2017/05/28

 純血の雑種犬ジェニー

友人の愛犬ジェニーのことを書いた懐かしい記事。
ジェニーの飼い主のジョージさんは正確には友人のパートナーだった人なんです。この記事から数年後に二人はお別れしてしまって、私たちはジョージさんに会うことがなくなってしまいました。
だからジェニーにも会う機会はもうないので、余計に感慨深い記事でもあります。
愛すべき犬バカでジェニーを溺愛しているジョージさんなので、今もきっと一人と一匹は幸せでいることと思います、

(以下はdog actually 2011年8月1日掲載記事より) 

赤茶色のコート、中型サイズ、黒っぽい鼻先のジェニーは、どこからどう見ても由緒正しき立派な雑種犬です。1年半前、シェルターから彼女を引き取った飼い主のジョージさんは、彼女のことを愛情を込めて「Pure Breed Mutt=純血の雑種犬と呼んでいます。 ジェニーを引き取った直後、ジョージさんは彼女のDNA分析のテストを受けてみることにしました。方法は簡単。ペット用品店やペット関連の通信販売サイトなどで検査キットを購入して、綿棒で頬の内側の粘膜を拭って、専用のケースに入れて郵送するだけ。しばらくするとラボから検査結果が立派な証明書になって送り返されて来ます。 さて、ジェニーの検査結果は思わず笑ってしまうほど「純血の雑種犬」の名に相応しいものでした。
これがその結果。
いかがですか?ペキニーズ、シーズー、ラブラドール、ニューファンドランド、ロットワイラー、チワワ、イングリッシュスプリンガースパニエル、堂々たるミックスぶり!
ジョージさんがシェルターに足を運んだ時、ジェニーのようなタイプを連れて帰って来るとは予想をしていませんでした。ジェニーの先代のブラックラブラドールを深く愛していた彼は「できればラブラドールを」と希望しており、シェルターのスタッフは彼に何頭かのラブラドールミックスと称される犬を紹介しました。「アメリカの雑種犬、その血統ランキングは?」の記事にもあった通り、アメリカでよく見かけるのはラブラドールミックスとジャーマンシェパードミックス。シェルターでも最もよく目にするのが、この2犬種の名前です。連れて来られた犬の中の一頭ジェニーを見て、ジョージさんは正直がっかりしたと言います。
「これはラブラドールじゃないよ。」確かにジェニーの姿を見てラブラドールを連想するのはちょっと難しい。 しかもその頃のジェニーは体高40cmほどの中型犬だというのに体重が23kgもあったのです。 
これがジョージさんの家に来たばかりの頃のジェニー。
しかしシェルターのスタッフからジェニーのストーリーを聞かされたジョージさんは、この犬を連れて帰らずにはいられなくなりました。
ジョージさんはジェニーにとって3番目の飼い主になります。何があったのかはわかりませんが、最初の飼い主はジェニーをシェルターに連れて行きました。そこで2番目の飼い主に出会ったものの、ジェニーを待っていたのは1日12時間の留守番の日々でした。散歩に行くこともなく、その家の裏庭がジェニーの世界の全てでした。そして2番目の飼い主が結婚することになり、婚約者が犬が嫌いだということでジェニーは元居たシェルターに戻されて来てしまったのです。
ジョージさんは「これ以上この犬に"誰も自分と一緒に暮らしたくないんだ"と思わせたくなかったんだよ」と笑います。こうしてジェニーはジョージさんの家族になりました。23kgあった体重は13kgの適性体重になり、今では引き締まったウエストとツヤツヤのコートで広い庭を走り回るジェニー。 
「先代のブラックラブは本当にスイートで良い犬だった。ラブラドールという犬種の良いところを全て持っているような犬だったんだ。僕は純血種の犬も大好きだよ。犬種特有の美しさだとか気質だとか、人がそういうものに惹かれる気持ちがよくわかる。でもジェニーのような犬とつき合うのもまた何とも言えず楽しいね。それに犬がくれる愛情は犬種にかかわらず、みんな一緒だからね。」
そう言って笑ったジョージさんの優しい笑顔が印象的でした。



2017/05/25

迷子ペットの捜索犬

迷子のペットを捜索してくれるNPO団体紹介の記事。NPOだけでなく、迷子ペット捜索の会社もあります。
日本とは事情が違うので話のタネにお楽しみくださいという部分と、国を問わず参考になる部分があるので、それぞれのスタンスでお楽しみいただけたらと思います。

(以下 dog actually 2011年7月18日掲載記事より)

(photo by Amy Gahran )

