2020/12/22

意外な部分のカルチャーギャップ

ニコの遺灰を受け取って「そう言えばdog actuallyにペットの火葬の話を書いたことがあったなあ」と思い出していました。

5年前に書いたのと同じように、日本の火葬が羨ましい気持ちは今もあるのですが、アメリカのやり方でニコがきちんとケアしてもらったことで「全部をあるがままに受け入れる」という気持ちになっています。まさに記事の中で「うらやましい半面」として書いている通り。
自分のことは意外と良く分かっていたみたいで苦笑いです、


(Image by GeorgeB2 from Pixabay  )

以下dog actually 2015年8月5日掲載記事より)

ちょっと変な話題なのですが、よかったらお付き合いください。
アメリカに住んで犬と暮らしていると、公園やドッグパークが広いことなど恵まれた環境だなと思うことはあるのですが、私にとっては日本でペットと暮らしている皆さんが羨ましく仕方のないことがひとつ有ります。それは何かと言いますと『ペットの火葬』
日本の友人が愛犬を見送った時の話などを聞くと「焼きあがったお骨に黒くなった部分があって"ここが悪かったんですね"と斎場の人に説明してもらったよ。」とか「拾い上げる時に骨まで愛おしいと思ったんだ。」と言います。
ここアメリカでも亡くなったペットを火葬にすることは一般的なのですが、骨はサラサラの砂のような灰になりますし、遺骨を自らの手で壺に収めるというような習慣もありません。
祖父母をはじめとして近しい人を見送る時には「お骨上げ」も儀式の中に含まれるのが当たり前の文化で生まれ育った私としては、うちの犬たちはああいう形で見送ることはできないかもなあと思うと、日本で愛犬のお骨を拾った経験を話してくれる友人たちが単純に羨ましいのです。

アメリカでの火葬の場合は「遺骨」というよりも「遺灰」という形になるのですが、この扱いについては日本との大変な文化の違いに驚いたことがあります。
犬ではなくて人間の話、アメリカ人である家人の母が亡くなって荼毘に付した時のことです。日本のように火葬場まで遺族が行くことはなく、葬儀社の人が遺体を引き取っていきました。家人に「遺灰はいつ受け取りに行くの?」と聞いたら「宅配便で送ってくれるよ。」と答えられて「えーーーーーーっ!!!」と心底びっくり仰天したものです。遺灰は2~3日後に一応化粧箱(しかし紙製)に入れられて、普通の宅配便の段ボール箱で届きました。
渡米以来最大とも言えるくらいのカルチャーショックに「日本では遺骨の扱いは亡くなった人の身体と同じでもっともっと丁寧なんだよ。灰ではなくて骨として形が残るように焼いて、それを遺族が専用の箸で陶器の壺に入れて、特別な織物のカバーをかけて持ち帰るんだから。」と言うと、今度は家人の方が「えーーーーーーっ!!!」と目を丸くして驚いていました。「骨になった家族を見るなんて悲しいし、ましてやそれを自分で壺に入れるなんて怖い!」と。
言われてみれば、なるほど確かに怖いかもしれないなあとも思いましたが、なんというカルチャーギャップだろうかと改めて驚いたのでした。

我が家の犬たちも10歳と9歳になり、かつて一緒に遊んだ犬友達の訃報を聞くことも多くなりました。散歩に行った公園などで飼い主さんたちと情報交換をする時にもペットの火葬サービスの話題が出ることもあります。
たいていの動物病院では、ペットの亡骸を引き取って火葬サービスの仲介をしてくれます。私も動物病院の待合室にいる時に、亡くなった愛犬を毛布でくるんで火葬の依頼をしに来た飼い主さんを見たことがあります。(その時待合室にいた飼い主さんたちが、私も含めて全員うっすらと涙ぐんでいたことをよく覚えています。)動物病院ではなく、ペット専門の火葬サービスの会社に直接連絡をして亡骸を引き取りに来てもらうこともできます。当然ながらアメリカでも亡骸の扱いは皆とても丁重にして下さいますが、ペットの遺灰は宅配便で届けられることがほとんどです。
他の飼い主さんたちと火葬サービスの話をした折に、日本では火葬場で見送ることも遺骨を迎えることも葬儀の一部なんだと言うと皆がとても驚きます。家人に話した時はややショッキングだったようなので、お骨上げの話は飛ばすことにしているのですが、それでも皆が驚くので、やはりこのギャップは一般的なもののようです。
もちろん愛犬の遺灰は皆さん大切に扱われていますし、プロセスの違いに文化の違いを見たという話でどちらが良い悪いということではありません。見送ったペットを愛おしむ気持ちは国が変われど同じです。

ありがたいことに我が家の犬たちはまだ元気なので、私も先のことを思って憂うということはないのですが、先に書いたように、最後の最後まで見送ることができる日本のやり方を、やっぱり自分にはしっくり来るなあと思います。
葬儀や様々な儀式というのは、旅立った者のためというよりも残された者の心の整理のために行われる部分が大きいと私は思っています。やがては来るであろう心の整理が必要な時、慣れ親しんだ文化に沿って行うことができたらいいのになあという思いと、「その時はその時。自分なりのやり方で心に区切りをつけるしかないさ。」という思いが心の中にあるのです。
折しもお盆も近く「あの子の魂が戻って来るなあ。」と感じていらっしゃる方も多いかと思います。これもまたキリスト教とは大きな宗教観の違いを感じる部分ですね。

生まれ育った文化とは違う場所で、犬たちを通して改めて感じる違いやギャップ。普段はあまり考えることのない、こんな意外な部分にもあるんだよというお話でした。



2020/11/18

ファーストドッグのチャンプとメイジャー

これを書いている今の時点で大統領選挙からちょうど2週間経っていますが、現大統領は未だ敗北を認めず、実務上の支障が山積みになっています。

まあ、ここではそれはさて置き、4年ぶりにホワイトハウスに犬の姿が戻って来るということで次期ファーストドッグたちが注目を集めています。
アメリカの犬たちというブログタイトルで、このアメリカン中のアメリカンドッグのことを無視するわけには行きません。


バイデン次期大統領の愛犬で次期ファーストドッグとなるのはこの2匹。
手前が先住犬のチャンプで、奥にいるのが2年前に家族に加わったメイジャー。

(photo via Facebook https://www.facebook.com/DrJillBiden/posts/674378179837540 )


オバマ大統領が娘さんたちに「大統領に当選したら犬を迎える」と約束していたのは有名な話ですが、バイデン氏も妻であるジルさんに「当選したら犬を」という約束をしていました。

