2020/09/16

犬や猫の避妊去勢は社会の問題でもある

 この記事の前にカリフォルニア大学デイビス校が発表した犬種ごとの避妊去勢手術と特定の疾患の関連及び手術のガイドラインの研究について6回に分けて書きました。

言うまでもなく、当該の犬種と暮らしている方やこれから迎えようと考えている方にとっては貴重な情報です。
そして「うちの犬は雑種だからどう考えたら良いか分からない」と思う方がいても当然で、雑種犬の体重別のガイドラインというのもありがたい情報だと思います。

けれど、特に最後の雑種犬の体重別ガイドラインをまとめながらどうしても引っかかると言うか、うっすらとわだかまる感じが離れずにいました。

そのわだかまりの理由ははっきりと分かっています。
雑種犬と言えば、その大半を占めるのは保護犬です。アメリカにおいて保護犬と避妊去勢手術は切っても切れないものですから「体重20kg以上の犬の避妊去勢手術は生後1年を過ぎてから」とタイプしながら、そんなこと言われても無理なものは無理じゃないさと悪態をついたりしていたのでした😓
避妊去勢手術をしなければ譲渡ができない保護犬の手術を1年や2年待っていたら、公営シェルターなら飼育する場所がなくなって殺処分になるかもしれない。預かりボランティアの家で保護されている場合、1年も2年も預かっている間のその家庭は他の犬を預かれない。預かり先を確保できないと殺処分になる犬が出る可能性もある。
保護犬の避妊去勢手術を年単位で保留することは、あっという間に犬たちの命を脅かすことにつながります。

                                             Image by 41330 from Pixabay 


殺処分を減らすために尽力して来た先人たち

うちの2匹の犬たちが保護犬であるため、思い入れがあるのも確かですが、ほぼ10年に渡って犬の記事を書くうちに読んだり、時にはお目にかかったりして来た、犬猫の殺処分を減らすために尽力されて来た方々の功績が頭に浮かんだということもあります。

70年代初頭、ロサンゼルス市は1960年に統計を取り始めて以来最高に達する数の犬猫の殺処分を行いました。その数は1年で11万頭以上。
ロサンゼルス市はアメリカで初めて公共サービスとして低価格の犬猫避妊去勢手術を提供し始めました。

公共サービスだけでなく、のちにアメリカの犬猫避妊去勢手術の師匠とも言える存在となったW.マーヴィン・マッキー獣医師が低価格の避妊去勢専門クリニックをオープンしたのが70年代中頃でした。
マッキー獣医師は1頭でも多くの動物を手術できるよう簡便でスピーディーな手術法を考案し、その方法を録画したDVDを世界中の動物保護施設に無料で配布しました。
日本を代表する動物保護団体であるアニマルレフュージ関西にもDVDが配布され、2012年に見学に伺った際にエリザベス・オリバーさんからそのコピーを頂いたのが、私がマッキー獣医師のことを知ったきっかけでした。

マッキー獣医師は早期の手術を推奨してこられました。21世紀の現在の獣医学では、それは必ずしも正しいとは言えないようです。
しかし1971年に年間11万頭以上の犬猫が殺処分されていたロサンゼルス市では、マッキー獣医師をはじめとする先人たちの努力によって2019年の殺処分数は年間3200頭を下回っています。LAの公営シェルターに連れてこられた犬猫の約90%は生きてシェルターを出て譲渡、預かり、返還されています。

新しい研究結果にはもちろん敬意を表し尊重したいと思います。しかし先人の辿ってこられた軌跡もまた敬意を持って憶えておきたいと思うんですよ。

ちなみに猫に関しては、現在も6ヶ月齢以前の避妊去勢手術が重要であると考えられています。犬と違って猫は生後6ヶ月ですでに妊娠出産する能力があるからです。

マッキー獣医師については以前にdog actuallyで詳しく書いた記事があります。


なぜ代替方法に言及しない?

