2020/09/02

35犬種の避妊去勢手術ガイドライン5 犬種別P〜Y

カリフォルニア大学デイビス校が発表した犬種別の避妊去勢時期のガイドラインにおいて、リストアップされた35犬種最後のグループP~Yで始まる犬種の具体的な数字です。

毎回書いていますが、統計の中で「ガン」と示されているのは血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、リンパ腫のどれかを指します。
関節障害については、股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全のどれかです。
上記のガンと関節障害の他に、乳腺腫瘍(2歳以前の避妊手術で予防効果が高いと言われる)、子宮蓄膿症(避妊手術で完全に予防できる)、尿失禁(避妊手術後に発症する場合がある)についても触れられています。ただしこれらの疾患は10歳以降に顕著に増加するのですが、このデータでは10歳以上の犬がほとんど含まれていないため、データとして限界があると研究者自身が述べています。

また各ガイドライン内で挙げられている疾患の発病率は、この研究対象集団(カリフォルニア大学デイビス校大学病院で診断された犬たち)の中での比率で、犬種全体の疾患の発病率ではないことにご注意ください。


ポメラニアン

Image by Sophia Nel from Pixabay 

研究対象となったのは計322頭。内訳は未去勢オス84頭、去勢済みオス69頭、未避妊メス65頭、避妊済みメス104頭
  • 避妊去勢の有無に関わらず、関節障害の発病は見られなかった
  • ガンに関しても避妊去勢によるリスク増加は見られなかった
  • 未避妊メスで乳腺腫瘍が1例、子宮蓄膿症は7%に見られた
  • 尿失禁の発生は見られなかった
  • 推奨ガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られないため、避妊去勢手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること

プードル(トイ)

Image by Satoshi Kawaguchi from Pixabay 

なんと!アメリカンケネルクラブではトイ、ミニチュア、スタンダードの3つのプードルを全部同じ一つの犬種として登録しているそうです。
しかしこのガイドラインにおいて、小型犬のトイプードルと大型犬のスタンダードプードルを一緒にすることはデータの有効性の上からも疑問なので3種のプードルは個別に扱われています。

研究対象となったのは計238頭。未去勢オス49頭、去勢済みオス53頭、未避妊メス58頭、避妊済みメス78頭

  • 関節障害は未去勢のオスで4%に、未避妊のメスでは0で、避妊去勢手術によるリスクの明らかな増加は見られなかった
  • ガンは未去勢のオスで2%に、未避妊のメスでは0、手術済みのオスメス共にガンの発病は見られなかった
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍は1例のみ、子宮蓄膿症と尿失禁はどちらも0だった
  • 推奨ガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られないため、避妊去勢手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※下のミニチュアプードルの項目もご覧ください


プードル(ミニチュア)

Image by Petra Šolajová from Pixabay

日本ではあまり見かけませんが、アメリカでは小さい方のプードルと言えばトイよりもミニチュアの方が多いように思います。
ミニチュアプードルは体高28〜35cm、体重5.4〜9kgくらいとされているので、小型犬と中型犬のギリギリ境界線で小型犬という感じでしょうか。

研究対象となったのは計200頭。内訳は未去勢オス41頭、去勢済みオス60頭、未避妊メス30頭、避妊済みメス69頭

  • オスメス共に避妊去勢していないグループでは関節障害の発病は0だったが1歳未満で去勢されたオスでは前十字靭帯断裂の発病が9%と有意な増加を見せた。避妊済みメスでは関節障害の発病は無かった
  • 未去勢オスのガンの発病率は5%、未避妊メスでは0。避妊去勢済みのガン発病リスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍は2〜8歳の間に避妊手術をしたメスで1例のみ、子宮蓄膿症は未避妊メスの6%で確認、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊手術で1例
  • 推奨ガイドラインは、1歳未満での去勢手術に伴って関節障害の有意な増加が見られたため去勢手術は1歳以降を推奨メスでは避妊手術との関連は見られないため、手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※ミニチュアプードルで報告された前十字靭帯断裂ですが、アメリカでは一般的に大型犬または超大型犬の疾患と考えられています。しかし日本ではトイプードルの前十字靭帯断裂はとても一般的なものだとされているので、トイプードルを飼っている方はこの点にご注意ください。
前十字靭帯断裂は遺伝的要因の強い疾患であることが判っていますので、日本においてトイプードルが長期的に超人気犬種であるがゆえの乱繁殖と、疾患の多発は無関係ではないと思われます。