そしてあの2008年の熱狂の当選の後に迎えられたのが生後3ヶ月だったチャンプです。ちなみにチャンプという名を付けたのはお孫さん。

チャンプはペンシルヴェニアのブリーダーから迎えられたのですが、この時に「どうして保護犬を選ばなかったのか」と非難の声が上がりました。

(個人的にはそういうのは行き過ぎた干渉だと思うし、保護犬のことを多くの人に広めるための邪魔にしかならないと思うんですけれどね)

チャンプはしばしばホワイトハウスを訪れ、副大統領の後ろに控えて思慮深そうな顔で座っていました。

オバマ大統領の愛犬BOとは歳も近いけれど、一緒にいる場面というのは見たことがありません。公開していないだけ(または私が見たことないだけ)で仲良しだったのかもしれないけれど、どうだったんでしょうね。

バイデン氏は子供の頃にもジャーマンシェパードと暮らしていたそうで、この犬種への思い入れが深いそうです。アメリカでは常に人気ベスト5に入る犬種ですしね。

2016年の前回選挙の後の今回の選挙への出馬表明をする前の、まだ時間に余裕のあった時期だった2018年初頭にバイデン氏の娘さんが地元デラウェアの保護団体がジャーマンシェパードの預かりボランティアを募集していると教えてくれたそうです。

何があったのか具体的には知らないのですが、生後8週齢のジャーマンシェパードの子犬6匹が毒物を摂取してしまい、Delaware Humane Association(デラウェア人道協会)に持ち込まれたとのことでした。危険な状態を脱した子犬たちのフォスターファミリーになってくれる家庭が募集されており、バイデン家も名乗りを挙げました。

そして迎えられたのがメイジャー。Major 日本語にすると少佐です。
これは2015年に46歳の若さで亡くなったバイデン氏の息子ボーさんが軍隊に所属していた時の階級です。

メイジャーは数ヶ月をバイデン家の預かりっ子として過ごした後、正式に家族として迎えられました。預かりボランティアが犬に情が移ってアダプトしてしまうことは(多くの場合)愛情とユーモアを込めて「フォスター落伍者」と呼ばれます。2018年にメイジャーがバイデン家の子になった時、あちこちのドッグサイトでこの呼び名が見出しに挙げられていました。

メイジャーはホワイトハウスで暮らす初めての保護犬になることも話題を集めています。
(保護犬というのが保護団体出身という意味では初めてなのですが、60年代JFKの副大統領で後に大統領になったジョンソン大統領は娘さんが拾った雑種犬のユキと暮らしていたので、厳密にはどうなの?という気はします。)

「オバマ家の犬は保護犬じゃなかったっけ?」と思われた方もいるかもしれません。詳しくはこちらを

チャンプは4年ぶりにホワイトハウスに戻り、今回は大統領一家の居住エリアの住民となります。
メイジャーもホワイトハウスの広い芝生の庭や長い廊下を気に入ってくれるといいですね。

こちらはチャンプとメイジャーの紹介から始まって、過去のファーストドッグも登場するニュース映像です。




↑の映像で、チャンプとメイジャーの後に最初に出てくる父ブッシュ大統領の愛犬ミリーはイングリッシュスプリンガースパニエル。
ブッシュ大統領自身も愛犬家でしたが、妻バーバラさんは特にミリーを溺愛しており、後に出版されたホワイトハウスの回顧録のタイトルはMillie's Bookでした。

バーバラさんはミリーに子犬を産ませており、ミリーはホワイトハウスで出産した数少ない犬の1匹です。
このことは当時「大統領一家がこんなことをすると犬の自家繁殖を推奨するような結果になりかねない。無責任ではないか」と物議を醸したそうです。

息子のジョージWブッシュ大統領も大の愛犬家で、ミリーの子犬の1匹は彼の犬になりました。息子ブッシュの愛犬と言えばスコティッシュテリアのミス・ビーズリーとバーニーが有名ですけれどね。

クリントン大統領就任時には犬はいなくて、ソックスという名の黒白ハチワレの猫が一緒でした。その名の通り靴下を履いたように足先の白い猫でした。クリントン一家は二期目の夏にチョコラブのバディを迎えました。
バディは5歳という若さで天国に行ってしまったのですが、一家はその後再びチョコラブを迎えています。

新しく大統領が選ばれるたびに愛犬や愛猫のことが話題になり、歴代大統領のペットについての特集記事なども組まれるので、私も歴代大統領の犬についてはちょっと詳しいです(笑
この記事もほとんど資料なしで書けてしまったくらいです(後で確認はしていますが)

チャンプとメイジャーのことは今後もしっかりとチェックしていくつもりです😉

セカンドファーストドッグ

これは2013年にdog actuallyに書いた記事です。
バイデン次期大統領の愛犬が話題になっているので、この記事も再掲しておきます。

(以下dog actually 2013-08-26 より)


(The White House from Washington, DC, Public domain, via Wikimedia Commons)


セカンド・ファーストドッグ、2頭目のファーストドッグですね。日本のニュースでも報道されていたのでご存知の方も多いかと思いますが、8月19日にオバマ大統領一家に新しい家族が加わったと発表がありました。ホワイトハウスの公式ブログで発表された犬の名前はサニー。先住犬のボーと同じく、ポーチュギーズウォータードッグという犬種です。
上の写真の左にいる胸と前足が白いのがボー、右側の真っ黒なのがサニーです。