以前にアレクサンドラ・ホロウィッツ博士が犬の避妊去勢手術について待ったをかけるコラムを発表した時に「大事なのはするかしないかだけじゃないんだよ」という記事を書いたことがあります。

性ホルモンの分泌を残したまま生殖能力だけを取り除く医療処置はいくつかあります。
(以前に書いた内容は少しアップデートが必要になっているので、また改めて紹介します)
UCデイビス校は、従来の避妊去勢手術による疾患の可能性をこれだけ述べているのに、なぜそのような代替の方法について言及しないんだろう?
これが私がわだかまりを感じていたもう1つの理由です。

それが論文の直接のテーマでないことは承知していますが、「保護犬は法律で手術が義務付けられていることもあり」という記述はあるのに、代替方法については何もない。

従来の方法が健康を害する可能性があるというなら、代わりの方法がありますよくらいのことは教えてくれても良さそうなものなのにねえ。


最後に

何度も同じことを書いていますが、犬や猫の避妊去勢は社会の問題でもあるという側面があります。
アメリカでも避妊去勢手術と疾患の関連が発表されて以来、犬猫の過剰頭数問題に取り組んで来た人たちと、医療関係者の間で議論が続いています。

アメリカでは多くの州で個人の自家繁殖を制限する法律があり、そのためにごく普通の一般家庭で飼い犬に子供を産ませることはほとんどありません。一般家庭でそんなことをするのはホビーブリーダーと呼ばれる犬種保存のために真剣に取り組んでいる人か(もちろん許可証を取っている)、全く反対に規制なんて気にも留めずに小銭を稼ぐために自家繁殖をするバックヤードブリーダーというちょっとまずい人々です。
(州法や条例が緩い所もあるので、悪びれずにアクシデントの繁殖を繰り返すような“普通の人々”もいるにはいる)

一方、日本ではペットの自家繁殖に何の制限もありません。そんな状態で「避妊去勢手術は健康に影響が出る」という情報が中途半端に蔓延すると、どうなるだろうか?😨


だから私は微力ながらも、避妊去勢手術と疾患の関連について書いた時には、このようにくどいくどい注釈を毎度毎度付け足しています。



《参考URL》



2020/09/14

UCデイビス校獣医学部によるミックス犬体重別避妊去勢手術ガイドライン

カリフォルニア大学デイビス校獣医学部が、35の犬種について避妊去勢手術と関節障害やガンのリスク増加の関連、それに伴う手術のガイドラインを発表したことをお伝えして来ました。
UCデイビス校獣医学部による35犬種の避妊去勢手術ガイドライン

研究チームは35犬種に続いてミックス犬の避妊去勢と疾患の関連、それに伴って避妊去勢手術の体重別ガイドラインも発表しました。
以前の犬種別の論文で使用されたのと同じデータベースを使用して、体重を5段階に分けたミックス犬のデータ分析が行われました。

調査の対象となったのは、関節障害では股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全の3種類、ガンではリンパ腫、肥満細胞腫、血管肉腫、骨肉腫の4種類です。
他にメス犬の乳腺腫瘍(早期避妊によって発病率が低下すると言われている)、子宮蓄膿症(避妊手術によって完全に予防できる)、尿失禁(避妊手術の影響で発症することがある)についても調査されていますが、これらについては実際に発病が増加する10歳以降のデータはほとんど含まれていない点は注意が必要です。
以上の条件は全て、純血種35種のガイドラインと共通するものです。

体重のカテゴリーは、10kg未満、10kg以上20kg未満、20kg以上30kg未満、30kg以上40kg未満、40kg以上の5段階でした。順を追って調査結果を記していきます。



体重10kg未満



研究対象となったのは計739頭。内訳は、未去勢オス152頭、去勢済みオス201頭、未避妊メス148頭、避妊済みメス238頭。

関節障害は未去勢オスで1例、未避妊メスの5%で報告されているが、オスメス共に避妊去勢によるリスクの増加は見られませんでした。
ガンは未去勢オスで7%、未避妊メスで2%、オスメス共に避妊去勢によるリスク増加は見られませんでした。

