ラベル 社会/環境 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 社会/環境 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022/01/29

宗教と動物福祉の関係

今回は全然アメリカの犬の話ではないのですが、以前にdog actuallyに似たテーマの記事を書いたことがあったので、このブログに書くことにしました。
そう言えば、このブログはdog actuallyの記事を再掲するというのが当初の目的でしたわね😜



 
Thomas B.によるPixabayからの画像 
2014年にdog actuallyに書いたのは『犬にも魂があり天国への扉が開かれている?』というタイトルでした。↓これがその時の書き出しの文章。
ニューヨークタイムス紙に「犬も天国に行ける?ローマ教皇フランシスコが天国への門を開いた」という見出しの記事が掲載されました。この記事はその後訂正されて、ローマ教皇はそのような旨の発言はしていなかったことがわかったのですが、オリジナルと訂正記事の両方が主要報道機関によって大きく取り上げられ話題になりました。

カトリック教会においては、動物には魂がない〜つまり死によって存在が消滅するので天国に行くこともないという考え方なのですが「フランシスコ教皇はその考えを覆したのか!?」「いや、誤報だった...。」という話でした。 


ローマ教皇が動物について発言したこと

そして今回書くのは、2022年1月上旬に世界のあちこちで大炎上となったローマ教皇の発言と、そこから考えたいこと。

フランシスコ教皇はバチカンで一般の聴衆と「親と子の関係」についての対話をしていた際に、多くの先進国で出生率の低下が続いていることを受けて「子どもを持たないことを選択し、代わりにペットの動物を飼うことは利己的な行動である」と述べました。

「身体的な理由で子どもを産むことができない場合には養子縁組を考えるべきだ」とも発言して、子どもの支援団体や動物保護団体そして一般の人々からも非難轟々となったわけですね。

どうして子どもの代わりに犬や猫を愛することが利己的なのかと言うと、犬や猫といった動物は神によって人間を愛するよう(または人間の役に立つように)プログラムされており、そのようにプログラムされている者の世話をして愛情を注ぐのは簡単なことだから、だそうです。対して人間の子どもを育てることはもっと複雑で責任を伴うことであると、教皇は述べています。

「非難轟々」の内容には皆さんが想像されるような意見がたくさん詰まっています。また子どもを育てることが複雑で責任を伴うことであるからこそ望まない人に強要するべきではないという批判も多く寄せられました。

カトリックの教えと社会の中の動物の位置

カトリック教会はキリスト教最大の教派で、その最高位の人物がなぜ動物について上記のような発言をするのか。それはカトリックの教えの中での動物の扱い、社会の中で動物が置かれてきた位置、社会と教会の関係性と複雑に絡み合っています。

過去の記事にも書いたように、カトリックの教えでは動物には魂がないということになっています。それだけでなく、19世紀後半くらいまで動物は感情や感覚を持たない車輪や機械と同じものだとされていました。これらは聖書に書かれていることではなくカトリックの教義の一部です。

↓ここからは私が推測したり考えたりしたことなので、全部が歴史的に正しいかどうかは不明です。

カトリックの教義では、意識や感情つまり魂のあるものは愛情と敬意を持って扱わなくてはならない、また魂を持つ者には天国の扉が開かれていることになっています。
動物には魂がないと言い切る理由を考えると、動物にまで天国の扉を開くと自分達の分の天国行きチケットが少なくなるとでも思ったのか?と感じます。

多分、使役動物である馬や犬を人道的に扱うことにコストをかけるよりも、使役動物は痛いとか辛いといった感覚すらないからどのように扱っても構わないと考える方が経済性利便性の上で都合が良かったからではないかと思います。

教会と経済性という組み合わせに違和感があるかもしれませんが、西欧社会における教会の権力は強大であったため、社会的及び経済的な強者とのつながりは強固でした。

世界史の授業で『マルティン・ルターの宗教改革』というのを習いましたよね?あれは聖書の教えよりも教会にとって都合の良い教義を使うことで金儲けに傾倒して腐敗したカトリック教会を内部から改革しようという16世紀に起きた動きでした。16世紀の時点でカトリック教会にはこのような体質が根付いていたことが分かります。

ルターの宗教改革は、彼が当初計画したような改革ではなく、プロテスタントという新しい教派を生むことにつながりました。カトリック教会においては動物についての教義は変わることなくそのまま残っていきました。

そして時代は流れ19世紀、プロテスタントはイギリスに到達し1824年には世界で最初の動物虐待防止協会が設立されました。(イギリスにおけるカトリック教会とその後の分離の流れはこれまた複雑かつ非常に面白いのですが、ここでは関係ないので割愛)

ローマンカトリックのお膝元であるイタリアにもこの「動物虐待を止めよう」という動きがやって来たのですが、1846年から1878年在位のローマ教皇ピウス9世はイタリアに動物虐待防止協会を設立することを阻止するための激しいキャンペーンを主導しました。動物は感覚や感情を持たない魂のない存在であるから虐待などというものは存在しないというわけです。

さらに時は流れ、20世紀後半の1990年には時のローマ教皇ヨハネパウロ2世が「動物にも魂があり、人間は小さき兄弟に愛と連帯を持たなくてはなりません。すべての動物は聖霊の創造によって産まれたもので人間と同じように神の近くにいる存在です。」と発言されています。

ようやく変化が訪れたかと思われたものの、その後、前教皇のベネディクト16世と現教皇によって、動物は再び「人間と違って魂を持たない存在」であるとされています。しかし流石に「感情や感覚のない機械と同じもの」という扱いではなくなっています。

上記の「非難轟々発言」の中でフランシス教皇が言及した「犬や猫は人間を愛するようにプログラムされている」という言葉には、このような歴史が積み重ねられているわけです。


宗教が社会に、社会が動物福祉に及ぼす影響

カトリックの信者の人々にとってバチカンや教皇の言葉は非常に大きな意味を持ちます。カトリックの国の動物についての考え方や扱いにもその影響は色濃く現れています。

世界最初の動物虐待防止協会ができたのがイギリスであったように、動物保護や動物福祉といった考え方はプロテスタントの国が主導してきた傾向が強いです。「動物には感情や感覚がない」と繰り返し説かれて来た社会で動物を保護しようという考えが自然と生まれて来るとは思えないですもんね。

またカトリックにとって重要なのは教会の教義であったのに対して、プロテスタントにとって重要なのは聖書の教えそのものでした。プロテスタントが広まった国では聖書を読むために識字率が上がり、市場経済が発展しやすい下地となりました。これもまた間接的に動物保護や福祉という考えの発生につながっています。経済的な余裕がなくては動物に意識を向けることは難しいでしょうから。

決してカトリック教会を批判しているわけでも、カトリックに悪い感情を持っているわけでもないですよ。プロテスタントも為政者の都合の良いように解釈され利用されてきた面もあるし、キリスト教だけでなく仏教にも権力との結びつきや民衆を抑えるために使われてきた歴史があるのはご存知の通り。多分他の宗教においても大差はないと思います。

多くの日本人にとっての宗教は、ベースに神道と仏教があるけれどその存在を意識するのは初詣や冠婚葬祭といった特別な場面だけでしょう。しかし日常生活に仏教が深く根付いている国では動物に施しを与えることが功徳になるという考え方もあります。タイなどで野良犬が地元の人にごはんをもらって共存しているのはその一例かもしれません。

その一方で仏教の教えが動物を傷つけている場合もあるようです。タイ在住の犬の写真家の方がTwitter(@inu_grapherに書いていらしたのを読んで知ったことですが、動物に施しを与えて徳を積むために、カゴに入れて売られている小鳥を買って放してやるという習慣があるそうです。小鳥はそのためだけに捕らえられた野鳥で、小さいカゴに入れられて脱水症状で命を落としてしまうこともあるらしい。

その他の宗教についてはほとんど知識がないけれど、特定の動物を不浄とする宗教もいくつかありますよね。何が言いたいかというと、カトリックに限らず宗教は世界中の人の日常生活に大きく影響しているのだから、人間のそばにいる動物の福祉にも影響が深いのは当たり前だということです。


現代人として考えなくてはいけないこと

ところで昨秋、フランスでは2024年からペットショップで犬や猫を販売することが禁止になるという報道がありました。SNSなどで「さすがはヨーロッパ」とか「日本も見習わなくては」というコメントをたくさん目にしてちょっと複雑な気持ちになっていました。

フランスもカトリックの割合が高い国です。そして西欧諸国の中では動物福祉への意識があまり払われていないことはよく知られて来ました。数週間のバカンスに出かけるためにペットを捨てたり、バカンス先に置き去りにして来るという行動が多いことで批判されて来た過去もあります。とは言え、良い方向への変化は大歓迎です。

フランスでは離婚の際にペットをどちらが引き取るかという法的な裁判の際に、ペットを物品としてではなく「感覚や感情を持った生き物」として扱うという法改正も決定しています。同様の法改正はポルトガルやスペインでも進められています。フランスもポルトガルもスペインもカトリックの国ですから、ペットを「感覚や感情を持った生き物」と法律で定義するのは画期的なことです。

