2018/02/28

ケンワージー選手と韓国の犬


この記事の一つ前に2014年のソチオリンピックの時に、オリンピック選手たちが現地の保護犬をアダプトしたことを書いた記事を再掲しています。
その時、選手たちの中で一番最初に野良犬を保護して何とかアメリカに連れて帰れるように手を尽くしたのが、スキーフリースタイルのガス・ケンワージー選手でした。

彼はソチ五輪の後に自身がゲイであることをカミングアウトして、フィギュアスケートのアダム・リッポン選手とともに初めてゲイをオープンにしてオリンピックに参加する選手として注目されました。

私にとってはガス・ケンワージーと言えば「ああ、あの犬連れて帰ってきた子ね」という認識だったのですが、このカミングアウトの件で、彼は一躍LGBTの人々や彼らの支援をする人の間でも注目を集める存在になりました。

今回の平昌オリンピックでも、現地の犬たちを憂うメッセージなどを発信していたガス君ですが、すべての競技が終わった後に、インスタグラムに次のようなポストがアップされました。

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今朝マットと僕は、ここ韓国に17000以上ある犬農場のうちの一軒を訪れた。胸がつぶれそうだった。
国中で250万匹の犬が、考えられる限り最悪の環境で食料として育てられている。
わかってる、犬肉を食べることは韓国の文化の一部だという議論は承知の上だ。僕自身は個人的に犬食には賛同できないけれど、ここで西洋的な理念の押し付けをするのは違うだろうということには同意する。だけど、この動物たちの扱いはまったく非人道的なんだ。
文化というものは決して残虐行為の身代わりや隠れ蓑にされるべきじゃない。

僕たちが訪れた農場の犬たちの環境は他の場所に比べれば「まだ良い方だ」と言われた。だけど、ここの犬たちだって栄養不足で肉体的に虐待され、ハリガネの床の小さい檻に詰め込まれて、凍りつく冬の寒さと夏の猛暑に晒されている。

屠殺の時が来たら、他の犬が見ている目の前で20分間も苦しみながら感電死させられる。
それぞれの信条がどうであれ、この犬たちは僕の国でペットと呼ばれている生き物と何も違わない。犬たちの中にはかつてはペットだったのに、盗難されて犬肉の取引市場で発見された例さえある。

ラッキーなことに、僕らが訪れた農場は国際動物愛護協会の尽力と間違いに気づいた農家の人の協力によって完全に閉鎖されることになっている。ここにいる約90匹の犬たちは全員がアメリカとカナダに運ばれて、新しい家庭を見つけることになる。

僕は1枚目の写真の可愛い子犬をアダプトした。(名前はビーモに決めた)ビーモはワクチン接種を終えたら2週間くらいでアメリカに来て僕と暮らす予定だ。この子を最高に幸せにしてあげるのが待ちきれないよ。
だけどこの国ではまだ何百万匹もの犬たちが助けを必要としている。
今回の訪問が韓国の犬肉取引の非人道的な面に目を向けてもらうためのきっかけになればと願っている。
同時に僕の国アメリカにも何百万匹もの犬たちが暖かい家庭を待ってることも知ってほしい。


最初に名前が挙がっているマットというのは今回応援に同行したガス君の恋人です。

彼のポストではちらりと名前が出ているだけですが、今回ケンワージー選手が韓国の犬肉取引について言及するようになったバックには国際動物愛護協会(Humane Society International)の存在があります。
ソチの時はたまたまガス君が見つけた野良犬の親子に餌をあげてるうちに情が移って離れがたくなったという、言ってみれば無邪気な子供みたいな行動だったのが、今回はいきなり政治的で深刻な問題になっていますから、背景があって納得です。

愛護協会は以前から韓国の犬肉取引について改善を求めていたそうですが、今回ガス君の渡韓前に「犬肉取引市場の改善について協力してくれないか」と接触があったそうです。

ガス君「え?そんなこと言われても僕は全然そういうこと知らないし」と戸惑ったようですが、協会から話を聞くうちに心が動いたのだとか。

(ちょっとね〜、この辺りは「だいじなだいじな試合前の選手にそんな繊細な問題押し付けるなよHumane Society、だから私はあんた達が好きになれないし寄付もしたくないんだ。」って思ったんですけれどね。まあ、これは私の個人的な感想です。)