アメリカで最も迷子の犬が増える日、それは7月4日の独立記念日です。どこの州のどの街でも大きな花火大会が催され、個人でもロケット花火などで大騒ぎする人が増えるこの日は臆病な犬達にとっては受難の日。さらにパーティーなどで飼い主さんの注意が甘くなるのも手伝って、花火の音に驚いて家を飛び出してしまい、迷子になってしまうというわけです。
日本でもこの時期は雷や花火大会などがあり、窓や玄関が網戸だけになることも多いので、やはり迷子犬が増えてしまうのではないでしょうか。
さて、アメリカにはそんな迷子のペットを探すスペシャリストが多く存在します。料金を受け取って捜索をする会社もあれば、ボランティアで捜索を請け負うNPO団体もあります。今日はそんなNPO団体の1つ、Missing Pet Partnershipをご紹介いたします。
Missing Pet Partnership(以下MPP)はワシントン州はシアトルにほど近い、フェデラルウェイという街で2008年に設立された団体です。創設者で代表のカット・アルブレヒトさんはカリフォルニアで警察犬の訓練やハンドラーを担当する警察官でした。ある時、警察犬の一頭が行方不明になった時、他の警察犬を使って捜索をしたのをきっかけに、迷子のペットを探す犬の訓練を思いついたそうです。
迷子のペットを探し出すことは、当事者の犬と飼い主さんはもちろんのこと、ペットが野生化してしまったり、繁殖してしまったりすることを防ぐという社会全体にとっての利益であるという意識がMPPの活動のベースになっており、団体の活動はすべて寄付金によって運営されています。
MPPでは犬だけでなく、迷子ペットの捜索をする人間のトレーニングも行っています。飼い主さんから依頼を受けて最初に動くのは犬達ではなくて、トレーニングを受けたボランティアの方々です。まず最初はペットがいなくなった地域の主要な交差点などに派手なネオンカラーの大きなポスターをいくつも貼付けます。一般によく見かけるのはA4サイズの用紙に印刷された張り紙ですが、これは多くの場合人の目に留まることなく見過ごされてしまいます。特大サイズのネオンカラーのポスターは人目を引く確率が格段に高いため、これだけで迷子ペットの目撃情報が寄せられ発見に至る例も多くあるそうです。その他に野生動物監視用のカメラを設置したり、安全な捕獲用トラップを設置したりして、ペットの捜索にあたります。
このような策を講じても迷子のペットが見つからない場合、捜索犬の登場となります。
ペット捜索犬は3つのカテゴリーに分けられています。
まずは「迷子猫捜索犬」。猫の捜索を専門にする犬達です。猫捜索犬は、捜索エリアの中でとにかく片っ端から猫を見つけ出していくように訓練されています。特定の迷子猫の匂いを追っていくのではなく、猫全般の匂いを追って探し出すというわけです。これは特定の匂いを探し出すよりも訓練が容易で捜索犬の育成がしやすいことと、迷い猫の行動の特性も関係します。犬が迷子になった場合、あちこちを動き回ることが多いのですが、迷子猫はたいていどこか家の近所に隠れて身を潜めている場合が多いそうです。ですから、家からあまり離れていない範囲の中で人間では探しにくいような場所を猫の匂いを追って探すだけで見つけることができるというわけです。
そして2番目が「ペットの匂い追跡犬」。迷子になったペットの匂いのついた物を嗅いで、同じ匂いを追跡していくというもの。迷子になった個体そのものを捜索していく方法です。主に犬が対象になりますが、時にはフェレットや馬もこの方法で捜索をします。匂いを追って行って、直接その動物にたどり着くことが出来なくても、動物が移動していった方向を知ることは捜索の大きな助けになります。見当違いな地域ではなく、実際に動物が移動したエリアでポスターやトラップを仕掛けることで、発見の確率は飛躍的にアップします。
3番目は 「2つの目的を兼用する捜索犬」。つまり、猫を片っ端から見つけ出して行く訓練と、匂いを追って行く訓練の両方を受けた捜索犬です。迷子になったのが外飼いの猫だった場合、犬のようにあちこちを放浪する可能性もあり、じっと隠れている猫を探すだけでは不十分なこともあるそうです。その時々で、どちらの能力も発揮できるよう訓練されたのがこの犬達です。
ところで、こうして放浪する犬を発見した時、その犬を捕まえることが第一の目的です。しかし不安な気持ちでいる迷子犬は見知らぬ人に追いかけられれば逃げるのが自然の摂理。迷子犬を見つけたら、追いかけずに食べ物などを見せて呼びかけ、犬の方からこちらに来るように仕向けるのが基本です。
しかし、それがうまくいかない場合に登場するのが、これまた犬なのです。
MPPでは、フレンドリーで多くの犬が尻尾を振って近づいて来るような犬を捜索の最終段階に同行させます。この犬達は「マグネットドッグ」と呼ばれ、迷子犬の警戒心を解き、保護を成功させるのに大きな役目を果たしています。
MPP代表のカットさんは警察犬訓練の経験を生かして、ペット捜索犬の訓練のノウハウをシステム化し、公式な認定証の発行も行っています。そして全米各地のペット捜索ビジネスやボランティアのグループと提携し、情報交換をしています。そして直近ではワシントン州キング郡のアニマルシェルターと提携して、アメリカのシェルターとしては初めての迷子ペット捜索チームを発足させました。彼らはこの動きが全米のシェルターに広がることを望んでいます。
こちらはカットさんが犬達を訓練する様子を紹介した動画です。

最後に、MPPが提唱する「ペットを迷子にしないための注意事項」をあげておきますね。
  • マイクロチップを入れておく。
  • ネームタグと鑑札のついたカラーは常に着用させておく。カラーは、しっかりした造りのハーフチョークなど、犬が何かに驚いたり怯えたりした時にすっぽ抜けないものを選ぶ。
  • 車での移動時はクレートや犬用のシートベルトなどを利用する。
  • 最近撮ったペットの写真を用意しておく。グルーミングの前後で見た目が大きく変わる犬は両方の写真を撮っておく。
  • 撮った写真はかかりつけの動物病院のカルテに添付してもらっておく。
  • 近所の人と顔見知りになっておく。ペットが近所をウロウロしている時、最初に頼りになるのは近所の人達です。そのためにも普段から犬が近所に迷惑をかけないようにしておくことが大切。
  • 家の周りのフェンスの高さ、丈夫さをチェックしておく。穴を掘って脱走できないように対策をしておく。
  • ドアや門が開いていても逃げていかないよう、呼べばすぐに来るように日頃から訓練しておく。
  • ペットの匂いとDNAを採取して保管しておく。殺菌済みのラテックスの手袋などを付けて新品のガーゼで犬の背中、お腹、口を拭って、ジップタイプのビニール袋に入れ冷凍庫で保管しておく。さらに万が一DNA鑑定が必要な場合に備えて、毛根のついた毛と切った爪も別の袋に入れて冷凍庫で保管しておく。
最後の注意事項は日本の状況には当てはまらないかもしれませんね。
「うちの犬は迷子になんてならないから絶対大丈夫」とは決して言えません。日頃からの準備が万が一の時の運命を分けると肝に銘じて、我が家でも再度チェックと気持ちの引き締めです。