スペインは闘牛に代表されるように動物福祉については悪名高い国ではあるのですが、上記のような変化も出て来ています。

なぜこのような変化が起きつつあるのか?それは法律という重大な決定をする際に、日常生活に入り込んだ宗教や習慣よりも科学的な知見が重要であると認識されたからです。犬だけに限らず、動物の認知機能や感覚についての研究は21世紀に入って大きく進歩しています。

科学によって証明されたことが立法にも影響を及ぼした、他国のこの流れを知っておくことは大切です。(2017年から4年間のトランプ政権下のアメリカでは科学によって証明されたことがないがしろにされ続け、それが今も尾を引いていますが😣)

私は宗教を否定するつもりは全くありません。信仰は時に人を助け、精神的なサポートになるものです。また一般の人間が科学論文を読んで考えようと言っているわけでもありません。しかし他の命ある生き物と関わる際には、宗教や因習に捉われるよりも科学的に裏付けのある情報や方法を選ぶよう考えなくてはいけない、そう思います。

ローマ教皇の発言に端を発して、カトリックの国における動物の扱いの歴史や文化について長々と書いてきました。

動物福祉というキーワードからも、世界史、経済、心理学などさまざまな分野の学習にリンクしていくことができます。ここに書いたことがどなたかの興味のスタートになったりすると嬉しいなと思います。





《参考URL》

2021/03/23

ファーストドッグ の報道から学ぶこと

前回書き下ろした記事がバイデン大統領の犬たちのことで、今回もまたメイジャーとチャンプのことです。

そんなにファーストドッグ が好きなのか?と聞かれれば、好きです😉
特に13歳のジャーマンシェパードであるご長寿チャンプは私の個人的「推し」の犬の一頭です。


メイジャー事件の真相

さて、今回の話題はチャンプではなくメイジャーが主役です。上の写真の右側の若くて黒いジャーマンシェパードです。

3月の上旬に「大統領の犬メイジャーがシークレットサービスのエージェントに攻撃的に咬みつき、ホワイトハウスからデラウェアのバイデン家に送り返された」という報道がありました。
ええっ!と驚いたのですが、続報を聞くと大したことは無さそうな感じで、翌日ワシントンポスト紙に詳細が報道されました。

噛まれた(咬むじゃない。英語でいえばbiteではなくnip)のはホワイトハウスに新しく配置されたシークレットサービスのエージェント。ドアを開けたら知らない男性が立っていたのに驚いたメイジャーがエージェント氏の手を軽く噛んでしまった。医療ユニットが処置をし、皮膚が少し赤くなっていたが歯も刺さっていないし出血もないとのことでした。

後日、バイデン大統領就任後初のテレビでのロングインタビューでは最後の質問として「ところでメイジャーはホワイトハウスから離れています?」と聞かれていました。インタビュアーは犬小屋と言っているけれど、これはホワイトハウスのこと。

メイジャーとチャンプがホワイトハウスから追放されたという報道を受けてのことです。

動画では4:00のあたりからです。 


大統領は 「答えはYes。ほら、メイジャーは保護犬だったんだ。誰かを咬んだり牙を立てたりはしてないよ。今回のことは彼らの住まいとしてのホワイトハウスそのものが原因じゃないかと思う。何しろドアを開けるたびに黒いジャケットを着た男がそこにいるんだからね。」

ホワイトハウスを離れてデラウェアの自宅にいるのは、追放されたのではなくて大統領とファーストレディーがどちらも公務でしばらくホワイトハウスを離れるためで、メイジャーがトレーニングを受けていることも言及しています。


トレーニング以前に必要なこと


大統領の愛犬が誰かを噛んだ事件は以前にも数件あり、最近ではジョージWブッシュ大統領のスコティッシュテリアのバーニーがリポーターの手に怪我を負わせたことがありました。
これはリードを付けて散歩していたバーニーにリポーターが近づき、バーニーが「来るな!こっち来るな!」と全身で警告していたのを完全に無視して(と言うか、多分撫でたら仲良くなれるくらいに思っていた)頭を撫でようとしたからで、あれで犬が責められたら理不尽過ぎるというものでした。

小型犬のバーニーと違ってジャーマンシェパードのメイジャーは「噛んだ」という言葉のインパクトも大きくなります。理不尽だけどね。


メイジャーの報道を受けて、SNS上には膨大な数のリプやコメントが寄せられていましたが、目についたのは「メイジャーは訓練所に預けたほうがいい」というもの。

どうして犬のトレーニングというと「預ける」という発想が増えるんでしょうね。そもそも犬が噛む(または咬む)理由のほとんどは何か脅威を感じたから防御するためです。違う場所で訓練しても、いつも居る場所に原因があれば意味がないのにね。

ドッグトレーナーのヴィクトリア・スティルウェル氏はメイジャーの件について「トレーニングではなくて環境を整えることが重要」と述べています。

ホワイトハウスというあまりにも特異な環境に連れて来られて、飼い主は今までのようにいつも一緒にいることができない、知らない人が入れ替わり立ち替わりやって来る。2歳の犬が混乱してしまうのも無理はありません。

ヴィクトリアは、犬たちが過ごす環境を制限して(多分、エリアを決めて人間がそこに立ち入る際のルールを明確にするということ)犬にとって予測不能なことが極力起こらないようにすることを勧めています。

大統領自身が「ホワイトハウスそのものが原因だと思う」と述べているので、きっと適切な対策が取られることでしょう。

犬にトレーニングは必要ですが、それは犬の行動を押さえつけるためではなく、犬と人間双方が快適に暮らせるためのコミュニケーションを学ぶためです。
トレーニングは重要なツールではあるけれど万能ではない。トレーニングをすれば全ての問題が解決するわけではありません。

ヴィクトリアが言っている「トレーニング以前の問題として環境を整える」というのはホワイトハウスという特殊な環境だけでなく、全ての飼い主が心に留めておきたいことです。

犬が吠えてばかりいて困ると言いながら、道行く人が常に見える窓の側を犬の居場所にしているなどは典型的な「トレーニングの前に環境を」の例です。

アメリカ大統領の犬の生活からも、私たちが考えて参考にできることがたくさんあるという一例です。犬の行動の基礎をしっかり勉強して(ここ大事!)色々な事例と照らし合わせて「どうしてこんな行動をしたのだろう?」と推理するのは実益を兼ね備えた楽しい趣味になり得ますよ。





2020/07/23

UCデイビス校獣医学部による35犬種の避妊去勢手術ガイドライン

避妊去勢手術と特定の疾患のリスク

2014年、アメリカの獣医師や心理学者、統計学者などの研究チームによってヴィズラの避妊去勢手術の有無、手術の時期、ガンの発病率の関連について大規模なインターネットアンケート調査が行われました。集められた2,500頭以上の犬のデータから、ヴィズラでは避妊去勢手術を受けた個体にガンの発病率が高いという結果が発表されました。

Image by photohun from Pixabay 

この情報を初めて聞いた時のショックとザワザワした気持ちは忘れられません。(その理由は後述)

その後、カリフォルニア大学(UC)デイビス校獣医学部によって特定の犬種の避妊去勢手術と疾患の関連についての研究が発表されました。ゴールデンレトリーバー、ラブラドール、ジャーマンシェパード では避妊去勢手術を受けた個体で未処置の犬と比べてガンと関節疾患の発病率が有意に高いこと、特に6ヶ月齢以前に手術を受けた時のリスクの高さが指摘されました。
UCデイビス校は10年にわたってこの研究を続けており、さらに対象の犬種を広げてデータの分析を行っています。

同研究チームは2020年7月に35犬種について、避妊去勢手術が影響を及ぼすと考えられるガン(血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、リンパ腫)関節疾患(股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全)のリスクを小さくするため手術の時期に関するガイドラインを発表しました。
これには同校の獣医学教育病院で過去15年の間に検査や診察を受けた数千頭の犬のデータが使用されました。


ガイドラインが発表された犬種と注目点

35の犬種は以下の通り(カタカナ表記ですが、アルファベット順です)

  • オーストラリアンキャトルドッグ
  • オーストラリアンシェパード
  • ビーグル
  • バーニーズマウンテンドッグ
  • ボーダーコリー
  • ボストンテリア
  • ボクサー
  • ブルドッグ
  • キャバリアキングチャールズスパニエル
  • チワワ
  • コッカースパニエル
  • コリー
  • コーギー
  • ダックスフンド
  • ドーベルマンピンシャー
  • イングリッシュスプリンガースパニエル
  • ジャーマンシェパード 
  • ゴールデンレトリーバー
  • グレートデーン
  • アイリッシュウルフハウンド
  • ジャックラッセルテリア
  • ラブラドールレトリーバー
  • マルチーズ
  • ミニチュアシュナウザー
  • ポメラニアン
  • トイプードル
  • ミニチュアプードル
  • スタンダードプードル
  • パグ
  • ロットワイラー
  • セントバーナード 
  • シェトランドシープドッグ
  • シーズー
  • ウエストハイランドホワイトテリア
  • ヨークシャーテリア