2008年の大統領選の折、「当選したら子犬を迎える」とオバマ氏がお嬢さん2人に"公約"したエピソードは有名ですが、無事に当選した後にオバマ大統領は、「セカンドハンドの犬を迎えたい。」と発言しました。セカンドハンド=中古品、つまり保護犬を迎えたいという意味だったのですが、この発言に当時アメリカのみならず、隣国のカナダの動物保護団体までが色めき立ち、「ぜひうちの団体から!」の声が殺到して収集がつかなくなったという背景がありました。
結局、オバマ一家の長年の友人でもあるケネディ上院議員が間に入って、テキサスのブリーダーから迎えられたのがボーでした。ケネディ上院議員の愛犬はボーの同胎犬の一頭です。ボーは一度はある家庭に引き取られたのですが、何か事情があってブリーダーのところに戻って来た犬なので、確かに「セカンドハンドの犬」ではありました。
そんなこともあってか、今回はサニーが実際にホワイトハウスに到着するまで、2頭目の犬を迎えるという話題は出ていませんでした。去年の11月の大統領選で再選を決めた直後のスピーチで大統領は、「マリア、サーシャ、我が家の犬は1頭でいいと思うんだ。」と言って会場を沸かせていましたが、選挙直前の去年の10月には、ミシェル夫人がツイッターで「ボーには他の犬とのふれあいが足りないように思う。何か考えてやらないと」と書いていたので、2頭目計画は秘かに進行していたのかもしれませんね。
さて、ブリーダーや血統まで公式に発表されているボーと違って、サニーの出自についてはそれほど多く語られていません。現在1歳2ヶ月で、ミシガン州で産まれた雌犬ということだけが伝えられています。
このことに関して「今回も純血種の犬を迎えた。どうして大統領一家は保護犬を迎えるという選択をしないのか。」と批判する声も一部で上がっています。Humane Society of the United States(米国動物愛護協会)の代表ウェイン・パーセル氏も自身のブログで、保護犬を迎えることを考えて欲しかったと述べています。純血種の犬種別レスキューも多く存在しますから、純血種を迎えたからと言ってそれが保護犬ではないとは一概に言えないですし、サニーの1歳2ヶ月という年齢を考えても、何らかの形でレスキューされた犬である可能性もあるのでは?と私は勝手に推測しているのですが。
ちなみに、大統領一家はサニーを迎えたことを記念してWashington Humane Society(ワシントン動物愛護協会)に寄付をすることを発表しています。たとえサニーが保護犬ではなかったとしても、こうして国民の目が保護団体やそこで暮らしている動物達に向けられることは大歓迎ですね。
国内外の様々な問題や相変わらずの失業率の高さなどで支持率が低下気味のオバマ大統領ですが、サニーの役目はもちろんそんなこととは関係なく、ボーと楽しく遊ぶことが彼女の目下の一番の任務です。そしてサニーは今のところ、立派に勤めを果たしている様子。


5歳になって、今まで通り元気いっぱいながらも落ち着きが感じられはじめたボーと、名前の通り太陽のような性格だというサニーは、もうすでに仲の良い兄妹として認め合っているようですね。ボーは去勢手術済みなので、オバマ一家が自家繁殖を行うという可能性は全くありません。
最後にひとつ。4年前、ボーがホワイトハウスに来た時にポーチュギーズウォータードッグという珍しい犬種が話題になりましたが、現在もこの犬種は珍しいままで、話題になって町中で見かけるようになったと言う現象は起こっていません。
映画やCMで話題になった犬種が流行するという傾向の強いアメリカですから少し心配していたのですが、杞憂に終わってホッとしているところです。

2020/09/16

犬や猫の避妊去勢は社会の問題でもある

 この記事の前にカリフォルニア大学デイビス校が発表した犬種ごとの避妊去勢手術と特定の疾患の関連及び手術のガイドラインの研究について6回に分けて書きました。

言うまでもなく、当該の犬種と暮らしている方やこれから迎えようと考えている方にとっては貴重な情報です。
そして「うちの犬は雑種だからどう考えたら良いか分からない」と思う方がいても当然で、雑種犬の体重別のガイドラインというのもありがたい情報だと思います。

けれど、特に最後の雑種犬の体重別ガイドラインをまとめながらどうしても引っかかると言うか、うっすらとわだかまる感じが離れずにいました。

そのわだかまりの理由ははっきりと分かっています。
雑種犬と言えば、その大半を占めるのは保護犬です。アメリカにおいて保護犬と避妊去勢手術は切っても切れないものですから「体重20kg以上の犬の避妊去勢手術は生後1年を過ぎてから」とタイプしながら、そんなこと言われても無理なものは無理じゃないさと悪態をついたりしていたのでした😓
避妊去勢手術をしなければ譲渡ができない保護犬の手術を1年や2年待っていたら、公営シェルターなら飼育する場所がなくなって殺処分になるかもしれない。預かりボランティアの家で保護されている場合、1年も2年も預かっている間のその家庭は他の犬を預かれない。預かり先を確保できないと殺処分になる犬が出る可能性もある。
保護犬の避妊去勢手術を年単位で保留することは、あっという間に犬たちの命を脅かすことにつながります。

                                             Image by 41330 from Pixabay 


殺処分を減らすために尽力して来た先人たち

うちの2匹の犬たちが保護犬であるため、思い入れがあるのも確かですが、ほぼ10年に渡って犬の記事を書くうちに読んだり、時にはお目にかかったりして来た、犬猫の殺処分を減らすために尽力されて来た方々の功績が頭に浮かんだということもあります。

70年代初頭、ロサンゼルス市は1960年に統計を取り始めて以来最高に達する数の犬猫の殺処分を行いました。その数は1年で11万頭以上。
ロサンゼルス市はアメリカで初めて公共サービスとして低価格の犬猫避妊去勢手術を提供し始めました。

公共サービスだけでなく、のちにアメリカの犬猫避妊去勢手術の師匠とも言える存在となったW.マーヴィン・マッキー獣医師が低価格の避妊去勢専門クリニックをオープンしたのが70年代中頃でした。
マッキー獣医師は1頭でも多くの動物を手術できるよう簡便でスピーディーな手術法を考案し、その方法を録画したDVDを世界中の動物保護施設に無料で配布しました。
日本を代表する動物保護団体であるアニマルレフュージ関西にもDVDが配布され、2012年に見学に伺った際にエリザベス・オリバーさんからそのコピーを頂いたのが、私がマッキー獣医師のことを知ったきっかけでした。

マッキー獣医師は早期の手術を推奨してこられました。21世紀の現在の獣医学では、それは必ずしも正しいとは言えないようです。
しかし1971年に年間11万頭以上の犬猫が殺処分されていたロサンゼルス市では、マッキー獣医師をはじめとする先人たちの努力によって2019年の殺処分数は年間3200頭を下回っています。LAの公営シェルターに連れてこられた犬猫の約90%は生きてシェルターを出て譲渡、預かり、返還されています。

新しい研究結果にはもちろん敬意を表し尊重したいと思います。しかし先人の辿ってこられた軌跡もまた敬意を持って憶えておきたいと思うんですよ。

ちなみに猫に関しては、現在も6ヶ月齢以前の避妊去勢手術が重要であると考えられています。犬と違って猫は生後6ヶ月ですでに妊娠出産する能力があるからです。

マッキー獣医師については以前にdog actuallyで詳しく書いた記事があります。


なぜ代替方法に言及しない?