ガス君が訪れた「閉鎖が決まっている犬農場」は愛護協会が費用を払って、キノコの栽培工場に業種替えをすることで農場主と交渉が成立しているそうです。
さすがは超大規模保護団体、とんでもない資金力ですね。同じような交渉は他の農場とも成立したり進行中だったりするようです。
この点も賛否両論あるかもしれませんが、私は資金力や知名度のある団体がある程度強引にことを進めるのは「限度さえわきまえれば(ここが難しいんだけどね)有りは有りかな」と思います。とても際どいラインだなあと思うけれど、実際に助かっている動物がいるわけで、人間の生活も脅かしていないわけですからね。

インスタグラムのポストの中でも、インタビューでも、ガス君は「韓国の文化をどうこういうつもりはないし、西洋文化だけが正しいと言ってるわけじゃない。」と強調しています。大切なことですね。
犬の保護の話をすると必ずと言っていいほど「じゃあ牛や豚は食べてもいいのか」と言う人が出てきますが、今回のガス君や愛護協会の焦点はそこじゃないですからね。
ポイントは「食べるために育てたり屠殺するにも、守るべき人道的なラインというものがある」というところです。
これは牛や豚などの家畜動物の飼育や屠殺に対しても、同じように運動している人がいて、正式に研究している人々がたくさんいる問題です。

動物を取り巻く環境のことを気にして情報に接している人にとっては当然のように知っていることでも、普段そういうことと縁のない人々にとっては有名スポーツ選手のこのような行動で何か小さな変化が起きることがあるかもしれません。

単純に「ガス君いい人だね〜、犬もよかったね〜」というだけで済まされず、多くの人にとって何かを考えるきっかけになればいいなと思います。


《参考サイト》
http://people.com/pets/winter-olympics-gus-kenworthy-rescues-dog/

ソチの野良犬とオリンピック選手達

前回の冬季オリンピックの時の記事ですねえ。
この記事、2014年の年間の記事の中でもアクセス数が上位のものだったので感慨深いです。多分、犬のこととは別にオリンピックやスポーツファンの人が検索ワードから来てくれたせいでしょうね。


(以下dog actually 2014年3月3日掲載記事より)


By Andrey from Russia (Stray dogs) [CC-BY-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons

世界中の人々の様々な思いをのせて、ソチ冬季オリンピックが幕を閉じたのは記憶に新しいところです。ここアメリカでも国に帰ってきた選手達の動向が伝えられていますが、その中でも犬好きの目を引くのは、ソチで保護された野良犬をアダプトしてきた選手達の話です。

ソチの野良犬の問題は、オリンピック開催前から大きく報道されていました。オリンピック施設建設のための宅地整備で引越しをしなくてはならなかった多くの家族が置き去りにしていった犬達が自然繁殖で数が増え、街には野良犬が溢れた状態になっていました。(ロシアでは犬の去勢避妊処置は一般的ではありません)
それでも、あちこちで施設の建設工事が行われているうちは、犬達は作業員の人達から残飯をもらったりして生活していたのですが、工事が終わって作業員がいなくなると犬達だけが残され、さらに収集のつかない状態となりました。ソチ市はオリンピック開催までに野良犬の問題を解決しなくてはと、犬を殺処分して駆除するという手段に出て、世界の多くの動物保護団体から非難の声を浴びることとなりました。
結果、ロシア当局が野良犬の収容施設を作ったことと、ロシアの企業家オレグ・デリパスカ氏が私財を投じて大規模シェルターを作ったことで、オリンピックの開幕前に、野良犬問題はなんとかかんとか形を整えたように見えました。
しかし、犬を飼うと言えば番犬にするのが目的で純血種のジャーマンシェパードやピットブルが好まれる傾向の強いソチにおいて、シェルターで保護されている雑種犬達の貰い手を見つけることは、たいへん難しいのは目に見えていました。そこで地元で犬の保護活動をしている団体は、オリンピックを機に世界中から集まる人々に、ソチの犬をアダプトすることを考えて欲しいと訴えてきました。

