2017/06/23

犬の胃拡張・胃捻転(GDV)予防手術について

このブログは基本的にdog actuallyに掲載した記事の記録として始めたものですが、da最後の記事のコメント欄で、グレートデーンの飼い主さんから胃捻転予防の為の手術についてのご質問をいただきました。
できれば記事にしたいような内容だったのですが、あいにく最終回のコメント欄だったため、ここで書くことにします。

前回、前々回と胃拡張・胃捻転のリスク要因について書いてきましたが、胃捻転の究極の予防法として、あらかじめ胃を腹壁に固定する手術を行っておくというものがあります。

(photo by Pexel )
GDVのハイリスクグループのグレートデーン。4歳以降のGDVの罹患率は25〜40%とも言われます。


この手術は英語でGastropexyと言い、よくPexyと略して呼ばれます。「うちの犬にPexyを受けさせるべきか」というのはアメリカでもよく議論が起こりますが、グレートデーンなど超大型犬の飼い主さんでは避妊去勢手術の際に同時に行うという人が多いようです。(アメリカでは避妊去勢手術はほぼ義務に近い形です。手術をしない場合、ほとんどの自治体では届け出と通常の数倍の登録料が必要になります。)
中型犬より小さい犬では、予防手術を受ける例はほとんどないと思います。(身近でも聞いたことがない)

手術の方法は大きく分けて、開腹をする一般的な手術と腹腔鏡を使った手術があります。
それぞれにメリットデメリットがあるので、手術を受ける場合は医師にしっかりと確認しておきましょう。

開腹手術は一般的な手法なので、手術を受ける病院を探すのが比較的簡単です。
術後の回復には2週間程度かまたはそれ以上かかる点はデメリットと言えるでしょう。
開腹手術の中でも、固定する箇所などによっていくつか種類があり、それぞれに固定の強度、手術の難易度、術後に起こり得るリスクも変わってきます。

実際に胃拡張または胃捻転が発症してしまって手術が必要になった場合は、再発を防ぐために胃を腹壁に固定する処置を行いますが、健康なうちに行う予防手術に比べて固定強度は低くなるようです。

腹腔鏡を使う手術は傷口や出血が開腹手術に比べてうんと少ないので、犬への負担が少なく術後の回復が早いのが大きなメリットです。
ただし、開腹手術よりも技術が必要で、経験のある病院を探すことが重要です。

胃捻転の予防手術だけでなく、腹腔鏡の手術は患者への負担を考えるととても良い方法なのですが、残念ながら日本の動物病院で取り入れているところはあまり多くないようです。興味のある方は「動物病院 腹腔鏡手術(または内視鏡手術)」などで検索なさってみてください。

この予防手術は胃が捻れることを防ぐもので、胃拡張を防ぐことはできません。ですから予防手術をしても、前々回にあげたリスク要因を避ける努力は必要です。しかし症状がシンプルな胃拡張だけならば処置も簡単に済むことが多く、救命率は格段に高くなります。

胃捻転も100%予防できるわけではないようですが、胃拡張から胃捻転に移行する時間を稼ぐことができれば命を救う確率も高くなります。

アメリカの場合、予防手術にかかる費用は500〜1000ドルくらい。決して安くはない金額ですが、胃捻転になった場合の手術費用は1500〜10000ドルと言われ、まさにゼロが一つ増える額になります。日本の場合、予防手術の費用はもう少し高い場合が多いようですが、胃捻転が起こった場合にゼロが一つ増えるのは同じようです。

超大型犬のブリーダーは手術を勧める人が多いようですが、日本ではまだあまり浸透していない手術なので、こういう方法もあると心に留めておかれると良いかと思います。

病気のリスク要因の曖昧さ、一筋縄でいかない生き物の身体

前回の「胃拡張・胃捻転のリスク要因」おかげさまで多くの方に読んでいただくことができました。
いくつかご質問を頂いたり、体験談を書いてくださった方もいらっしゃるので、シェアしたいと思います。


食前食後の運動について

Purdue大学のレポートでは明確に述べられていないのですが、確かに食後に激しい運動をしていてGDVが発症したという例は多く見聞きします。けれども食事をした時間から何時間も経った夜中などに発症した例も多く、他の多くの要因と同じく「GDVの原因は食後の運動」と単純に言い切れるものではありません。
とは言え、人間だって食後すぐに運動すると気持ち悪くなるのと同じ、避けるに越したことはありません。食べ物を消化するためには胃周辺に血流が集まる必要がありますが、運動をすると体の他の部分に血流が回らざるを得ず、消化不良の原因となりますから、体に良くないことは明らかです。
食前の運動に関しても、長い長いロングウォークやアジリティの訓練などの後は、同じく血流のクールダウンが必要ですから水分補給だけしたら、食餌までは少し間を空けるべきですね。ただしお腹が空きすぎると早食いが過ぎて空気をたくさん飲み込んでしまうような犬ならば水分補給とともに少量のヨーグルトや茹でて小さく切った鶏肉などで落ち着かせることはリスク減少につながります。
また、ちょっとそこまでトイレ散歩なんてのはクールダウンが必要な運動には含まれませんよね。

食前食後の水分摂取について

ドライフードに水分を加えて与えることはリスク増加要因であるという統計結果が出ています。けれど、食前食後の水分摂取を極端に制限することもまたリスク増加要因とされています。適当な量の水は他の病気の予防のためにも飲まなくてはいけません。
Purdue大学のレポートは原因と結果の因果関係を解明するためのものでなく、この行動をしている場合この結果となった例がどれくらいあるかという相関関係の統計ですから、なぜドライフード(特にクエン酸を使用されているもの)に水分を加えるとリスクが高まるのかは明らかになっていません。
フードに水分はNGだが、フードを食べた後適量の水を飲むのはOKなのは、胃の中に入った食べ物は唾液や胃液に含まれる消化酵素に触れているからというのも一因ではないかと思います。(これは私の推測です。)
水を飲むことがリスク増加要因となるのは食後に極端に大量の水を飲むことです。


(photo by 584652 )


運動にしても水分摂取にしても「適量」とか「大量」とか曖昧な表現が多いですよね。でもこれは相手が犬という生き物ですから仕方のない部分だと思うのです。
工業製品ではない生き物の身体は「体重に対して何%の水」とか「運動というのは時速何キロ以上の速さで歩くこと」とか決められなくて当たり前。その一筋縄でいかないところが生き物と付き合う醍醐味でもありますよね。
GDVだけに限らず、犬の身体に良いこと悪いことを見極めるためには、正しい知識をベースにした上で自分の犬にとってのベストの塩梅は飼い主にかかっていると心しなくてはいけないと私はいつも思っています。