各犬種ごとのガイドラインは別にアップしますが、全般的に注目したい点がいくつかあります。


Image by skeeze from Pixabay 


避妊去勢手術によって関節障害が発症するリスクは犬のサイズに関係しており、小型犬では手術によって関節障害のリスクが高まることはない

⧫小型犬種では、避妊去勢手術によってガン発病のリスクが高くなることはほとんどないが、上記リストのうち小型犬2犬種でガンの発病率が高くなっていた。
小型犬で避妊去勢手術とガン発病の関連が見られたのはボストンテリアのオスとシーズーのメス
それぞれ逆の性別では手術とガンの関連は見られなかった。ボストンテリアのオスは1歳になる前に去勢手術を受けた場合、シーズーのメスは2歳になる前に避妊手術を受けた場合にガン発病のリスクが高くなっていた。

⧫大型犬種では避妊去勢手術は関節障害発症リスクに有意に関連しているが、超大型犬種であるグレートデーンとアイリッシュウルフハウンドでは、手術を受けた時期がいつであろうと関節障害のリスクには影響が見られなかった。

ドーベルマンのオスでは、1歳での去勢でガン発病リスクがやや上昇、2〜8歳の去勢でさらに上昇という例外的なパターンが見られるため、1歳未満での去勢または去勢無しが推奨されている。

ゴールデンレトリーバーのメスでは、避妊手術の年齢がいつであってもガン発病のリスクが高くなる。

⧫全般的な傾向では、大型犬において手術をする時期についての注意が必要。多くはオス1歳以降、メス2歳以降が推奨されている。


犬の避妊去勢には社会的な問題という側面もある

Image by kimdewar0 from Pixabay 


このガイドラインはこれから犬を迎えたいと考えている方、愛犬の避妊去勢について悩んでいる方にとって心強い指針になることと思います。
かかりつけの獣医師と話し合う際のツールとしても重宝なものになるでしょう。

一方で、以前に数犬種での研究が発表された時もそうでしたが、既に愛犬の手術を済ませた方が後悔したり落ち込んだりということがあるかもしれません。
しかし既に処置の済んだ手術によってリスクが高くなることを知っていれば獣医師と相談して対策を考える際にも、この情報は役立つものです。将来のリスクに備えてペット保険を見直す際の目安にもなります。

またこの研究はガンと関節障害のリスクをメインにしたものですが、避妊去勢手術で予防できる疾患もあることは忘れてはいけない点です。
2020年6月にワシントン大学の病理学者が発表した家庭犬の寿命についての統計では、避妊去勢手術をした犬の方が未処置の犬よりも平均寿命が長いという結果も出ています。

研究結果は単純に「だから避妊去勢をするべきではない」または「するべきである」と結論を出すものではなく、個々の犬にとっての最良を選ぶための有効なデータです。

「個々の犬にとっての最良」という点をもう少し掘り下げて考えてみましょう。

犬にとっての最良を決める時、医学的なデータだけでなく、もしも処置しないでアクシデントで子犬が産まれた場合の社会的な影響も考慮する必要があります。

今の日本ではアクシデントで子犬が産まれるべきではありません。
ましてや遺伝病や血統の知識のない素人が興味本位や小遣い稼ぎのために繁殖に手を出すのは言語道断です。
本来あってはならない子犬の誕生を完全に予防できる環境であるかどうかも、処置をするかしないかの重要なチェックポイントです。
もちろんこれは病気やその治療の研究をする科学者の守備範囲ではありません。
だからこそ、科学で判ったことを一般の飼い主に伝える時には『社会的な側面』を抜きにしてはいけないと私は考えています。

一番最初に書いたヴィズラの研究結果が発表された時に気持ちがザワザワしたのは「科学的な情報、しかも一般向けにかいつまんだものだけを読んで、やっぱり避妊去勢なんてしない方がいいんだ!という無責任な層が増えたら...」と考えずにいられなかったから。
それから間を置かずにゴールデン、ラブ、Gシェパードの研究が発表された時にはザワザワなんてもんじゃなかったですよ。

その頃私が心配していたのは個人レベルでの素人繁殖やアクシデントだったのですが、これらの研究結果を大規模保護団体が都合よく解釈して避妊去勢を行わないなどという、想像のはるか斜め上(いや、はるか斜め下)を行くような事態まで起こってしまって、犬の避妊去勢の社会的な側面を無視することの罪深さをまざまざと思い知りました。

このUCデイビスの研究のような避妊去勢のリスクの話になると、保護犬を迎えた人が「うちの犬は迎えた時に有無を言わさずに手術をされていた」と憤慨される声を聞くことがあります。
しかし保護犬の場合は存在そのものが社会的な問題ですから、その犬からさらに行き先のない犬が増えるようなことは社会的にあってはならない、つまり避妊去勢は最優先事項です。

Image by Sabine Runge from Pixabay   



犬の避妊去勢の話になると、つい熱くなってしまいました😓

毎度同じことを繰り返していますが、普通の家庭犬でアクシデントでうっかり交配してしまうリスクを完全にコントロールできるなら、避妊去勢をするか否かは飼い主さんの判断することです。
ここで紹介したような研究は、その判断のための大切な要素です。

決して避妊去勢手術で健康を害することがあっても仕方がないと言っているわけではありません。
この件については、ぜひ以前に書いたこの記事も併せてご覧になってみてください。






長くなってしまったので、各犬種のガイドラインは別の記事で追い追いアップしていきます。



《参考URL》

Evaluation of the risk and age of onset of cancer and behavioral disorders in gonadectomized Vizslas
https://avmajournals.avma.org/doi/abs/10.2460/javma.244.3.309?journalCode=javma

Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full

Lifespan of companion dogs seen in three independent primary care veterinary clinics in the United states
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-020-00086-8

2019/10/25

犬の避妊去勢 検討のポイントは「するか」「しないか」ではない

Image by Manfred Burdich from Pixabay 


ホロウィッツ博士が書いたNYTのコラム

少し前にTwitterに書いたのですが、アレクサンドラ・ホロウィッツ博士(『犬から見た世界』『犬であるということ』著者、コロンビア大学バーナード・カレッジ犬認知研究所主宰)がニューヨーク・タイムズ紙に犬の避妊去勢についてのコラムを発表しました。

その内容を簡単に要約すると


  • 現在アメリカでは、飼い犬に避妊去勢処置を施すことは『責任ある飼い主』として当然のことと受け止められている。このことは大規模保護団体や獣医師たちにも支持されている。
  • 1970年代にピークに達した犬猫の殺処分数は、その解決策として作られた安価な避妊去勢専門クリニックの普及と避妊去勢処置を勧める自治体の方針から減少を更新し、過剰頭数の問題は一見議論の余地のない成功を収めたように見える。(殺処分数は2000万匹/年から約10分の1に減少)
  • しかし2010年代に入り、早期に避妊去勢処置をしたゴールデンレトリーバーをはじめとする大型犬の関節疾患が多発、一部の大型犬でガンのリスクが倍増という、避妊去勢と疾患の関連を示す研究が発表された。
  • 避妊去勢処置は性腺を摘出することで、犬の体内でエストロゲン、テストステロンなどの性ホルモンが分泌されなくなる為、生殖以外にも成長や全身機能に影響を及ぼすと思われる。
  • 犬の避妊去勢の推進は人間の都合だけを優先しているのではないか。ヨーロッパでは避妊去勢は一般的ではないが、ノルウェーやスウェーデンで野良犬が問題になっていることはない。
  • 避妊去勢の方法は、従来の性腺および生殖器摘出手術だけでなく、オス犬の睾丸への避妊薬注射、オス犬の精管切除、メス犬の卵管結紮など、ホルモン分泌の機能を残したまま避妊効果をあげるものもある。
  • 避妊去勢が広範囲に行われることで、犬の遺伝子プールから健全な犬が除外されてしまい、犬種の健全性が失われてしまう。そしてこのままではミックス犬、雑種犬と呼ばれる犬は絶滅してしまう。
  • 私たちは避妊去勢された犬を迎えることで、犬に対する責任を免除されたわけではない。犬の複雑なニーズや身体機能を、犬の行動やコミュニケーションサインを学習し理解しなくてはならない。修正すべきは犬ではなくて、我々の方だ。
ホロウィッツ博士の著作は犬という生き物を理解する上で大きな助けになるものです。犬認知研究所の研究も、興味深く重要なものです。
でもこのニューヨーク・タイムズに発表されたコラムは、間違っているわけではないけれど「博士、そこはちょっと詰めが甘かったり、理屈に無理があるのではないでしょうか」という部分があります。

しかし著名な博士が大メディアに発表したコラムですから、その影響は大きく知識層や動物保護団体の間ではちょっとした議論となっています。
これに応えるように、ワシントン・ポスト紙にも犬の避妊去勢についての記事が発表されました。

ワシントン・ポスト紙の記事の要約

WP紙の記事も事実関連についてはNYT紙とほぼ同じことが書かれています。
犬の避妊去勢により殺処分数が大幅に低下したこと、一方で避妊去勢処置と健康問題の関連が指摘されていることなどです。
しかしWP紙の記事は複数の専門家に取材して書かれているため、もう少し落ち着いた論調で現実的なものになっています。