以前にアレクサンドラ・ホロウィッツ博士が犬の避妊去勢手術について待ったをかけるコラムを発表した時に「大事なのはするかしないかだけじゃないんだよ」という記事を書いたことがあります。

性ホルモンの分泌を残したまま生殖能力だけを取り除く医療処置はいくつかあります。
(以前に書いた内容は少しアップデートが必要になっているので、また改めて紹介します)
UCデイビス校は、従来の避妊去勢手術による疾患の可能性をこれだけ述べているのに、なぜそのような代替の方法について言及しないんだろう?
これが私がわだかまりを感じていたもう1つの理由です。

それが論文の直接のテーマでないことは承知していますが、「保護犬は法律で手術が義務付けられていることもあり」という記述はあるのに、代替方法については何もない。

従来の方法が健康を害する可能性があるというなら、代わりの方法がありますよくらいのことは教えてくれても良さそうなものなのにねえ。


最後に

何度も同じことを書いていますが、犬や猫の避妊去勢は社会の問題でもあるという側面があります。
アメリカでも避妊去勢手術と疾患の関連が発表されて以来、犬猫の過剰頭数問題に取り組んで来た人たちと、医療関係者の間で議論が続いています。

アメリカでは多くの州で個人の自家繁殖を制限する法律があり、そのためにごく普通の一般家庭で飼い犬に子供を産ませることはほとんどありません。一般家庭でそんなことをするのはホビーブリーダーと呼ばれる犬種保存のために真剣に取り組んでいる人か(もちろん許可証を取っている)、全く反対に規制なんて気にも留めずに小銭を稼ぐために自家繁殖をするバックヤードブリーダーというちょっとまずい人々です。
(州法や条例が緩い所もあるので、悪びれずにアクシデントの繁殖を繰り返すような“普通の人々”もいるにはいる)

一方、日本ではペットの自家繁殖に何の制限もありません。そんな状態で「避妊去勢手術は健康に影響が出る」という情報が中途半端に蔓延すると、どうなるだろうか?😨


だから私は微力ながらも、避妊去勢手術と疾患の関連について書いた時には、このようにくどいくどい注釈を毎度毎度付け足しています。



《参考URL》



2020/09/14

UCデイビス校獣医学部によるミックス犬体重別避妊去勢手術ガイドライン

カリフォルニア大学デイビス校獣医学部が、35の犬種について避妊去勢手術と関節障害やガンのリスク増加の関連、それに伴う手術のガイドラインを発表したことをお伝えして来ました。
UCデイビス校獣医学部による35犬種の避妊去勢手術ガイドライン

研究チームは35犬種に続いてミックス犬の避妊去勢と疾患の関連、それに伴って避妊去勢手術の体重別ガイドラインも発表しました。
以前の犬種別の論文で使用されたのと同じデータベースを使用して、体重を5段階に分けたミックス犬のデータ分析が行われました。

調査の対象となったのは、関節障害では股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全の3種類、ガンではリンパ腫、肥満細胞腫、血管肉腫、骨肉腫の4種類です。
他にメス犬の乳腺腫瘍(早期避妊によって発病率が低下すると言われている)、子宮蓄膿症(避妊手術によって完全に予防できる)、尿失禁(避妊手術の影響で発症することがある)についても調査されていますが、これらについては実際に発病が増加する10歳以降のデータはほとんど含まれていない点は注意が必要です。
以上の条件は全て、純血種35種のガイドラインと共通するものです。

体重のカテゴリーは、10kg未満、10kg以上20kg未満、20kg以上30kg未満、30kg以上40kg未満、40kg以上の5段階でした。順を追って調査結果を記していきます。



体重10kg未満



研究対象となったのは計739頭。内訳は、未去勢オス152頭、去勢済みオス201頭、未避妊メス148頭、避妊済みメス238頭。

関節障害は未去勢オスで1例、未避妊メスの5%で報告されているが、オスメス共に避妊去勢によるリスクの増加は見られませんでした。
ガンは未去勢オスで7%、未避妊メスで2%、オスメス共に避妊去勢によるリスク増加は見られませんでした。

未避妊の6%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの5%が乳腺腫瘍と診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の3%で診断されました。尿失禁はありませんでした。  

純血種の多くの小型犬と同じく、10kg未満のミックス犬では避妊去勢手術による関節障害およびガンのリスク増加の関連は見られませんでした。
避妊去勢手術をする場合はかかりつけの獣医師と相談の上で決定することが大切です。


体重10kg以上20kg未満


研究対象となったのは計546頭。内訳は、未去勢オス94頭、去勢済みオス114頭、未避妊メス90頭、避妊済みメス248頭。

関節障害は未去勢オスと去勢済みオスに各1例ずつ、未避妊のメスでは5%で確認されましたが、避妊去勢手術によるリスクの増加はありませんでした。
ガンは未去勢オスでは7%、未避妊メスでは2%で確認され、やはり手術によるリスクの増加は見られませんでした。

未避妊の7%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの4%が乳腺腫瘍と診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の5%で診断されました。尿失禁は6ヶ月齢〜1歳の期間に避妊手術をしたメスの4〜6%で確認されました。  
10kg未満のグループと同じく、避妊去勢手術と関節障害およびガンのリスク増加の関連は見られませんでした。
避妊去勢手術をする場合はかかりつけの獣医師と相談の上で決定することが大切です。


体重20kg以上30kg未満



研究対象となったのは計992頭。内訳は、未去勢オス154頭、去勢済みオス257頭、未避妊メス129頭、避妊済みメス452頭。
このグループは避妊去勢と疾患の関連についての研究のきっかけとなったゴールデンレトリーバー 、ラブラドール、Gシェパードなどの犬のサイズカテゴリーです。

関節障害は未去勢オスでは3%、去勢時に6ヶ月齢未満と6ヶ月齢〜1歳未満ではどちらも5%に上昇しました。未避妊のメスでは4%で、避妊手術時6ヶ月齢未満では10%、6ヶ月齢〜1歳未満では12%と大幅に上昇しました。
オスメス共に1歳を超えてからの手術では関節障害の発病は増加しませんでした。
ガンは未去勢オス未避妊メス共に3%で確認されたが、手術によるリスクの増加は見られませんでした。

乳腺腫瘍は未避妊の4%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの2%が診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の5%で診断されました。尿失禁は1歳未満で避妊手術をしたメスの3%で確認されました。  
推奨されるガイドラインは、関節障害のリスク増加の点からオスメス共に1歳以降に手術をすることとしています。


体重30kg以上40kg未満


研究対象となったのは計604頭。内訳は、未去勢オス176頭、去勢済みオス196頭、未避妊メス57頭、避妊済みメス175頭’。

関節障害は未去勢オスでは8%で、6ヶ月齢未満の去勢では17%に、6ヶ月齢〜1歳未満では11%と増加リスクが上昇している。未避妊のメスでは関節障害の例は0だったが、6ヶ月齢未満の避妊手術では10%、6ヶ月齢〜1歳未満では23%と大幅に増加しました。
ガンは未去勢オスの発生率は15%で、有意とまでは言えないものの去勢されたグループよりも高かった。未避妊メスでは13%で確認され、やはり避妊済みのグループよりも有意とまでは言えないものの高かった