そのような状況の中、アメリカ代表のオリンピック選手の中で一番最初に名乗りを上げたのは、スキースロープスタイルの銀メダリスト、ガス・ケンワージー選手でした。

ケンワージー選手は、オリンピックメディアセンターのセキュリティテントの下で暮らしている母犬と4匹の子犬を見つけました。見かねた彼は選手村に5匹の犬を連れて行こうとしたのですが、村への動物の持ち込みは禁止されているため、毎日食べるものを持ってそこに通ったと言います。
しかし、オリンピックが終わりテントが撤去されると犬達の居場所が無くなることに気が気ではなくなった彼は、SNSに子犬達の写真をアップして「この子達をアメリカに連れて帰るにはどうしたらいいだろう?」と問いかけました。多くの反響の中に、前述の企業家オレグ・デリパスカ氏からのコンタクトがありました。デリパスカ氏は、ロシアからアメリカに犬達を輸送するためのワクチン接種や書類の手続きの手助けを申し出てくれました。
ケンワージー選手は帰国を延期して手続きにあたり、5匹の犬達は現在健康チェックの最終段階で、ケンワージー選手のホームタウンのコロラド入りを待っています。
ケンワージー選手の他にも、スノーボードクロスのリンゼイ・ジャコベリス選手、アイスホッケーチームのデビッド・バッケス選手、ライアン・ミラー選手、ケビン・シャッターカーク選手、スキーハーフパイプのブリタ・シガニー選手、ボブスレーとスケルトンのプレス担当のアマンダ・バード氏が、ソチの犬を新しい家族に迎えてアメリカに帰国しました。

中でも、アイスホッケーのバッケス選手は自身が引き取った犬だけでなく、他の行き場のない犬達の受け皿となるシェルターも探しています。シェルター探しは、バッケス選手と奥様のケリーさんが立ち上げて活動しているAthletes for Animalsというチャリティ団体を通じて行っています。
家のない動物達を助けるために作られたAthletes for Animalsは直接動物を保護したり里親募集活動をしているわけではありませんが、責任を持って動物を飼うこと、シェルターの保護動物をアダプトすることなどの教育啓蒙活動や、各地のシェルターの資金援助のための募金イベントなどを通じて動物保護を支援しています。バッケス選手の呼びかけで集まった様々な分野の人気スポーツ選手がこのような活動をすることで、保護活動に対する注目度や浸透度が高くなり、特に未来を担う子供達への良いお手本になるという大きなメリットがあります。
こちらはAthletes for Animalsの立ち上げの際のプロモーションビデオです。アメリカのスポーツファンなら「おおおおっ!」と息をのむような豪華メンバーが顔を揃えています。

「アメリカの地元にも家のない犬達はたくさんいるのに、何も外国の犬を連れて来なくても」という声も確かにありますが、人気のあるスポーツ選手が家のない犬を引き取ったというニュースのおかげで、アメリカの地元の保護動物に目を向ける人が増えることもまた事実です。
ロシアの地元の大小様々な団体も、残された犬達を救うために努力を続けていますし、Humane Society Internationalではソチの犬達のための募金と里親申込も受け付けています。世界中どこであれ、一頭でも不幸な犬が減って温かい家庭に迎えられるならそれで良しだと思いますし、一人でも多くの人が身近にいる保護動物に注目してくれるようになればと思います。

2018/02/25

モントリオールの特定犬種規制のその後

(photo by Crazypitbull )

もっと早くにアップしようと思っていたのに、なかなか時間が取れなくてすっかり遅くなってしまいました。
2016年にカナダのモントリオール市で持ち上がったピットブルタイプの犬の飼育禁止の条例の続報です。

