の調査活動や近隣住民の通報などから、つなぎ飼いの犬の飼い主の元に出向き、説得をすることから活動は始まります。庭にフェンスがないので繋いでおかなくては仕方がないという場合には、フェンスを提供して少なくとも庭のフェンス内では犬が自由に動けるようにする場合も多々有ります。躾が出来ていないので家の中に入れられないという場合にはハウストレーニングを1から提供し、適切なトレーニングと運動を指導します。

(photo by BlazingFirebug )

犬を屋外でつなぎ飼いしている家庭では、多くの場合犬にほとんど医療費をかけておらず、避妊去勢手術も施されていません。
低料金の避妊去勢手術、無料の健康診断とワクチン摂取の提供をする場合もあります。これらの資金はすべて団体への寄付金で賄われています。(多くの犬はフィラリア陽性と慢性の関節炎に侵されています。)

こういった直接のレスキュー活動だけでなく、さまざまなイベントを通して地域への啓蒙教育活動も行っています。犬は群れで生きる社会的な生き物です。飼い主である人間とも他の犬ともほとんど接触せずに繋がれたままの生活は犬としてあるべき姿とはかけ離れています。また全く社会化されないままにストレスを溜め込んだ犬は、咬傷事故を起こす可能性がたいへん高く危険な存在でもあります。

アメリカ疾病予防管理センターの統計では、つなぎ飼いの犬による咬傷事故件数は、つながれていない犬の2.8倍にのぼるとされています。「犬のつなぎ飼いは誰のためにもならない」という基本的な教育を広めていくことは時間はかかるけれど、社会にとっても犬にとっても確実に効果が望める方法です。
難しいことは置いておいて、群れのメンバーであるはずの家族から離れたところで、撫でられもせず楽しいことも目新しいこともなくポツンと繋がれて生きることの辛さを想像しただけで、それが間違っているってわかりますよね?と私は言いたい。
DDBでは「近所でつなぎ飼いの犬を見かけて、何とかしたいと思った時のために」として、メッセージを書いたドアハンガーやチラシなども準備しています。DDBに直接出向いて説得して欲しいとリクエストがあった場合にも、犬の飼い主には通報者の名前は伝わらないようになっています。

DDBの説得を受けて「それならもう犬はいらない」と犬を手放す飼い主も珍しくはないようです。その場合は犬を引き取って、必要な医療処置を全て施した後で新しい家族を募集します。
引き取られたラッキーな犬たちはThe Good Newz Rehab Centerという広大な敷地の施設で、リハビリを受けながら新しい家族を待っています。
実はこの施設、プロフットボール選手のマイケル・ヴィックがヤミ闘犬と動物虐待を行って大きなニュースになったその場所です。
悪名高き「訳あり物件」となっていた敷地を買い取って、犬のリハビリ保護施設にするとは心憎いですね。

日本でも、犬は室内で飼うことがかなり浸透してきていますが、暑い日も寒い日も家の外で鎖に繋がれている犬の姿も地域によっては多く見受けられます。
外飼いで避妊去勢の処置もされていない犬は、行く先もないままに生まれてきて殺処分や野犬となる犬の原因のひとつです。
DDBには日本の動物保護について、行政が参考にするべき点があるのではないでしょうか



【参考サイト】