(image by GDJ )
2018年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)が発表した「獣医療機関から犬の拡張型心筋症(DCM)の症例が増えていると報告が届いている。患者の犬に共通していたのは、エンドウ豆、レンズ豆、ひよこ豆その他豆類やポテトを主原料とするフードを食べていることだった」という警告が出されたことはご存知の方も多いかと思います。
この件はアメリカでも大きな騒ぎとなり、ドッグフード市場はちょっとしたパニックに陥りました。
上記原材料はグレインフリー(穀物不使用)フードに使われていることが多いため「グレインフリーのフードを食べると心臓病になる!」と言うヒステリックな情報が飛び交いました。
日本でもFDAの最初の警告は犬関連のサイトなどで取り上げられましたが、その後の追加など詳細は届いていないですよね?
もっと早くに紹介できれば良かったのですが、なかなか手が回らず遅くなってしまいました。
前回の記事で紹介した「犬と炭水化物」についての考察を書かれたリンダ・ケイス氏の書かれた文章とFDAの追加情報をベースに、私の考えたところも交えて書いていきます。
最初にクリアにしておきたいこと
- 最初の警告には「エンドウ豆、レンズ豆、その他の豆類、ポテト、これらのたんぱく質、デンプン、繊維などの成分が原材料一覧の前半に多く列記され、それらが主成分であることを示しているフード」と書かれており、グレインフリーのフードという言葉は出て来ていません。
- さらにFDAは上記原材料と拡張型心筋症(DCM)の因果関係についても「今の所わからない」と発表しています。
- FDAは最初の発表では症例の件数に言及していませんでしたが、のちに「最初の発表時には犬30件猫7件の心臓病が散発的に報告された」と述べています。また獣医学心臓医のコミュニティでは約150件の報告が寄せられているとのことです。
- FDAの発表では具体的なメーカーやブランド名については一切触れられていません。
注目すべきはグレインではなくタウリン
FDAの最初の発表の後、アメリカの犬ブロガーや獣医師が無分別に「グレインフリーのフードが危ない」と書き立てたために、大げさ過ぎたり不確かだったりする情報が独り歩きしています。
リンダ・ケイス氏は犬情報サイトWhole Dog Journal に、この拡張型心筋症と食餌の関連について詳しいレポートを寄稿しています。
私がここで書いていることはケイス氏の記事から得た知識や情報を参照しています。彼女の書いたものが、たくさん読んだ記事の中で最も冷静で、過去の研究で明らかになっていることをベースにしており、公平だったからです。
また、自分自身がFDAの発表を読んだ時に感じたり考えたりしたことと共通する部分もありました。
今回FDAが特定の原材料とDCMの関連を取り上げていますが、DCMにはタウリン欠乏症が大きく関係しています。
簡単に言えばタウリンが欠乏すると心臓は健康な機能を保てなくなります。
今回FDAに報告された犬も血中のタウリン濃度が低下している犬が多く、タウリンの補充が有効だったことが判っているそうです。
実はドッグフードの原料とタウリン欠乏症の関連については、過去にも取り上げられ因果関係が明らかになっているものも多いそうです。
それを元に考えると、今回の豆類やポテト類のことも見えてくることがあります。
タウリンの再利用、タウリンの排出
タウリンというのはアミノ酸の一種ですが、多くの場合は肉類に含まれているシステインとメチオニンという2種類のアミノ酸を使って体内で合成されます。過去15年間で、犬のタウリン欠乏については「ラム&ライスフード」「大豆をベースにしたフード」「米ぬか(ライスブラン)」「ビートパルプ」「高繊維フード」との関連が取り上げられています。
「ラム&ライスフード」については、原材料のラムミール(ラム肉ではない。ラムの枝肉から人間用の食肉を取り分けた後の、肉・骨・腱・脂肪などを細かく挽き加熱〜乾燥させたもの)の加工の過程でタンパク質が高温加熱で損傷し、システインとメチオニンがタウリン合成に利用できない状態になったと推測されています。(推測であって、証明はされていない)またタンパク質を高温加熱した時に発生する物質はタウリンを分解する腸内細菌を増加させることが判っています。
