2018/05/29

科学が見つけた「犬の魅力のピーク」と、科学では割り切れない「感情」

5月半ばの頃、ニュースサイトのAnimalやNatureといったカテゴリーや犬関連のサイトで多く取り上げられていた、ちょっと興味深いリサーチがありました。

それは『犬の魅力がピークになる時期』についてのリサーチと仮説でした。
感情に任せて言えば「犬は一生を通じてずっと魅力的」とか「今そこにいるその時が常に一番」なわけですが、リサーチ自体はとてもおもしろいものなので先にご紹介します。


『犬の魅力』リサーチの背景


(photo by JACLOU-DL)


リサーチを行ったのはアリゾナ州立大学の心理学者クライブ・ワイン博士。犬とオオカミの行動についての研究をしている人です。

オオカミの子供は生まれてから約2年間は母親や父親を含む群れのメンバーとして暮らすのだそうです。その期間の子オオカミは世話をしてもらい、独立のための訓練を授けられる立場です。

一方、犬はどうでしょうか。ワイン博士が研究しているのは飼い主のいない野良犬です。博士の同僚が研究しているバハマのストリートドッグを観察すると、子犬のそばにいるのは母犬だけ。そして子犬が生後2ヶ月くらいの時に母犬は母乳を与えることを止め、子犬のそばを離れるのだそうです。(ええっ!?って感じですよね。でも母犬も自分が生き延びるためにはそれがきっと限界なのでしょうね。)

バハマのストリートの子犬の約8割は1歳を迎えることができないそうです。

生き残ったラッキーな子犬たちは何が幸いしたのか?人間の庇護を受けるために可愛らしい姿形でいるという作戦が功を奏したのではないか?という疑問がリサーチの背景にあります。


犬はどの時期がいちばん魅力的か?


(photo by Alexas_Fotos )


リサーチはワイン博士が教鞭をとっているフロリダ大学の学生51人の協力を得て行われました。
この記事のトップの画像のカネ・コルソ、2番目の画像ジャックラッセルテリア、3番目の画像のホワイトシェパードの3犬種を対象に、1犬種につき12〜14枚の白黒写真が用意されました。
写真は出生直後から生後7ヶ月までの間のすべて違う週齢のものです。

写真を見せられた学生は「まったく魅力的ではない」から「非常に魅力的である」のスライダーで、それぞれの週齢の写真をランク付けしていきます。
結果は出生直後は『魅力スコア』が低く週齢が進むにつれてスコアが上がって行きました。魅力のスコアがピークだったのは、カネ・コルソが6.3週齢、ジャックラッセルが7.7週齢、ホワイトシェパードが8.3週齢で、10週齢以降はどんどんスコアが下がっていったとのことです。
「非常に魅力的」だとランク付けされた時期の週齢が、野良犬の親が母乳を与えるのをやめる時期とほぼ一致しています。

これだけでは「犬は母犬から離れた後に人間の庇護を受けるチャンスを得るために、その時期に可愛らしさのピークが来るように進化した」という結論は出せませんが、なかなかおもしろい結果ですね。

出生直後は母犬がいるので人間にアピールする必要はないし、生後半年くらいになれば自分で生きる力もついてくるので人間にアピールする姿ではなくなるのだろうとのことです。
スコアをつけたのが全員大学生というのはデータとして偏っていますし、犬種も3種類だけという少数なので、今後これらの点を改善したリサーチ、また写真ではなくビデオを使ってのリサーチなどをしていく予定だそうです。
また子猫やオオカミについての「人間が可愛いと感じるピーク」のリサーチが行われることも期待されています。


だけど、やっぱり犬は一生魅力的じゃない?



(photo by vargazs )

生後8週くらいの子犬は確かに文句なしに可愛らしいです。
たいていの幼齢の哺乳類は姿形も目も顔も丸っこくて、自然と庇護欲をかき立てるようになっていますから、それは当然ですね。

でも犬への愛のある人なら「それでもやっぱり犬生のどのステージでも魅力的だよ」と思いますよねえ。
そういう自然の戦略を超えたところで「成犬もたまらなく魅力的だ」とか「老犬のかわいさは格別」などと感じる人間の「感情」ってなかなかすごいじゃないか!と改めて思います。
(同時に「子犬の可愛い時期を過ぎたらもう飽きた」なんて言って世話をしなくなるような人間は原始的な感情しかないんだなと黒いことも思ったり。)

この記事の犬種の写真を選ぶ時、わざと成犬の写真を選んだのですがみんな魅力的ですよね。
1枚目のカネ・コルソはたまたま子犬と成犬がいっしょに写っている写真があったのでそれを選びましたが、子犬の後ろの成犬がいい味わいです。

実験に使用された写真の一部は、下記のワシントンポストの記事で見ることができます。
3犬種各々の「出生直後・スコアピーク時・生後半年前後」の写真です。

https://www.washingtonpost.com/news/animalia/wp/2018/05/19/puppies-cuteness-peaks-right-when-they-need-humans-most-study-finds/?noredirect=on&utm_term=.b999e976be1f


リサーチ全文はこちら
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08927936.2018.1455454

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