乳腺腫瘍は未避妊の2%と、2〜8歳での避妊手術をしたうちの4%が診断されています。
子宮蓄膿症は未避妊の7%で診断されました。尿失禁は6ヶ月齢未満で避妊手術をしたうちの9%で診断されました。  

推奨されるガイドラインは、関節障害のリスク増加の点からオスメスともに1歳以降に手術をすることで、これはメスの尿失禁のリスク回避にもなります。



体重40kg以上


研究対象となったのは計258匹。内訳は、未去勢オス88匹、去勢済みオス107匹、未避妊メス17匹、避妊済みメス46匹。

関節障害は未去勢オスでは9%で、6ヶ月齢未満の去勢では28%に、6ヶ月齢〜1歳未満では11%、1歳での手術でもなお11%と増加リスクが上昇している。未避妊のメスでは関節障害の例は17%で避妊手術による増加は見られませんでした
ガンは未去勢オスの発生率は10%、未避妊メスでは6%で確認され、避妊去勢手術による増加は見られませんでした

乳腺腫瘍の発生は確認されず、子宮蓄膿症は未避妊の16%で診断されました。(ただし、どちらもこの体重カテゴリーの未  避妊メスのサンプル数の少なさは考慮する必要があります)尿失禁は6ヶ月齢未満で避妊手術をしたうちの9%で診断されました。  

推奨されるガイドラインは、関節障害のリスク増加の点からオスでは2歳以降の手術を、メスでは関節障害の増加は見られませんが超大型犬は筋骨格の成長スピードが遅いことから手術をする場合は1歳以降を推奨します。


ガイドラインまとめ

それぞれの体重別のガイドラインは以上です。
このリサーチの主要な発見の1つはミックスまたは雑種と呼ばれる犬であっても、体重と避妊去勢と関節障害のリスク増加に関連性が見られたことです。

体重20kgを境にして、これを越えると早期の避妊去勢手術によって関節障害が発病するリスクが高くなっています。
体重20kg未満の犬では避妊去勢による関節障害リスクの増加は見られません。

ガンに関しては全ての体重カテゴリーで避妊去勢手術との明確な関連はありませんでした。これはミックス犬が持つ様々な犬種の多様性が、特定の犬種固有の対ガンの脆弱性を薄めていると言えそうです。

ミックス犬または雑種犬と避妊去勢手術というテーマで、最も大きな問題はその多くが保護犬であるという点でしょう。
アメリカの多くの州では、レスキューグループや保護施設が犬を譲渡する際には避妊去勢手術済みであることが法律で義務付けられています。そのような場合は「手術は1歳過ぎてからにしましょう」というような選択肢はありません。
かと言って、このようなガイドラインが無駄だというわけではありません。
成犬になった時の体重が20kgを越える犬は、関節障害のリスクが最大で20%程度高くなることを考えて、体重過多にならないよう管理をしっかりする、適切な運動で筋肉を保つ、定期的な健康診断を欠かさないなど対策をとっておきましょう。

犬の関節障害に関しては犬種ごとの遺伝子研究が多く行われています。まだ疾患に関連する遺伝子の特定はできていませんが、遺伝子座(遺伝子の位置)までは判ってきています。(ものすごくザックリ言いますと「これだ」と特定はできないが「だいたいこの辺りの遺伝子」という目星は付いているという状態です。)
股関節形成不全や前十字靭帯断裂などの遺伝子検査ができるようになれば、無駄に不安を抱える必要が無くなりますね。
イギリスでは関節障害のある犬を徹底して繁殖から外すよう管理した結果、ラブラドールやロットワイラー、ジャーマンシェパードなどの健全性が高くなっているという報告もあります。
避妊去勢手術は確かにリスク要因になり得ますが、遺伝的要因という最大のリスク要因があるということは多くの飼い主さんに知っておいていただきたい点です。


最後に

上にも書いた通り、保護犬にとって避妊去勢手術は避けて通れない道です。
この点については次の記事で、ロサンゼルス市が辿って来た歴史、殺処分率を下げるために奮闘して来られた獣医師について書きたいと思います。

それにしてもカリフォルニア大学デイビス校獣医学部はアメリカの獣医学教育のトップレベルだと思うのですが、なぜ従来の避妊去勢手術のリスクを挙げるばかりで精管結紮や卵管結紮(または卵巣温存)などの代替手段に全く言及しないんでしょうね😒




2020/09/02

35犬種の避妊去勢手術ガイドライン5 犬種別P〜Y

カリフォルニア大学デイビス校が発表した犬種別の避妊去勢時期のガイドラインにおいて、リストアップされた35犬種最後のグループP~Yで始まる犬種の具体的な数字です。

毎回書いていますが、統計の中で「ガン」と示されているのは血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、リンパ腫のどれかを指します。
関節障害については、股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全のどれかです。
上記のガンと関節障害の他に、乳腺腫瘍(2歳以前の避妊手術で予防効果が高いと言われる)、子宮蓄膿症(避妊手術で完全に予防できる)、尿失禁(避妊手術後に発症する場合がある)についても触れられています。ただしこれらの疾患は10歳以降に顕著に増加するのですが、このデータでは10歳以上の犬がほとんど含まれていないため、データとして限界があると研究者自身が述べています。

また各ガイドライン内で挙げられている疾患の発病率は、この研究対象集団(カリフォルニア大学デイビス校大学病院で診断された犬たち)の中での比率で、犬種全体の疾患の発病率ではないことにご注意ください。


ポメラニアン

Image by Sophia Nel from Pixabay 

研究対象となったのは計322頭。内訳は未去勢オス84頭、去勢済みオス69頭、未避妊メス65頭、避妊済みメス104頭
  • 避妊去勢の有無に関わらず、関節障害の発病は見られなかった
  • ガンに関しても避妊去勢によるリスク増加は見られなかった
  • 未避妊メスで乳腺腫瘍が1例、子宮蓄膿症は7%に見られた
  • 尿失禁の発生は見られなかった
  • 推奨ガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られないため、避妊去勢手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること

プードル(トイ)

Image by Satoshi Kawaguchi from Pixabay 

なんと!アメリカンケネルクラブではトイ、ミニチュア、スタンダードの3つのプードルを全部同じ一つの犬種として登録しているそうです。
しかしこのガイドラインにおいて、小型犬のトイプードルと大型犬のスタンダードプードルを一緒にすることはデータの有効性の上からも疑問なので3種のプードルは個別に扱われています。