ミズーリ州におけるパピーミルを巡る闘い (2)

これは一つ前の記事の続きにあたります。
パピーミルと呼ばれる繁殖施設に対して広さやケアの回数など具体的な数値で規制を求めることで、逃げ道をなくしようとした法案がどんな風になったかを書きました。

(以下 dog actually 2011年7月4日掲載記事より)

(photo by Mary Haight )

前回、2010年のミズーリ州の住民投票において、パピーミルを規制する法案が通ったところまで書きました。
賛成派が僅差で勝利を得た「法案B」は「Puppy Mill Cruelty Prevention Act(パピーミル虐待防止条例)通称PMCPA」と正式名称が定められ、2011年11月から施行されることになっていました。
しかし民主主義の基本を無視したとも言えるドンデン返しが起こったのは 2011年4月13日のことでした。ミズーリ州下院議会において、この住民投票の無効を訴える議員投票が実施されたのです。しかも賛成多数の結果、住民投票の結果が却下され、PMCPAの犬の扱いに関する改善案がすっかり削除されてしまったのです。
予定通りに条例が施行されることになれば、多くの繁殖施設が立ち行かなくなるとして犬繁殖業の代表が議会に直訴したことが、この議員投票のきっかけと考えられています。
この議員投票の結果を承認するか、または拒否するかは最終的に州知事の手に委ねられます。
もちろん民意を無視したこの投票には多くの抗議の声があげられました。ASPCA(米国動物虐待防止協会)を始め多くの動物保護団体が、州知事宛にこの投票結果を拒否するように嘆願を送ろうと全国に呼びかけました。
もしもこのままミズーリ州がパピーミルを認める方向へと進んで行くと、パピーミルに関して同じような傾向のあるオクラホマ州やテキサス州、ネブラスカ州、ハワイ州などでも同じような悪い方向へと流れていく可能性が出て来ます。問題はミズーリ州民のことだけではないのです。
結果としては、州知事もさすがに投票結果をまるごと承認するわけには行かなかったようで「妥協案」を提案してきました。そしてPMCPAは驚くべき早さで思わぬ方向に転がって行きました。議員投票からわずか5日後の4月18日にミズーリ州農務局、犬繁殖業の代表者達、そして地元の動物保護団体などが一堂に会して「妥協案」を承認したのです。「妥協案」はさらにその2日後には上下院両議会を通過し、4月27日には州知事の署名を得て、正式に法律として成立しました。
ミズーリ州のパピーミルの状況改善にあたって、ずっと先頭に立って行動してきたASPCAはこの場には呼ばれず、妥協案の承認には一切タッチしていません。なぜならこの妥協案は、到底ASPCA(ひいては心ある動物福祉関係者ならば誰でも)が容認できるものではなかったからです。
絶対に外すことはできないと考えられていた具体的な数値による規制。これらの数値が全て削除されたのです。ケージの具体的な広さや高さが法令の中に組み込まれることはありませんでした。室温についても同じく、具体的な数値は削除されました。運動や獣医師による検診も法によって強制することはできなくなり、何よりも悪いことに雌犬の出産回数の制限も設けられることがなかったのです。
これらの広さ、高さ、回数、温度といった具体的な数値こそがこの法案のキーとも言うべきものであったのに、ミズーリ州議会と州知事は多数派の住民の意思を無視する形でこの法案を骨抜きにしてしまったというわけです。
ミズーリ州の州政は人々を大きく失望させましたが、諦めさせることはできませんでした。ASPCAもHSUS(米国動物保護協会)もミズーリ州の犬繁殖施設へのチェックの目をより一層厳しくしており、この州には今多くの国民の注目が集まっています。
ミズーリ州知事は、妥協案を取入れた新しい法をより厳しく実行するため、繁殖施設を管理する州農務局関係機関に資金と人員を追加することを発表しました。
ASPCAは現在、有権者の権利を守るための活動をしている団体とタッグを組んで新たな法改正または元々の「法案B」の復活、それに向けての住民投票をおこすべく活動を始めています。今度は議会によって民意を覆されることがないように、慎重に緻密に計画を進めています。
ミズーリ州におけるパピーミルをめぐる闘いは今も激しく続いています。そんな中、6月中旬にテキサス州において犬と猫の商業繁殖施設を規制する法律が正式に州知事の署名を得て施行されることとなりました。テキサス州もミズーリ州と同じく「パピーミル野放しの州」の1つだったのですが、11頭以上の雌犬または雌猫を飼育し、年間20頭以上の動物を販売している施設における動物のケージの大きさや材質についての規定が設けられることになったのです。また今までは繁殖施設への立入検査というものは行われていなかったのが、取り締まり機関による検査が実施されるよう法で定められました。決して十分とは言えませんが、これをきっかけにアメリカにいくつか残された「野放し地域」にも正しい規制が作られていくことを願って止みません。
これはASPCAの捜査チームがミズーリ州のある犬繁殖施設に出向き、70頭の犬達を保護した時の動画です。