大豆をベースにしたフードは、脱脂大豆をタンパク源として使っているフードです。肉や魚には天然のタウリンが含まれていますが植物性のタンパク質にはタウリンは含まれません。
また体内に取り込まれたタウリンは胆汁と結合して小腸に分泌され消化活動を助けるのですが、そのタウリンは本来はまた体内に戻って再利用されます。しかしその時に腸内に米ぬか、ビートパルプ、セルロース(不溶性食物繊維)が大量にあると、タウリンを便と一緒に排出してしまいます。これらの繊維源が低タンパク質のフードに含まれると犬の血中タウリンレベルを低下させることは、最近の研究で明らかになっているそうです。
これらのタウリン欠乏を起こさせると考えられる要因は複雑に絡み合っており、単純に「ラム&ライス」のフードを食べると心臓が悪くなる!というものではありません。ここに遺伝的な要素や、犬種特有の体質なども加味されて疾患へとつながるので、単純に「〇〇が含まれるフードはダメ」という主張は意味がないわけです。
今回FDAが問題にした原材料では、エンドウ豆やレンズ豆は植物性タンパク質が豊富な食材です。ですからこれらが多く含まれ、その分肉や魚が少ないフードではタウリン欠乏の一要素になり得ます。
またエンドウ豆、レンズ豆、ヒヨコ豆、その他豆類はどれも不溶性の食物繊維が豊富でもあります。
FDAが発表したリストの中のポテトにはジャガイモだけでなくスイートポテトも含まれます。スイートポテトも食物繊維が豊富な食品です。ジャガイモは不溶性の食物繊維はそれほど多くありませんが、含まれるデンプン質の一部が犬には消化しにくく食物繊維と似た働きをするのだそうです。
しかし、原材料一覧にこれらの食材が含まれていれば全てが危険というわけではありません。これらの原材料が使われているが、動物性のタンパク質も複数の種類が多く使われているフードや、問題の材料が使われてはいても原材料一覧の下位にある場合にはそれほど心配する必要はないと思われます。
グレインフリーに罪はない?
(photo by MartinPosta )
FDAの発表があった後、(あまり質のよろしくない)ブロガーや、フードや食事に関する知識があるとは思えない獣医師が「グレインフリーのフードは危険」と騒ぎ、中には特定のメーカーやブランドを非難する文章がネット上に溢れました。
そして非難されるメーカーやブランドは決まって小規模に高品質フードを作っている会社でした。
しかし、この騒ぎの最中にスーパーやペットショップで目につくフードの原材料一覧を片っ端から読んでいくと、グレインフリーのプレミアムフードどころか、動物性タンパク質が極端に少ないようなタイプのフードにも豆類やポテトが使われているものがたくさんありました。
また、FDAにDCMの症例が増えていると報告を出したのは心臓専門医を多く抱える循環器系専門病院でした。愛犬にそのような高度医療を受けさせる飼い主がグレインフリーのプレミアムフードを食べさせていても何の不思議もないのでは?と私は感じています。
(グレインフリーが本当に良いかどうかは別として)
反対に、スーパーで山積みになっている超低価格フードを食べている犬が心臓を悪くしても、気づかれることなく「寿命かな?」と亡くなっていくことがあっても不思議ではないと思うのです。
経済的なことを言うのは嫌らしい感じがしますが、統計を取ってみるとそうなるのではないかなと言う推測です。
しかし、そもそもグレインフリーが今までもてはやされて来たことには私は疑問を感じていました。犬は何千年にも渡って人間から穀物を与えられていたはずだからです。
......というわけで、豆類やポテトが含まれることが危険というわけではなく、フードの原材料一覧をよく見てバランスを考えてみてください。
そして、該当するフードを食べていても食べていなくても、何か具合が悪そうなことがあれば、迷わず病院に行ってくださいね。
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