この記事に先立って、以前にdog actuallyに書いた特定犬種規制が持つ問題点の記事を再掲しています。

2016年にはSMILES@LAのブログでこの問題を書いたのですが、今読み返してみるとすごい勢いで怒っていてちょっと驚いた(自分で書いたのにね)

当時モントリオールがピットブルタイプの犬の飼い主に課した要件は次のもの。

・飼い主は18歳以上で犯罪歴がないこと
・登録料150ドルを支払って、飼育許可証を受けること
・公共の場に出るときにはマズルガード着用
・外出の際は1.25mのリードを使用
・要件を満たさない場合は、殺処分命令を下す

しかもこの要件が発表されて1週間以内に許可証を受けなくてはいけないという無茶なものでした。

結局、この件は動物保護団体や反対派の議員が裁判所に違法性を訴え、条例施行の一時停止命令が下りました。

その後、ピットタイプの犬の飼い主は2017年の4月上旬の期日までに飼育許可証を取らなくてはいけないということになりました。


この間も動物保護団体や賛同する人々によって、特定犬種規制に反対する運動はさまざまな形で続いていました。


そして2017年12月、ピットブルタイプの犬に関する規制が解除され、2018年5月には犬種ではなく飼い主の責任に焦点を当てた法律を制定することが市長によってアナウンスされました。


「え?この突然の方向転換はなに?」と驚きですが、選挙によって市長が違う人物に変わったんですね。

この選挙に関してどんな詳細があったのか、残念ながらわからないのですが、運動を続けた人々の努力なしにはなかったことでしょう。



(photo by TC-TORRES )


モントリオールの市議会ではペットの飼い主たちへの教育を討議の中心的なテーマにするとのこと。
また、犯罪歴や動物虐待の履歴がある場合、ペットの飼育を禁止することも検討しているそうです。
現在モントリオール市は、市のウェブサイトでアンケート調査の実施や、市民が提案を書き込むことができるように設定しているそうです。

モントリオール市、良い方向に向かっているようでよかったです。
犬による咬傷事故が怖いという人々にとっても、特定の犬種だけ規制するというのは意味のないことですもんね。ピットブルタイプの犬に咬まれなくても、他の犬種に咬まれたら同じことですから。

モントリオール市のあるケベック州では州議会が特定犬種の規制を希望しているようで、まだまだ安心はできません。けれどもこのモントリオールの特定犬種規制の条例を無効にした実績を持つ人々の熱意と行動を信じたいと思います。

市民による地道な運動や投票が、犬を取り巻く環境を変えた実例のひとつとして知っていただけたら幸いです。


2018/02/20

特定犬種規制法〜規制すべきは誰なのか?

2012年に書いた記事ですね。当時あちこちで大きく取り上げられた北アイルランドのレノックスの話から書き始めています。
アメリカにおいては特定犬種規制法は非常にゆっくりとしたペースで廃止されつつあります。あまりにゆっくり過ぎてほとんどわからないくらいで、社会全体としてはピットブルタイプの犬たちへの偏見も変わっていないなあという気はします。
日本ではまだ特定危険犬種という概念自体を知らない人も多いような印象ですが、それが良いことか悪いことかは私も判断しかねています。
でも犬の飼い主に限らず一般常識として「咬まない犬種というものはない。犬の問題行動を引き起こすのはほとんどの場合は人間の責任」ということは多く知れ渡って欲しいと思います。


(dog actually 2012年8月20日掲載記事より)

