2018/06/23

ペットフードメーカーに対する集団訴訟 2


前回のチャンピオンペットフードに対する訴訟の話題の続きです。

チャンピオン社の反応と、その後の対応

さて、訴えられたチャンピオン社の反応はどのようなものだったでしょうか。
3月19日にFacebookにて発表された声明では冒頭から「データの曲解に基づいた根拠のないもの」としています。

またアカナとオリジンのフードは、2つの第三者機関によって検査を受けており、高い基準の安全性を保っているとも述べています。


ごく微量の重金属についても説明がされています。
これらは自然界に鉱物として存在する微量の金属が、原材料を通じて製品に含まれているものだと言うことです。どんな農作物でも水産物でも微量の重金属を含んでいます。
原告からの訴状の中にもある通り、製品中に含まれるとされる重金属は米国食品医薬品局の上限基準を大幅に下回るもので、自然界の食品に含まれている範囲のものです。

また私の個人的な見解で恐縮ですが、私にはこのチャンピオン社の言葉は納得のいくものに思えます。

同社はこの訴訟を受けて、翌月4月13日に訴訟の却下の申し立てを行っています。
つまり全く取り合わないという姿勢を取ったわけですね。

言うまでもないことですが、製品のリコールの予定もありません。

ちなみにチャンピオンペットフード社は本国カナダとアメリカにおいては一度もリコールをしていません。2008年にオーストラリアにおいてのみリコールが行われていますが、これはオーストラリアがペットフードに対してガンマ線照射を義務付けており、同社がこの処置をしていなかったためです。同社はガンマ線照射はオーストラリア以外の国では行っていません。


参考までに日本の農林水産相や厚生労働省が農作物や水産物に含まれる自然由来のヒ素やカドミウム について説明しているサイトをリンクしておきます。
今回のペットフードの件とは関係がないのですが、微量の重金属は自然由来で日本の農作物にも普通に含まれているということの説明です。




訴訟はリコールとは別のものだということ




ある企業に対して集団訴訟が起きたという時、それが即「ここの製品は危険だ!」ということにつながるわけではありません。

海外のことなので、なかなか詳細が掴みにくいとは思いますが、もしご自分が利用している製品なら、冷静にその背景を調べてみることをお勧めします。

企業が製品をリコールした場合には、それは企業側が製品に問題があることを認めているわけですから、問題の所在は明らかです。

この点をしっかりと認識して、大切な愛犬の食べるものを見極めたいですね。


消費者が訴訟を起こせるのは悪いことじゃない

今回取り上げた、オリジンとアカナのフードに対する訴訟は、具体的な健康被害の報告もないし、根拠も非常に怪しいもので、私自身は取るに足らないことだと思っています。
最初に書いたように「訴訟は誰にでも起こせる」のです。

けれど消費者が企業を相手取って訴訟を起こすことができるのは悪いことではありません。損害を被った場合には訴訟を起こすことは正当な権利ですし、これができない社会は恐ろしいです。

例えば2015年に起きたネスレピュリナ社に対する集団訴訟。
(これはSMILES@LAに書いたことがあります。「ネスレピュリナ社ドッグフードの集団訴訟の件」


ピュリナのベネフルというフードを食べた後に具合が悪くなって命を落とした犬が1400匹以上、腎機能障害など深刻な健康被害の報告は数千件に上るという大規模な集団訴訟でした。

これ、本当に本当に腹立たしいのですが具合の悪くなった犬たちを診察した獣医師の証言は「毒物の専門家ではないので信頼性に乏しい」として無効にされ、最終的にピュリナ社が勝訴しました。
超大企業が全力をあげて弁護団を結成して対策を講じたのだと思います。

それでは訴訟を起こしたことは無駄だったのか?というと決してそうではないと思います。ピュリナのベネフルはその後もずっと「最低のフード」の地位を確立しっぱなしですし、この集団訴訟が世間に与えたインパクトは意味のあるものでした。

今回のチャンピオンペットフード社に対する訴訟と比べてみると、いろいろなことが見えてきます。


おわりに


アカナやオリジンのフードを買っている方は多いので、参考になればと思いこの記事を書きました。

このようなことがあると「何を信じればいいの?」と思われる方もいるかもしれません。
私自身は「自分の感覚を信じるしかない」と考えています。そのためにもペットフードの原材料一覧の読み方、それぞれの材料名が意味するところを勉強することが必要です。

私がお勧めしたいのは、とにかく色々なフードの原材料一覧を読みまくることです。
グリーンドッグさんなどは扱うフードの基準が明確で全てのフードの原材料が全部オンライン上で読めます。事あるごとに読んでいると、色々なことがだんだんクリアになってきます。
このブログにもフードのラベルが意味するところを説明した記事がありますので、ぜひ参考になさってください。

また各メーカーのリコールの有無や履歴も調べるとすぐにわかるので、フード選びの参考になさってください。

ところで、この記事のパート1でも「どれくらいおかしいかと言うと、ピュリナ社のフードが5つ星なんです」なんてことを書いたり、この記事でもピュリナの訴訟の件を例にしたり「そんなにピュリナが嫌いか?」と思われたかもしれません。