未避妊の6%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの5%が乳腺腫瘍と診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の3%で診断されました。尿失禁はありませんでした。  

純血種の多くの小型犬と同じく、10kg未満のミックス犬では避妊去勢手術による関節障害およびガンのリスク増加の関連は見られませんでした。
避妊去勢手術をする場合はかかりつけの獣医師と相談の上で決定することが大切です。


体重10kg以上20kg未満


研究対象となったのは計546頭。内訳は、未去勢オス94頭、去勢済みオス114頭、未避妊メス90頭、避妊済みメス248頭。

関節障害は未去勢オスと去勢済みオスに各1例ずつ、未避妊のメスでは5%で確認されましたが、避妊去勢手術によるリスクの増加はありませんでした。
ガンは未去勢オスでは7%、未避妊メスでは2%で確認され、やはり手術によるリスクの増加は見られませんでした。

未避妊の7%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの4%が乳腺腫瘍と診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の5%で診断されました。尿失禁は6ヶ月齢〜1歳の期間に避妊手術をしたメスの4〜6%で確認されました。  
10kg未満のグループと同じく、避妊去勢手術と関節障害およびガンのリスク増加の関連は見られませんでした。
避妊去勢手術をする場合はかかりつけの獣医師と相談の上で決定することが大切です。


体重20kg以上30kg未満



研究対象となったのは計992頭。内訳は、未去勢オス154頭、去勢済みオス257頭、未避妊メス129頭、避妊済みメス452頭。
このグループは避妊去勢と疾患の関連についての研究のきっかけとなったゴールデンレトリーバー 、ラブラドール、Gシェパードなどの犬のサイズカテゴリーです。

関節障害は未去勢オスでは3%、去勢時に6ヶ月齢未満と6ヶ月齢〜1歳未満ではどちらも5%に上昇しました。未避妊のメスでは4%で、避妊手術時6ヶ月齢未満では10%、6ヶ月齢〜1歳未満では12%と大幅に上昇しました。
オスメス共に1歳を超えてからの手術では関節障害の発病は増加しませんでした。
ガンは未去勢オス未避妊メス共に3%で確認されたが、手術によるリスクの増加は見られませんでした。

乳腺腫瘍は未避妊の4%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの2%が診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の5%で診断されました。尿失禁は1歳未満で避妊手術をしたメスの3%で確認されました。  
推奨されるガイドラインは、関節障害のリスク増加の点からオスメス共に1歳以降に手術をすることとしています。


体重30kg以上40kg未満


研究対象となったのは計604頭。内訳は、未去勢オス176頭、去勢済みオス196頭、未避妊メス57頭、避妊済みメス175頭’。

関節障害は未去勢オスでは8%で、6ヶ月齢未満の去勢では17%に、6ヶ月齢〜1歳未満では11%と増加リスクが上昇している。未避妊のメスでは関節障害の例は0だったが、6ヶ月齢未満の避妊手術では10%、6ヶ月齢〜1歳未満では23%と大幅に増加しました。
ガンは未去勢オスの発生率は15%で、有意とまでは言えないものの去勢されたグループよりも高かった。未避妊メスでは13%で確認され、やはり避妊済みのグループよりも有意とまでは言えないものの高かった

乳腺腫瘍は未避妊の2%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの4%が診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の7%で診断されました。尿失禁は6ヶ月齢未満で避妊手術をしたうちの9%で診断されました。  

