2017/05/25

ミズーリ州におけるパピーミルを巡る闘い(1)

私がdog actuallyで初めて動物福祉に関する法律のことを書いた記事です。
また自分では知っているつもりだったパピーミルのことも、改めてじっくりと書かれたものを読むことで「そうだったんだ」という発見もあり、自分自身にとっても学ぶことの多い記事でした。

(以下dog actually 2011年6月20日掲載記事より)
「パピーミル」、直訳すると「子犬工場」。このサイトに来て下さる皆さんならば、パピーミルという言葉が何を意味するかご存知の方も多いでしょう。ASPCA(米国動物虐待防止協会)ではパピーミルのことを「犬の福祉よりも経済効率と金銭的利益が優先される大規模な商業繁殖施設」と定義しています。アメリカに於いても、パピーミルは犬を取り巻く環境の中で大きな問題の1つであり、ASPCAやHSUS(米国動物保護協会)を始め多くの人々がこれらの施設の犬達を助け守り、ひいてはパピーミルを撲滅させるべく闘いを続けています。
さて、このような施設にいる犬達の命や生活を守るためには規制や法律が必要です。しかし残念ながらアメリカの法律の世界においては「パピーミル」を定義する言葉がないのです。アメリカ全土の法律である連邦法には、犬や猫の商業繁殖施設を経営する者は所定の免許を取得しなくてはならない、施設は定期的に米国農務省の検査を受けなくてはならない、などの規定はありますが、動物を守るための法律は実質上無いに等しい状態です。
州ごとの州法では、2008年に初めてバージニア州において商業繁殖施設で飼育する成犬の数を最高50頭までとする法律が施行され、その後ルイジアナ州、オレゴン州、ワシントン州が同様の州法を施行することとなりました。このように連邦法よりも一歩進んだ対応をしている州がある一方、いくつかの州では商業繁殖施設を規制する法律が全くない野放し状態とも言える所も存在します。
今日のタイトルにあげたミズーリ州も「パピーミル野放し状態」の場所です。州全体で3,000以上のパピーミルがあると言われており、これは全米のパピーミルの数では一位、約30%にあたる数字です。ミズーリ州は「パピーミルのメッカ」「アメリカのパピーミル首都」と言うありがたくない称号まで持っているほどです。
そのミズーリ州で、2010年画期的な法案が提出されました。「犬の商業繁殖施設において、虐待に該当する犬の取り扱いを無くし、全ての犬に適切な待遇を与えるための規制」通称「法案B」と呼ばれた、案の内容は以下の通りです。
1. 十分な食餌と清潔な水の供給
  • 適切な栄養成分の食餌を少なくとも1日に1度は与えること
  • 凍ったり汚染されていない清潔な水を常時飲めるようにしておくこと
2. 必要に応じた医療ケアの供給
  • 最低限、1年に1度は資格のある獣医師による健康診断を受けさせること
  • 人道的に安楽死を取るしかやむを得ない場合は、資格のある獣医師の手によって、全米獣医師協会承認の法律で定められた手法を取ること
  • 3. 気候条件から身を守るための適切な居住空間の供給
    • 金網等ではない平面の床のある屋内施設にいつでも行き来できる環境を造ること
    • クレートが他の動物のクレートの上に積み上げられたような状態ではないこと
    • 最低1日に1度は居住空間の清掃を行うこと
    • 室温は45°F(7.2℃)を下回らず、85°F(29.4℃)を上回らないこと
    4. 手足を伸ばしたり横になるのに十分な広さのある空間の提供
    • 犬の頭の上に最低30cmの空間があること
    • 体長63.5cm未満の犬には最低1.16平方mの広さを確保すること
    • 体長63.5-89cmの犬には最低1.86平方mの広さを確保すること
    • 体長89cm以上の犬には最低2.79平方mの広さを確保すること
    5. 定期的な運動の提供
    • 管理された屋外への行き来を可能にすること
    • 屋外の施設は最低限屋内の居住空間の2倍の広さを確保すること
    6. 出産後から次の繁殖までの十分な休養
    • 18ヶ月の間に2回を越える出産をさせてはならない
    7. 1つの施設において管理する犬の上限は50匹、そのうち繁殖に使う雌犬は10匹を上限とする
    全てが最低限の当たり前のことのように思えますが、その最低限の環境すら与えられていないのがパピーミルの犬達です。法律上「パピーミル」を定義する言葉がない以上、上記のようにそれぞれの項目に具体的な数値が言及されていることは必要不可欠です。
    この法案は2010年11月の中間選挙の折に、ミズーリ州住民の住民投票にかけられました。この動画はその時の「法案Bに賛成の投票を!」と呼びかけるキャンペーンのCMです。

    3,000以上ものパピーミルが存在するということは、そこから経済的恩恵を受けている人間も大勢いるということ。それはすなわち、この法案に反対する人間がたくさんいるということでもあります。法案Bに対する反対派のキャンペーンも大きなものでした。「州の一大産業である犬の繁殖業への規制は、経済的ダメージが大き過ぎる。」「犬の値段が上がって、誰もが犬を飼うことが難しくなる。」「施設の規模を強制的に縮小させることで行き場のない犬が出て来る。」これらが反対派の主張の主なものでした。
    アメリカンケネルクラブ(AKC)も、この法案に反対する団体の1つでした。「法案の内容が通れば、責任ある繁殖をしているブリーダーに経済的な負担がかかることになる。そもそもブリーダーの質というのは管理している犬の数に左右されるものではない。犬を購入したい人々やブリーダーに負担を強いることになるこの法案は可決されるべきではない。」というのがAKCの主張でした。負担を強いるべきでないと主張する対象が、犬ではなくて購入者や繁殖者の方なのですね。
    そして住民投票の結果、僅差ではありましたがパピーミル規制法案は賛成票が多数を勝ち取りました。10頭以上の犬を飼育している繁殖業者は約1年後の2011年11月までに、この法案で示された規定の数値を満たさなくてはいけないということになったのです。ミズーリ州民でなくても、アメリカの犬を愛する人達の多くが賛成派の勝利に胸をなで下ろしました。
    しかし・・・ことは簡単には進まなかったのです。何が起こったのかは次回に続きます。

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