ケージの床面がむき出しの金網なのは、排泄物の掃除の手間を省くためです。犬達の肉球には金網が食い込み、怪我を負います。ここにいる犬達はこの金網の中以外の場所を知らずに生きて来て、こうして保護された時に生まれて初めて人間に撫でられたり抱かれたりということを経験したのです。
アメリカの例をあげて記事を書きましたが、日本にも全く同じような施設がたくさん存在します。そしてこういう場所で産まれた犬の多くは生体展示販売をしているペットショップに卸されたり、インターネットでの通信販売で流通されます。そういった所で動物を買うことが、パピーミルに資金をつぎ込むことになるのだと多くの方が認識して下さることを望みます。
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この記事を書いてから書いてから6年が経つ2017年現在もミズーリ州における動物繁殖施設の数値規制は実現されていません。けれども世論の高まりに押される形で、施設への視察や査定は頻繁に行われるようになったようです。2017年に政権が代わり、ミズーリ州のみならず動物福祉に関しては一つ進んだかと思うと二つ後退したような状態が続いていますが、諦めることなく闘いを続ける人々がいることは忘れずにいたいと思います。


ミズーリ州におけるパピーミルを巡る闘い(1)

私がdog actuallyで初めて動物福祉に関する法律のことを書いた記事です。
また自分では知っているつもりだったパピーミルのことも、改めてじっくりと書かれたものを読むことで「そうだったんだ」という発見もあり、自分自身にとっても学ぶことの多い記事でした。

(以下dog actually 2011年6月20日掲載記事より)
「パピーミル」、直訳すると「子犬工場」。このサイトに来て下さる皆さんならば、パピーミルという言葉が何を意味するかご存知の方も多いでしょう。ASPCA(米国動物虐待防止協会)ではパピーミルのことを「犬の福祉よりも経済効率と金銭的利益が優先される大規模な商業繁殖施設」と定義しています。アメリカに於いても、パピーミルは犬を取り巻く環境の中で大きな問題の1つであり、ASPCAやHSUS(米国動物保護協会)を始め多くの人々がこれらの施設の犬達を助け守り、ひいてはパピーミルを撲滅させるべく闘いを続けています。
さて、このような施設にいる犬達の命や生活を守るためには規制や法律が必要です。しかし残念ながらアメリカの法律の世界においては「パピーミル」を定義する言葉がないのです。アメリカ全土の法律である連邦法には、犬や猫の商業繁殖施設を経営する者は所定の免許を取得しなくてはならない、施設は定期的に米国農務省の検査を受けなくてはならない、などの規定はありますが、動物を守るための法律は実質上無いに等しい状態です。
州ごとの州法では、2008年に初めてバージニア州において商業繁殖施設で飼育する成犬の数を最高50頭までとする法律が施行され、その後ルイジアナ州、オレゴン州、ワシントン州が同様の州法を施行することとなりました。このように連邦法よりも一歩進んだ対応をしている州がある一方、いくつかの州では商業繁殖施設を規制する法律が全くない野放し状態とも言える所も存在します。
今日のタイトルにあげたミズーリ州も「パピーミル野放し状態」の場所です。州全体で3,000以上のパピーミルがあると言われており、これは全米のパピーミルの数では一位、約30%にあたる数字です。ミズーリ州は「パピーミルのメッカ」「アメリカのパピーミル首都」と言うありがたくない称号まで持っているほどです。
そのミズーリ州で、2010年画期的な法案が提出されました。「犬の商業繁殖施設において、虐待に該当する犬の取り扱いを無くし、全ての犬に適切な待遇を与えるための規制」通称「法案B」と呼ばれた、案の内容は以下の通りです。
1. 十分な食餌と清潔な水の供給
  • 適切な栄養成分の食餌を少なくとも1日に1度は与えること
  • 凍ったり汚染されていない清潔な水を常時飲めるようにしておくこと
2. 必要に応じた医療ケアの供給
  • 最低限、1年に1度は資格のある獣医師による健康診断を受けさせること
  • 人道的に安楽死を取るしかやむを得ない場合は、資格のある獣医師の手によって、全米獣医師協会承認の法律で定められた手法を取ること
  • 3. 気候条件から身を守るための適切な居住空間の供給
    • 金網等ではない平面の床のある屋内施設にいつでも行き来できる環境を造ること
    • クレートが他の動物のクレートの上に積み上げられたような状態ではないこと
    • 最低1日に1度は居住空間の清掃を行うこと
    • 室温は45°F(7.2℃)を下回らず、85°F(29.4℃)を上回らないこと
    4. 手足を伸ばしたり横になるのに十分な広さのある空間の提供
    • 犬の頭の上に最低30cmの空間があること
    • 体長63.5cm未満の犬には最低1.16平方mの広さを確保すること
    • 体長63.5-89cmの犬には最低1.86平方mの広さを確保すること
    • 体長89cm以上の犬には最低2.79平方mの広さを確保すること
    5. 定期的な運動の提供
    • 管理された屋外への行き来を可能にすること
    • 屋外の施設は最低限屋内の居住空間の2倍の広さを確保すること
    6. 出産後から次の繁殖までの十分な休養
    • 18ヶ月の間に2回を越える出産をさせてはならない
    7. 1つの施設において管理する犬の上限は50匹、そのうち繁殖に使う雌犬は10匹を上限とする
    全てが最低限の当たり前のことのように思えますが、その最低限の環境すら与えられていないのがパピーミルの犬達です。法律上「パピーミル」を定義する言葉がない以上、上記のようにそれぞれの項目に具体的な数値が言及されていることは必要不可欠です。
    この法案は2010年11月の中間選挙の折に、ミズーリ州住民の住民投票にかけられました。この動画はその時の「法案Bに賛成の投票を!」と呼びかけるキャンペーンのCMです。