推奨されるガイドラインは、関節障害のリスク増加の点からオスメスともに1歳以降に手術をすることで、これはメスの尿失禁のリスク回避にもなります。



体重40kg以上


研究対象となったのは計258匹。内訳は、未去勢オス88匹、去勢済みオス107匹、未避妊メス17匹、避妊済みメス46匹。

関節障害は未去勢オスでは9%で、6ヶ月齢未満の去勢では28%に、6ヶ月齢〜1歳未満では11%、1歳での手術でもなお11%と増加リスクが上昇している。未避妊のメスでは関節障害の例は17%で避妊手術による増加は見られませんでした
ガンは未去勢オスの発生率は10%、未避妊メスでは6%で確認され、避妊去勢手術による増加は見られませんでした

乳腺腫瘍の発生は確認されず、子宮蓄膿症は未避妊の16%で診断されました。(ただし、どちらもこの体重カテゴリーの未  避妊メスのサンプル数の少なさは考慮する必要があります)尿失禁は6ヶ月齢未満で避妊手術をしたうちの9%で診断されました。  

推奨されるガイドラインは、関節障害のリスク増加の点からオスでは2歳以降の手術を、メスでは関節障害の増加は見られませんが超大型犬は筋骨格の成長スピードが遅いことから手術をする場合は1歳以降を推奨します。


ガイドラインまとめ

それぞれの体重別のガイドラインは以上です。
このリサーチの主要な発見の1つはミックスまたは雑種と呼ばれる犬であっても、体重と避妊去勢と関節障害のリスク増加に関連性が見られたことです。

体重20kgを境にして、これを越えると早期の避妊去勢手術によって関節障害が発病するリスクが高くなっています。
体重20kg未満の犬では避妊去勢による関節障害リスクの増加は見られません。

ガンに関しては全ての体重カテゴリーで避妊去勢手術との明確な関連はありませんでした。これはミックス犬が持つ様々な犬種の多様性が、特定の犬種固有の対ガンの脆弱性を薄めていると言えそうです。

ミックス犬または雑種犬と避妊去勢手術というテーマで、最も大きな問題はその多くが保護犬であるという点でしょう。
アメリカの多くの州では、レスキューグループや保護施設が犬を譲渡する際には避妊去勢手術済みであることが法律で義務付けられています。そのような場合は「手術は1歳過ぎてからにしましょう」というような選択肢はありません。
かと言って、このようなガイドラインが無駄だというわけではありません。
成犬になった時の体重が20kgを越える犬は、関節障害のリスクが最大で20%程度高くなることを考えて、体重過多にならないよう管理をしっかりする、適切な運動で筋肉を保つ、定期的な健康診断を欠かさないなど対策をとっておきましょう。

犬の関節障害に関しては犬種ごとの遺伝子研究が多く行われています。まだ疾患に関連する遺伝子の特定はできていませんが、遺伝子座(遺伝子の位置)までは判ってきています。(ものすごくザックリ言いますと「これだ」と特定はできないが「だいたいこの辺りの遺伝子」という目星は付いているという状態です。)
股関節形成不全や前十字靭帯断裂などの遺伝子検査ができるようになれば、無駄に不安を抱える必要が無くなりますね。
イギリスでは関節障害のある犬を徹底して繁殖から外すよう管理した結果、ラブラドールやロットワイラー、ジャーマンシェパードなどの健全性が高くなっているという報告もあります。
避妊去勢手術は確かにリスク要因になり得ますが、遺伝的要因という最大のリスク要因があるということは多くの飼い主さんに知っておいていただきたい点です。


最後に

上にも書いた通り、保護犬にとって避妊去勢手術は避けて通れない道です。
この点については次の記事で、ロサンゼルス市が辿って来た歴史、殺処分率を下げるために奮闘して来られた獣医師について書きたいと思います。

それにしてもカリフォルニア大学デイビス校獣医学部はアメリカの獣医学教育のトップレベルだと思うのですが、なぜ従来の避妊去勢手術のリスクを挙げるばかりで精管結紮や卵管結紮(または卵巣温存)などの代替手段に全く言及しないんでしょうね😒