(photo by Lexus2D) 『差別ではなく教育を』


1ヶ月程前のことですが、日本のオンラインニュースなどでも取り上げられた、北アイルランドの特定犬種規制法のニュースがありました。レノックスという名のピットブルタイプの犬が規制法に抵触したために飼い主から取り上げられ、殺処分されたというものです。ラブラドール×ブルドッグミックスのレノックスは「見た目がピットブルに似ていた」という理由で殺処分となりました。咬傷事故歴も脱走歴もなく、DNA検査で禁止犬種の血は入っていないことも証明されていたというのに。
私の住むアメリカでも、この件は愛犬家を中心に大きな関心を呼び、特定犬種規制法(Breed Specific Legislation=BSL)に対する反対運動の気運が高まってきています。
アメリカの法律のことをお話する時いつも書いているように、アメリカでは州ごとに定められてる法律が違います。アメリカ全土を共通してカバーする連邦法においては、犬種を規制するための法律は設けられていません。特定犬種の飼育を規制する、又は犬種規制を禁止する法律は各州ごとに州法で定められます。州法に特に定めがない場合、郡や市ごとの条例で犬種規制法が設置されている場合もあります。
アメリカでは現在、コロラド州、フロリダ州、イリノイ州、メイン州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、オクラホマ州、ペンシルバニア州、テキサス州、バージニア州の11州が、それぞれの地方自治体に対し特定犬種規制法を制定することを州法によって禁止しています(コロラド、フロリダ等は地方自治特例により、一部特定犬種の飼育を禁止している自治体もあります)。
カリフォルニア州も特定犬種規制法を制定することを禁じている州ですが、特定の犬種に対して避妊去勢処置を義務づける条例の制定は許可しています。また2012年10月には、マサチューセッツ州で特定犬種規制法を禁止する州法がスタートする予定です。
現在は特定犬種の飼育を禁止する条例を制定している郡や市の中にも、犬種規制法を見直すための住民投票を行ったり、その結果、条例を廃止する自治体も少しずつ増えてきています。犬種で危険度を判断するのではなく、それぞれの犬の行動や飼育環境に焦点を当て、危険かどうかを判断しなくてはいけないという動きがあるのは喜ばしいことです。

規制犬種の定番ピットブルやロットワイラーの他に、ジャーマンシェパードやドーベルマンが規制対象となっていることも少なくない。見た目が似ているということだけで飼育が禁止され連行されて殺処分されてしまうような自治体であれば、我が家の犬だって十分に対象になり得るのだ(実際この体重13kgの犬がドーベルマン雑種ということで、うちの家の保険料は割り増しになっている)。生まれた場所がLAだったから良かったものの、ひとごととは思えなくて特定犬種規制法には本当に胸が痛む。規制犬種は他にアメリカンブルドッグ、マスティフ、ダルメシアン、チャウチャウ、秋田犬、これらの雑種が含まれることもある。
アメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)でも、特定犬種規制法が役に立たず無駄であるだけでなく、却って公共の安全を脅かすものであるとアナウンスを続けています。
ASPCAがあげる特定犬種規制法の問題点は
  • 規制犬種を飼育している飼い主が、犬を人目につかないようにするため屋外に連れ出さず、犬の登録やマイクロチップの処置もせず、必要な医療措置さえも避けるようになり、結果としてストレスを溜めた犬は公共の安全と犬自身の健康の両方にとって危険なものとなる。
  • 特定の犬種を規制した場合、ほとんどの場合犠牲になるのは責任を持って犬を飼育している飼い主と、攻撃性も事故歴もない無実の犬である。飼い主は法的な闘いのために精神面と経済面で多大な負担を強いられ、最悪の場合は犬の命も奪われる。
  • 犬種を規制することにのみ公共の資源(人手や税金)が使われ、本当に規制されるべきことがおろそかになって公共の安全を脅かす。犬の登録、リードの着用、闘犬の禁止、つなぎ飼いの禁止、避妊去勢処置の徹底、これらは犬種の規制よりもずっと大切で効果的な安全措置である。
  • 特定の犬種を禁止することで、かえってその犬種に価値を見出す無責任な人間を喜ばせることとなる。禁止犬種のアウトローなイメージを自分達に重ね合わせたギャングメンバーの間でピットブルの飼育が増えたのが、格好の例である。
犬の咬傷死亡事故の件数などを管理しているアメリカ疾病予防管理センター(United States Centers for Disease Control=CDC)は、咬傷事故と犬種を関連づけることに意味を見出さず、かえって規制犬種以外の犬による咬傷事故を招きやすくする可能性を指摘しています。このことからCDCは犬種規制法を支持しないとの決定を下しています。
CDCでは、咬傷事故に関して犬種よりも顕著ないくつかの傾向も示しており、その中でも特に目につくのは避妊去勢処置の有無、社会化とトレーニングの有無であるとしています。
具体的には
  • 咬傷事故の70%以上は未去勢の雄犬によるものである。
  • 未去勢雄犬の咬傷事故件数は去勢済み雄犬の2.6倍にのぼる。
  • つなぎ飼いの犬による咬傷事故件数は、つながれていない犬の2.8倍にのぼる。
  • 咬傷死亡事故を起こした犬の97%は避妊去勢処置がされていなかった。
  • 咬傷死亡事故を起こした犬の78%はペットではなく、護衛、闘犬、繁殖などのために飼われていた。
  • 咬傷死亡事故の84%は飼い主の無責任な行動が引き金になっていた。虐待、ネグレクト、監督無しに子供と接触させる、等。
アメリカにおいては、避妊去勢処置は飼い主の責任であるという意識が一般的なので、避妊去勢処置をしていない層と社会化やトレーニングをしていない層が重なる部分が大きいのも上記の数字の一因ではないかと、個人的には考えています。
これらの傾向を見れば、規制すべきは犬ではなくて、飼い主である人間の行動であることがよくわかります。
日本ではいくつかの県で特定の犬種の飼育に関して規制する条例がありますが、その規制自体が「犬の係留義務」「檻、囲い等の障壁の中で飼養」など、上記の咬傷事故を誘発する事例に当てはまるものです。
規制すべきは犬種ではなく、犬の飼育環境やトレーニングのやり方を決める人間の方であると世界中の国で認識されて欲しいと切に願います。それこそが無意味に殺処分される犬をなくし、犬による不幸な事故を減らしていくことにつながると考えます。

