2017/06/20

犬の胃拡張・胃捻転(GDV)リスク要因

犬の胃拡張、さらに進んで胃捻転、どちらも怖い病気です。特に大型犬と暮らしている人にとってはその恐怖は切実です。

2011年、テレビの動物番組にレギュラー出演していたラブラドールが胃捻転で急逝した時にSMILES@LAで「胃捻転鼓腸症候群(GDV)について」としてその症状やリスク要因について書いたことがあります。もう6年も前のことなので追加情報も含めて、また書いておこうと思います。

(illustration by GraphicMama-team )

これらはいずれもハイリスクとされる犬種ですが、小型犬や中型犬でも起こり得ます。
うちのブログにコメントをくださる方のミニピン君も胃拡張で救急にかかったと教えていただきました。

胃拡張捻転症候群(GDV)とは

胃拡張というのは何らかの理由で胃にガスまたはガスと水分が溜まりパンパンに張る症状です。緊急の疾患で前触れもなく突然に起こるので、日頃からこの病気のことを知っておくことが大切です。膨らんだ胃が周りの臓器を圧迫して血流を妨げたり壊死を起こすこともあるので、早急に病院で処置を受けなくはいけません。

膨らんだ胃は体内で回転して捻じれを起こしやすくなっています。捻じれが起きてしまうと胃捻転という状態になり緊急性はさらに増し、手術が必要になります。

正式には胃拡張捻転症候群(英語ではGastric Dilatation Volvulus Syndrome でGDVと呼ばれます)アメリカでは犬の死因としてガンに次いで2位とも、ガンよりも多く1位とも言われる疾患です。

原因はまだ明確になっておらず「○○をすればGDVになる」というような単純なものではなく、いくつもの要因が複雑に重なり合った時に起こると考えられています。

そのリスク要因となる事柄については、アメリカの大学の研究チームによるリサーチが発表されているのでご紹介します。従来「胃捻転を防ぐために」と言われていた事柄がリスクを高める要因になっている例もあるので、ぜひご確認ください。

GDVのリスク要因と考えられる事柄

以前にSMILES@LAに書いたリスク要因のリストも、以下のリストもアメリカのPurdue大学獣医学部グリックマン博士の研究チームによるリサーチに基づきます。
英語で「dog(またはcanine)bloat(またはGDV)risk factors 」という項目で検索すると、ほとんどの情報はこのリサーチを元にして書いていると明記してあります。
(残念ながら日本語での検索では、残念なキュレーションメディアの情報が上位に来てあんまり役に立ちません。日本語で検索する場合は、動物病院のサイトや獣医師などが書いている情報を選ぶことをお勧めします。......このブログも素人が書いてるんだけど 笑)

Purdue大学のリサーチは1994年に開始され、約10年にわたる追跡調査によって導き出されたものです。ですからこのリサーチは科学的なメカニズムを解明するものではなく、事実が数字に表れた統計です。調査はグレートデーン、アイリッシュセッターを始めGDVのハイリスクグループとされる胸の深い大型犬11種1914頭を対象に行われました。対象の犬たちは皆、調査以前にはGDVの病歴がない個体が選ばれています。その後、それぞれに生活習慣や食習慣の統計を取り、どのグループでその後GDVの罹患があったかを調査してリスク要因を割り出しています。

ハイリスクとされる犬

(illustration by gdakaska )
カットの仕方によってはわかりにくい場合もあるが、胸が深くウエストの細いスタンダードプードルもハイリスクグループに入る。


・グレートデーン、ドーベルマンなどのように胸が深くウエストの細い犬は肋骨の内側で胃が動くスペースの余裕があるため、GDV発症のリスクが高くなります。また内臓脂肪が付いていれば、胃が動く余裕が少なくなるため、痩せている犬の方がGDVのリスクは高くなります。(ただし肥満によって内臓脂肪が付いている場合は他の病気のリスクが高くなりますので、太っている方がヘルシーというわけでは決してありません。)
痩せている犬の場合、胃が膨らんで来た時にわかりやすいというメリットもありますので、注意深い観察を!