研究対象となったのは計238頭。未去勢オス49頭、去勢済みオス53頭、未避妊メス58頭、避妊済みメス78頭

  • 関節障害は未去勢のオスで4%に、未避妊のメスでは0で、避妊去勢手術によるリスクの明らかな増加は見られなかった
  • ガンは未去勢のオスで2%に、未避妊のメスでは0、手術済みのオスメス共にガンの発病は見られなかった
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍は1例のみ、子宮蓄膿症と尿失禁はどちらも0だった
  • 推奨ガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られないため、避妊去勢手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※下のミニチュアプードルの項目もご覧ください


プードル(ミニチュア)

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日本ではあまり見かけませんが、アメリカでは小さい方のプードルと言えばトイよりもミニチュアの方が多いように思います。
ミニチュアプードルは体高28〜35cm、体重5.4〜9kgくらいとされているので、小型犬と中型犬のギリギリ境界線で小型犬という感じでしょうか。

研究対象となったのは計200頭。内訳は未去勢オス41頭、去勢済みオス60頭、未避妊メス30頭、避妊済みメス69頭

  • オスメス共に避妊去勢していないグループでは関節障害の発病は0だったが1歳未満で去勢されたオスでは前十字靭帯断裂の発病が9%と有意な増加を見せた。避妊済みメスでは関節障害の発病は無かった
  • 未去勢オスのガンの発病率は5%、未避妊メスでは0。避妊去勢済みのガン発病リスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍は2〜8歳の間に避妊手術をしたメスで1例のみ、子宮蓄膿症は未避妊メスの6%で確認、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊手術で1例
  • 推奨ガイドラインは、1歳未満での去勢手術に伴って関節障害の有意な増加が見られたため去勢手術は1歳以降を推奨メスでは避妊手術との関連は見られないため、手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※ミニチュアプードルで報告された前十字靭帯断裂ですが、アメリカでは一般的に大型犬または超大型犬の疾患と考えられています。しかし日本ではトイプードルの前十字靭帯断裂はとても一般的なものだとされているので、トイプードルを飼っている方はこの点にご注意ください。
前十字靭帯断裂は遺伝的要因の強い疾患であることが判っていますので、日本においてトイプードルが長期的に超人気犬種であるがゆえの乱繁殖と、疾患の多発は無関係ではないと思われます。


プードル(スタンダード)

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研究対象となったのは計275頭。内訳は未去勢オス47頭、去勢済みオス88頭、未避妊メス53頭、避妊済みメス87頭

  • 未去勢オス、未避妊メス共に2%に関節障害が発病していた。6ヶ月齢未満での去勢では関節障害の増加はあったが“有意”のラインである8%には達しなかった。避妊済みメスでは関節障害の発病は0だった
  • 未去勢オスのガンの発病率は4%、未避妊メスでは2%。1歳時に去勢したオスではガンの発病率が27%に増加し、それらは全てリンパ腫だった。避妊済みのメスではガンの有意な増加は見られなかった。
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍の発病は4%、子宮蓄膿症は2%、尿失禁は2歳以降で避妊手術をした1例のみ
  • 推奨されるガイドラインは、去勢に伴うリンパ腫の増加に基づいて、オスの去勢手術は2歳以降を推奨。メスでは避妊手術との関連は見られないため、手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること


パグ

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研究対象となったのは計383頭。内訳は未去勢オス96頭、去勢済みオス106頭、未避妊メス63頭、避妊済みメス118頭

  • 避妊去勢手術による関節障害発病リスクの増加は見られなかった
  • 未去勢オスのガンの発病率は6%、未避妊メスでは8%で、避妊去勢によるガンのリスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍の症例は0で、子宮蓄膿症は未避妊メスの5%に発病、尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られなかったため、手術を希望する場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※パグの場合はこの研究対象となっている関節障害とは違いますが、骨格または神経障害から来ると考えられる歩行障害が3匹に1匹という高い割合で見られるという研究も発表されています。その他にも健康上の問題の多い犬種であることは認識しておく必要があります。


ロットワイラー

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ロットワイラーも、ジャーマンシェパードやラブラドールと並んで関節障害が多い犬の定番としてその名が上がります。

研究対象となったのは計849頭。内訳は未去勢オス315頭、去勢済みオス152頭、未避妊メス143頭、避妊済みメス239頭

  • 関節障害は未去勢オスで8%、未避妊メスで16%と既に高い割合で発病しているオス6ヶ月齢未満での去勢では10%、6ヶ月〜1歳未満での去勢では22%と有意に増加していた。メスではさらに顕著で、6ヶ月齢未満の避妊手術では43%の発病率となった。関節障害の主なものは前十字靭帯断裂だった
  • ガンは未去勢のオスで16%、未避妊のメスで11%と比較的高い発病率を示しているが、避妊去勢手術による増加は見られなかった
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍は8%、2〜8歳で避妊手術で5%の発病率を示した。未避妊メスの子宮蓄膿症は12%、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊で4%、6ヶ月〜1歳未満の避妊手術では6%だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは1歳未満の去勢手術による関節障害リスクのため1歳以降の手術、メスでは同じく関節障害リスクのため6ヶ月齢以降を推奨(乳腺腫瘍、子宮蓄膿症も比較的高い数字であることを考慮しても良さそうです。)

セントバーナード

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セントバーナードも超大型犬種として研究対象に選ばれましたが、サンプル数は少なく、研究対象となったのは計94頭、未去勢オス26頭、去勢済みオス27頭、未避妊メス18頭、避妊済みメス23頭

  • 関節障害は未去勢オスで8%、未避妊メスで6%。オスでは去勢手術による関節障害のリスク増加は見られなかったが、6ヶ月齢未満での避妊手術をしたメスでは関節障害は100%発病していた(100%という数字はサンプル数の少なさによるところが大きい。具体的には避妊済みメス23頭のうち、6ヶ月齢未満で手術を受けたのは4頭。)
  • ガンは未去勢オスで4%、未避妊メスで11%だが、避妊去勢による顕著な増加はなかった
  • 乳腺腫瘍の発生は0で、子宮蓄膿症は15%、尿失禁は0だった(子宮蓄膿症に関しては15%という数字は高めに見えるが、サンプル数が少ないため実際には3例です。)
  • 推奨されるガイドラインは、オスではガンや関節障害と去勢の関連は見られず、メスでは6ヶ月齢未満で関節障害のリスクが高くなっているが、超大型犬は骨格や筋肉の発達がゆっくりなので、オスメス共に1歳以降が望ましい