そして先にも書いたように、前回の記事で紹介したレポートは因果関係を科学的に解明しようという性質のものではなく、相関関係を統計で示したものですから、「明確な理由はわからないが○○をすると××という結果になった件数が全体の○%だった」という報告になるのは当然のことです。

そしてGDVが発症する明確な原因は未だ明らかになっていません。ですから何をした時に発症しているかの統計からリスク要因を減らしていくことが大切なんですね。


(photo by tpsdave )

さて、前回の記事に胃拡張が発症し始めた秋田犬の動画を貼り付けて「みるみるお腹が膨らむ」とか、「痩せている犬はお腹が膨らんだ時にわかりやすい」と書きましたが、そうではない例もあるようです。

Facebookでいただいたコメントを引用します。
3年ほど前に知人のワイマラナーが胃捻転から生還しました。
今までに聞いたことのない鳴き声をあげたのが始まりだったそうです。
胃のあたりはそれほど腫れておらず、ゲップや吐きそうにもしない。
けれど、口の中が白に近い薄いピンクになっていることなどから、すぐ病院へ。
レントゲンの結果、狭い胸郭に胃が入り込んでたために、体の外から胃の膨らみが分かりにくくなってたことも判明したそうです。

↑こんなこともあるんですねえ。
ワイマラナーの細いウエストなんて異変があればすぐに判りそうと思っていた私が浅はかでした。
とにかく異変があれば、すぐに病院に駆けつけることが大切だとよくわかる例ですね。

他にも、一般的に言われる大型のハイリスク犬種ではないけれど何度も胃拡張を繰り返した経験のあるダックスフントの例もありました。ダックスフントはあの体型のため、小型犬の中ではハイリスクグループに分類されます。

また、日本の獣医師のブログなどを読んでいたら、動物病院に勤務を始めて数年の若手の先生ですが、GDVの患者が来たことがないと書いている例もありました。大都市などで小型犬中心の病院ではそういうこともあるんですね。いざという時に頼れる病院を普段から確保しておくことの大切さを感じました。特にGDVの手術は規模の大きな施設が必要になりますので、普段のリサーチが生死を分けることにもつながります。


今までもSMILES@LAやdog actuallyでも何度も書いてきましたが、マニュアル通りの一筋縄ではいかないのが生き物の身体。ベースになる知識はしっかりと持った上で、最終的に判断してケアしていくことは飼い主にしかできません。
きちんと知って、しっかり観察して、普段から考える癖をつけておく。
自分自身にもいつも言い聞かせていることです。

【参考サイト】

2017/06/20

犬の胃拡張・胃捻転(GDV)リスク要因

犬の胃拡張、さらに進んで胃捻転、どちらも怖い病気です。特に大型犬と暮らしている人にとってはその恐怖は切実です。

2011年、テレビの動物番組にレギュラー出演していたラブラドールが胃捻転で急逝した時にSMILES@LAで「胃捻転鼓腸症候群(GDV)について」としてその症状やリスク要因について書いたことがあります。もう6年も前のことなので追加情報も含めて、また書いておこうと思います。

(illustration by GraphicMama-team )

これらはいずれもハイリスクとされる犬種ですが、小型犬や中型犬でも起こり得ます。
うちのブログにコメントをくださる方のミニピン君も胃拡張で救急にかかったと教えていただきました。

胃拡張捻転症候群(GDV)とは

胃拡張というのは何らかの理由で胃にガスまたはガスと水分が溜まりパンパンに張る症状です。緊急の疾患で前触れもなく突然に起こるので、日頃からこの病気のことを知っておくことが大切です。膨らんだ胃が周りの臓器を圧迫して血流を妨げたり壊死を起こすこともあるので、早急に病院で処置を受けなくはいけません。

膨らんだ胃は体内で回転して捻じれを起こしやすくなっています。捻じれが起きてしまうと胃捻転という状態になり緊急性はさらに増し、手術が必要になります。

正式には胃拡張捻転症候群(英語ではGastric Dilatation Volvulus Syndrome でGDVと呼ばれます)アメリカでは犬の死因としてガンに次いで2位とも、ガンよりも多く1位とも言われる疾患です。

原因はまだ明確になっておらず「○○をすればGDVになる」というような単純なものではなく、いくつもの要因が複雑に重なり合った時に起こると考えられています。

そのリスク要因となる事柄については、アメリカの大学の研究チームによるリサーチが発表されているのでご紹介します。従来「胃捻転を防ぐために」と言われていた事柄がリスクを高める要因になっている例もあるので、ぜひご確認ください。

GDVのリスク要因と考えられる事柄

以前にSMILES@LAに書いたリスク要因のリストも、以下のリストもアメリカのPurdue大学獣医学部グリックマン博士の研究チームによるリサーチに基づきます。
英語で「dog(またはcanine)bloat(またはGDV)risk factors 」という項目で検索すると、ほとんどの情報はこのリサーチを元にして書いていると明記してあります。
(残念ながら日本語での検索では、残念なキュレーションメディアの情報が上位に来てあんまり役に立ちません。日本語で検索する場合は、動物病院のサイトや獣医師などが書いている情報を選ぶことをお勧めします。......このブログも素人が書いてるんだけど 笑)

Purdue大学のリサーチは1994年に開始され、約10年にわたる追跡調査によって導き出されたものです。ですからこのリサーチは科学的なメカニズムを解明するものではなく、事実が数字に表れた統計です。調査はグレートデーン、アイリッシュセッターを始めGDVのハイリスクグループとされる胸の深い大型犬11種1914頭を対象に行われました。対象の犬たちは皆、調査以前にはGDVの病歴がない個体が選ばれています。その後、それぞれに生活習慣や食習慣の統計を取り、どのグループでその後GDVの罹患があったかを調査してリスク要因を割り出しています。

ハイリスクとされる犬

(illustration by gdakaska )
カットの仕方によってはわかりにくい場合もあるが、胸が深くウエストの細いスタンダードプードルもハイリスクグループに入る。


・グレートデーン、ドーベルマンなどのように胸が深くウエストの細い犬は肋骨の内側で胃が動くスペースの余裕があるため、GDV発症のリスクが高くなります。また内臓脂肪が付いていれば、胃が動く余裕が少なくなるため、痩せている犬の方がGDVのリスクは高くなります。(ただし肥満によって内臓脂肪が付いている場合は他の病気のリスクが高くなりますので、太っている方がヘルシーというわけでは決してありません。)
痩せている犬の場合、胃が膨らんで来た時にわかりやすいというメリットもありますので、注意深い観察を!