2018/02/04

今年はドッグボウル !

(photo by ArtificialOG )

今日はスーパーボウルサンデーで、その名物裏番組パピーボウルの放送日です。パピーボウルはひとつ前の記事で紹介したとおり。

↑の記事でチラッと書いたように今年は例年とはちょっと違うんですよ。

それは何かというと、パピーボウルの前日に『ドッグボウル』が放送されたこと!

ドッグボウルに登場したのは2歳〜15歳(平均年齢7歳)の50匹の成犬たち。11の州の15の保護団体やシェルターから集めらた保護犬たちです。
パピーボウルと同じようにミニチュアのフットボールコートで犬たちが交代で遊ぶ姿が放送されます。

シェルターやレスキューグループにいるパピーは極端な話、特にプッシュしなくても貰い手が見つかります。一匹の子犬を巡って複数の希望者が競い合うことも珍しくありません。

一方で成犬、なかでもシニア犬を希望する人は多くありません。このマイナーなブログを読んでくださっている方の多くはディープなドッグラバーだと思います。そんな読者の皆さんにシニア犬の可愛らしさや、成犬のつきあい易さを説いたところで「釈迦に説法」「何を今さら」ですよね。
けれど世間ではまだまだ「子犬から育てないと懐かない」という子犬信仰も根強いし、成犬を引き取るという発想が全くない人もたくさんいます。

テレビ番組で成犬が遊ぶ姿を放送するというのは、そういう層の人々に「成犬という選択肢もあるんだよ」とアピールする有効な方法です。


これはアニマルプラネットのサイトで紹介されているドッグボウルに出演した犬たち。
この子は13歳のチワワのドスさん。たまらん味わい♪
(image via animalplanet.com )

こちらをクリックするとリンク先に飛んで全員の写真が見ていただけます。
みんないかにも性格の良さそうな可愛い犬たちです。

実は今回番組に出演した50匹の中にはすでに新しい家族が決まっている犬もいます。
なぜなら彼らの役割は、子犬とは違う成犬のおだやかさを多くの人に見てもらうことが優先だからです。各保護施設から厳選されてやって来たエリートたちなんですね。

番組の制作者や司会者も「パピーボウルと違って、やたらに取っ組み合ったりしないし収録がおだやかでスムーズだったよ」と語っています。

もちろん全ての成犬がおだやかで扱いやすいわけではないけれど、年齢を重ねた保護犬の中にはそんな犬がたくさんいること、子犬だけに目を向けていては見つからない宝物があることを知らせるきっかけになればいいなと思います。


そして、この動画はドッグボウルが紹介されたニュース番組。

見るときっと頬がゆるんでニヤニヤしちゃいますので、公共の場では避けることをお勧めします(笑)

2018/02/03

2月と言えばパピーボウル!

