言うまでもなく、当該の犬種と暮らしている方やこれから迎えようと考えている方にとっては貴重な情報です。
そして「うちの犬は雑種だからどう考えたら良いか分からない」と思う方がいても当然で、雑種犬の体重別のガイドラインというのもありがたい情報だと思います。
けれど、特に最後の雑種犬の体重別ガイドラインをまとめながらどうしても引っかかると言うか、うっすらとわだかまる感じが離れずにいました。
そのわだかまりの理由ははっきりと分かっています。
雑種犬と言えば、その大半を占めるのは保護犬です。アメリカにおいて保護犬と避妊去勢手術は切っても切れないものですから「体重20kg以上の犬の避妊去勢手術は生後1年を過ぎてから」とタイプしながら、そんなこと言われても無理なものは無理じゃないさと悪態をついたりしていたのでした😓
避妊去勢手術をしなければ譲渡ができない保護犬の手術を1年や2年待っていたら、公営シェルターなら飼育する場所がなくなって殺処分になるかもしれない。預かりボランティアの家で保護されている場合、1年も2年も預かっている間のその家庭は他の犬を預かれない。預かり先を確保できないと殺処分になる犬が出る可能性もある。
保護犬の避妊去勢手術を年単位で保留することは、あっという間に犬たちの命を脅かすことにつながります。
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殺処分を減らすために尽力して来た先人たち
うちの2匹の犬たちが保護犬であるため、思い入れがあるのも確かですが、ほぼ10年に渡って犬の記事を書くうちに読んだり、時にはお目にかかったりして来た、犬猫の殺処分を減らすために尽力されて来た方々の功績が頭に浮かんだということもあります。
70年代初頭、ロサンゼルス市は1960年に統計を取り始めて以来最高に達する数の犬猫の殺処分を行いました。その数は1年で11万頭以上。
ロサンゼルス市はアメリカで初めて公共サービスとして低価格の犬猫避妊去勢手術を提供し始めました。
公共サービスだけでなく、のちにアメリカの犬猫避妊去勢手術の師匠とも言える存在となったW.マーヴィン・マッキー獣医師が低価格の避妊去勢専門クリニックをオープンしたのが70年代中頃でした。
マッキー獣医師は1頭でも多くの動物を手術できるよう簡便でスピーディーな手術法を考案し、その方法を録画したDVDを世界中の動物保護施設に無料で配布しました。
日本を代表する動物保護団体であるアニマルレフュージ関西にもDVDが配布され、2012年に見学に伺った際にエリザベス・オリバーさんからそのコピーを頂いたのが、私がマッキー獣医師のことを知ったきっかけでした。
マッキー獣医師は早期の手術を推奨してこられました。21世紀の現在の獣医学では、それは必ずしも正しいとは言えないようです。
しかし1971年に年間11万頭以上の犬猫が殺処分されていたロサンゼルス市では、マッキー獣医師をはじめとする先人たちの努力によって2019年の殺処分数は年間3200頭を下回っています。LAの公営シェルターに連れてこられた犬猫の約90%は生きてシェルターを出て譲渡、預かり、返還されています。
新しい研究結果にはもちろん敬意を表し尊重したいと思います。しかし先人の辿ってこられた軌跡もまた敬意を持って憶えておきたいと思うんですよ。
ちなみに猫に関しては、現在も6ヶ月齢以前の避妊去勢手術が重要であると考えられています。犬と違って猫は生後6ヶ月ですでに妊娠出産する能力があるからです。
マッキー獣医師については以前にdog actuallyで詳しく書いた記事があります。
なぜ代替方法に言及しない?
以前にアレクサンドラ・ホロウィッツ博士が犬の避妊去勢手術について待ったをかけるコラムを発表した時に「大事なのはするかしないかだけじゃないんだよ」という記事を書いたことがあります。
性ホルモンの分泌を残したまま生殖能力だけを取り除く医療処置はいくつかあります。
(以前に書いた内容は少しアップデートが必要になっているので、また改めて紹介します)
UCデイビス校は、従来の避妊去勢手術による疾患の可能性をこれだけ述べているのに、なぜそのような代替の方法について言及しないんだろう?
これが私がわだかまりを感じていたもう1つの理由です。
それが論文の直接のテーマでないことは承知していますが、「保護犬は法律で手術が義務付けられていることもあり」という記述はあるのに、代替方法については何もない。
従来の方法が健康を害する可能性があるというなら、代わりの方法がありますよくらいのことは教えてくれても良さそうなものなのにねえ。
最後に
何度も同じことを書いていますが、犬や猫の避妊去勢は社会の問題でもあるという側面があります。
アメリカでも避妊去勢手術と疾患の関連が発表されて以来、犬猫の過剰頭数問題に取り組んで来た人たちと、医療関係者の間で議論が続いています。
アメリカでは多くの州で個人の自家繁殖を制限する法律があり、そのためにごく普通の一般家庭で飼い犬に子供を産ませることはほとんどありません。一般家庭でそんなことをするのはホビーブリーダーと呼ばれる犬種保存のために真剣に取り組んでいる人か(もちろん許可証を取っている)、全く反対に規制なんて気にも留めずに小銭を稼ぐために自家繁殖をするバックヤードブリーダーというちょっとまずい人々です。
(州法や条例が緩い所もあるので、悪びれずにアクシデントの繁殖を繰り返すような“普通の人々”もいるにはいる)
一方、日本ではペットの自家繁殖に何の制限もありません。そんな状態で「避妊去勢手術は健康に影響が出る」という情報が中途半端に蔓延すると、どうなるだろうか?😨
だから私は微力ながらも、避妊去勢手術と疾患の関連について書いた時には、このようにくどいくどい注釈を毎度毎度付け足しています。
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