    3,000以上ものパピーミルが存在するということは、そこから経済的恩恵を受けている人間も大勢いるということ。それはすなわち、この法案に反対する人間がたくさんいるということでもあります。法案Bに対する反対派のキャンペーンも大きなものでした。「州の一大産業である犬の繁殖業への規制は、経済的ダメージが大き過ぎる。」「犬の値段が上がって、誰もが犬を飼うことが難しくなる。」「施設の規模を強制的に縮小させることで行き場のない犬が出て来る。」これらが反対派の主張の主なものでした。
    アメリカンケネルクラブ(AKC)も、この法案に反対する団体の1つでした。「法案の内容が通れば、責任ある繁殖をしているブリーダーに経済的な負担がかかることになる。そもそもブリーダーの質というのは管理している犬の数に左右されるものではない。犬を購入したい人々やブリーダーに負担を強いることになるこの法案は可決されるべきではない。」というのがAKCの主張でした。負担を強いるべきでないと主張する対象が、犬ではなくて購入者や繁殖者の方なのですね。
    そして住民投票の結果、僅差ではありましたがパピーミル規制法案は賛成票が多数を勝ち取りました。10頭以上の犬を飼育している繁殖業者は約1年後の2011年11月までに、この法案で示された規定の数値を満たさなくてはいけないということになったのです。ミズーリ州民でなくても、アメリカの犬を愛する人達の多くが賛成派の勝利に胸をなで下ろしました。
    しかし・・・ことは簡単には進まなかったのです。何が起こったのかは次回に続きます。

2017/05/24

生態展示販売禁止 - アルバカーキー市の場合


dog actuallyへの初出は2011年5月23日。
ペットショップで商業的に繁殖された犬や猫を販売することを条例で禁止する自治体は確実に増え続けており、2017年5月現在18州179都市でこの記事で紹介しているアルバカーキー市と同様の規制が実施されています。

これらの規制の重要な点は単純に店舗での販売を禁止しているだけでなく、子犬や子猫を自家繁殖することが制度的に難しくなり、たとえアクシデントで増えてしまった場合にも金銭的なペナルティが課して同じ失敗を繰り返す可能性を低くするシステムを作っていることです。保護された犬を譲渡するだけではペットの頭数過剰問題は解決しない、まずは元栓を閉めなくてはいけないというのが、アメリカの多くの自治体が選択した方法です。

(以下、dog actually 2011年5月23日掲載記事より)

日本でも、犬をめぐる様々な問題の温床として問題視されているペットショップでの生体展示販売。アメリカのいくつかの都市では、条例によって犬や猫の生体展示販売が禁止されています。その中でもアメリカで一番最初に犬と猫の展示販売禁止の条例を施行した、ニューメキシコ州アルバカーキー市の例をご紹介いたします。
同市は、もともとは動物の扱いに関して進歩的な街であったわけでありません。このような法案が出たきっかけは、同規模の都市に比べて、殺処分しなく てはいけない動物の数があまりにも多く、そのために多額の税金が費やされることに業を煮やしての結果でした。法案が提出された2006年当時、年間約 27,000頭の犬や猫がシェルターに持ち込まれ、約15,000頭が殺処分されていました。これらのことに年間約400万ドル(為替レートではなく生活 感覚で言えば年間約4億円という感じです)の費用が費やされていました。
犬の数の過剰の背景の1つがパピーミルと呼ばれる犬の繁殖施設です。ペットショップで売られている犬達の多くがパピーミルから供給されています。生体展示販売の禁止はパピーミル取り締まり策の一環でもありました。
ま たパピーミルだけでなく、適切な飼い方をせずに故意またはアクシデントの自家繁殖を繰り返すタイプの飼い主に関しても、法による規制の必要性が求められて いました(このようなタイプの行動は対人間の家庭内暴力との関連性が高いという統計があるのも、積極的な行政の介入が望まれた理由でもあります)。
こうしてThe Humane and Ethical Animal Rules and Treatment (HEART) Ordinance 「人道的且つ倫理的な動物の扱いに関する規定と条例」と名付けられた法案がアルバカーキー市議会に提出され可決されたのが2006年、実際に条例が施行されたのは2007年のことでした。
条 例では、市が発行する許可証を取得した者以外は犬や猫の販売をしてはいけないという規定になっています。これは道ばたや新聞に「子犬譲ります」といった広 告を出して売る事、物品との交換をすること、単純に譲渡することも含まれます。これに違反した場合は90日間の禁固刑プラス500ドルの罰金が課せられま す。
また、ペットショップ等の小売業には犬や猫の販売許可証を発行しないことも規定されています。つまりこれでバックヤードブリーダーと呼ばれる小遣い稼ぎの自家繁殖と、ペットショップでの生体展示販売が成り立たなくなるというわけです。


これは大手チェーンのペットショップに飾られているポスター。生態展示販売の禁止の条例のない都市でも、株式上場しているような大手企業はすでに犬や猫の販売を止めている。こうして「まずは里親になることを考えて」という呼びかけを行い、シェルターと提携した譲渡会も行う。それらの犬へのしつけ教室やグルーミング、ケア用品やフードの販売などでビジネスが成立するからだ。

条例では、犬や猫の登録料に関しても詳細に規定されています。避妊去勢手術を施された犬や猫に関しては登録料は一頭あたり年間6ドル。これが避妊去勢手術をしていない犬や猫だと登録料は年間一頭あたり年間150ドルになります(医療上の理由で手術ができない場合は、医師の証明を提出することでこの対象外となります)。避妊去勢手術は市が安価なサービスの提供もしています。
さらに犬や猫を繁殖させた場合には、出産後1週間以内に届出をし て、正式な許可証を得る必要があります。これが出産一回あたり150ドル。この許可証は一家庭において、12ヶ月の間に4回以上発行することはできませ ん。また、一頭の雌に関しては12ヶ月の間に1つの許可証しか発行されません。これもバックヤードブリーダー対策の1つです。
正規のブリーダーであっても、年間150ドルの登録料と出産一回あたり150ドルの許可証発行は義務づけられています。それだけの覚悟のある者しか、犬や猫の繁殖をしてはいけないという暗黙の了解というわけです。
もちろん、この登録料の支払い証明と繁殖の許可証がなくては、販売の許可証を得ることはできません。違反した場合は上記の通りの刑罰と罰金が待っています。
このような行政の努力の結果、条例が施行された2007年から2010年の間にシェルターからもらわれて行く動物の数は年間23%増加し、殺処分される動物の数は年間35%減少していきました。