・年齢が上がるほど、胃を支える靭帯が伸びた状態になるためGDV発症のリスクは高くなります。
大型犬では5歳以降1年ごとに20%ずつ、超大型犬では3歳以降1年ごとに20%ずつリスクが上昇すると言われています。

・GDVは遺伝病ではありませんが、一親等以内にGDV発症歴のある犬がいる場合、発症のリスクは約1.6倍になります。

・早食いの犬は、食べる時に空気を多く飲み込むためリスクが高くなります。早食い防止ボウルなどの利用を。

・神経質、攻撃的、臆病な犬はリスクが高くなります。普段それほど臆病でない犬も長くストレスにさらされた後にはリスクが高くなります。


生活の中のハイリスク要因

・最重要要因は食餌の回数。1日1回だけ大量のフードを与えるやり方は最もハイリスク。
食餌は1日2〜3回に分けて。ドライフードで言えば、体重15kgあたりカップ1杯を上限とする(ただしアメリカの計量カップなので250cc)
大量のフードが胃に入ると、重みで胃を支える靭帯が長時間伸びた状態になるため。

・与えているのがドライフードだけ。ドライフードの粒が体のサイズに比べて小さすぎるのもリスク要因。
普段から違うタイプの食べ物を与えておくことはリスクを低下させる。手作りフードをローテーションに加えた場合のリスクは59%低下、缶詰フードを加えた場合のリスクは28%低下したと報告されています。

・ドライフードに水分をプラスして与えるのは発症リスクを高くします。特に保存料としてクエン酸を使っているフードの場合、水分を加えることでリスクは4倍以上になります。
クエン酸は合成保存料無添加のプレミアムと呼ばれるフードの多くに使われています。

・フードボウルを台に置いて高い位置で食べさせることは、空気を飲み込む量が増えるためリスクが2倍以上高くなります。フードボウルは床の上で!
フードに水分を加えることとフードボウルを高い位置にすることは、過去には胃捻転予防になると言われていたのですが、統計では全く反対の結果になっています。くれぐれもご注意ください。


・フードの原材料一覧の最初の4つ以内(原材料は含有量が多いものから順に記される)に脂肪が含まれているフードはそうでないものに比べて2.7倍のリスク。
統計的にはそれほど有意ではないものの、フードの原材料一覧の最初の4つに複数のコーン食材(コーンミール、コーングルテン等)が含まれるフードはややリスクが高くなっていることも確認されています。
また反対にタンパク源が動物性由来の肉や魚のフードではリスクが低下しています。
コーンなど植物性のタンパク源を使用している場合、風味を補うために脂肪を多く添加するので、この関連性は理にかなっています。


このリサーチが開始された1994年を基準にすると、1964年から1994年の30年間の間にアメリカでの胃拡張または胃捻転の罹患率は16倍にも増えています。
理由のひとつとして考えられるのは経済成長に伴って、大型犬の飼育数が増えたことが考えられます。
もうひとつ考えられる理由は、ドッグフードの普及です。中でも簡便なドライフードの普及は胃拡張または胃捻転の増加に比例しています。アメリカに比べてオーストラリアやニュージーランドではドライフードを与えている人が少ないそうですが、この2国ではハイリスクグループといわれる犬種でもGDVの罹患率はアメリカよりも低いそうです。
残念ながらドライフードがGDVのリスク要因であることは間違いないようです。

とは言っても、手軽に栄養バランスの取れるドライフード無しでは難しいという方も多いですよね。だからこそリスク要因をよく知っておいていただきたいと思います。

最後に、今までにも何度も紹介している動画を貼り付けておきます。
シェルターから新しい家庭にもらわれてきたその日、記念の動画を撮っている最中に胃拡張を発症した秋田犬の動画です。
お腹が見る見るうちに膨らみ、苦しそうに吐きそうな様子などが見られます。
こんな様子が見られたら、一刻も早く病院に連れて行ってください。あらかじめ病院に電話をして胃拡張または胃捻転で救急であると伝えておきましょう。

この動画の犬は無事に命を救われました。



次回は、再度GDVについて。予防手術のことを書きます。


【参考サイト】
Risk Factors for Canine Bloat http://goldenrescuestlouis.org/Bloat.asp

2017/06/19

IT企業創設者のレスキュー活動

私がdog actuallyに書いた記事は、時事的な話題を取り入れることが多かったのですが、この記事にもスティーブ・ジョブズ氏の逝去という言葉が入っていますね。もう6年も経つのかと感慨を感じると同時に、その後彼のバイオグラフィーを読んだり映画を見て新たに感じた思いもあって、時の流れを感じます。

さて、この記事で紹介したMaddie's Fundというのはアメリカの動物保護活動を語る時に絶対に外せない大きな大きな存在です。何しろ、ちょっと大きなチャリティイベントの協賛や主催者の名を見ると、Maddie's Fundの名を見ないことの方が少ないくらいですから。

動物好きな人が「もしも私が億万長者になったら、犬や猫のサンクチュアリを作りたい」という言葉はよく見聞きしますが、Maddie's Fundはまさにそんな夢が現実の形になったものです。巨額の財の使い途、こういうのはかっこいいですよね。

(以下、dog actually 2011年10月11日掲載記事より)
(photo by Maddie's Fund)
マスコットの向かって右の男性がマディー基金創設者のデイブ・ダフィールド氏。

世界中を揺るがせたアップル社設立者のスティーブ・ジョブズ氏の逝去から数日が経ちました。
今この記事を作るのにもiMacのお世話になっている者として、また彼の一ファンとして哀悼の意を表します。
さて、有名IT企業の設立者の中に、アメリカの犬レスキューの世界ではジョブズ氏同様に尊敬され、愛されている人物がいます。それは人事管理ソフトウェアなどで一躍名を馳せたピープルソフトという会社の設立者の一人デイブ・ダフィールド氏です。
(ピープルソフト社は2005年にオラクル社に買収されています。)
ダフィールド氏には10年をともに過ごした愛犬、ミニチュアシュナウザーのマディーがいました。(上の写真の着ぐるみのマスコットはマディーなのですね。)
会社を設立したばかりの頃、彼はマディーを抱き上げこんな約束をしました。
「もしもこの事業がうまく行ったら、僕はそのお金をお前やお前の仲間達のために使うことにするよ。たくさんの犬と人が僕たちみたいに幸せになれるようにね。」
果たして、ダフィールド氏はシリコンバレーの大成功者の一人となり、巨額の財を成したわけです。

マディーはすでに天に召されていましたが、ダフィールド氏と妻のシェリルさんは、マディーとの約束を守りました。サンフランシスコ動物虐待防止協会をサポートするために3億ドル超の基金を設立し、それを「マディー基金」と名付けたのです。