嫌いです。全く信用できないと思っています、個人的にね。

2018/06/21

ペットフードメーカーに対する集団訴訟 1



今年の3月、チャンピオンペットフードというメーカーが消費者から集団訴訟を起こされたとのニュースが報道されました。

チャンピオンペットフードと言われてもピンと来ないかもしれませんが、プレミアムフードの『オリジン』と『アカナ』のメーカーと言うと「あ〜、あの......えっ!?」という反応になる方も多いのではないでしょうか。

高品質でこだわりの原材料のフードとして、愛犬のために吟味を重ねる飼い主さんが選ぶタイプのフードですから驚きますよね。

最初に、この訴訟とフードについて私の個人的な意見を述べさせていただくと
「私がこのフードを買っていたとしたら、この訴訟のことはそれほど気にしないし、これからも買い続けると思う」です。
今このフードをお店で買ってきてうちの犬たちに食べさせられるか?と聞かれたら「余裕で食べさせられる」と答えます。

では、以下に詳しい背景をご紹介していきます。



チャンピオンペットフードが訴えられた理由

そもそもチャンピオン社はどんな理由で訴えられたのでしょうか?

最初に訴えを起こしたのは3名の消費者で「チャンピオンペットフード社の製品であるオリジンとアカナのドッグフードにはヒ素・水銀・鉛・カドミウムなどの有害な重金属と、内分泌かく乱物質であるビスフェノールAが含まれている。同社のフードは新鮮で自然な原材料を使用しているという虚偽の表示をしている。」というのが訴訟の理由です。

原告のうちの一人は「過去4年間オリジンまたはアカナのフードを愛犬に食べさせていたが、具合が悪くなった」と述べています。(ただし具体的な病名や医療記録は提出されていない。)

「最初に訴えを起こした」と書いた通り、その後も同様の内容で別の消費者グループからも訴訟が起きています。いずれもペットの具体的な健康被害の内容は示されていません。
(オリジンやアカナの製品が原因と思われる健康被害の報告もありません。)

一番新しい訴訟は6月にファイルされたもので「高品質のプレミアムフードだと宣伝されていたから高い価格でも購入したのに、虚偽の表示をしていたとのことなので弁済して欲しい」という内容です。(「え?マジっすか?」って思いますよね。)

ここで覚えておきたいのは「訴訟は誰でも起こすことができる」ということです。



訴訟のベースになっている数字はどこから?


訴えの内容が書かれた訴状には、オリジンとアカナの製品それぞれに含まれるとするヒ素、水銀、鉛、カドミウム、BPAの数値を一覧にしたものが添付されています。

フードに含まれるそれらの重金属とやホルモン様物質の数値が訴訟の理由になっているわけですが、全ての数字は米国食品医薬品局が安全基準として定めている「これ以上含まれると安全ではない」という数値を大きく下回っています。
例えば、ヒ素は米国政府が定める安全基準の数値は食品1kgあたり12.5mgが上限とされていますが、チャンピオン社の製品の平均値はフード1kgあたり0.89mgでした。
カドミウム は安全基準が1kgあたり10.0mg、チャンピオン製品平均1kgあたり0.09mg
鉛は安全基準が1kgあたり10.0mg、チャンピオン製品平均1kgあたり0.23mg
水銀は安全基準が1kgあたり0.27mg、チャンピオン製品平均1kgあたり0.02mg

BPAについては、缶詰フードから検出されるならわかるのですが、訴訟の対象になっているドライフードから検出されるのは考え難く、???な部分です。

これらの数値を測定したとされるのはクリーンラベルプロジェクトというNPO団体です。
この団体は、同じ名前のウェブサイトで独自に行なった様々な製品の検査をベースにして、星の数でレーティングを行なっています。
このレーティングについては、今回の訴訟問題以前からペットフード関連の有名Webサイトや、さらには経済誌フォーブズなどでも判定基準の不透明さや不可解さが疑問視されていました。

どのくらい不可解かというと、クリーンラベルプロジェクトにおいてはピュリナのドッグフードのほとんどに最高評価の5つ星がついています。
原材料一覧を見たらため息しか出ないような、ピュリナブランドの中でも最安ランクの製品も星5つ。

そしてこのサイトで最低評価の1つ星には、アカナとオリジンのほとんどの製品、ロータス、GO!、HALOなど、通常のペットフード評価サイトで最高ランクの常連のブランドが並びます。

同サイトのレビューはこちらで見ていただけます。

そしてその評価の根拠となっている「独自に行なった調査の数値」は一切公開されていません。そこが他社数社から不透明さを指摘されている所以ですね。

つまり、オリジンとアカナの製品についての訴訟の根拠になっている数字の出どころが信頼の置けるものとは思えないのが、一番最初に書いた私の個人的な意見の理由です。


ちょっと長くなりそうなので、製品中の重金属についてや、チャンピオンペットフードの対応や声明、消費者が企業を相手取って行う訴訟についてなど、明日続きを書きます。


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