持ち込まれる動物の数が減少し、もらわれて行く動物の数が増えるということは、施設にいる動物達の待遇が改善されるということでもあります。アルバカーキー市最大の私営動物保護施設Animal Humane New Mexicoでは、市全体の犬猫を取り巻く環境の改善を受けて、2010年に大規模な施設の改築を行うことができました。人々が動物シェルターに関して持っている、従来の暗い哀しいイメージを払拭する、ブティックシェルターと呼ばれる明るくて洒落た雰囲気の保護施設をオープンさせたのです。それまではショッピングモールの中にあるペットショップに子犬や子猫を見物に行っていた親子連れが、気軽にシェルターに訪れるような流れができつつあります。
アルバカーキー市のこの動きは、その後アメリカの多くの場所に飛び火して、カリフォルニアのレイクタホ、ウエストハリウッド、テキサスのオースティン等で同じような条例が施行され、成果をあげ始めています。
まだまだ主流派とは言えませんが、生体展示販売禁止の流れは確実に育ちつつあります。結果、不幸な犬が一頭でも減る事を心から願います。
無責任なペットショップの犬達の供給源であるパピーミル規制についても、気になる動きがあるのですが、これはまた別の機会に。 


優良犬市民検定(ゆうりょういぬしみんけんてい)

初出はdog actually 2011年5月9日。日本でもグッドシチズンテストという名前で同様のテストがあることを知ったのは、この記事を書いた後のことでした。

日本でのテストは社団法人優良家庭犬普及協会が運営する認定試験で、日本の家庭犬向けにアレンジされています。

テーマに選んだCANINE GOOD CITIZEN TESTのことを知ったのは自分のブログであるSMILES@LAでも紹介したジム・ゴーラント著The Lost Dogsを読んだのがきっかけ。
本の主人公である、マイケル・ヴィックの元から保護されたピットブルたちが一般家庭に譲渡されるための条件のひとつが、このテストに合格することというものでした。
ちょっと本題から逸れてしまうけれど、このThe Lost Dogsは私の中のベストのひとつで、dog actuallyの記事を書く上でも大きな影響をくれた一冊です。


(以下、dog actually 2011年5月9日掲載記事より)


本日のタイトル、「なんだそれは?」と思われたかもしれませんね。これは私が勝手につけた日本語訳で、今日ご紹介しようと思うCANINE GOOD CITIZEN TEST(CGCテスト)のことです。
CGCテストは、アメリカンケネルクラブ(AKC)が「全ての犬が地域に受け入れられるための良いマナーを身につけられるように」という目的で作ったプログラムの一環です。犬の飼い主にとっての躾や訓練の指針となり、犬がどのように振る舞うべきかの基準となっています。
テストを受けるためには、AKCが開催するCGCテスト対策教室に参加してトレーニングを受けるか、しかるべきトレーナーについて訓練を受けます。 飼い主さん自身にスキルがあれば、自分で訓練をしてもかまいません。そうしてテストを受ける準備が整ったと思ったらAKCに受験の申し込みをします。テス トは会場に集まって行われる場合もあれば、試験官が公園等の指定の場所に出向いて来てくれて個別に行われる場合もあり、地域によって様々です。テストに合 格すれば、立派な合格証書が送られて来ます。
このCGCテストは色々な場面で、犬の行動と飼い主の資質を判断するための基準に使われていま す。例えば、多くのセラピードッグの訓練団体は訓練を受けるための前段階として、CGCテストに合格していることを条件にしています。またアパートなどの 集合住宅で犬を飼う場合、CGCテストに合格している犬のみOKという例もあります。持ち家の住宅保険でもテストに合格していれば保険料の割引があるとい う会社もあるようです(ただし、これらのアパートや住宅保険に関してはかなり進歩的な例です。実際には単純に犬種によって入居を断られたり、保険加入を断 られたりする例も多々あります)。
これら民間の事柄だけでなく、公的機関でもこのテストを犬を判断する際の基準に取り入れています。例をあ げれば、2007年に全米を驚愕させたNFLのスター選手マイケル・ヴィックが違法闘犬と動物虐待で逮捕された事件で、保護された元闘犬達を保護団体から 一般家庭に譲渡する際、裁判所から出された条件として、CGCテストに合格させることというものがありました。このテストはそれほどに信頼され、権威のあ るものなのです。
試験の内容を具体的に紹介しましょう。日本で犬と暮らしている方々にも参考になる部分が多くあるかと思います。
まず、テストを受ける前に飼い主さんは「責任ある飼い主としての誓約書」にサインをしなくてはなりません。飼い主としての責任は、犬を家族に迎えるという気持ちを持ったところからもう始まっています。
誓約書の内容は次のようなものです。

私は下記のことを含む犬の健康に関して責任を持ちます

  • 定期的な健康診断とワクチン接種
  • 適切な栄養の食餌と清潔な水
  • 毎日の運動と定期的な入浴やグルーミング

私は犬の安全に関して責任を持ちます

  • 適切な高さのフェンス等で犬を管理し、公共の場ではリードを使い、自由に走り回らせることはしません
  • IDタグ、タトゥー、マイクロチップなどで犬の身元が確実にわかるようにしておきます
  • 犬と子供が同席する場合には常に監視下に置くようにします

