2019/07/04

FDAからの情報更新、グレインフリーフードと心臓病

Image by Ernesto Rodriguez from Pixabay 


2018年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)が、犬の拡張型心筋症(DCM)の増加とエンドウ豆、レンズ豆等の豆類およびポテト類を主成分とするドッグフードに関連があるかもしれないという警告を発表してから、ちょうど1年の2019年6月末に新しい情報が報告されました。
FDA Investigation into Potential Link between Certain Diets and Canine Dilated Cardiomyopathy

しかし結果から先に言いますと、確実なことは未だ何もわかっていない状態です。
FDAは、DCMと診断された犬の頭数や犬種など具体的なデータの発表と共に、診断された犬たちが食べていたフードのうち10例以上の報告があった16ブランドのリストも発表しました。

まずはFDAが発表した具体的な数字をいくつかご紹介します。

ここでカウントされている「FDAに報告された拡張型心筋症」とは犬または猫を対象として獣医師または獣医循環器専門医によって診断された症例を指します。
DCMと診断されなかった一般的な心臓に関する症状の報告は含まれません。

2014年1月1日から2019年4月30日までの間にFDAに報告されたDCMの症例は524件。
うち犬が515件、猫が9件。

一般的にDCMはドーベルマンやグレートデーンなど、大型犬〜超大型犬に多い遺伝性疾患と認識されています。

しかし515件のうち、複数の報告があった犬種は従来考えられていた犬種にとどまらず以下の通りです。

アフガンハウンド、オーストラリアンキャトルドッグ、
ビーグル、ベルジアンタービュレン、ボーダーコリー、
ボストンテリア、ブルテリア、チワワ、ダルメシアン、
イングリッシュコッカースパニエル、フレンチブルドッグ、
イングリッシュスプリンガースパニエル、
フラットコーテッドレトリーバー、ゴードンセッター、
アイリッシュセッター、ジャックラッセルテリア、
ソフトコーテッドウィートンテリア、マルチーズ、
ミニチュアシュナウザー、ポメラニアン
オールドイングリッシュシープドッグ、パグ
ポルトガルウォータードッグ、ローデシアンリッジバック、
ロットワイラー、ラフコリー、サルーキ、サモエド、
シュナウザー、シェパード、スタンダードダックスフント、
スタフォードシャーブルテリア、ヴィズラ、ウィペット、
ヨークシャーテリア、レトリーバー(G、L)

ここに1匹ずつの症例報告の犬種もプラスしたら「どんな犬種でもDCMに罹る可能性がある」と言えるくらいの種類の多さです。

また遺伝型DCMは7歳くらいのシニア期以降に表れる傾向がありますが
報告された症例はこれにも当てはまりませんでした。

診断された犬の平均年齢は6.6歳 年齢の幅は4ヶ月齢〜16歳
同じく 犬の平均体重は30kg     体重の幅は1.8kg〜96kg

性別は オス58.7% メス41.3%

診断された犬たちが食べていたものを調べると、515件中452件がドライフードでした。
他にはウェットフード、混合、手作り食、生食がありました。

診断された犬が食べていた市販のフードは91%がグレインフリーフードで、93%にエンドウ豆、レンズ豆が含まれていました。
動物性のタンパク質源は多様で、最も一般的だったのはチキン、ラム、魚でした。他にはカンガルーやバイソンなどのエキゾチックミートも含まれていました。
タンパク質源はどれかの種類が取り立てて多勢という傾向はありませんでした。

DCMにはタウリンの欠乏が関連しています。タウリンはタンパク質源に含まれるシステインとメチオニンの2種のアミノ酸から体内合成されます。
診断された犬たちが食べていたグレインフリーフードはどれもシステインとメチオニンの必要量を満たしていました。

FDAは該当する犬の血液、尿、便、DNAを採取して病理組織検査を行なっています。
検査は定期的に繰り返し行われているそうです。
フードも様々な方向からテストが繰り返されています。

(FDAのレポートは、どんなテストをしているかの説明に大半を費やしており、そのほとんどの行き着く先は「今のところ判らない」「さらなる調査を続ける予定」となっています。とてもカジュアルに言うと肝心な中身のないレポートです。)  

テストの内容の他に列記されているのは、FDAがどんな団体や研究者と協力しているかということで、これも消費者にとって役に立つ情報ではありません。

様々なメディアがセンセーショナルに取り上げている「拡張型心筋症に関連する可能性のある16ブランド」のリストですが、反対に言えばこれくらいしか他のメディアで取り上げられる情報がないからです。

しかしFDA自身がレポートの中で
"DCMの診断テスト及び治療は、複雑で高額な治療費がかかる可能性があるため、FDAへの症例の報告は実際よりもずっと少ないと考えられる"
と書いている通り、現実の世界で拡張型心筋症を患っている犬は報告されているよりもずっと多いはずで、その犬たちが何を食べているのかを調べる方法はありません。