  • 避妊去勢と相関して特定の疾患が起こるリスクは特定の品種と大型犬でより高く、手術をする年齢も発症率を左右する重要なファクターである。小型犬や雑種犬では避妊去勢による疾患リスクの上昇は確認されていない。米国獣医師会や専門家は、個々の犬によって事情が違うため決定はケースバイケースで行われるべきだとしている。
  • 避妊去勢によってリスクの高くなる健康問題が発表された一方で、避妊去勢による健康上のメリットがあることも確かである。乳腺腫瘍や子宮蓄膿症についてはリスク低下が明らかであり、避妊去勢を受けた犬は平均して長生きである。
  • ユタ州で活動する、あるドッグトレーナーは避妊去勢処置をしていない犬の管理についてのアドバイスを提供するFacebookグループを開始し、着実にメンバーを増やしている。このトレーナーも場合によっては、犬の精管切除や卵巣を残して子宮だけを摘出する方法などを推奨している。
ワシントン・ポスト紙の論調は「避妊去勢は一概にするべき!というものでも、絶対にダメ!というものでもなく、それぞれの犬の事情やリスクとメリットを考慮してケースバイケースで考えよう」というものです。
記事の最後の〆は、前述のドッグトレーナーの言葉で「私たちは誰だって、望まれない子犬が産まれてくるのを見たくはありません」としています。


アメリカで犬の避妊去勢を見直そうという声が上がること

前述のように、ホロウィッツ博士のコラムは獣医療関係者からは歓迎寄り、動物保護関係者からは困惑を持って受け止められているようで、議論が起きています。

しかしアメリカでは全州の3分の2で保護犬の譲渡時の避妊去勢を法律で義務付けています。保護犬でなくても飼い犬には基本的に避妊去勢処置を義務付ける自治体や、未処置の犬の登録料が処置済みの場合の4〜5倍に設定されている自治体もあり、飼い犬の約80%は避妊去勢の処置がされているというのが現状です。
つまり議論は起きても「避妊去勢はしない!」と決める飼い主が急増するわけではありません。

今のアメリカで飼い犬の避妊去勢をしていない飼い主は、犬の健康上の問題で免除の申請をしている人、ブリーダーとして登録している人、高い登録料も様々な不便さも乗り越えて信念を持って「しない」選択をした人、そして多分最も多いのは「法律なんか気にしない。時には小遣い稼ぎに子犬も売っちゃうよ〜」という人々です。
アメリカでは素人が犬の自家繁殖をして子犬を売るというのは「普通の人はやらないよね〜」という、逆の意味でハードルの高い行為です。つまり避妊去勢しないで素人繁殖をしてしまうのは、ちょっとヤバい人々。

犬の繁殖は事前に申請して許可証を取り、回数や飼育数に厳密な制限が有り、それを超える場合には許可証が発行されない、許可証の申請料自体も安くはないという規制をしている自治体も多いのです。
犬の避妊去勢をせずに素人繁殖をしてしまう人々を根絶することはできませんが、このような規制があることで、一般のごく普通の家庭で犬を自家繁殖するという選択を食い止める効果があります。

ホロウィッツ博士や彼女のコラムを受けてマーク・ベコフ博士が書いた別のコラムなどでは、北欧では犬の避妊去勢は一般的ではないが、かの地では野良犬は問題になっていないと述べています。
しかし国土の広さも地理的な条件も人口も人種や文化の多様性も、北欧とは全く異なる現在のアメリカでは、犬の避妊去勢を行わないというのはあまりにも無謀です。
(ヨーロッパの野良犬の話はまた場を改めて)
70年代から比べれば8〜9割は少なくなった犬猫の殺処分数が再び上昇カーブを描くことは誰も望まないはずです。

検討するポイントは何?

犬の繁殖を人間の手で制限しなくては殺処分される犬が増えてしまう、しかし従来の手術の方法では健康に問題が起こる可能性がある。
それなら、考えて検討するポイントは『どのように避妊去勢を行うのか』ということです。

ホロウィッツ博士もコラムの中で書いているように、オス犬なら精巣を摘出、雌犬なら子宮と卵巣を摘出する従来の手術とは違う避妊去勢の方法も色々とできるようになっています。
オス犬の睾丸に避妊薬を注射する方法は鎮静剤のみで全身麻酔は不要、処置は1回だけで避妊率は99.6%と言われています。
またオス犬の精管切除、メス犬の卵管結紮は人間の避妊手術と同じ手法です。
メス犬の手術では卵巣は温存して子宮だけを摘出するという方法もあるそうです。
これらの方法は全て、性腺を除去しないので性ホルモンが継続して分泌されるため、健康への影響が少ないと言われます。

※参考記事
Dogs in the U.S ~犬の避妊去勢、いろんな角度から

アメリカでこれらの処置をしてくれる獣医師はまだ多くはないそうですが、増加はしつつあるとのこと。

残念ながら日本語でこれらの情報はほとんど見つけることができませんでした。
(出てきたら自分のブログだったり😅)
メス犬の避妊手術も、日本語での情報は子宮は残して卵巣だけ摘出という反対のものが多くヒットします。

つまり日本でこれらの方法が実用化されるにはまだ少し時間がかかりそうだということです。

日本では犬や猫の避妊去勢について行政が口を出すことはありません。
本来ならそれで良いし、愛犬の避妊去勢をするか否かは飼い主が決めれば良いことだと思います。
しかし大都市以外の地方ではまだまだ外飼い、もっと言えば放し飼いさえも有り、そのような飼われ方の犬が避妊去勢処置を受けている率は限りなく低い。
毎年のように行き場のない子犬が産まれ、野犬になったり、そのまま保健所に連れて行かれたりする例が多く、殺処分が無くならない理由の1つでもあります。
日本にはごく普通の人々が素人繁殖をとてもカジュアルに考えている土壌もあります。

現在の日本において「アメリカの著名な犬の学者が避妊去勢を考え直そうというコラムを発表しました。避妊去勢は犬の健康に影響を及ぼします。」という情報が注釈なしに入り込んでしまうのは危険だと感じます。


アメリカと同じように、日本の社会もまだ犬の避妊去勢を必要としています。
従来の手術と違う方法はまだ日本には普及していないし、認可すらもされていないのかもしれません。
けれど、これら他の方法はすでに存在して実用化もされているということを多くの方に知識として持っていただきたいと思います。
まずは知らないことには変えて行くことができないですから。

さいごに

ホロウィッツ博士は犬の避妊去勢が広範囲に行われることで遺伝子プールが狭くなり、犬種の健全性が損なわれると述べています。確かにそういう一面はあるかもしれない。
でも、それは責任あるブリーダーが管理することでコントロールできる面でもあると思うのです。
それより怖いのは、避妊去勢処置をする飼い主が減り、遺伝病のチェックなどを行わないまま素人繁殖やアクシデントで生まれてくる犬が増えることです。
皆が避妊去勢処置をするようになるとミックスや雑種が絶滅してしまうというのも非現実的です。
現実にはそこまで徹底して避妊去勢が浸透することはまずないでしょう。雑種犬は規制から漏れた部分から繰り返しこの世に送り出される。
博士は避妊去勢された犬は面倒なことが取り除かれていると言うけれど、避妊去勢したからこその面倒さもありますし、ね。

でもホロウィッツ博士やマーク・ベコフ博士が犬への深い深い愛で、従来の避妊去勢の方法を見直そうと呼びかけることは、やはり大きな意味があると思います。

私がこのやたらと長いブログ記事を書いたのは、ホロウィッツ博士のコラムが注釈なしに日本語に訳されて、日本の犬メディアで発信されることを危惧したからです。

繰り返すけれど、アメリカも日本の社会も「犬は訓練次第で衝動をコントロールできるので、健康に影響を及ぼす避妊去勢をするべきではありません」という論理は残念ながら現状では通用しません。

「私の犬はちゃんとできている!」と言う個々の飼い主さんや犬については別の話ですよ。社会全体を見渡した時の話です。
引き取り手がなくて殺処分されている犬はまだたくさんいます。
闇雲に「避妊去勢はしない」ヨーロッパ方式を真似して、犬の生き地獄を作ってしまった保護団体さえあります。

検討すべきは「するか」「しないか」ではない、どのような方法なら犬に負担が少なくて効果的なのか、日本に導入するにはどうすれば良いのか、そこだと思います。



《参考URL》
ニューヨーク・タイムズ紙のホロウィッツ博士のコラム

こちらはワシントン・ポスト紙


2019/07/04

FDAからの情報更新、グレインフリーフードと心臓病

Image by Ernesto Rodriguez from Pixabay 


2018年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)が、犬の拡張型心筋症(DCM)の増加とエンドウ豆、レンズ豆等の豆類およびポテト類を主成分とするドッグフードに関連があるかもしれないという警告を発表してから、ちょうど1年の2019年6月末に新しい情報が報告されました。
FDA Investigation into Potential Link between Certain Diets and Canine Dilated Cardiomyopathy

しかし結果から先に言いますと、確実なことは未だ何もわかっていない状態です。
FDAは、DCMと診断された犬の頭数や犬種など具体的なデータの発表と共に、診断された犬たちが食べていたフードのうち10例以上の報告があった16ブランドのリストも発表しました。

まずはFDAが発表した具体的な数字をいくつかご紹介します。

ここでカウントされている「FDAに報告された拡張型心筋症」とは犬または猫を対象として獣医師または獣医循環器専門医によって診断された症例を指します。
DCMと診断されなかった一般的な心臓に関する症状の報告は含まれません。