私は自分の犬が他者の権利を侵害することを看過いたしません

  • 近所を自由に走り回らせることはしません
  • 庭やホテルの部屋などで他者の迷惑となる吠え行為をさせません
  • ホテル、路上、公園等公共の場では必ず犬の排泄物を拾い、処理します
  • ハイキングエリア、キャンプ場など自然環境の中においても必ず犬の排泄物を拾い処理します

私は犬の生活の質に関して責任を持ちます

  • 基礎的な訓練は全ての犬にとって利益をもたらすことを理解します
  • 自分の犬に適切な配慮と遊び時間を確保します
  • 犬を飼うということは時間と手間をかける義務と覚悟が必要なことを理解します


そしてテストの内容は以下の通り。全てのテストはオンリードで実施されます。
テスト1:好意的な他者を受け入れること
他者が日常的なシチュエーションでハンドラー(飼い主)に話しかけて来る事を受け入れるか。
テスト2:静かに座って撫でられること
ハンドラーと一緒にいる時に、好意的な他者に撫でられる事を受け入れるか。
テスト3:検査やグルーミング
獣医師やグルーマー等から検査やグルーミングを受ける事を進んで受け入れるか。
テスト4:屋外での歩行
短距離の歩行で、リードが弛んだ状態で犬をコントロールして歩く事ができるかどうか。
テスト5:人混みでの歩行
最低3人以上の人間が立っている場所を、静かにコントロールされた状態で歩く事ができるかどうか。
テスト6:座れと伏せのコマンドとその場で停止すること
ハンドラーの座れと伏せのコマンドに従うことができるか。さらにハンドラーの指示でそのままの姿勢で停止することができるか(停止は座れでも伏せでも、どちらでも良い。)
テスト7:呼ばれれば来ること
約3m離れた所からハンドラーに呼ばれた時に、ハンドラーの所に来る事ができるか。
テスト8:他の犬に対しての反応
他の犬に対して礼儀正しく振る舞う事ができるか。
テストは2組の人/犬のチームが、約6m離れたところで人間同士が互いに手を振り挨拶を交わす。同様に約3mの距離でも同じ事をして犬の反応を見る。
テスト9:騒音などに対しての反応
試験官が2種類の騒音や状況を選んで、犬が怯えたりパニックになったりせずに平静でいられるかを観察する。騒音の例は太い鎖を地面に落とす音、犬の横で台車を押す、杖を倒す音、また時には犬の側で人間がジョギングをして反応を見る事もある。
テスト10:飼い主以外の信頼できる人間といる時の態度
試験官がハンドラーから犬を預かりリードを持った状態で、飼い主は犬の視界から3分間姿を消す。その間静かに礼儀正しく待っていられるかどうか。
飼い主心得と言い、テストの内容と言い、これらが全て実践されていたら素晴らしいだろうなあと軽くため息が出ます。つまり、実際のアメリカの犬事情も決して理想的とは言えないわけです(少なくとも私の知っている限りでは。郊外の住宅地である我が家の近所はザッと見た感じで6-7割の家が犬を飼っているように思いますが、きちんと犬をコントロールして歩いている飼い主さんは大体半分くらい。統計をとったわけではなくて、私が日々感じているだけですが)。
せっかくの良いプログラムなので、必ずしもテストを受けなくても、この精神がもっと普及すれば良いなと願う次第です。

災害に備えて愛犬のために準備しておくべきこと

これは私がdog actuallyに書いた一番最初の記事です。初出は2011年4月11日。東日本大震災のすぐ後でしたので、テーマも「災害に備えて」というものになりました。2017年現在もカリフォルニアで災害が起きた場合の対応に大きな変更はありません。
愛犬のために準備しておくことについては、よく「普段からクレートトレーニングなどで、非常時にもきちんと振る舞える犬にしておくこと」と言われているのは確かにその通り。この記事では物質的なことしか書いていませんが、災害という非常時に飼い主も恐怖や不安でいっぱいいっぱいの中、いくら普段からトレーニングしていても動物がどれだけ落ち着いていられるか、難しいところです。だからこそ余計に物質的な準備を万全にしておくことで助かる部分も大きいのではないかと思います。
(以下、dog actually 2011年4月11日掲載記事より)