シェトランドシープドッグ

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研究対象となったのは計133頭。内訳は未去勢オス31頭、去勢済みオス30頭、未避妊メス20頭、避妊済みメス52頭

  • 関節障害は未去勢オスでは0、未避妊メスで1例、去勢済みオスでは6ヶ月齢未満での手術の1例、避妊済みメスでは0
  • ガンは未去勢オスでは6%、未避妊メスでは0。避妊去勢手術によるリスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍の発病は0、子宮蓄膿症は14%で確認、尿失禁は1歳時の避妊手術では33%で発病していた(この犬種も研究対象となったサンプル数が少ないことは考慮に入れておいた方が良いと思います。)
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは関節障害やがんの顕著な増加は見られないため獣医師と相談の上で適切な時期を決定、メスでは尿失禁を回避するために2歳以降の手術を検討

シーズー

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小型犬の中では例外的に避妊手術の影響が認められた犬種です。
研究対象となったのは計432頭。内訳は未去勢オス104頭、去勢済みオス112頭、未避妊メス77頭、避妊済みメス139頭


  • 避妊去勢の有無、性別に関わらず、関節障害の発病は無かった
  • ガンは未去勢オス、未避妊メス、去勢済みオスでは0。6ヶ月例〜1歳未満で手術をしたメスでは7%、1歳時の避妊手術では18%に達した
  • 乳腺腫瘍は未避妊メスの3%、子宮蓄膿症は5%、尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは獣医師と相談の上で適切な時期を決定。メスではガンリスクの増加を受けて、2歳以降または6ヶ月齢に達する1〜2ヶ月前の避妊手術を推奨

ウエストハイランドホワイトテリア

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研究対象となったのは計142頭。内訳は未去勢オス35頭、去勢済みオス33頭、未避妊メス28頭、避妊済みメス46頭

  • 未去勢オスで1例の関節障害が確認されたが、去勢済みオス、未避妊メス、避妊済みメスのいずれも関節障害の発病は0だった
  • ガンもいずれのグループも発病が確認されなかった
  • 乳腺腫瘍の発生は0、子宮蓄膿症は未避妊メスの7%、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊では14%、6ヶ月齢〜1歳未満の手術では6%で見られた
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは獣医師と相談の上で適切な時期を決定。メスでは尿失禁のリスクを回避するため1歳以降の避妊手術を検討


ヨークシャーテリア

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研究対象となったのは計685頭。内訳は未去勢オス134頭、去勢済みオス178頭、未避妊メス144頭、避妊済みメス229頭

  • 関節障害は未処置のオスメスで1%、避妊去勢手術による顕著な増加はなかった
  • ガンについても未処置のオスメスで1%、避妊去勢手術による顕著な増加はなかった
  • 乳腺腫瘍は未避妊メスで1%、2〜8歳時の避妊手術で1%。子宮蓄膿症は7%で確認。尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、関節障害やガンと避妊去勢手術の関連が見られないので獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること

35犬種のガイドラインとしてリストアップされた犬種は以上です。
この後引き続き同研究者チームによる、ミックス犬体重別避妊去勢のガイドラインをアップして行きます。





《参考URL》

Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full





2020/08/26

35犬種の避妊去勢手術ガイドライン4 犬種別G〜M

 UCデイビス校獣医学部が発表した犬種別の避妊去勢時期のガイドラインにおいて、リストアップされた35犬種のアルファベットG〜Mで始まる犬種の具体的な数字です
このガイドラインについては、いくつかに分けてブログをアップしていますが今回のG〜M にはこの研究の元祖となった避妊去勢の影響が顕著に現れる人気犬種ジャーマンシェパードやゴールデンレトリーバー が含まれています。
人気犬種であるためにいい加減な繁殖が蔓延していることも影響しているかもしれないですね。

統計の中でのガンは血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、リンパ腫のどれかを指します。
また関節障害は股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全のどれかです。

上記のガンと関節障害の他に、乳腺腫瘍(2歳以前の避妊手術で予防効果が高いと言われる)、子宮蓄膿症(避妊手術で完全に予防できる)、尿失禁(避妊手術後に発症する場合がある)についても触れられています。ただしこれらの疾患は10歳以降に顕著に増加するのですが、このデータでは10歳以上の犬がほとんど含まれていないため、データとして限界があると研究者自身が述べています。

また各ガイドライン内で挙げられている疾患の発病率は、この研究対象集団(カリフォルニア大学デイビス校大学病院で診断された犬たち)の中での比率で、犬種全体の疾患の発病率ではないことにご注意ください。


ジャーマンシェパード

Image by Yama Zsuzsanna Márkus from Pixabay 


ジャーマンシェパードは関節の疾患の多い犬種として知られていますが関連する遺伝子の研究も進んで来ています。
極端に傾斜した背中のラインを作り出す選択繁殖も、欧州では止めようという働きかけが始まっていますので、GSの未来に期待したいと思います。

研究対象となったのは1,257頭で、内訳は未去勢のオス514頭、去勢済みオス272頭、未避妊のメス173頭、避妊済みメス298頭

  • 未去勢のオスの関節障害発病率は6%、未避妊のメスでは5%
  • オスの関節障害は6ヶ月齢未満去勢で19%、6ヶ月〜1歳未満で18%、1〜2歳未満では9%に増加。メス6ヶ月齢未満避妊手術では20%、6ヶ月〜1歳未満で15%に増加
  • オスメス共に、避妊去勢手術はガンのリスク増加とは関連していなかった
  • 未避妊のメスの乳腺腫瘍発病率は5%で、2〜8歳の避妊手術では6%
  • 未避妊のメスの子宮蓄膿症は3%、尿失禁は6ヶ月未満で避妊手術したメスの9%
  • 推奨されるガイドラインは、オスの去勢は関節障害を考慮して2歳以降、メスは関節障害と尿失禁を考慮して2歳以降とする


ゴールデンレトリーバー 

Image by Sabine Runge from Pixabay 


世界中で愛される超人気犬種ですが、様々な種類のガンの発症率の高さでよく知られています。
GRのガンに特化した研究も多く行われているので、いつの日かこの悲しい特徴が無くなって欲しいものです。