2014年1月1日から2019年4月30日までの間にFDAに報告されたDCMの症例は524件。
うち犬が515件、猫が9件。

一般的にDCMはドーベルマンやグレートデーンなど、大型犬〜超大型犬に多い遺伝性疾患と認識されています。

しかし515件のうち、複数の報告があった犬種は従来考えられていた犬種にとどまらず以下の通りです。

アフガンハウンド、オーストラリアンキャトルドッグ、
ビーグル、ベルジアンタービュレン、ボーダーコリー、
ボストンテリア、ブルテリア、チワワ、ダルメシアン、
イングリッシュコッカースパニエル、フレンチブルドッグ、
イングリッシュスプリンガースパニエル、
フラットコーテッドレトリーバー、ゴードンセッター、
アイリッシュセッター、ジャックラッセルテリア、
ソフトコーテッドウィートンテリア、マルチーズ、
ミニチュアシュナウザー、ポメラニアン
オールドイングリッシュシープドッグ、パグ
ポルトガルウォータードッグ、ローデシアンリッジバック、
ロットワイラー、ラフコリー、サルーキ、サモエド、
シュナウザー、シェパード、スタンダードダックスフント、
スタフォードシャーブルテリア、ヴィズラ、ウィペット、
ヨークシャーテリア、レトリーバー(G、L)

ここに1匹ずつの症例報告の犬種もプラスしたら「どんな犬種でもDCMに罹る可能性がある」と言えるくらいの種類の多さです。

また遺伝型DCMは7歳くらいのシニア期以降に表れる傾向がありますが
報告された症例はこれにも当てはまりませんでした。

診断された犬の平均年齢は6.6歳 年齢の幅は4ヶ月齢〜16歳
同じく 犬の平均体重は30kg     体重の幅は1.8kg〜96kg

性別は オス58.7% メス41.3%

診断された犬たちが食べていたものを調べると、515件中452件がドライフードでした。
他にはウェットフード、混合、手作り食、生食がありました。

診断された犬が食べていた市販のフードは91%がグレインフリーフードで、93%にエンドウ豆、レンズ豆が含まれていました。
動物性のタンパク質源は多様で、最も一般的だったのはチキン、ラム、魚でした。他にはカンガルーやバイソンなどのエキゾチックミートも含まれていました。
タンパク質源はどれかの種類が取り立てて多勢という傾向はありませんでした。

DCMにはタウリンの欠乏が関連しています。タウリンはタンパク質源に含まれるシステインとメチオニンの2種のアミノ酸から体内合成されます。
診断された犬たちが食べていたグレインフリーフードはどれもシステインとメチオニンの必要量を満たしていました。

FDAは該当する犬の血液、尿、便、DNAを採取して病理組織検査を行なっています。
検査は定期的に繰り返し行われているそうです。
フードも様々な方向からテストが繰り返されています。

(FDAのレポートは、どんなテストをしているかの説明に大半を費やしており、そのほとんどの行き着く先は「今のところ判らない」「さらなる調査を続ける予定」となっています。とてもカジュアルに言うと肝心な中身のないレポートです。)  

テストの内容の他に列記されているのは、FDAがどんな団体や研究者と協力しているかということで、これも消費者にとって役に立つ情報ではありません。

様々なメディアがセンセーショナルに取り上げている「拡張型心筋症に関連する可能性のある16ブランド」のリストですが、反対に言えばこれくらいしか他のメディアで取り上げられる情報がないからです。

しかしFDA自身がレポートの中で
"DCMの診断テスト及び治療は、複雑で高額な治療費がかかる可能性があるため、FDAへの症例の報告は実際よりもずっと少ないと考えられる"
と書いている通り、現実の世界で拡張型心筋症を患っている犬は報告されているよりもずっと多いはずで、その犬たちが何を食べているのかを調べる方法はありません。

以前にも同じことを書いていますが、愛犬を大学病院や循環器専門医に連れて来る飼い主がアカナのフードを食べさせている確率が高くても不思議はないでしょうし、ペディグリーなどの超低価格フードを食べさせている飼い主の割合は限りなく低いはずです。
そしてそういう激安フードを食べている犬がDCMを発症していたとしても気づかれない可能性も高いでしょう。

そのような側面を考えると、このリストに挙げられた16ブランドを避けることが問題解決につながるとは思い難いです。

とは言っても、愛犬にこのリストの中のフードを与えることは心配だという方のお気持ちは良くわかります。
その場合、単純にフードのブランドを変えるだけなく、いくつかのブランドをローテーションすることが大切です。
ローテーションすることで同じ種類の食材を長期間食べ続けることをある程度は防ぐことができ、影響を小さくすることができます。

またゴールデンレトリーバーやコッカースパニエルのように遺伝的にタウリン欠乏症になりやすい犬種はもちろんのこと、そうでない犬種もタウリンのサプリメントを摂ることは心臓の健康をサポートするために有効です。

タウリンのサプリメントについては一応かかりつけの獣医さんに相談してみてください。
良いサプリメントを処方してくださる場合もあるし、アドバイスを頂けることもあるかもしれません。
(残念ながら、相談しても満足の行く答えをもらえない場合もあります。)

******************************

さて、ここからはFDAのレポートの内容とは別に、その裏側と言うか、ちょっとウンザリする話です。
                                     Image by Tumisu from Pixabay 
このレポートの中にFDAが協力を依頼している3名の獣医学及び獣医栄養学博士の名前が挙がっています。
その中の一人、タフツ大学のリサ・フリーマン博士は2018年にグレインフリーフードとDCMの関連について非常に”面白い”署名記事を書いています。

原文はこちら
A broken heart: Risk of heart disease in boutique or grain free diets and exotic ingredients

昨年FDAが最初の警告を出した直後の8月に発表された記事です。
フリーマン博士は犬の心臓病に関連する危険な食餌はグレインフリーフードだけでなく、ブティックフードと呼ばれる小規模な会社が作っているフード、エキゾチックと呼ばれる非伝統的な食材が使われたフード(カンガルーやバイソン、変わった果物など)そして手作り食や生食だと述べています。

博士の主張は以下の通り。
穀物は伝統的にドッグフードに使われている原料で悪者にされるべきものではない。
小規模なフードメーカーが風変わりな原材料で作るフードは、巧みなマーケティングで良いものだと思い込ませているだけ。
賢明な飼い主はフード製造の長い実績を持つ大規模メーカーが穀物やチキンなど従来の原材料で作ったフードを与えるべき。
そして何より、一般の飼い主はドッグフードを選ぶ時にラベルの原材料一覧を読むのをやめるべき!

びっくりして開いた口がふさがらなくなるか、鼻で嗤ってしまうか、怒り心頭になるかはお任せします。

そしてアメリカンケネルクラブは今回のFDAのレポートを紹介するに当たって、このフリーマン博士の言葉を引用しています。
未だ具体的な因果関係はわかっていないけれど、としながらも、専門家の意見として小規模メーカーを非難する言葉を誘導的に使っている。
原文→  What Dog Owners Need to Know About FDA's Grain-Free Diet Alert

タフツ大学にはピュリナが資金を出して設立し、大学の獣医学部と共同で運営している研究施設があります。もちろんフリーマン博士もこの施設の運営に携わっています。

また別の獣医学博士が所属するカリフォルニア大学デイビス校はロイヤルカナンやペディグリーのメーカーであるマースペットケアと、共同で研究をしたり研究施設を設立したりと言った40年に渡る協力関係があります。

3人の博士のうちの最後の方が所属するフロリダ大学もピュリナからの様々な形の寄付、共同研究を行っています。

ヒルズもまた、3つの大学の全てに寄付をしています。

大学を含めて研究機関はどこも資金集めに苦労していますし、企業が寄付や共同研究という形で資金援助をすることは悪いことではありません。社会全体としてはむしろ望ましいことです。

しかしFDAという公共の機関がドッグフードの安全性について調査をするに当たって、利害の絡む企業に関連する博士を採用するのは避けるべきでしょう。

マーズもピュリナもヒルズもトウモロコシや小麦などの穀類をたっぷり使ったフードを製造販売している大企業です。彼らにとって小規模メーカーがこだわりの原材料で作る高価格フードが売れることは、都合の良いことではありません。

このグレインフリーフードと心臓病の関連について、私が感じているモヤモヤを分かっていただけたでしょうか?

2019/04/12

除草剤の成分グリホサート とペットフード



(Image by Karsten Paulick from Pixabay ) ↑フードだけでなくこういうのも気をつけてね


モンサント社が開発した除草剤『ラウンドアップ』

アメリカ最大の農薬メーカーのモンサント社、その会社の除草剤ラウンドアップの発ガン性や食品への汚染についてはかねてから話題になっています。(モンサント社は2018年にドイツのバイエル社に買収されています。)

検索されると色々なニュースが出てくるかと思いますが「アメリカの犬たち」というブログタイトルの通り、ここでは犬に関することを書きます。

ラウンドアップの主成分は『グリホサート 』という化学薬品です。
2018年10月、アメリカのコーネル大学の生物工学および環境工学の研究者がグリホサート がどのくらい環境に波及し影響を与えているかという研究の一環として、市販されているペットフード中のグリホサート濃度を調査しました。

市販のペットフードのグリホサート 濃度は?