今回の東日本大震災は世界的にも未曾有の大惨事として、各国で大きく報道されていることは皆さんご存知の通りです。ここアメリカでも地震や津波そのものや、原発の事故への関心とはまた別に、人々や動物達のことに関しても「ひとごとではない」という空気が感じられ、そのような報道も目につきます。ロサンゼルスタイムスでも3月30日付けで「被災後のペット救援活動」という見出しで、愛犬と再会した被災者の方のインタビューや、救援活動に当たっている動物保護団体のことが紹介されていました。
動物と暮らしている人々も改めて「万が一に備えておかなくては」と気持ちを新たにしている感じが伺えます。大きな災害に備えてのアメリカの自治体の準備態勢や、個人で準備しておくべきことなど、紹介させて頂きます。
例えば私の住むカリフォルニア州で、大きな災害が起こった場合。
州政府はCalifornia Animal Response Emergency System(CARES)という、指示体系や協力機関を定めたシステムを構築しています。緊急災害時の動物達に関しては、基本的には州内の各自治体が処理をします。「自治体の動物管理局」「自治体の緊急対策本部」「獣医師ボランティアによる対策委員」が3本柱となって家畜やペット動物の避難、預かりなどの問題に当たっていくのですが、郡などの自治体だけでは対処しきれない場合にCARESに協力を要請することとなります。
CARESではThe Humane Society of U.S(米国動物愛護協会)、Emergency Animal Rescue Service(緊急時動物レスキューサービス)などのNPO団体とも提携して、緊急災害の時の動物医療や一時預かりに関するシステムを準備しています。
カリフォルニアでは大きな地震は1994年以来起こっていませんが、非常に大規模な山火事はほぼ毎年のように起こっています。そのような時に避難勧告の出された地域に対しては、家畜やペットの一時預かりの場所が公にアナウンスメントされます。
テレビやラジオのローカルニュースで、○○地区の犬や猫は○○シェルターへ、××地区の馬は××シェルターへ、と言った情報が繰り返し放送されるという具合です。
また家畜やペットのオーナーである一般市民への教育活動もCARESの重要な仕事の1つです。参考になる点もあるかと思うので、CARESが出している「災害に備えての心得」をここに記しておきます。
  • 自然災害などの際、避難勧告その他の情報を的確に得る方法を普段から調べておく
  • かかりつけの獣医師、場合によっては地元議員などと、避難や緊急時の動物の世話に関して日頃から相談しておく
  • 地元のアニマルシェルター、ケンネル、農場などの位置を把握しておく(もしくは動物と一緒に宿泊できるホテルなどを日頃から調べておく)
  • 動物保護のNPO団体や施設の方針を調べ、連絡先も含めて把握しておく
  • 自分が家にいなかった場合に備え、近所の人や友人と緊急時の動物の避難について打ち合わせておく
  • 動物は必ず自治体に登録しておくこと(日本で言う所の鑑札ですね)
  • マイクロチップ、IDタグなどで動物の身元が明らかになるようにしておく
  • 万一動物とはぐれた際に、オーナーであることを証明するため動物と一緒に写っている写真を撮っておく(写真はオンラインアルバムなどにも保存しておくとより良い)
  • 動物用緊急持ち出し荷物を準備しておく
もうひとつ、ASPCA(全米動物虐待防止協会)が呼びかけている「災害に備えての心得」も付け加えておきます。
ASPCAでは家の外の良く見える場所にこのようなステッカーを貼っておくことを勧めています。「この家の中には犬が○匹います。緊急時には救出して下さい。」と書いておき、消防隊や救出隊の人がわかるようにしておくものです。

そして「動物用緊急持ち出し荷物」の中身はこちら。
  • ペット用の救急医療セットとガイドブック。常備薬がある場合は2週間分
  • 3-7日分のペットフード。水がなくてもしのげるように缶タイプが望ましい
  • ペットシーツとペーパータオル
  • 除菌石けん
  • 排泄物処理用の袋
  • 食餌用の食器
  • 予備のハーネスとリード(安全性と確実性でカラーよりもハーネスが望ましい)
  • 医療記録のコピー
  • 7日分の水
  • ペット運搬用のキャリーバッグ、クレートなど
  • 毛布
  • 犬用のおもちゃ
これらの他に人間用の緊急荷物も準備しておきます。たいへんだけれど「備えあれば憂い無し」準備をしておくと心に余裕が生まれます。犬にとって何よりも大切なのは、飼い主の「心の余裕」ですものね。

このブログについて

2008年6月、「dog actually」という名の当時としては斬新なブログが立ち上げられました。私も一読者としてワクワクしながら更新を楽しみにしていたのを思い出します。
この2〜3年のうちに犬に関する情報を複数のライターがひとつのメディアで発信していくスタイルはすっかり浸透してきましたが、2008年にはまだそういう日本語のメディアはあまりなかったように思います。
(現在主流になっているキュレーションメディアと呼ばれるようなサイトでは、複数のライターと言ってもそれこそ玉石混交。よくこんな記事を恥ずかしげもなく...と言いたくなるようなのもたくさんあるんですけれどね。あ、言っちゃった 笑)

dog actuallyは当初はニフティによって設立され、2012年にはプレミアムフードの販売で知られるグリーンドッグに運営が移り、2017年5月惜しまれながらサイト閉鎖となりました。

管理者がいない状態でサイトを放置しておくことはできないため過去記事の閲覧もできない閉鎖という選択になってしまいましたが、私が著作権を持っている記事に関してはこのブログに再掲載することにしました。

記事を書いた当時とは変化したことについては、追記などでアップデートをしています。時間が経っても変わらないこと、変わっていったことに対する思いなど、また改めて考えていただく機会になれば、こんなに嬉しいことはありません。


(以下はdog actuallyに書いた私のプロフィール文。「犬歴5年」だって。私もニコニヤも若かったのね。犬歴5年でこんなところに記事書いてたってのも「いいのか?本当によかったのか?」という感じだけど、私自身にとっては大切な成長の場をいただきました。自己中な成長 笑)

はじめに
我が家には5歳と4歳の犬がいる。5歳の方が私にとっては初めて一緒に暮らす犬だ。つまり、私の「犬歴」はまだ5年。まだまだ未熟な新参者だ。

しかし犬と暮らし始めて、私は本当に多くの事を学んだ。書籍やインターネットという文字からの知識はもちろんだが、それよりも犬自身から教えられ、自分の頭で考えて得たものの方が圧倒的に多い。

犬達の生活をより良いものにしたいと思えば、視線は自ずと外の世界にも広がり、社会や政治、文化、果ては経済のことにまで気持ちが及ぶ。

ほんの5年の短い犬歴ではあるが、5年の間に犬のおかげで少しだけ良い人間になれた気がしている。犬との暮らしは楽しいことだけではない。時には「これは修行か?」と思わされることもある。けれどそれもまた、私という人間を育てる糧となってくれるのだろう。

・・・そんな犬に対する感謝の気持ちや愛情を、読者の皆さんとシェアできればと思い、ここに参加させて頂く事となりました。アメリカという、日本ともヨーロッパとも違う犬を取り巻く環境についてお伝えしていきます。時にタフに、時に楽しく、アメリカの犬達を紹介して参ります。