研究対象となったのは1,247頭、未去勢のオス318頭、去勢済みオス365頭、未避妊メス190頭、避妊済みメス374頭

  • 未去勢のオスの関節障害発病率は5%、未避妊のメスでは4%
  • オスの関節障害は6ヶ月齢未満の去勢では25%、6ヶ月〜1歳未満では11%と有意に増加。メスでは6ヶ月齢未満では18%、6ヶ月〜1歳未満では11%と増加した
  • ガンについてはオスは未去勢でも発病率が15%と高く、6ヶ月齢未満の去勢では19%、6ヶ月〜1歳未満では16%とやや増加した
  • 未避妊のメスのガンの発生率は5%だが、避妊手術時6ヶ月齢未満では11%、6ヶ月〜1歳未満では17%、1歳で14%、2〜8歳では14%と避妊手術の時期がいつであっても有意に増加していた
  • 未避妊のメスの乳腺腫瘍発病率は1%、2〜8歳で手術した場合は4%
  • 未避妊のメスの子宮蓄膿症発病率は4%、尿失禁は報告されていない
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは関節障害やガンのリスク増加に基づいて去勢手術は1歳以降、メスの場合は全ての避妊年齢でのガンリスク増加に基づいて避妊手術をしない、または1歳で手術してガンに対する警戒を続けることを推奨


    グレートデーン

    Image by Capri23auto from Pixabay 


    関節疾患のリスクが高いと思われる超大型犬種ですが、ちょっと意外な結果が出ています。

    研究対象となったのは353頭、未去勢のオス90頭、去勢済みオス103頭、未避妊メス69頭、避妊済みメス91頭

    • 関節障害は未去勢オスで1%、未避妊メスで2%と低く、避妊去勢手術とリスク増加の関連も見られなかった
    • 未去勢オスのガンの発病率は6%、未避妊メスでは3%。どちらも避妊去勢手術とリスク増加の関連は見られなかった
    • 未避妊のメスの乳腺腫瘍発病率は2%で、子宮蓄膿症は6%で診断された。尿失禁は報告されていない
    • 推奨されるガイドラインは、避妊去勢とガンや関節障害との関連は見られないが、体のサイズが大きいため筋骨格系の発達が遅いという生理学を考慮すると、避妊去勢手術は1歳以降が望ましい

    アイリッシュウルフハウンド

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    グレートデーンと並ぶ超大型犬種の代表。
    アメリカでは飼育数が少なく、サンプル数がかなり少ないのですが、超大型犬種の分析のために選ばれました。

    研究対象となったのは86頭で、未去勢オス30頭、去勢済みオス19頭、未避妊メス21頭、避妊済みメス16頭
    • 関節障害は未去勢オスで7%、未避妊メスでは0、避妊去勢手術済みの個体では関節障害は見られなかった
    • 未去勢オスのガンの発病率は8%、未避妊のメスでは21%と高い数字が見られた。1歳時に去勢したオスではガンの発病率は25%に増加、避妊済みメスではガンの増加は見られなかった
    • 乳腺腫瘍の発生は0で、子宮蓄膿症は5%で診断された。尿失禁は報告されていない
    • 推奨されるガイドラインは、オスの去勢手術ではガンの発生を考慮して2歳以降を、メスではガンや関節障害との関連は見られないが、体のサイズが大きいため筋骨格系の発達が遅いという生理学を考慮すると、避妊手術は1歳以降が望ましい


    ジャックラッセルテリア

    Image by Ella_87 from Pixabay 

    研究対象となったのは全部で376頭。内訳は未去勢オス92糖、去勢済みオス87頭、未避妊メス84頭、避妊済みメス113頭。

    • 関節障害は未去勢オスでは0、未避妊メスで2%と低く、避妊去勢手術との関連も見られなかった
    • ガン発病も未去勢オスで3%、未避妊メスでは0で、手術との関連は見られなかった
    • 未避妊メスでは乳腺腫瘍と子宮蓄膿症の発病率はそれぞれ1%。2〜8歳の避妊手術では乳腺腫瘍が3%で診断された。尿失禁は診断されなかった
    • 推奨ガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られないため、避妊去勢手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること

    ラブラドールレトリーバー

    Image by DesignerColeman from Pixabay 

    ゴールデンレトリーバー と並ぶ超人気犬種ですが、ラブラドールも関節障害が宿命のように思われている節があります。しかしイギリスでは関節障害を持つ犬のスクリーニングをしっかりと行い繁殖の管理に適用した結果、関節障害を持つ犬の数が減少しているというリサーチ結果が報告されています。股関節形成不全などの関節障害は決して避けられない運命ではないことが明らかになって来ています。

    研究対象となったのは1,933頭、内訳は未去勢オス714頭、去勢済みオス381頭、未避妊メス400頭、避妊済みメス438頭

    • 未去勢のオス、未避妊のメス共に関節障害があったのは6%。6ヶ月齢未満で去勢したオスでは13%に増加し、6ヶ月未満で避妊手術をしたメスでは11%、6ヶ月〜1歳未満では12%に増加した。
    • 未去勢のオスのガンの発病率は8%、未避妊のメスでは6%で、避妊去勢手術はリスク増加に関連していなかった
    • 未避妊のメスの乳腺腫瘍の発病率は1%、2〜8歳で手術した場合は2%だった
    • 未避妊メスの子宮蓄膿症は2%、尿失禁は避妊済みメスの2〜3%で報告された
    • 推奨ガイドラインは、関節障害の増加を考慮してオスの去勢は6ヶ月齢以降、メスの避妊手術は1歳以降とする


    マルチーズ

    Image by RitaE from Pixabay 


    研究対象となったのは272頭、内訳は未去勢オス49頭、去勢済みオス72頭、未避妊メス65頭、避妊済みメス86頭。

    • 避妊去勢の状態に関わらず、関節障害の発生は0だった
    • ガンも未避妊のメスで1例のみで、他では報告がなかった
    • 乳腺腫瘍は2〜8歳で避妊手術を受けたうちの1匹のみ、子宮蓄膿症、尿失禁は発生しなかった
    • 推奨ガイドラインは、避妊去勢をする場合は獣医師と相談して適切な時期を決定する


    ミニチュアシュナウザー
    Image by Free-Photos from Pixabay 


    研究対象となったのは231頭、内訳は未去勢オス47頭、去勢済みオス63頭、未避妊メス25頭、避妊済みメス96頭。


    • 避妊去勢の状態に関わらず、関節障害の発生は0だった
    • ガンの発病率は未去勢オスで4%、未避妊のメスでは0。避妊去勢手術によるリスク増加は見られなかった
    • 乳腺腫瘍の発病は0、子宮蓄膿症は4%、尿失禁は発生しなかった
    • 推奨ガイドラインは、避妊去勢をする場合は獣医師と相談して適切な時期を決定する


    《参考URL》
    Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
    https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full


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