(photo by Maddie's Fund)
この犬もマディー基金によって救われた犬の一匹。


サンフランシスコ市は動物の守護聖人とされる聖フランシスコの名を冠する街だけあって、動物保護にはたいへん熱心に取り組んでいます。1995年にサンフランシスコ動物虐待防止協会の代表は「この街においては、公営私営の別を問わず、全てのシェルターで健康な犬や猫の殺処分をしないことを目標にする。」と宣言しました。とは言え現実は厳しく、理想の実現への道は遠いものに思われていました。
しかし、2005年にサンフランシスコ市内にたいへん大規模な虐待防止協会のシェルターが設立されて事態はがらりと変わりました。協会は市の公営動物シェルターと「アダプション協定」を結び、保護後一定期間を経ても引き取り手の現れなかった動物を、可能な限り協会やその他の私営のシェルターに移動させるというシステムを確立しました。
これにより、従来ならば健康であるのに殺処分せざるを得なかった犬や猫の命が飛躍的に多く救われることとなったのです。
その大規模なシェルター設立に使われたのがもちろんマディー基金からの資金です。シェルターの名前は「マディーズアダプションセンター」
清潔でお洒落な雰囲気のアダプションセンターには、見学者、アダプト希望者、ボランティアなど多くの人が出入りし、活気に満ちています。マディー基金のおかげで、サンフランシスコ市は全米で一番「NO KILL」に近い街となっています。
マディー基金のレスキュー活動サポートはサンフランシスコのみにとどまらず、今やアメリカの多くの都市にシェルターを建設したり、シェルターの医療設備の改善などを続けています。ただ単に団体にお金を寄付するのではなく、マディー基金では動物達の環境を改善し、健康な動物を殺処分にしなくてよいシステムを構築するために、お金の使い方については非常に注意深く検討されています。
ダフィールド氏とシェリルさんのご夫妻に「すべての犬がマディーのように幸せになれるように。」との願いを授けたマディーの姿はこちらです。


現在では基金はサンフランシスコだけでなく、アメリカの全域で動物保護活動への支援、シェルター医療や教育システムへの補助金といった形で活動を行っています。3億ドルという巨額の資金が単なる寄付ではなくて、基金設立という形で使われたことで、その運用益や寄付金などで1994年の設立以降ずっと継続して全米の保護活動への支援が行われています。


大手ペットショップチェーンのチャリティ活動

この記事を書いた2011年には、まだロサンゼルス市のペットショップの規制条例は成立していませんでしたが、大手ペットショップでの定期的な譲渡会はこのように行われていて、ごくごく普通に受け入れられている状態でした。

PETSMARTとPETCOという二大チェーンが運営するそれぞれのチャリティ団体は譲渡会やシェルターへの寄付の他にも、様々なリサーチ活動も行っています。そこにはもちろん、母体である企業へのメリットや宣伝活動的な意味合いもあるとは思うのですが、本文中にも書いた通り、それで恩恵を受ける犬や猫がいるならOKというのが私の考えです。

そう言えば、本文中で「日本では譲渡活動はペットショップの営業妨害になるという声」と書きましたが、最近はそういうのを耳にする機会が減ったような気がするんですが、どうなのでしょう?6年前に比べると、日本でも譲渡活動が少しずつ広がって根付いてきたかなあ、そうだと嬉しいなと思います。

(以下、dog actually 2011年9月26日掲載記事より)
地元の公営シェルターからペットショップ店内の譲渡会に出席していたトイプードル。推定7〜8歳。

9月の9日~11日、アメリカの2大ペットショップチェーンPETSMARTPETCOの各店舗で一斉に犬や猫の譲渡会が催されました。これは数ヶ月に1度定期的に開催されるナショナルペットアダプションウィークエンドと称されるイベントです。
このイベントはペットフードやペット用品のメーカーがスポンサーになっており、場所を提供するのはペットショップ。そして譲渡対象の犬や猫は地元のシェルターや保護団体から連れて来られます。9月のイベントでは全国のPETSMARTで合計17,833匹の動物が新しい家族に迎え入れられることができました(PETCOの集計は未発表)。
全国のショップで一斉にというのは数ヶ月に1度なのですが、これらのショップではたいてい月に1度は店舗単位で地元のシェルター等と共同でペットの譲渡会が催されています。
PETSMARTを例にとって、大手チェーンのチャリティと商業活動をご紹介いたしましょう。
PETSMARTは、フードやペット用品、魚、爬虫類、小鳥、ハムスターなどを販売する上場企業です。日本のいわゆるホームセンターくらいの大きな店舗のすべてがペットに関するものばかりという様子に、渡米直後の私はその大きさと規模に驚いたものでした。リードをつけていれば犬も歓迎なので、天気の悪い時などは犬の散歩代わりに歩かせてもらうほどです。

店内に設けられたアダプションコーナーで、ボランティアの人と共に新しい家族を待つ犬達。シェルターから連れて来られる犬の数は限りがあるが、このようなイベントがきっかけでシェルターに直接足を運ぶ人も多い。また、このような環境で落ち着いて振る舞えるのは成犬ならではのメリットで、それを多くの人が実際に目にすることができるというのも大切なことだ。

同社は犬・猫の販売は行っておらず、92年から店内にアダプションセンターを開設して、シェルターや保護団体と提携して動物の譲渡活動を行っています。
94年にはPETSMART CharitiesというNPO団体を立ち上げ、ドッグウォーキングやチャリティショー等様々なイベントを催して寄付を募り、提携しているシェルターへの資金援助や自社のチャリティー活動の資金としています。
例えば店舗で買い物をすると、毎回ではありませんがたまにレジ担当の人から「シェルター支援のために1ドル寄付をなさいませんか?」と聞かれることがあります。たいした金額ではありませんから、たいていの人が余分に1ドルを支払って寄付する光景が見られます。
このようなチャリティー活動をすることは、企業のイメージアップ作戦の一環でもあり、また税制上の戦略のひとつでもあります。企業ですから、それぞれの活動が利益を誘導するものであるのは当然のことですし、個人的にはそれはそれで良いのではないかと思います。
どこの州のどこの町にでもある大きなチェーンのペットショップで日常的に動物の里親を募集し、寄付を募っていることで、それらは多くのアメリカ人にとってごく当たり前のこととして定着していると感じます。
また、これらのペットショップの店内では犬のトレーニング教室とグルーミングサロンも常設されています。店内の譲渡会で犬を家族に迎えた人は、これらのサービスの重要な潜在顧客でもあり、店舗に足を運ばせることで、フードや玩具等の購入にもつながるというわけです。