2013年に書いた記事です。ここで紹介した『パピーボウル』は相変わらずの人気番組で今年もたくさんの人が楽しみにしています。
2018年の今年はこの番組にもちょっと変化がありましたので、それを紹介する前にこの記事を再掲しておこうと思った次第です。

(以下dog actually 2013年2月14日掲載記事より)

(photo by photography by Tricia)

この時期、アメリカには全国規模で大人気の犬のイベントがあるんです。今回はそのお話を。
アメリカの国民的スポーツと言えばアメリカンフットボール。そのプロリーグNFLの王座決定戦「スーパーボウル」が行われるのが2月上旬の日曜日です。スーパーサンデーと呼ばれて、国をあげてのお祭り騒ぎ。そのスーパーボウルの試合中継の裏番組として、スポーツファン以外の人気を集めているのが「パピーボウル」という番組です。

パピーボウルは、フットボールのコートを模して作られた室内の遊び場で子犬達が遊ぶ姿を延々と3時間近く流し続ける、という番組です。こうして書くとちょっとバカバカしく聞こえますね(笑)。私も初めて見た時には、ちょっと唖然としました。
ただし、この番組は単純に「きゃ~!子犬かわいい~!」と喜ぶだけのものではないのです。出演する子犬達は皆、アメリカ各地のシェルターから連れて来られた、新しい家族を募集中の犬達です。番組中では8週~15週齢の子犬達のプロフィールや、問い合わせ先のシェルターの情報も紹介されます。
本物のスーパーボウルでは、有名ミュージシャンが出演するハーフタイムショーも見どころのひとつですが、こちらパピーボウルでも子猫達によるハーフタイムショーがあります。子猫達は子犬同様に、遊具やおもちゃで遊んでいるだけですが。もちろん、この猫達もシェルターで家族を募集中の子達です。

つまりパピーボウルは全国ネットのテレビで放送される里親募集番組でもあるのです。子犬達が身を寄せているシェルターでは、放送後に訪問者の数が増えることで、番組に出演した以外の他の犬達にもチャンスが増えることになります。また「ここに動物を提供していない全国の多くのシェルターにも可愛い犬や猫はたくさんいるので、近くのシェルターをぜひ訪ねてみて下さい」という啓蒙活動としての一面もあります。
パピーボウルの放送は今年で9回目を迎えたのですが、番組の人気は年々高まっていて、今年は視聴者数の新記録を達成しました。

出演する小犬は毎年60頭前後、犬達は交代制で少しずつの出演となります。撮影は最長でも30分づつに区切って頻繁に休憩タイムを設け、平均3日をかけて少しずつ撮影されます。これは犬達が疲れないようにとの配慮からです。
テレビや映画に出演する動物達の撮影中の安全については、The American Humane Asociation(AHA アメリカ人道協会)が監視を行うと決められています。パピーボウルの撮影も、もちろん例外ではありません。AHAの他に複数の獣医師、さらにそれぞれの子犬の出身シェルターの担当者立ち会いのもと、撮影はあくまで動物本位で進められます。

さて、こちらは2月3日の放送でMVPを獲得したシュナウザー×ビーグルミックスのマルタの紹介ビデオです。

もっと他の犬達も見たいという方は、こちらの番組サイトでどうぞ→ Animal Planet Puppy Bowl Ⅸ
お遊び感覚で可愛い犬達を見ながら、自然とシェルターにいる動物達へと意識が向かうようにする。こんな楽しい啓蒙活動があるのもいいですよね。