以前にも同じことを書いていますが、愛犬を大学病院や循環器専門医に連れて来る飼い主がアカナのフードを食べさせている確率が高くても不思議はないでしょうし、ペディグリーなどの超低価格フードを食べさせている飼い主の割合は限りなく低いはずです。
そしてそういう激安フードを食べている犬がDCMを発症していたとしても気づかれない可能性も高いでしょう。

そのような側面を考えると、このリストに挙げられた16ブランドを避けることが問題解決につながるとは思い難いです。

とは言っても、愛犬にこのリストの中のフードを与えることは心配だという方のお気持ちは良くわかります。
その場合、単純にフードのブランドを変えるだけなく、いくつかのブランドをローテーションすることが大切です。
ローテーションすることで同じ種類の食材を長期間食べ続けることをある程度は防ぐことができ、影響を小さくすることができます。

またゴールデンレトリーバーやコッカースパニエルのように遺伝的にタウリン欠乏症になりやすい犬種はもちろんのこと、そうでない犬種もタウリンのサプリメントを摂ることは心臓の健康をサポートするために有効です。

タウリンのサプリメントについては一応かかりつけの獣医さんに相談してみてください。
良いサプリメントを処方してくださる場合もあるし、アドバイスを頂けることもあるかもしれません。
(残念ながら、相談しても満足の行く答えをもらえない場合もあります。)

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さて、ここからはFDAのレポートの内容とは別に、その裏側と言うか、ちょっとウンザリする話です。
                                     Image by Tumisu from Pixabay 
このレポートの中にFDAが協力を依頼している3名の獣医学及び獣医栄養学博士の名前が挙がっています。
その中の一人、タフツ大学のリサ・フリーマン博士は2018年にグレインフリーフードとDCMの関連について非常に”面白い”署名記事を書いています。

原文はこちら
A broken heart: Risk of heart disease in boutique or grain free diets and exotic ingredients

昨年FDAが最初の警告を出した直後の8月に発表された記事です。
フリーマン博士は犬の心臓病に関連する危険な食餌はグレインフリーフードだけでなく、ブティックフードと呼ばれる小規模な会社が作っているフード、エキゾチックと呼ばれる非伝統的な食材が使われたフード(カンガルーやバイソン、変わった果物など)そして手作り食や生食だと述べています。

博士の主張は以下の通り。
穀物は伝統的にドッグフードに使われている原料で悪者にされるべきものではない。
小規模なフードメーカーが風変わりな原材料で作るフードは、巧みなマーケティングで良いものだと思い込ませているだけ。
賢明な飼い主はフード製造の長い実績を持つ大規模メーカーが穀物やチキンなど従来の原材料で作ったフードを与えるべき。
そして何より、一般の飼い主はドッグフードを選ぶ時にラベルの原材料一覧を読むのをやめるべき!

びっくりして開いた口がふさがらなくなるか、鼻で嗤ってしまうか、怒り心頭になるかはお任せします。

そしてアメリカンケネルクラブは今回のFDAのレポートを紹介するに当たって、このフリーマン博士の言葉を引用しています。
未だ具体的な因果関係はわかっていないけれど、としながらも、専門家の意見として小規模メーカーを非難する言葉を誘導的に使っている。
原文→  What Dog Owners Need to Know About FDA's Grain-Free Diet Alert

タフツ大学にはピュリナが資金を出して設立し、大学の獣医学部と共同で運営している研究施設があります。もちろんフリーマン博士もこの施設の運営に携わっています。

また別の獣医学博士が所属するカリフォルニア大学デイビス校はロイヤルカナンやペディグリーのメーカーであるマースペットケアと、共同で研究をしたり研究施設を設立したりと言った40年に渡る協力関係があります。

3人の博士のうちの最後の方が所属するフロリダ大学もピュリナからの様々な形の寄付、共同研究を行っています。

ヒルズもまた、3つの大学の全てに寄付をしています。

大学を含めて研究機関はどこも資金集めに苦労していますし、企業が寄付や共同研究という形で資金援助をすることは悪いことではありません。社会全体としてはむしろ望ましいことです。

しかしFDAという公共の機関がドッグフードの安全性について調査をするに当たって、利害の絡む企業に関連する博士を採用するのは避けるべきでしょう。

マーズもピュリナもヒルズもトウモロコシや小麦などの穀類をたっぷり使ったフードを製造販売している大企業です。彼らにとって小規模メーカーがこだわりの原材料で作る高価格フードが売れることは、都合の良いことではありません。

このグレインフリーフードと心臓病の関連について、私が感じているモヤモヤを分かっていただけたでしょうか?