2020/09/02

35犬種の避妊去勢手術ガイドライン5 犬種別P〜Y

カリフォルニア大学デイビス校が発表した犬種別の避妊去勢時期のガイドラインにおいて、リストアップされた35犬種最後のグループP~Yで始まる犬種の具体的な数字です。

毎回書いていますが、統計の中で「ガン」と示されているのは血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、リンパ腫のどれかを指します。
関節障害については、股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全のどれかです。
上記のガンと関節障害の他に、乳腺腫瘍(2歳以前の避妊手術で予防効果が高いと言われる)、子宮蓄膿症(避妊手術で完全に予防できる)、尿失禁(避妊手術後に発症する場合がある)についても触れられています。ただしこれらの疾患は10歳以降に顕著に増加するのですが、このデータでは10歳以上の犬がほとんど含まれていないため、データとして限界があると研究者自身が述べています。

また各ガイドライン内で挙げられている疾患の発病率は、この研究対象集団(カリフォルニア大学デイビス校大学病院で診断された犬たち)の中での比率で、犬種全体の疾患の発病率ではないことにご注意ください。


ポメラニアン

Image by Sophia Nel from Pixabay 

研究対象となったのは計322頭。内訳は未去勢オス84頭、去勢済みオス69頭、未避妊メス65頭、避妊済みメス104頭
  • 避妊去勢の有無に関わらず、関節障害の発病は見られなかった
  • ガンに関しても避妊去勢によるリスク増加は見られなかった
  • 未避妊メスで乳腺腫瘍が1例、子宮蓄膿症は7%に見られた
  • 尿失禁の発生は見られなかった
  • 推奨ガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られないため、避妊去勢手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること

プードル(トイ)

Image by Satoshi Kawaguchi from Pixabay 

なんと!アメリカンケネルクラブではトイ、ミニチュア、スタンダードの3つのプードルを全部同じ一つの犬種として登録しているそうです。
しかしこのガイドラインにおいて、小型犬のトイプードルと大型犬のスタンダードプードルを一緒にすることはデータの有効性の上からも疑問なので3種のプードルは個別に扱われています。

研究対象となったのは計238頭。未去勢オス49頭、去勢済みオス53頭、未避妊メス58頭、避妊済みメス78頭

  • 関節障害は未去勢のオスで4%に、未避妊のメスでは0で、避妊去勢手術によるリスクの明らかな増加は見られなかった
  • ガンは未去勢のオスで2%に、未避妊のメスでは0、手術済みのオスメス共にガンの発病は見られなかった
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍は1例のみ、子宮蓄膿症と尿失禁はどちらも0だった
  • 推奨ガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られないため、避妊去勢手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※下のミニチュアプードルの項目もご覧ください


プードル(ミニチュア)

Image by Petra Šolajová from Pixabay

日本ではあまり見かけませんが、アメリカでは小さい方のプードルと言えばトイよりもミニチュアの方が多いように思います。
ミニチュアプードルは体高28〜35cm、体重5.4〜9kgくらいとされているので、小型犬と中型犬のギリギリ境界線で小型犬という感じでしょうか。

研究対象となったのは計200頭。内訳は未去勢オス41頭、去勢済みオス60頭、未避妊メス30頭、避妊済みメス69頭

  • オスメス共に避妊去勢していないグループでは関節障害の発病は0だったが1歳未満で去勢されたオスでは前十字靭帯断裂の発病が9%と有意な増加を見せた。避妊済みメスでは関節障害の発病は無かった
  • 未去勢オスのガンの発病率は5%、未避妊メスでは0。避妊去勢済みのガン発病リスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍は2〜8歳の間に避妊手術をしたメスで1例のみ、子宮蓄膿症は未避妊メスの6%で確認、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊手術で1例
  • 推奨ガイドラインは、1歳未満での去勢手術に伴って関節障害の有意な増加が見られたため去勢手術は1歳以降を推奨メスでは避妊手術との関連は見られないため、手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※ミニチュアプードルで報告された前十字靭帯断裂ですが、アメリカでは一般的に大型犬または超大型犬の疾患と考えられています。しかし日本ではトイプードルの前十字靭帯断裂はとても一般的なものだとされているので、トイプードルを飼っている方はこの点にご注意ください。
前十字靭帯断裂は遺伝的要因の強い疾患であることが判っていますので、日本においてトイプードルが長期的に超人気犬種であるがゆえの乱繁殖と、疾患の多発は無関係ではないと思われます。