店内のトレーニング教室のコーナー。いつ見ても常に犬と飼い主が5〜6組いるので、利用者はコンスタントにいるようだ。

日本の場合、保健所や保護団体が犬を譲渡することはペットショップに対しての営業妨害になるとか、ペットショップは子犬の販売をしないと商売が成り立たないという声を時折耳にします。
しかし本当にそうでしょうか?ビジネスに関してシビアなアメリカで実現していることが、日本で不可能だとは思えません。
日本の企業の努力と方向転換を可能にするべく、飼い主・消費者の意識も改革していかなくてはなりませんね。

2017/06/14

カーミングシグナルの学問的検証と犬語の翻訳力

(photo by Kapa65 )

この記事はdog actuallyに書いた記事の再掲載ではなくて、新しく書いたものです。
SMILES@LAに書くにはちょっと堅いかな、daがあったら記事にしていただろうなというような話題は、せっかくアカウントがあるのでこのブログに書こうと思います。

2017年4月、イタリアのピサ大学獣医科学科の研究チームによって『イエイヌにおける同一種内の視覚的コミュニケーションの分析〜カーミングシグナルに関する予備的研究』という論文が発表されました。
要は、今までは熟練のドッグトレーナーの経験に基づく観察を記号化したものであったカーミングシグナルという概念を、データと統計を取ることで学問的に検証して裏付けを取ろうという研究です。意外なことにカーミングシグナルの正式な研究って今までなかったんですね。

念のために記しておくと、カーミングシグナルというのはノルウェーのドッグトレーナーであるトゥーリッド・ルガース氏が2005年に著した『カーミングシグナル〜犬語でおしゃべり』において初めて使われた造語です。意外と新しい言葉なんですね。
Calming=落ち着かせるの言葉通り、他の犬(または人間、他の動物)との関わりの中で、自分自身を落ち着かせたい時、相手を落ち着かせたい時に見せることが多いシグナルなので、このように呼ばれます。


(illustration by Lili Chin )

ピサ大学の予備研究のデータを取るために集められたのは24匹の家庭犬。オスメス半々の12匹ずつです。
それぞれの犬を「お互いによく知っている同性の犬同士」「初めて会う同性の犬同士」「よく知っている異性の犬同士」「初めて会う異性の犬同士」という組み合わせで対面させ、どのような行動やシグナルを見せたかを観察してデータを取っていきます。こうして2130のカーミングシグナルが集められました。

分析の結果を簡単に紹介すると、犬同士の物理的な距離が近くなるほどシグナルを出す回数は増えました。また身体的な接触があった場合はさらにシグナルが増えました。
初対面の犬同士の場合は、なじみの犬との場合よりも多くのカーミングシグナルが見られました。
これらの結果から、従来言われている通り、犬はストレスを感じている時にカーミングシグナルを発するということが言えます。

犬同士が対面してストレスを感じていれば、当然ながら攻撃的な行動が出ることもあります。観察研究の中では109例の攻撃的な行動が見られました。興味深いことに、これらの109例の攻撃行動の前にはカーミングシグナルは確認されていませんでした。
また攻撃行動の後には67%に当たる73例で攻撃された側の犬が相手に対して少なくとも1つ以上のカーミングシグナルを発するのが確認されました。さらに73例のうちの79.4%に当たる58例で攻撃行動が収まり落ち着くのが確認されました(まさにカーミングシグナル!)
攻撃行動がさらにエスカレートしたのは4例、変化がなかったのが11例でした(どこの世界にも話の通じない相手というのはいるんですね。)

これらのデータから、カーミングシグナルは確かに自分自身と相手を落ち着かせる働きをしているという結論が導き出せそうです。

論文のタイトルに『予備研究(A pilot study)』とある通り、より明確な結論を出すためには、もっと多くの観察データを集めて統計を取ることが必要だそうですが、トゥーリッドさんのカーミングシグナルは科学的にも裏付けが取れそうな方向は間違いなさそうです。


(photo by PaelmerPhotoArts )

犬に関する研究では、犬と暮らしている人にとっては当たり前と思われることを実験や統計で裏付けを取ることが多々有ります。このカーミングシグナルの研究にしても、学問的な裏付けを取って犬の仕草や行動を検証することで、より精確な犬語の理解につながります。
言ってみれば、現在のカーミングシグナルの理解は「辞書はあるけれど、文法を説明した参考書はない状態」と言えるかもしれません。熟練したドッグトレーナーの中には母国語のように犬語の文法が自然と身についている人もいます。けれど大多数の普通の犬の飼い主、特に初心者飼い主ではカーミングシグナルの本という辞書を読んでも、犬が行動で語りかける言葉を翻訳するのは至難の技ということもあります。

英語を習い始めたばかりのころ、辞書を引くとひとつの言葉にものすごくたくさんの違う意味があって「え!?どれ?」と思った経験のある人も多いのではないでしょうか。機械的に一番最初に載っている訳語を使っていくと、オンラインの機械翻訳みたいな意味のわからない日本語になってしまいますよね。

今はネットで玉石混交いろんな情報を目にするけれど、犬語の翻訳についてもオンラインの機械翻訳みたいな、前後の関係に目が行っていない解釈に出会うこともよくあります。
実世界でも、散歩中やなじみの公園で「この仕草はストレスの証拠よ!」とか「大丈夫。敵意はないってサインを出してる!」とか、「いや〜この場合は違うんじゃないの?」という状況でも自信たっぷりに持論を展開する人いますよね。

かく言う私もまだまだ未熟なヘッポコ犬語翻訳者ですが「辞書で基本的な意味を知っておくことは絶対必要。でも2つ目3つ目の意味や、他のちょっとした言葉(=仕草や吠え声)と組み合わさった時の変化にも注意をしておかないと、まったく間違った解釈をしてしまうかもしれない」ということは意識して心に留めています。

ピサ大学の研究は今も継続中の様子ですので、また続きの論文が発表されることと思います。より細かい部分まで踏み込んだ犬語の参考書ができるのを楽しみに待っていたいと思います。

【参考サイト】
 Analysis of the intraspecific visual communication in the domestic dog (Canis familiaris): A pilot study on the case of calming signals” 


2017/06/11

缶詰フードと環境ホルモン

この記事は2016年に書いた新しいものなのですが、SMILES@LAにフードのことを書くのにリンクが必要だったので、他の古い記事よりも先にこちらに引っ越しをしました。

人間の食べ物でもトマト缶はトマトに含まれる酸が缶の内側のコーティングを溶かし易いと言われていますが、ドッグフードで「BPAフリー」と表示されているものはあまり心配したりすることもなく与えていたので、記事を書きながら結構ショックだったのを思い出します。