研究者たちは小売店から主要なブランドのドッグフードとキャットフード18種類を選び、調査分析を行いました。
18種類のフード全てが原材料に肉と野菜を含み、うち1種類は遺伝子組み換え作物不使用と認定されているものでした。
分析の結果は、全ての製品において1kgあたり約80〜2000μg(マイクログラム=100万分の1グラム。2000μg=2mg)の濃度でグリホサート残留物 が含まれていました。

家畜動物が低濃度のグリホサート に曝露した場合の影響に関するデータがなかったため、研究者は上記の分析結果を、グリホサート の対人間の許容摂取量ガイドラインと比較しています。
その結果、中央値の犬の曝露は、アメリカおよびEUで人間の許容摂取量として設定された数値の0.68〜2.5%と推定されました。
分析された製品のうち、最も汚染度の高かったもので比較すると、上記許容摂取量の7.3〜25%となります。

グリホサート はどの原材料に由来しているのか?


(Image by zefe wu from Pixabay )


研究チームは、グリホサート が製品中のどの原料に由来するのかを正確に特定することはできませんでした。
しかしグリホサート は動物に生体蓄積しないことが分かっているため、動物性タンパク質源である飼料動物に由来するとは考えられないとのことです。
製品中の総繊維量がグリホサート 濃度と相関していたため、植物性の原料由来であると考えられます。

グリホサート は除草剤ですので、本来なら作物そのものも枯らしてしまうおそれがあります。
そこでアメリカでグリホサート に強い耐性を持つように遺伝子組み換えされたトウモロコシおよび大豆が作られたことによって、グリホサート の使用量が劇的に増加したという背景があります。

それならトウモロコシや大豆が含まれる製品の汚染率が高いのでは?と思われますが、残念ながらこの研究ではそこまでは分かっていません。

もう一つ研究者を驚かせたのは、遺伝子組み換え作物不使用と認定された製品のグリホサート 濃度が高かったことです。
上記のトウモロコシおよび大豆の遺伝子組み換えの話と相反するように見えますね。
これはあくまでも私の推論ですが、遺伝子組み換え作物不使用と書いてあるような製品はもともとトウモロコシも大豆も使用されていないのではないかと思います。その上で、何かグリホサート が多く残留する他の原材料が使用されていたのではないでしょうか

研究者の見解は?


研究者は、グリホサート による直接的なリスクがあるようには見えないが、低用量とは言え長期的に摂取することの影響についてはまだ不明であるとしています。

研究者の一人は今回の調査でグリホサート 濃度が高かった製品を愛犬に与えていたそうですが、調査後はフードを変えたとのことです。しかし愛犬の健康状態に変化はなかったと報告しています。

私は論文全文は読んでいないのですが(有料だったもので、すみません😓)Science DailyとScience Directの要約を読んだところでは、研究者たちの論調は「まさかペットフードにこんなに含まれているとは予想以上だったので驚いたけれど、とても低い濃度だからそれほど心配しなくても大丈夫」という雰囲気を感じました😨


飼い主として、どう反応する?

以下は私個人の思うところです。
このコーネル大学の発表について「そうか、ペットフードから検出されているけれど微量だから心配しなくてもいいんだ。安心した!」...なんてことはありません。
当たり前ですが、そんなものが含まれていては困るし心配です。

しかし地球規模でこの除草剤が使用されている量を考えると、世界中どこの土壌にも水にもグリホサート が入り込んでいるのは間違いないでしょう。
なので、どんなに吟味したフードを選んでも、有機栽培の材料だけを使って手作りをしても完全にグリホサート から逃れることは不可能だろうなとも思っています。

だからと言って「何を食べても一緒」だとは思わないし「どうせ何もできないから」と諦めているわけではないですよ。
今の地球の環境では自分自身も愛犬も望ましくない化学物質を摂取してしまうことは、ある程度は避けられない。パニックになることなくそれを理解した上で、できる範囲でリスクの低い製品を選ぶようにしようと思います。

食物繊維を多く含む製品でグリホサート 濃度が高かったことが分かっているのは一つの手がかりになるでしょう。コーンや大豆を多用している製品も同様です。
可能であればオーガニック原料の製品を選ぶこともリスクの軽減になると思います。
腎臓や肝臓、免疫系の働きをサポートする高品質のハーブをプラスすること、腸内環境を良好に保つこと、常に適度な運動をすることで代謝を活発に保つこと、これらも健康リスクを軽減することに繋がります。

そして何より、ある程度は開き直って悩み過ぎずにいることも大切だと考えます。
食のことに疑心暗鬼になり過ぎてストレスになってしまっては、犬も人も免疫力も下がってしまう気がします。
何が危険度が高くて何がリスクが低いかを自分なりに勉強してできる範囲で実行し、犬が犬らしく生きるサポートをして笑って暮らそう、それが私の目標です。

あ、最後になりましたがバイエル社に対する規制を強くする署名活動などは世界中で行われています。何かを変えたいと思われる方はぜひ参加してみてくださいね。


《参考URL》












2019/04/04

ヒルズ・ドッグフードのリコールについて

ドッグフードに過剰なビタミンDで製品回収



2018年秋、アメリカのいくつかのペットフードメーカーから「製品中に過剰な量のビタミンDが含まれていることが判明した為、製品の自主回収を行います」という発表がありました。

自分でも良くないなと反省しているのですが、私は市販のドッグフードをあまり使わない為リコール情報は軽くチェックする程度で流してしまうことが多いのです。
けれど、そんな私でも去年の秋から始まって未だに終わらない「過剰な量のビタミンDに由来する製品回収」には「え?また?多いなあ」と思っていました。

「これはお知らせしておいた方が良さそう」と思い、ビタミンD の過剰摂取がもたらす健康被害の可能性について記事を一つ書いています。なぜビタミンDの過剰摂取が良くないのか、どんな症状が起きるのか説明しています。


ドッグフードに高レベルのビタミン混入で製品回収。犬の飼い主が知っておきたいこと。

一番たくさんの人の目に触れる場所にと思い、わんちゃんホンポにアップしたのですが、予想よりも反応が大きく「全然知らなかった」という人が多かったことにも驚きました。

最大の被害を出した大手メーカーの対応



上記の記事には書いていないのですが、今回の製品回収を行ったメーカーの中の最大手であるヒルズの対応は感心できるものではありませんでした。 

アメリカ食品医薬品局は2018年12月初旬に、ビタミンDの件で製品回収をしたメーカーをリストアップして発表しています。
高レベルのビタミンDの混入は、ペットフードのメーカーが原材料として仕入れているフード用マルチビタミンの業者がその配合を誤ったことが原因と伝えられています。

その業者から同じものを仕入れているメーカーには食品医薬品局からの通達がありますし、何よりも同業界内で大規模なリコールが起こっているのに知らない道理がないのですが、ヒルズはこの時点でリコールも行わず製品の製造と出荷を継続していました。

そして2019年1月下旬にヒルズはようやく製品の回収を発表しましたが、これは消費者から飼い犬の健康被害のクレームがあったことからでした。

他のメーカーとは販売量が桁違いに多い大手メーカーですから、その被害も桁違いでした。
2019年3月の時点でビタミンD過剰含有のフードに関連して命を落とした犬は数百匹、腎障害など健康被害に苦しむ犬は数千匹とも伝えられています。
皮肉なことに該当製品の中には処方食も多く含まれていました。もともと体調が悪かった犬たち、中でも腎臓の処方食を食べていた犬はビタミンDの過剰摂取で腎不全が急激に悪化して亡くなった例がたくさんあったようです。

1月下旬にヒルズが製品回収を行った際、ビタミンD過剰含有に該当するロットが公表されたのですが、その後アメリカ食品医薬品局が同社の他のロットも検査したところ、さらにビタミンD過剰の製品が見つかり、回収が延々と続いています。

ヒルズはビタミンの仕入れ先を非難するような論調のコメントを発表していますが、そもそもロット毎のサンプル抜き取り検査をしていれば簡単に発見できるエラーですし、回収をスタートしたのも他のメーカーに比べてずっと遅い時期でした。

当然のことながら、ヒルズに対しての集団訴訟はすでに複数起こっています。今後さらに増えていくことと思われますが、この対応なども引き続き注目して行きます。


日本への影響は?