プードル(スタンダード)

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研究対象となったのは計275頭。内訳は未去勢オス47頭、去勢済みオス88頭、未避妊メス53頭、避妊済みメス87頭

  • 未去勢オス、未避妊メス共に2%に関節障害が発病していた。6ヶ月齢未満での去勢では関節障害の増加はあったが“有意”のラインである8%には達しなかった。避妊済みメスでは関節障害の発病は0だった
  • 未去勢オスのガンの発病率は4%、未避妊メスでは2%。1歳時に去勢したオスではガンの発病率が27%に増加し、それらは全てリンパ腫だった。避妊済みのメスではガンの有意な増加は見られなかった。
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍の発病は4%、子宮蓄膿症は2%、尿失禁は2歳以降で避妊手術をした1例のみ
  • 推奨されるガイドラインは、去勢に伴うリンパ腫の増加に基づいて、オスの去勢手術は2歳以降を推奨。メスでは避妊手術との関連は見られないため、手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること


パグ

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研究対象となったのは計383頭。内訳は未去勢オス96頭、去勢済みオス106頭、未避妊メス63頭、避妊済みメス118頭

  • 避妊去勢手術による関節障害発病リスクの増加は見られなかった
  • 未去勢オスのガンの発病率は6%、未避妊メスでは8%で、避妊去勢によるガンのリスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍の症例は0で、子宮蓄膿症は未避妊メスの5%に発病、尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られなかったため、手術を希望する場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※パグの場合はこの研究対象となっている関節障害とは違いますが、骨格または神経障害から来ると考えられる歩行障害が3匹に1匹という高い割合で見られるという研究も発表されています。その他にも健康上の問題の多い犬種であることは認識しておく必要があります。


ロットワイラー

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ロットワイラーも、ジャーマンシェパードやラブラドールと並んで関節障害が多い犬の定番としてその名が上がります。

研究対象となったのは計849頭。内訳は未去勢オス315頭、去勢済みオス152頭、未避妊メス143頭、避妊済みメス239頭

  • 関節障害は未去勢オスで8%、未避妊メスで16%と既に高い割合で発病しているオス6ヶ月齢未満での去勢では10%、6ヶ月〜1歳未満での去勢では22%と有意に増加していた。メスではさらに顕著で、6ヶ月齢未満の避妊手術では43%の発病率となった。関節障害の主なものは前十字靭帯断裂だった
  • ガンは未去勢のオスで16%、未避妊のメスで11%と比較的高い発病率を示しているが、避妊去勢手術による増加は見られなかった
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍は8%、2〜8歳で避妊手術で5%の発病率を示した。未避妊メスの子宮蓄膿症は12%、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊で4%、6ヶ月〜1歳未満の避妊手術では6%だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは1歳未満の去勢手術による関節障害リスクのため1歳以降の手術、メスでは同じく関節障害リスクのため6ヶ月齢以降を推奨(乳腺腫瘍、子宮蓄膿症も比較的高い数字であることを考慮しても良さそうです。)

セントバーナード

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セントバーナードも超大型犬種として研究対象に選ばれましたが、サンプル数は少なく、研究対象となったのは計94頭、未去勢オス26頭、去勢済みオス27頭、未避妊メス18頭、避妊済みメス23頭