とは言っても、療法食など缶詰しか選択肢がないという場合もあるでしょう。何が悪くてどんな影響が考えられるのかを知っておくと対処の仕方も見えてきます。
我が家の場合は缶詰フードを与える時はネトル、バードック、ダンデライオンなど肝臓や腎臓と言った解毒器官を緩やかにサポートするハーブをプラスしたり、腸内環境を狂わせると言われる環境ホルモン対策としてプロバイオティクスのサプリや発酵食品をプラスするなどしています。現代社会で生きていると犬もヒトも有害物質と無縁でいることは不可能なので、対策を考えていかなくては仕方がないですもんね。

(以下、dog actually 2016年12月26日掲載記事より)
(photo by 445693 )

私は今、少しばかりショックを受けています。ショックと言うより、肩を落として「やれやれ」と言いたい気持ちの方が近いかもしれません。ショックの原因は、今月初めにミズーリ大学獣医学部の研究者によって発表された「缶詰ドッグフードを2週間与えた犬を血液検査した結果、血液中のBPA値が高くなっていた」という報告です。

BPAというのはビスフェノールAの略称で、ポリカーボネート(プラスチックの一種)の原料になる物質です。BPAは『環境ホルモン』と呼ばれるもののひとつですが、環境ホルモンというのは俗称で、正式には『内分泌かく乱物質』=動物の生体内にとりこまれた場合に、本来その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質と定義されます。
BPAは体内に入ると女性ホルモンに似た作用を示すことから、食品容器などから溶出したBPAによる生殖機能への影響など健康リスクの可能性が研究されています。
アメリカ国家毒性プログラムでは「さらなる調査や研究が必要ではあるが、乳幼児の神経や行動に影響を及ぼす懸念が幾分あるのではないか」と報告しています。
アメリカ食品医薬品庁は「BPAのリスクに関する研究については注視を続けるが、現在市場に出回っている食品に含まれるレベルのBPAでは健康への被害はないと考える。」という姿勢です。ただしアメリカやカナダではBPAを含むポリカーボネートを乳児の哺乳瓶に使用することを規制しています。
日本ではプラスチック容器からのBPAの溶出試験規格が定められ、規格内であれば成人への影響はないものと考えられていますが、胎児や乳幼児への影響については調査中で、その知見によって対策を検討するとしています。
犬と関係のなさそうな、ややこしい話を長々とすみません。

(photo by bykst )

さて、このBPAですが、缶詰食品の内側に金属缶の腐食を防ぐために塗装されたエポキシ樹脂の原料でもあります。今回ミズーリ大学による缶詰フードの研究で指摘されたのはこの件です。
実験に使われたのは、個人所有の健康な犬14匹。犬たちは普段はドライフードを食べていますが、実験のために2週間缶詰フードを与えられました。缶詰フードのブランドは2種類で、それぞれどちらかのフードを与えられたグループに分けられました。2種類のうち、1つはメーカーによって「BPA Free」という表示がされていたものです。 犬たちは実験開始前と終了後に便と血液の検査を受けました。実験後の検査の結果、犬たちの血液中のBPAの値が実験前の約3倍に増加していたということです。便検査の結果では、便に含まれる微生物の分布に大きな変化が見られたそうです。食べるフードが変われば腸内の微生物が変わるのは自然なことですが、実験後の変化はそれだけではない特徴的なものだったようです。この研究によると、体内のBPAが増加することで、腸内ではBPAやその他の内分泌かく乱物質を代謝させると考えられている微生物が減少する可能性が示されています。今回の研究チームはBPAそのもののホルモン様の作用よりも、腸内微生物の変化による健康への影響を懸念しています。
現在ほとんどのBPAのリスクに関する動物実験はラットやマウスで行われています。つまりラットやマウス、人間に関してはある程度のデータがあるのですが、犬についてはBPAと健康リスクの関連は未知の部分が多いのだそうです。今回の実験も短期間でサンプル数も少ないため、結論を出すにはまだまだ研究が必要な段階です。
今回のミシガン大学の報告について、私自身は「だいじな知識として頭に置いておこう。しかし総合的に考えると、決して好ましくはないが今まで与えてきた缶詰フードについてパニックになる必要はないだろう。今後は缶詰フードは非常食としてのみ少し備蓄しておくか。」と捉えています。
我が家の犬たちの食餌は家庭で調理したものをメインにしているというのもありますが、ドライタイプや冷蔵タイプのフードでも、パッケージのプラスチック製品は避けて通れないものですし、家庭で調理している食餌の材料にしても同じです。新しい研究の結果はできる限り知識として取り入れつつ、避け切れないリスクについては他の部分で補いながら、犬の健康を見守って行こうと思っています。他の補う部分というのは、適切な運動や定期的な健康診断、また私の場合は食餌に取り入れるハーブ類などです。
......と、こんな風に半ば開き直っているわけですが、冒頭で述べた「やれやれ」という脱力感は、実験に使われたフードの1つが「BPA Free」と書かれていたにも関わらず、犬たちの血中BPA値が上がっていたという部分から大きく来ています。私が買っている缶詰フードのパッケージもメーカーのサイトでBPAフリーとうたわれているものです。実験に使われたフードのブランドは明らかにされていませんので、自分が買っているフードが本当はどうなのかということはわかりません。
この記事を書くに当たって資料を読んでいるうちに、ずっと小規模メーカーだと思って愛用していたフードのブランドが、昨年超大手メーカーに買収されていたということをたまたま知りました。現在アメリカのペットフードはそのほとんどが大手5社の傘下に収められている状態です。フードそのものの原材料は同じグループのメーカーでもまだ多様性がありそうですが(それでも以前とは違う質になっていると思いますが)パッケージなどに関しては、同じグループ内では共通した質のものが使われている可能性が高いでしょう。
何も知らないままでは危ないし、気にし始めるとキリがないフードの問題。含まれる化学物質が体内に蓄積する可能性などを考えると、フードのタイプ・ブランド・メーカーはある程度ローテーションをしたほうがリスク回避になりそうですね。神経質になり過ぎず、かつ慎重にというバランスを取りながら、愛する犬のためのフード選びの悩みは尽きません。

【参考サイト】

2017/06/05

愛犬のフードボウルの中の動物のこと

これは予想していたよりも多くの反響があって、自分でもちょっと驚いた記事でした。
1枚目の写真のニコニヤごはんが現在よりも野菜多めなのも懐かしい感じ。

6年経った今も市販のペットフードに『人道的基準合格』というものは見かけません。まあこれはさすがに商売としての採算を考えれば、企業にそこまで求めるのは酷かなという気はします。それよりもこの問題はペットフードだけに限らない食肉にされる家畜全体の福祉という面で考えるべきでしょう。
「ペットは可愛がるくせに牛肉や豚肉は食べるのか」という、こういう問題を挙げると必ず出てくる声もありますが、人であれ犬であれ命を賄うために他の命を頂くことを悪としているわけではないというのが大前提です。どうしても頂かなければいけない命なら、せめて可能な限り快適に生きて、可能な限り苦痛のない最期を、という話です。

