2017/05/24

生態展示販売禁止 - アルバカーキー市の場合


dog actuallyへの初出は2011年5月23日。
ペットショップで商業的に繁殖された犬や猫を販売することを条例で禁止する自治体は確実に増え続けており、2017年5月現在18州179都市でこの記事で紹介しているアルバカーキー市と同様の規制が実施されています。

これらの規制の重要な点は単純に店舗での販売を禁止しているだけでなく、子犬や子猫を自家繁殖することが制度的に難しくなり、たとえアクシデントで増えてしまった場合にも金銭的なペナルティが課して同じ失敗を繰り返す可能性を低くするシステムを作っていることです。保護された犬を譲渡するだけではペットの頭数過剰問題は解決しない、まずは元栓を閉めなくてはいけないというのが、アメリカの多くの自治体が選択した方法です。

(以下、dog actually 2011年5月23日掲載記事より)

日本でも、犬をめぐる様々な問題の温床として問題視されているペットショップでの生体展示販売。アメリカのいくつかの都市では、条例によって犬や猫の生体展示販売が禁止されています。その中でもアメリカで一番最初に犬と猫の展示販売禁止の条例を施行した、ニューメキシコ州アルバカーキー市の例をご紹介いたします。
同市は、もともとは動物の扱いに関して進歩的な街であったわけでありません。このような法案が出たきっかけは、同規模の都市に比べて、殺処分しなく てはいけない動物の数があまりにも多く、そのために多額の税金が費やされることに業を煮やしての結果でした。法案が提出された2006年当時、年間約 27,000頭の犬や猫がシェルターに持ち込まれ、約15,000頭が殺処分されていました。これらのことに年間約400万ドル(為替レートではなく生活 感覚で言えば年間約4億円という感じです)の費用が費やされていました。
犬の数の過剰の背景の1つがパピーミルと呼ばれる犬の繁殖施設です。ペットショップで売られている犬達の多くがパピーミルから供給されています。生体展示販売の禁止はパピーミル取り締まり策の一環でもありました。
ま たパピーミルだけでなく、適切な飼い方をせずに故意またはアクシデントの自家繁殖を繰り返すタイプの飼い主に関しても、法による規制の必要性が求められて いました(このようなタイプの行動は対人間の家庭内暴力との関連性が高いという統計があるのも、積極的な行政の介入が望まれた理由でもあります)。
こうしてThe Humane and Ethical Animal Rules and Treatment (HEART) Ordinance 「人道的且つ倫理的な動物の扱いに関する規定と条例」と名付けられた法案がアルバカーキー市議会に提出され可決されたのが2006年、実際に条例が施行されたのは2007年のことでした。
条 例では、市が発行する許可証を取得した者以外は犬や猫の販売をしてはいけないという規定になっています。これは道ばたや新聞に「子犬譲ります」といった広 告を出して売る事、物品との交換をすること、単純に譲渡することも含まれます。これに違反した場合は90日間の禁固刑プラス500ドルの罰金が課せられま す。
また、ペットショップ等の小売業には犬や猫の販売許可証を発行しないことも規定されています。つまりこれでバックヤードブリーダーと呼ばれる小遣い稼ぎの自家繁殖と、ペットショップでの生体展示販売が成り立たなくなるというわけです。


これは大手チェーンのペットショップに飾られているポスター。生態展示販売の禁止の条例のない都市でも、株式上場しているような大手企業はすでに犬や猫の販売を止めている。こうして「まずは里親になることを考えて」という呼びかけを行い、シェルターと提携した譲渡会も行う。それらの犬へのしつけ教室やグルーミング、ケア用品やフードの販売などでビジネスが成立するからだ。

条例では、犬や猫の登録料に関しても詳細に規定されています。避妊去勢手術を施された犬や猫に関しては登録料は一頭あたり年間6ドル。これが避妊去勢手術をしていない犬や猫だと登録料は年間一頭あたり年間150ドルになります(医療上の理由で手術ができない場合は、医師の証明を提出することでこの対象外となります)。避妊去勢手術は市が安価なサービスの提供もしています。
さらに犬や猫を繁殖させた場合には、出産後1週間以内に届出をし て、正式な許可証を得る必要があります。これが出産一回あたり150ドル。この許可証は一家庭において、12ヶ月の間に4回以上発行することはできませ ん。また、一頭の雌に関しては12ヶ月の間に1つの許可証しか発行されません。これもバックヤードブリーダー対策の1つです。
正規のブリーダーであっても、年間150ドルの登録料と出産一回あたり150ドルの許可証発行は義務づけられています。それだけの覚悟のある者しか、犬や猫の繁殖をしてはいけないという暗黙の了解というわけです。
もちろん、この登録料の支払い証明と繁殖の許可証がなくては、販売の許可証を得ることはできません。違反した場合は上記の通りの刑罰と罰金が待っています。
このような行政の努力の結果、条例が施行された2007年から2010年の間にシェルターからもらわれて行く動物の数は年間23%増加し、殺処分される動物の数は年間35%減少していきました。

持ち込まれる動物の数が減少し、もらわれて行く動物の数が増えるということは、施設にいる動物達の待遇が改善されるということでもあります。アルバカーキー市最大の私営動物保護施設Animal Humane New Mexicoでは、市全体の犬猫を取り巻く環境の改善を受けて、2010年に大規模な施設の改築を行うことができました。人々が動物シェルターに関して持っている、従来の暗い哀しいイメージを払拭する、ブティックシェルターと呼ばれる明るくて洒落た雰囲気の保護施設をオープンさせたのです。それまではショッピングモールの中にあるペットショップに子犬や子猫を見物に行っていた親子連れが、気軽にシェルターに訪れるような流れができつつあります。
アルバカーキー市のこの動きは、その後アメリカの多くの場所に飛び火して、カリフォルニアのレイクタホ、ウエストハリウッド、テキサスのオースティン等で同じような条例が施行され、成果をあげ始めています。
まだまだ主流派とは言えませんが、生体展示販売禁止の流れは確実に育ちつつあります。結果、不幸な犬が一頭でも減る事を心から願います。
無責任なペットショップの犬達の供給源であるパピーミル規制についても、気になる動きがあるのですが、これはまた別の機会に。 


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