日本に輸出された製品の中にも該当するものが少量ながらあったとのことで、日本ヒルズのウェブサイトでロット番号などが公表されています。

ヒルズの製品では、過剰なビタミンDの混入が確認されたのは缶詰ドッグフードのみでドライフードやキャットフードは安全とのことです。

他のメーカーではサンシャインミルズが複数のブランドで自主回収を行っています。このメーカーは小規模ながら日本で販売をしていますが、日本に輸出した製品の中には該当するものは無かったようです。
その他のメーカーは日本での販売はないと思うのですが、ヒルズ以外のビタミンD関連のリコールリストを貼っておきます。
https://www.fda.gov/animalveterinary/newsevents/ucm627485.htm


「私ならどうするかな?」という考察

さて、ここからは私が個人的に思うことです。
もし私がヒルズのフードをうちの犬たちに食べさせていたら、これを機会に全面的に止めることでしょう。メーカーが発表したロットの他に第三者の検査でさらに毒性のある製品が見つかったのですから、他は大丈夫と言われても信頼するのは難しいです。

もしなんらかの症状があって獣医師からこのメーカーの処方食を与えるように指示されたら、獣医師にその処方食は普通の製品に比べてどういう点が特別に違うのかを徹底的に確認して、それを踏まえた手作りにするか、もっと小規模なメーカーの処方食を探して「これではダメですか?」と確認するだろうと思います。

アニモンダ、フォルツァ10、ナチュラルハーベスト、などにも症状別の特別フードがありますし、宿南獣医師の療法食というものもあります。

以前にヒルズのフードの原材料にブドウが含まれているという記事を書いたことがあります。


リコール騒動の時に「そう言えばあれはどうなっただろう?」と同社のサイトで確認したら、原材料一覧からgrapeの文字は消えていました。
けれど、日本ヒルズのサイトの当該製品の原材料には相変わらずブドウが含まれています。

獣医師から処方されることも多いブランドですから「そうは言ってもこれ以外に与えるものがない」という方もいるかと思いますし、安直に「与えないでください!」とは言えませんが、本当に他の選択肢がないのかどうか、しっかり調べたり考えたりして大切な愛犬を守ってあげてください。


2019/03/05

短頭種の犬たちの健全性と福祉のために、オーストラリアの獣医師が訴えること


前回の記事はカナダの話でしたが、今回のはオーストラリアの獣医師の話題です。
「アメリカの犬たち」という看板に偽り有りですみません😅



photo by StockSnap


短頭種の犬の健康問題

2008年にイギリスのBBCが『Pedigree Dogs Exposure』(NHK放送時邦題『イギリス 犬たちの悲鳴 ブリーディングが引き起こす遺伝病』)を放送して以来、行き過ぎた犬種スタンダードや犬の健康を無視したブリーディングのせいで、純血種の犬の間に生まれながらの疾患や障害が蔓延していることが知られるようになってきました。

オーストラリアでは2016年にRSPCA(王立動物虐待防止協会)と獣医師協会が共同で、短頭種の犬の健康問題についての啓蒙キャンペーンが行われました。
そして今年2019年の初頭に、科学誌『Animals』に9名の獣医師が連名で、短頭種の健康がどれほど害されているかを具体的に示した論文を発表しました。
短頭種の中でも特にその傾向が顕著なパグ、イングリッシュブルドッグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリアが多く取り上げられています。

また科学誌を購読する層よりもさらに一般的な飼い主に声を届けるために、ネット上で一般向けの記事を書き、無料での再利用を許可しました。
その内容をご紹介していきます。

慢性的な呼吸困難

短頭種の犬の健康の問題の中でも、特に深刻で数も多いのが呼吸に関するものです。
「短頭種気道症候群」または「短頭種気道閉塞症候群」と呼ばれるものですが、英語の頭文字を取って以降はBOASと表記します。
短頭種の犬はマズルの長い犬に比べてずっと口の中のスペースが狭くなっています。そこに鼻、舌、軟口蓋、歯が押し込まれているため、自動的に気道が狭くなり、呼吸に影響を及ぼしています。
姿勢や運動などで十分に酸素が取り入れられないと、BOASが起こります。

BOASの主な症状は以下のようなものです。
  • ゼーゼーヒューヒューという呼吸音
  • 呼吸困難
  • 吐き気
  • チアノーゼ
  • 異常な体温上昇
  • 失神
気温が高くなると、犬は舌を出してハアハアすることで体温調節を行いますが、短頭種の犬がそれをすると上気道が腫れて呼吸ができなくなり、生命に関わるリスクが高くなります。
パグ、フレンチブル、イングリッシュブルでは、他の犬種に比べてこの上気道障害が起こるリスクが3.5倍にもなると言われています。
多くの航空会社が短頭種の犬の搭乗を断っているのはこのためです。

起きて運動している時だけでなく、短頭種の呼吸問題は睡眠中にも続きます。
気道が塞がるのを避けるために、座ったまま眠ったり、おもちゃなどを咥えたまま眠ったりする犬も少なくありません。短頭種の犬の約1割は口を開けたままでないと寝ることができないのだそうです。

呼吸の問題は酸素を取り入れられないだけでなく、二酸化炭素を十分に排出できないことにもつながり、血中の二酸化炭素濃度が高くなることでphバランスが崩れ酸性血症を起こす恐れもあります。


問題は呼吸だけにとどまらない



呼吸の他にも極端に短い頭蓋骨のせいで起こる健康上の問題があります。
外見からわかりやすいのは目の問題です。パグは目が飛び出しているので目を怪我しやすいというのはよく言われますが、短頭種の犬ではその顔の形状のせいで瞼を完全に閉じられない障害が起こります。それが角膜腫瘍の原因となり失明につながる場合もあります。
短頭種の犬700匹を対象にした研究では、31匹に角膜腫瘍が発見されたのだそうです。これは短頭種以外の犬の約20倍の割合になります。

顔周辺だけでなく、脊髄奇形や歩行障害も、これら短頭種の犬の大きな問題です。ブルドッグやボストンテリアのチャームポイントと考えられているクルンと巻いた尻尾スクリューテイルは脊髄の変形によって起こったものです。
またパグの3匹に1匹は神経障害から来ると思われる歩行障害があるという研究結果も出ています。この神経障害も極端に短い頭蓋骨から来ていると考えられます。

顔のシワは皮膚疾患の温床となりやすく、それを搔こうとして飛び出した目を怪我するという二重の弊害も起こりがちです。

出産時にもその頭蓋骨の形が問題になります。短頭種の犬の出産では帝王切開が一般的で、フレンチブルやボストンテリアでは約8割、イングリッシュブルドッグでは約9割が帝王切開となります。

短頭種の犬は麻酔時のリスクも他の犬種よりも高くなるのですが、皮肉なことに手術を必要とする事態が多く起こるのも短頭種の犬たちです。

身体的な問題だけでなく、短頭種の短い顔は行動上の問題にも繋がっています。
マズルのある犬が恐怖を感じた時や、相手に近づくなという表現で唇を持ち上げ歯を見せる表情、短頭種の犬は構造上あの表情ができません。
これは犬同士のコミュニケーションにとって大きな障害となります。

また顎の形のせいで咀嚼能力が低下しています。犬にとって何かを噛むことはストレス軽減にもつながる行動なので、犬のストレスコントロールにも影響を与えます。

これは2016年にRSPCAが制作した短頭種の犬の健康に警鐘を鳴らす動画です。
1:28で示される犬の頭蓋骨をみると、この形がいかに不自然なのかが良くわかります。
1:33で登場する100年前のパグとブルドッグの姿もご覧ください。
                                        

にも関わらず!短頭種は人気犬種

書いているだけで、短頭種の犬たちが気の毒で泣けてきそうです。
けれども、飼い主でさえこれらの健康問題がここまで深刻なことだと知らなかったり、犬が変わった座り方をしたり不器用に歩く姿を「かわいい」で済ませて障害だと気づいていなかったりする例も少なくないのです。

そして新しく犬を飼おうとする人が、パグやフレンチブルの愛らしい顔に魅せられて購入するために、山のような健康問題を抱えた犬が次々に繁殖されています。

イギリスのケネルクラブUKKCでは2007年から現在までの間に、フレンチブルドッグの登録数は3104%増、パグは193%増、イングリッシュブルドッグは96%増になっているそうです。

オーストラリアのアANKCでは、フレンチブル11.3%増、パグ320%増、イングリッシュブルドッグ324%増となっています。

さらに購入者の好みは「より鼻ペチャで、より小型の犬」というトレンドを作り、商業ブリーダーがそれに応えて、より多くの健康問題を背負わされた犬を作り出しています。
                                
短頭種の中でも特に問題が顕著なパグ、フレンチブル、イングリッシュブル、ボストンテリアが話題の中心になっていますが、キャバリアキングチャールズスパニエルやペキニーズなど、他の短頭種の犬もここに挙げたような問題に無縁ではありません。

獣医師に期待される役割とは

Animals誌に論文を発表した獣医師たちは、獣医師なかでも開業医にとって、特定の犬種の問題を大きく取り上げることの難しさを指摘しています。

その難しさを一言で言えば「顧客が離れてしまう」これに尽きます。
病院に来る犬の中には当然短頭種の犬たちもたくさんいます。その飼い主さんたちにすれば、ここに書いたようなことを突きつけられれば、責められているような気持ちになったり、不快に思う人もいるでしょう。
それで多くの顧客が離れてしまえば、開業医などは死活問題です。

論文の著者である獣医学博士たちは、豪ニューサウスウェールズ州の獣医師の宣誓文を引用しています。
「動物福祉、動物と人間の健康、獣医療サービスの利用者と地域社会の利益のために獣医科学を倫理的かつ良心的に実践する」
この宣誓に基づいて、ブリーディングが原因で起きる犬の健康問題を指摘し、改善に手を尽くすことは職業上の義務であるとしています。