プードル(スタンダード)

Image by digitalskennedy from Pixabay 

研究対象となったのは計275頭。内訳は未去勢オス47頭、去勢済みオス88頭、未避妊メス53頭、避妊済みメス87頭

  • 未去勢オス、未避妊メス共に2%に関節障害が発病していた。6ヶ月齢未満での去勢では関節障害の増加はあったが“有意”のラインである8%には達しなかった。避妊済みメスでは関節障害の発病は0だった
  • 未去勢オスのガンの発病率は4%、未避妊メスでは2%。1歳時に去勢したオスではガンの発病率が27%に増加し、それらは全てリンパ腫だった。避妊済みのメスではガンの有意な増加は見られなかった。
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍の発病は4%、子宮蓄膿症は2%、尿失禁は2歳以降で避妊手術をした1例のみ
  • 推奨されるガイドラインは、去勢に伴うリンパ腫の増加に基づいて、オスの去勢手術は2歳以降を推奨。メスでは避妊手術との関連は見られないため、手術を受ける場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること


パグ

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研究対象となったのは計383頭。内訳は未去勢オス96頭、去勢済みオス106頭、未避妊メス63頭、避妊済みメス118頭

  • 避妊去勢手術による関節障害発病リスクの増加は見られなかった
  • 未去勢オスのガンの発病率は6%、未避妊メスでは8%で、避妊去勢によるガンのリスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍の症例は0で、子宮蓄膿症は未避妊メスの5%に発病、尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術と関節障害やガンとの関連は見られなかったため、手術を希望する場合は獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること
※パグの場合はこの研究対象となっている関節障害とは違いますが、骨格または神経障害から来ると考えられる歩行障害が3匹に1匹という高い割合で見られるという研究も発表されています。その他にも健康上の問題の多い犬種であることは認識しておく必要があります。


ロットワイラー

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ロットワイラーも、ジャーマンシェパードやラブラドールと並んで関節障害が多い犬の定番としてその名が上がります。

研究対象となったのは計849頭。内訳は未去勢オス315頭、去勢済みオス152頭、未避妊メス143頭、避妊済みメス239頭

  • 関節障害は未去勢オスで8%、未避妊メスで16%と既に高い割合で発病しているオス6ヶ月齢未満での去勢では10%、6ヶ月〜1歳未満での去勢では22%と有意に増加していた。メスではさらに顕著で、6ヶ月齢未満の避妊手術では43%の発病率となった。関節障害の主なものは前十字靭帯断裂だった
  • ガンは未去勢のオスで16%、未避妊のメスで11%と比較的高い発病率を示しているが、避妊去勢手術による増加は見られなかった
  • 未避妊メスの乳腺腫瘍は8%、2〜8歳で避妊手術で5%の発病率を示した。未避妊メスの子宮蓄膿症は12%、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊で4%、6ヶ月〜1歳未満の避妊手術では6%だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは1歳未満の去勢手術による関節障害リスクのため1歳以降の手術、メスでは同じく関節障害リスクのため6ヶ月齢以降を推奨(乳腺腫瘍、子宮蓄膿症も比較的高い数字であることを考慮しても良さそうです。)

セントバーナード

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セントバーナードも超大型犬種として研究対象に選ばれましたが、サンプル数は少なく、研究対象となったのは計94頭、未去勢オス26頭、去勢済みオス27頭、未避妊メス18頭、避妊済みメス23頭