・年齢が上がるほど、胃を支える靭帯が伸びた状態になるためGDV発症のリスクは高くなります。
大型犬では5歳以降1年ごとに20%ずつ、超大型犬では3歳以降1年ごとに20%ずつリスクが上昇すると言われています。

・GDVは遺伝病ではありませんが、一親等以内にGDV発症歴のある犬がいる場合、発症のリスクは約1.6倍になります。

・早食いの犬は、食べる時に空気を多く飲み込むためリスクが高くなります。早食い防止ボウルなどの利用を。

・神経質、攻撃的、臆病な犬はリスクが高くなります。普段それほど臆病でない犬も長くストレスにさらされた後にはリスクが高くなります。


生活の中のハイリスク要因

・最重要要因は食餌の回数。1日1回だけ大量のフードを与えるやり方は最もハイリスク。
食餌は1日2〜3回に分けて。ドライフードで言えば、体重15kgあたりカップ1杯を上限とする(ただしアメリカの計量カップなので250cc)
大量のフードが胃に入ると、重みで胃を支える靭帯が長時間伸びた状態になるため。

・与えているのがドライフードだけ。ドライフードの粒が体のサイズに比べて小さすぎるのもリスク要因。
普段から違うタイプの食べ物を与えておくことはリスクを低下させる。手作りフードをローテーションに加えた場合のリスクは59%低下、缶詰フードを加えた場合のリスクは28%低下したと報告されています。

・ドライフードに水分をプラスして与えるのは発症リスクを高くします。特に保存料としてクエン酸を使っているフードの場合、水分を加えることでリスクは4倍以上になります。
クエン酸は合成保存料無添加のプレミアムと呼ばれるフードの多くに使われています。

・フードボウルを台に置いて高い位置で食べさせることは、空気を飲み込む量が増えるためリスクが2倍以上高くなります。フードボウルは床の上で!
フードに水分を加えることとフードボウルを高い位置にすることは、過去には胃捻転予防になると言われていたのですが、統計では全く反対の結果になっています。くれぐれもご注意ください。


・フードの原材料一覧の最初の4つ以内(原材料は含有量が多いものから順に記される)に脂肪が含まれているフードはそうでないものに比べて2.7倍のリスク。
統計的にはそれほど有意ではないものの、フードの原材料一覧の最初の4つに複数のコーン食材(コーンミール、コーングルテン等)が含まれるフードはややリスクが高くなっていることも確認されています。
また反対にタンパク源が動物性由来の肉や魚のフードではリスクが低下しています。
コーンなど植物性のタンパク源を使用している場合、風味を補うために脂肪を多く添加するので、この関連性は理にかなっています。


このリサーチが開始された1994年を基準にすると、1964年から1994年の30年間の間にアメリカでの胃拡張または胃捻転の罹患率は16倍にも増えています。
理由のひとつとして考えられるのは経済成長に伴って、大型犬の飼育数が増えたことが考えられます。
もうひとつ考えられる理由は、ドッグフードの普及です。中でも簡便なドライフードの普及は胃拡張または胃捻転の増加に比例しています。アメリカに比べてオーストラリアやニュージーランドではドライフードを与えている人が少ないそうですが、この2国ではハイリスクグループといわれる犬種でもGDVの罹患率はアメリカよりも低いそうです。
残念ながらドライフードがGDVのリスク要因であることは間違いないようです。

とは言っても、手軽に栄養バランスの取れるドライフード無しでは難しいという方も多いですよね。だからこそリスク要因をよく知っておいていただきたいと思います。

最後に、今までにも何度も紹介している動画を貼り付けておきます。
シェルターから新しい家庭にもらわれてきたその日、記念の動画を撮っている最中に胃拡張を発症した秋田犬の動画です。
お腹が見る見るうちに膨らみ、苦しそうに吐きそうな様子などが見られます。
こんな様子が見られたら、一刻も早く病院に連れて行ってください。あらかじめ病院に電話をして胃拡張または胃捻転で救急であると伝えておきましょう。