具体的には、これから犬を飼おうという人へは教育やアドバイスを。
短頭犬種の飼い主に対しては、すべての病気や障害の可能性を伝え、ライフスタイルの改善や予防のアドバイスをすること。そしてアクシデントで妊娠が起きないように避妊去勢処置を勧めること。

顧客に短頭種のブリーダーがいる場合には、健全なブリーディングのための教育や指導を行うこと。
ブリーダーが非協力的な場合、獣医師はケネルクラブと協力しての介入が可能なのだそうです。

短頭種の犬の他にも

人間が「愛らしい」と思う姿に近づけるために、犬としての健全性を犠牲にされている短頭種の犬たち。

彼らはあまりにもその問題が数多く顕著なために、行き過ぎた犬種スタンダードの代表的な例としてしばしば取り上げられます。
けれど短頭種だけでなく、バセットハウンドやダックスフンドの長い胴、ジャーマンシェパードの極端に傾斜した背中など、機能を無視した犬種スタンダードの犠牲になっている犬は多く存在します。

また猫ではスコティッシュフォールドは、人間が作り出した悲劇の最たるものです。
折れ曲がった耳が可愛らしいからと、折れ耳の猫を選択して繁殖させ猫種として固定させたものです。
しかし折れ耳は遺伝子の変異で起こった軟骨の奇形であり、その影響は耳だけでなく手足にも現れ、歩行障害や痛みに生涯苦しむ猫を作り出す結果になりました。

この問題について知る人、考える人が1人でも多く増えていくことを心から望みます。
一朝一夕に片の付く問題ではありませんが「可愛いからと言って何をやってもいいなんてことはないんだよ」と声を大にして伝えたいと思います。


《参考URL》


2018/07/04

殺処分を減らすためにアメリカが選んだ方法

これは2012年に書いた記事で、いま読み返すとずいぶんと青臭くて恥ずかしい感じです。特に最後のNO KILLのくだりとかね。

この記事で紹介したマーヴィン・マッキー獣医師は現在も現役で活躍しておられます。マッキー先生がロサンゼルスの犬猫の殺処分数を減らすために立ち上がった1970年代に比べると、動物医療の研究も進み変化した部分もありますが、保護して譲渡するだけでなく「蛇口を締めることの大切さ」を訴えかけ働きかけた功績は、今の日本の現状にとって大いに参考になると思います


(以下dog actually 2012年3月掲載記事より)

前々回に書いた記事「ARK訪問記」で、大阪能勢町にあるアニマルレフュージ関西(ARK)さんを訪れた折のことでした。
私が「ロサンゼルスから来ました」と自己紹介をすると、アーク代表のエリザベス・オリバーさんが「ロサンゼルスにはマッキー先生がいますね。犬や猫の不妊手術の第一人者ですよ。マッキー先生は本当にユニークですごい人です。」と、ある獣医師のお話をして下さいました。

マッキー先生ことW・マーヴィン・マッキー氏は現在70代ながら現役で活躍されている獣医師です。
1976年にロサンゼルス市内に最初の避妊去勢手術専門のクリニックを開業し、現在は3軒のクリニックを運営しています。彼のクリニックは避妊去勢手術のみに特化することで、低価格で、より多くの手術を提供することに主眼が置かれています。

最初のクリニックが開業した1970年代はアニマルシェルターの動物の暗黒時代でもありました。ロサンゼルスだけでなく、アメリカのどこのシェルターも行き場のない動物でいっぱいで、貰い手のない動物達は次々に殺処分。

1971年にはロサンゼルス市では11万頭以上の犬と猫が殺処分されました。これは1960年に統計を取り始めて以来最悪の数字で、さすがに行政側がなんとかしなくてはと腰を上げた最初の年となりました。

LA市がとった方法はとにかく無制限に産まれて来る犬や猫の数を減らすことでした。そのためにアメリカで初めて公共サービスとして低価格での犬猫の避妊去勢手術のためのクリニックを設置したのです。

マッキー獣医師もその流れに乗る形で76年に最初のクリニックを開業するとともに、ペットの頭数過剰問題に積極的に取り組み始めました。

獣医師仲間と共同で次々に避妊去勢手術クリニックを開業し、公営私営を問わずアニマルシェルターと積極的に協力し合って、シェルターにいる動物は必ず避妊去勢手術を施してから新しい里親に引き渡すというシステムも確立していきました。
現在は自治体と協力して、一定の所得以下の飼い主は申請をすれば無料で避妊去勢手術が受けられるシステムも出来ています。



(illustration by PaliGraficas )


マッキー獣医師のアニマルバースコントロールクリニックの手術料金は70ドルです。
他には特別車両を使った移動式クリニックというのも多く、定期的に地域を巡回して手術を受け付けているシステムもあります。
自治体による移動クリニックは無料の場合が多く、そうでない場合も30ドル〜50ドルというのが相場です。

マッキー獣医師のクリニックでは1日平均40頭の動物の避妊去勢手術が行われます。この数字を可能にしているのはマッキー獣医師が発案した安全で簡便な手術法です。この手術法をアメリカ全土の獣医師に広めるための活動も幅広く行われて来ました。その一環として実施されたのが、実際の手術の様子を録画し多くの獣医療関係者に無料で配布することです。
(アークさんにもこの手術方法のDVDのコピーが用意されておりました。マッキー獣医師の活動は今やアメリカ国内に留まらず、ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ブラジル、メキシコなど多くの地域に広まっています。)

これらの活動が開始された1970年代にはアメリカ全土で避妊去勢手術を施された犬の率は10%未満でした。猫にいたってはさらに酷く、その率は1%以下。
ロサンゼルス市を皮切りに全国で始まった避妊去勢手術の普及が功を奏し、現在では手術を施された犬の率は全体の3分の2以上に、猫は80%以上が手術済みとなっています。

そしてその結果、ロサンゼルス市では2007年に犬猫の殺処分数が史上最低の15,009頭にまで抑えられました。史上最悪だった1971年から見れば86%の減少です。

アメリカ全土で見れば、1970年には年間2000万頭の犬猫が殺処分されていたのですが、2011年には約300万頭にまで減少させることができました。(残念ながら08年と09年にはリーマンショックに端を発した極端な景気の悪化により、シェルターに連れて来られる動物の増加、シェルターから引き取られる動物の減少が起こり、殺処分数は増加してしまいました。2010年以降は再び緩やかに減少基調に戻っています。)
しかもASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)によると、この40年の間に家庭で飼育されているペットの数そのものは約2倍に増えています。

確かに年間300万頭の犬猫が殺処分されているのは莫大な数字であり、まだまだ改善していかなくてはいけないことがたくさんあります。しかし避妊去勢手術の徹底によって殺処分数は確実に減らして行けることは実証されました。


(photo by jaminriverside )

先にも述べたように、アニマルシェルターや動物保護団体から動物を引き取る場合は、避妊去勢手術済みであることが大前提です。
しかし、ペットショップやブリーダーから購入した動物にまで避妊去勢手術を徹底させるためにアメリカはどのような方法を取ったでしょうか?
それは手術をすることで金銭的なメリットを発生させることです。

アメリカのほとんどの自治体では、犬を飼う際にドッグライセンスという名の犬の登録をしなくてはいけません。ライセンスは毎年更新しなくてはならず、その際にライセンス料を支払います。このライセンス料が、手術をしていない動物は手術済みの動物に比べて3〜5倍高くなります。

例えばロサンゼルス市の場合、手術済みの犬はライセンス料が年間20ドルであるのに対し、避妊去勢手術をしていない場合は100ドルになります。
ロサンゼルス市は避妊去勢手術の徹底に関しては厳しめで、条例には「原則としてペットには避妊去勢手術を施さなくてはならない。」と書かれています。
プロのブリーダーや、医療上の問題で手術ができない場合は所定の手続きを踏んで手術の延期または免除が認められます。

毎年支払うライセンス料で差を付けて、避妊去勢手術を受けさせることを徹底するというわけです。料金や差額については自治体によってかなりまちまちですが、ペットに避妊去勢処置をしないでいると毎年余分な出費があるというやり方はどの自治体も同じです。
こうして望まれずに産まれて来る命を減らすことが出来れば、シェルターの動物の環境も改善され、シェルターを訪れる人も増えます。訪れて悲しい気持ちになるような場所には人は集まらないですからね。

そしてネバダ州のリノ市のように公営シェルターながらNO KILLポリシーを掲げる所も出て来ました。これらリノのシェルターではNO KILL移行後は以前に比べて、犬の譲渡が51%増、猫の譲渡は2倍近くにまで増えました。

まだまだ殺処分ゼロに向けての道は遠いけれど、確実に良い方向には向かっています。いつの日かアメリカ全土のシェルターがNO KILLに変わることを願って、様々な活動に目を向けて行きたいと思います。

従来の不妊化手術と性腺温存型不妊化手術を比較

pic by  Mohamed_hassan from Pixabay 犬の不妊化手術(避妊去勢)の新しい流れ 犬の不妊化手術は飼い主にとって「どうする?」 の連続です。 10年ほど前に不妊化手術による健康上の影響についての研究結果が発表されるようになってからは、さらに悩みも増...