また本文中で言及しているHumane Society が販売していた肉を使っていないヴィーガンペットフードは2017年現在はもう販売されていない様子。そりゃあいくら何でも無理だものねえ。

(以下、dog actually2011年9月12日記事より)


アメリカは東海岸ニューイングランド地方の小さな州、ニューハンプシャー州にRolling Dog Farmという非営利団体の動物保護施設があります。ここは盲目であったり耳が聴こえなかったりする身体障害のある犬達が暮らす施設で、現在は犬の他に猫や馬なども暮らしており、いずれも何らかの障害を持つ動物達です。多くの動物達は障害ゆえに里親が見つからないとして他のシェルターから移送されて来た者達です。
犬達の数は現在35頭、相応しい縁組があれば一般の家庭にもらわれていくこともあり、そうでなければ広い敷地内で仲間の犬達とオーナーのスミス夫妻と共に、生涯をここで過ごします。
そんなRolling Dog Farmでは、犬達に与える食餌に関して2~3年前から試行錯誤を繰り返しつつユニークな活動をしています。
2000年に活動を始めた当初、スミス夫妻は犬達に与える食餌の「質」を重視していました。華やかなコマーシャルやきれいなパッケージに惑わされることなく、本当に高品質のドッグフードと、そうでないものを見極めて給餌をしていました。
しかし数年前、夫妻はふと「このドッグフードの原料になっている動物達はどんな風に生きてどんな風に死んでいったのだろうか?」という思いに至ったそうです。
アメリカにおいても、日本と同じように犬の食餌にこだわる飼い主は多く、「生食派」「手作り派」「高品質フード派」がそれぞれの説を主張する光景はよく見られます。
ファクトリーファームと呼ばれる生産性のみを重視した、羽根も伸ばせない環境の鶏や、身動きもできない柵の中の豚や牛、それらの動物に投与される抗生物質。より健康的な食を求めるためと、抗議の表明としてそのような肉を避けて、オーガニック食品を選ぶ人々もたくさんいます。犬用のフードにもオーガニック飼育の肉を使ったものが多く出回っています。

しかしオーガニック飼育では、生きている間動物が何を食べて、どのように扱われるべきかは規定されていますが、どのように死んでいくか、つまり屠殺の方法までは規定されていません。もちろん、非オーガニック飼育の動物に比べれば人道的な環境で育てられているのですが、スミス夫妻はそれだけでは納得して犬達にその肉を与える気にはなれませんでした。彼らは自分達が愛する犬達のために命をくれる動物に対しても、フェアーで人道的であることを強く求めたのです。
スミス夫妻、彼ら自身は肉はもとより、卵や乳製品も食べないヴィーガンとして暮らしています。(卵や乳製品がOKのベジタリアンよりも厳しい。)
そこで最初に彼らが考えたのは、ファームの犬達にもベジタリアンとして生きてもらうことでした。
しかし(当然ながら)この試みは失敗に終わりました。犬達の中には出された食餌に全く口をつけない者も出る始末。ましてや彼らのファームには犬よりも肉食の性質の強い猫達もいるのです。
スミス夫妻は「プランB」を実行に移すことにしました。
ところで余談ですが、The Humane Society of the United States(米国動物保護協会)では「Humane Choice(人道的な選択)」と名付けた、独自のドッグフードの販売を行っています。原材料は全てオーガニック栽培の玄米、大豆、ヒマワリの種、蕎麦、キビ等。つまり植物性の原料のみのヴィーガンドッグフードです。興味のある方はリンク先をごらんになってみて下さい。

さて、話を戻しましょう。
スミス夫妻の「プランB」それは自分達が納得のいく環境で自らの手で動物を育てて、納得のいく環境で可能な限り苦痛の少ない屠殺を行うというものでした。
幸い彼らには独自に牛を飼うだけの十分なスペースもあり、家族経営で小規模の屠殺場と契約することもできました。
自らの手で育てた動物の命を頂くというのは、ある意味究極の選択であり、彼らにとっては苦渋の決断でもありました。しかし今のところ、Rolling Dog Farmでは犬や猫達が食べる肉はこのような方法で確保されています。
とは言え、いくら動物福祉を真剣に考えている人でも、スミス夫妻のファームのような方法は一般家庭では不可能です。
そこで夫妻は、一般家庭でも出来る「人道的な食べ物」を手に入れる方法を述べています。
まずは近隣の農場から直接肉や卵を買うこと。そこで動物がどのように扱われているか自分の目で確かめて、購入するのです。たいていの場合、一家庭では多過ぎる量が一単位になるので友人や近所の人達と分け合うという方法で。
もっと簡単な方法はスーパーマーケットなどで「Animal Welfare Approved(動物福祉基準承認済)」や「Certified Humane(人道的基準合格)」の印のついた肉を購入すること。これらは生きている間の環境だけでなく、運送方法や屠殺方法にいたるまで、可能な限り動物に苦痛を与えない方法を採用しているという証明です。
この証明のついた食肉はどこの店でも手に入るというわけにはいきませんが、出来る範囲でこういうものを購入すること、また地元のスーパー等にHumane Meatの販売をするよう問い合わせをすることなどで、少しずつ流れを変えていくことができるとスミス夫妻は訴えています。
また、オーガニック食品をメインに扱う大手スーパーチェーンWhole Foods Marketは自社で流通する食肉に関して独自の動物福祉面でのレーティングを設け、ファクトリーファームの食肉は一切販売しないと明言しています。
残念ながら今のところ、このような動物福祉の基準に合格した食肉を使っているとうたっているドッグフードはアメリカには存在しません。単にオーガニック飼育されたというだけでなく、運搬や屠殺にまで配慮された食肉だけを愛犬に与えたいと思うならば、家庭で手作りの食餌を用意しなくてはならないというわけです。
家畜の福祉については、アメリカはEC諸国の基準に比べるとたいへんに遅れています。そしてそれを何とか変えていきたいと活動をしている人もたくさんいます。
愛犬のフードボウルの中の肉も元は命のあった動物です。何を、どのように選ぶか、消費者が正しい選択をしていくことが動物福祉の流れを作っていくと心に銘じていたいと思います。
日本では無理な話だ、遠い外国の話だと思われる方もいるかもしれません。しかし消費者が知ろうとすること、生産者や業者に「買うこと」「買わないこと」でメッセージを届けることで良い流れを作ることが出来るのはどこでも同じ。
愛犬に命をくれる動物達のためにも良い世界を作っていきたいものですね。
【参考サイト】
The Bark How to Raise Humane Dog Food