  • 関節障害は未去勢オスで8%、未避妊メスで6%。オスでは去勢手術による関節障害のリスク増加は見られなかったが、6ヶ月齢未満での避妊手術をしたメスでは関節障害は100%発病していた(100%という数字はサンプル数の少なさによるところが大きい。具体的には避妊済みメス23頭のうち、6ヶ月齢未満で手術を受けたのは4頭。)
  • ガンは未去勢オスで4%、未避妊メスで11%だが、避妊去勢による顕著な増加はなかった
  • 乳腺腫瘍の発生は0で、子宮蓄膿症は15%、尿失禁は0だった(子宮蓄膿症に関しては15%という数字は高めに見えるが、サンプル数が少ないため実際には3例です。)
  • 推奨されるガイドラインは、オスではガンや関節障害と去勢の関連は見られず、メスでは6ヶ月齢未満で関節障害のリスクが高くなっているが、超大型犬は骨格や筋肉の発達がゆっくりなので、オスメス共に1歳以降が望ましい

シェトランドシープドッグ

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研究対象となったのは計133頭。内訳は未去勢オス31頭、去勢済みオス30頭、未避妊メス20頭、避妊済みメス52頭

  • 関節障害は未去勢オスでは0、未避妊メスで1例、去勢済みオスでは6ヶ月齢未満での手術の1例、避妊済みメスでは0
  • ガンは未去勢オスでは6%、未避妊メスでは0。避妊去勢手術によるリスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍の発病は0、子宮蓄膿症は14%で確認、尿失禁は1歳時の避妊手術では33%で発病していた(この犬種も研究対象となったサンプル数が少ないことは考慮に入れておいた方が良いと思います。)
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは関節障害やがんの顕著な増加は見られないため獣医師と相談の上で適切な時期を決定、メスでは尿失禁を回避するために2歳以降の手術を検討

シーズー

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小型犬の中では例外的に避妊手術の影響が認められた犬種です。
研究対象となったのは計432頭。内訳は未去勢オス104頭、去勢済みオス112頭、未避妊メス77頭、避妊済みメス139頭


  • 避妊去勢の有無、性別に関わらず、関節障害の発病は無かった
  • ガンは未去勢オス、未避妊メス、去勢済みオスでは0。6ヶ月例〜1歳未満で手術をしたメスでは7%、1歳時の避妊手術では18%に達した
  • 乳腺腫瘍は未避妊メスの3%、子宮蓄膿症は5%、尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは獣医師と相談の上で適切な時期を決定。メスではガンリスクの増加を受けて、2歳以降または6ヶ月齢に達する1〜2ヶ月前の避妊手術を推奨

ウエストハイランドホワイトテリア

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研究対象となったのは計142頭。内訳は未去勢オス35頭、去勢済みオス33頭、未避妊メス28頭、避妊済みメス46頭

  • 未去勢オスで1例の関節障害が確認されたが、去勢済みオス、未避妊メス、避妊済みメスのいずれも関節障害の発病は0だった
  • ガンもいずれのグループも発病が確認されなかった
  • 乳腺腫瘍の発生は0、子宮蓄膿症は未避妊メスの7%、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊では14%、6ヶ月齢〜1歳未満の手術では6%で見られた
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは獣医師と相談の上で適切な時期を決定。メスでは尿失禁のリスクを回避するため1歳以降の避妊手術を検討


ヨークシャーテリア

Image by Alois Grundner from Pixabay 

研究対象となったのは計685頭。内訳は未去勢オス134頭、去勢済みオス178頭、未避妊メス144頭、避妊済みメス229頭

  • 関節障害は未処置のオスメスで1%、避妊去勢手術による顕著な増加はなかった
  • ガンについても未処置のオスメスで1%、避妊去勢手術による顕著な増加はなかった
  • 乳腺腫瘍は未避妊メスで1%、2〜8歳時の避妊手術で1%。子宮蓄膿症は7%で確認。尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、関節障害やガンと避妊去勢手術の関連が見られないので獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること

35犬種のガイドラインとしてリストアップされた犬種は以上です。
この後引き続き同研究者チームによる、ミックス犬体重別避妊去勢のガイドラインをアップして行きます。





《参考URL》

Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full