  • 関節障害は未去勢オスで8%、未避妊メスで6%。オスでは去勢手術による関節障害のリスク増加は見られなかったが、6ヶ月齢未満での避妊手術をしたメスでは関節障害は100%発病していた(100%という数字はサンプル数の少なさによるところが大きい。具体的には避妊済みメス23頭のうち、6ヶ月齢未満で手術を受けたのは4頭。)
  • ガンは未去勢オスで4%、未避妊メスで11%だが、避妊去勢による顕著な増加はなかった
  • 乳腺腫瘍の発生は0で、子宮蓄膿症は15%、尿失禁は0だった(子宮蓄膿症に関しては15%という数字は高めに見えるが、サンプル数が少ないため実際には3例です。)
  • 推奨されるガイドラインは、オスではガンや関節障害と去勢の関連は見られず、メスでは6ヶ月齢未満で関節障害のリスクが高くなっているが、超大型犬は骨格や筋肉の発達がゆっくりなので、オスメス共に1歳以降が望ましい

シェトランドシープドッグ

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研究対象となったのは計133頭。内訳は未去勢オス31頭、去勢済みオス30頭、未避妊メス20頭、避妊済みメス52頭

  • 関節障害は未去勢オスでは0、未避妊メスで1例、去勢済みオスでは6ヶ月齢未満での手術の1例、避妊済みメスでは0
  • ガンは未去勢オスでは6%、未避妊メスでは0。避妊去勢手術によるリスクの増加は見られなかった
  • 乳腺腫瘍の発病は0、子宮蓄膿症は14%で確認、尿失禁は1歳時の避妊手術では33%で発病していた(この犬種も研究対象となったサンプル数が少ないことは考慮に入れておいた方が良いと思います。)
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは関節障害やがんの顕著な増加は見られないため獣医師と相談の上で適切な時期を決定、メスでは尿失禁を回避するために2歳以降の手術を検討

シーズー

Image by No-longer-here from Pixabay 

小型犬の中では例外的に避妊手術の影響が認められた犬種です。
研究対象となったのは計432頭。内訳は未去勢オス104頭、去勢済みオス112頭、未避妊メス77頭、避妊済みメス139頭


  • 避妊去勢の有無、性別に関わらず、関節障害の発病は無かった
  • ガンは未去勢オス、未避妊メス、去勢済みオスでは0。6ヶ月例〜1歳未満で手術をしたメスでは7%、1歳時の避妊手術では18%に達した
  • 乳腺腫瘍は未避妊メスの3%、子宮蓄膿症は5%、尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは獣医師と相談の上で適切な時期を決定。メスではガンリスクの増加を受けて、2歳以降または6ヶ月齢に達する1〜2ヶ月前の避妊手術を推奨

ウエストハイランドホワイトテリア

Image by Morten Hjerpsted from Pixabay

研究対象となったのは計142頭。内訳は未去勢オス35頭、去勢済みオス33頭、未避妊メス28頭、避妊済みメス46頭

  • 未去勢オスで1例の関節障害が確認されたが、去勢済みオス、未避妊メス、避妊済みメスのいずれも関節障害の発病は0だった
  • ガンもいずれのグループも発病が確認されなかった
  • 乳腺腫瘍の発生は0、子宮蓄膿症は未避妊メスの7%、尿失禁は6ヶ月齢未満の避妊では14%、6ヶ月齢〜1歳未満の手術では6%で見られた
  • 推奨されるガイドラインは、オスでは獣医師と相談の上で適切な時期を決定。メスでは尿失禁のリスクを回避するため1歳以降の避妊手術を検討


ヨークシャーテリア

Image by Alois Grundner from Pixabay 

研究対象となったのは計685頭。内訳は未去勢オス134頭、去勢済みオス178頭、未避妊メス144頭、避妊済みメス229頭

  • 関節障害は未処置のオスメスで1%、避妊去勢手術による顕著な増加はなかった
  • ガンについても未処置のオスメスで1%、避妊去勢手術による顕著な増加はなかった
  • 乳腺腫瘍は未避妊メスで1%、2〜8歳時の避妊手術で1%。子宮蓄膿症は7%で確認。尿失禁は0だった
  • 推奨されるガイドラインは、関節障害やガンと避妊去勢手術の関連が見られないので獣医師と相談の上で適切な時期を決定すること

35犬種のガイドラインとしてリストアップされた犬種は以上です。
この後引き続き同研究者チームによる、ミックス犬体重別避妊去勢のガイドラインをアップして行きます。





《参考URL》

Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full





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