動物の為の科学捜査と法医学を学ぶ教育プログラム、アニマルCSI

「優良犬市民検定」の記事の追記部分でも触れましたが、この記事もプロフットボールのスター選手だったマイケル・ヴィックの違法闘犬の場から保護されたピットブルたちのストーリー「The LOST DOGS」からインスパイアされて書いたものです。

記事を書くにあたって書籍の中で触れられている部分だけでなく、マーック獣医師が携わった動物虐待罪のファイルなども読んだのですが、その内容に読むのが辛くて挫けそうになったのを思い出します。

2017年現在も、記事内で取り上げたフロリダ大学のプログラムはアメリカでの動物法医学の頂点です。と言うより、他の大学で動物法医学についての目立った動きはあまり聞こえて来ていません。けれどフロリダ大学のプログラム受講者は大きく増加し、日本も含めて世界中に拡がっています。

(以下dog actually 2011年8月29日掲載記事より)

日本でも海外ドラマはあいかわらずの人気ですね。その中でもこの数年すっかりジャンルとして定着した感のあるのが犯罪科学捜査や法医学をテーマにしたもの。『CSI:科学捜査班』や『BONES』などがその代表でしょうか。
アメリカではこの人気ドラマのタイトルにちなんで「Animal CSI」と呼ばれる教育プログラムが2010年にスタートしました。フロリダ大学とASPCA(米国動物虐待防止協会)が協力し合って、アメリカ国内のメジャーな大学では初めて本格的な動物の為の科学捜査と法医学のコースを設定したのです。
動物に対する虐待を犯罪として立証する場合、証拠を揃えていくことが何よりも重要になります。なぜなら被害者である動物は証言をすることができないのですから。しかし科学的な捜査を進め裏付けのある証拠を集めていくには、通常の獣医学や犯罪捜査とは違う知識やスキルが必要で、現在のところこれらのスキルを持つ人材が非常に少ないのです。
動物に対する犯罪をきちんと捜査して立証し防止していくためには、動物法医学のスペシャリストを育てて行くことが不可欠であるとして、ASPCAに所属するメリンダ・マーック獣医師が中心となって、このフロリダ大学とASPCAのコラボレーションが誕生したのでした。
マーック獣医師はアメリカの動物法医学のパイオニアであり、2007年にプロフットボールNFLの大スター選手だったマイケル・ヴィックが違法闘犬と動物虐待で逮捕された際の捜査の立役者でもありました。
マーック獣医師の足跡はアメリカにおける動物法医学の歴史でもありますので、この辺りを少しご紹介いたしましょうか。
90年代、マーック獣医師はジョージア州で開業医として働いていました。日々の仕事の中で、彼女はいくつもの虐待やネグレクト、アニマルホーダーなどの深刻な例を見て来ました。2000年にジョージア州が動物虐待を重罪として裁く法律を作ると決定した際に、州議会は捜査官や弁護士、獣医師、動物保護活動家を招集して委員会を発足させました。マーック獣医師もそこに参加し、動物虐待を捜査するための法医学について、講義やプレゼンテーションを行うことになったのですが、全く前例のないことばかりで彼女は全てを自分で構築することから始めなくてはなりませんでした。
人間の犯罪現場捜査のワークショップへの参加、人間の銃創鑑定、咬跡分析を勉強し、実際の人間の検屍にも立ち会って、必要な知識や技術を身につけていきました。医学的な知識だけでなく法律にも精通していくようになり、着々と動物犯罪科学捜査の手法とデータベースを作り上げて行ったのです。

(photo by keliblack)

そうして2003年、マーック獣医師は団体初の動物法医学者としてASPCAに採用されました。希少な動物法医学者として全国の深刻な動物虐待の事件に携わる中、2007年全米を驚愕させたマイケル・ヴィックの事件にも彼女は招集されました。
自宅敷地内で闇闘犬を開催し、50頭以上のピットブルを所有していたヴィック。闘犬だけでも十分に重罪なのですが、彼はさらに闘犬において成績の振るわない犬を殺害し敷地内に埋めたという証言がなされていました。
マーック獣医師の仕事は証言に基づいて掘り起こされた遺体を骨標本にして検証し、どのような暴力行為が加えられたのかを科学的に証明することでした。結果、ヴィックは有罪判決を受け約2年の服役と約1億円の犬達のリハビリ費用の負担が課せられることとなりました。
このアメリカに住む者ならまず知らない人はいないと思われる大事件で動物法医学が果たした役割は、獣医師や獣医学生達の大きな関心を引くことになりました。「動物法医学のスペシャリストを育てる場を!」という思いは大きな流れとなり、最初に書いたフロリダ大学での動物法医学の開講へとつながっていったのです。
現在、マーック獣医師はフロリダ大学で動物法医学の教鞭を取っています。教育の対象は獣医師や獣医学生だけでなく、アニマルコントロールの捜査官、法執行官なども含まれています。フロリダ大学のこのコースは現在約200名が参加。アメリカ全土のみならず、9カ国の国外からの受講者も受け入れ、国際動物法医科学連盟を創設すべく動いています。
講義の内容には、犯罪科学昆虫学(腐敗した遺体に群がる昆虫の状態から、経過時間などを推測する)、血痕分析(壁などに飛散した血痕のパターンから、動物に与えられた暴力を分析する。動物の血痕は人間のものとは違う付き方をするので、人間の血痕分析を適用すると評価が不正確になるおそれがあるそうです)、咬跡分析、動物犯罪現場処理などが含まれているそうです。
マーック獣医師は、子供の頃から動物を深く愛して育って来られた人ですが、動物が巻き込まれた犯罪を検証する時は、怒りや悲しみは脇に置いて、そこにある科学的な証拠だけに集中することにしていると言います。そうして自分の知識と経験を武器に犯罪を暴き、次の犯罪が起こることを予防することが動物達に対する務めであるからと。
8月27日に〆切となった、動物取扱業の適正化案に関するパブリックコメントの募集。今回は動物取扱業が対象でしたが、またいつか動物虐待を取り締まる法律に関しての案やパブリックコメント募集があるでしょう。そのような時に、動物を傷つけたり命を奪ったりすることに関して「器物損壊罪」として処理するのではなく、人間にするのと同じように科学捜査をして犯罪を立証している国の例があることを思い出して頂けたらと思います。






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