この動画の犬は無事に命を救われました。



次回は、再度GDVについて。予防手術のことを書きます。


【参考サイト】
Risk Factors for Canine Bloat http://goldenrescuestlouis.org/Bloat.asp

7 件のコメント:

  1. sayuri nambu2017/06/21 8:39:00

    シェアさせていただきましたm(__)m

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  2. シェアさせていただきます。

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  3. sayuri nambuさん、M.Araiさん
    シェアどうもありがとうございます。
    おかげさまでたくさんの方に読んでいただけました!

    返信削除
  4. こんにちは。初めまして!
    シェアさせていただきました。日本では先日もTVで食器は代の上に乗せて食べさせましょう、とやっていたり。
    多くの方がこちらの記事を拝見してびっくりしているところです。有益な情報感謝です!

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    1. 真利子さん 
      初めまして。コメントとシェアありがとうございます。
      食器が床の上だと食べにくそうというのは良くない擬人化のひとつではないかと思います。
      確かに台の上の方が見た目が良いし、人間目線では食べやすそうに見えますものね。
      アメリカでも獣医師や研究者が根気強く食器を台に乗せることの危険性を説き続けて来ましたが、2010年以前にはそれらのレポートなどにも悲痛な反論が付くことが多かったようです。その多くは長年それが予防だと思って実行して来た人々でした。
      近年はようやくフードボウルは床の上が安全という説が炎上することはなくなってきたようですが、それでも犬の食器台はまだ市販されています。
      日本語の情報でGDVの予防のために食器は台に乗せてというのを見かけると戦慄を感じています。
      多くの方にシェアしていただいたおかげで、この記事もたくさんの方に読んでいただくことができました。
      引き続き、新しい情報などがありましたらお伝えしていけたらと思っています。

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  5. うちの子は、ボルゾイです。
    やはり、胃拡張・胃捻転には日頃より意識していますが実際に症状が出た場合落ち着いて対処が出来るか不安です。
    フードの食台に付いて伺います。
    記事を読み、早速フードを床置きにしてみましたが、脚が長いのでキリンの様に前脚を開き、とても食べ難そうです。
    低い食台にして与えましたが、それでは効果は無いのでしょうか?

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    1. 匿名さん
      初めまして、コメントありがとうございます。
      ボルゾイでしたら本当に足が長いので確かに食べ難そうになりますよね。
      私は低い食台でリスクの低減になると思います。
      なぜ高い食台にするとリスクが高くなるのかを考えてみました。
      犬の体の構造を考えると、高い台に乗せたボウルから立ったまま食べると、口〜食道〜胃の道筋が首の角度で折れ曲がった形になっているんですね。
      一方、台を使わずに首を下に伸ばして食べる姿勢になると食べ物が通る道筋がほぼ一直線になります。
      食道〜胃に角度がついていると、まっすぐに伸びている時よりも空気が入りやすいだろうと想像できます。
      人間も良い姿勢で食道から胃の道筋をまっすぐにして食べると食べやすいですが、変な姿勢で食道から胃への道筋に角度が付くと、いかにも食べにくいですよね。
      ですから、低い食台でも口〜首〜食道〜胃の道筋に角度がつかず、まっすぐになっていればOKです。
      言葉で書いて説明するとわかりにくいので、明日にでも絵を描いてブログの記事としてアップしますね。

      削除

犬の胃拡張・胃捻転リスク問題の補足

このブログを書き始めて、今のところの一番の功績は(自分で功績とか言っちゃうのもどうなのよって感じですね。すみません。)6月に書き下ろしでアップした 「犬の胃拡張・胃捻転(GDV)リスク要因」 の記事ではないかと思います。 何しろPVがじわじわと増え続けて22000を越えるとい...