2018/04/17

頭のいい犬種ベスト10?冗談じゃない!


犬に関する情報サイト、巷に溢れかえっていますね。情報の質は玉石混交(正直、「玉」を探すのが難しいのが現状)

そういう数多のサイトの情報で私が「石」だと思うもののひとつが「頭のいい犬種ベスト10」とか「IQの高い犬種ベスト5」とかいうものです。

そういうランキングに無縁のミニピン。でもズル賢いんですよ。


こういう見出しを見るたびに苦々しい気持ちになるのですが、これがまたあちこちで目にしますね。日本語の情報だけじゃなくて、英語の犬サイトでも同じ。

「訓練がしやすい犬種」とか「独立心の強い犬種」とか言うならまだわかるんですが、こういう場合の「頭がいい」って人間に都合がいいと言うことですよね。

......と、常々腹立たしく思っていたら、私の大好きなマーク・ベコフ博士が動物の知性について素敵なコラムを書いてらしたので、それをご紹介します。

ベコフ博士はコロラド大学の環境学と進化生物学の教授で、動物福祉や動物の感情について多くの論文を発表してらっしゃいます。
特に犬についての実験や観察はおもしろくて興味深いものが多いです。


知能の種類はひとつだけではない


ベコフ博士のコラムが掲載されていたのはPsycology Today。
コラムの冒頭でブライアン・ヘア博士の言葉を紹介しています。

ヘア博士は犬の知能や認知機能についての著書があり、犬の認知機能研究センターの設立者でもあります。
2013年のサイエンティフィック・アメリカンのインタビューからの引用です。

「犬の心について人々が持っている最大の思い違いは何でしょうか?」

それは『頭のいい犬』と『頭の悪い犬』がいると思っていることです。未だにこんな知能に関する一次元的な解釈があるんですよ。知能というものがたったひとつの種類しかないとでも言うようなね。」


(インタビュー全文はこちら

ヘア博士の言葉がすべてですよね。「頭がいい」とか「賢い」っていろんな種類がある。

ニコとニヤだって、何か目的を達成したい時のアプローチの仕方、頭の使い方が全然違う。でもどっちが賢いとかバカだとかでなく、ただ違うんです。

ベコフ博士のコラム全文を訳すと随分長くなるので、要約して以下にご紹介しますね。


犬であれ他の動物であれ「知能」というものにはいくつもの種類がある。
そしてもちろん個体差というものがある。
「それぞれに違う」というのは自然界のルールだ。「違いがある」ということは決して例外ではない。

「知能」とは一般的に、知識を獲得して、それを使い、さまざまな状況に適応する能力のことを指す。生きるために必要なことを実行して生き残るためのものだ。

例えば、メキシコのストリートの野良犬たち。
食べ物を素早く盗むことに長けた者、敵から逃げるのがうまい者、人間に愛想をふりまいて食べ物をもらう者、皆それぞれに知能を使っている。
私がフォスターとして預かった犬の中には、私たち家族や飼い犬の食べ物を鮮やかに素早く盗んでいく者もいた。
彼らのうち誰が一番賢いかなど決められない。皆それぞれの環境に賢く適応したのだ。
しかし人間の都合から言えば彼らはバカ犬だ。

ある犬を他の犬よりも賢いとかバカだとか決めつけることは、それぞれを個体として認識する機会を失い、犬それぞれの本当の姿を見誤ることにつながる。



犬に求めるもの、犬が望むもの


アリゾナ州立大学の犬研究者ワイン博士は「頭のいい犬というのは時に厄介なものだ」と述べる。
「年中動き回って、すぐに退屈し、しょっちゅうトラブルを巻き起こす。私たちが犬に求めるものは頭がいいかどうかよりも、その犬がどれだけ愛情深いかどうかだ。」

ちょっと待って!すべての犬は厄介になり得る。でもそれは彼らの知能の程度のせいではない。
すべての犬は愛情深い。それは知能とは無関係だ。

犬の頭がいいとか、愛情深いとかに価値を置くことは、我々が犬に対して何を求めているのかを反映している。犬が何者であるか、犬が何を望んでいるかは反映していない。
犬が厄介になるのは、人間が犬の言わんとすることを理解していないからだ。

それでもなお、人は私に問う。
「では本当にバカみたいな振る舞いをする犬はどうですか?本当に頭の悪い犬というのはいないんですか?」


ハンガリーの解剖学者János Szentágothai博士の言葉を借りよう。
「頭の悪い動物などいない。あるのは乏しい観察力と拙い設計の実験だけだ。」
(動物の知能の研究では、実験を行いその間の観察から結論を出す。)


イルカとカラス、カナヅチとノコギリ


そしてまた、この種の質問も非常によく聞かれる。
「犬は猫よりも頭がいいですか?」「鳥は魚より賢いですか?」

動物はそれぞれの種の遺伝子の乗り物として、自分がしなくてはならないことをする。それだけだ。

そして数多くの人間以外の生き物が、さまざまな形で人間よりも優れている点があることも覚えておかなくてはならない。
異なる種の比較は意味がない。イルカとカラスのどちらが賢いかという問いは、カナヅチとノコギリはどちらが優れた道具かと問うようなものだ。

犬をそれぞれの「個」として見る


犬をバカと呼ぶことは間違っているし、異なる種の知能を比べることは無意味だ。
これらはキャッチーで人目を引くための手段として使われていることは承知している。しかしそれはただ紛らわしく、誤解を定着させていくだけだ。
そういう考え方や言葉をやめて、犬を「個」として見てほしい。

ある犬が頭が悪いとかバカだと呼ぶことは、犬が何かを習得するのに時間がかかったり、人間の望む結果が得られないことへの言い訳だ。
人間の方が努力して、犬を理解し受け入れることで犬の行動も変わるのだ。

同じ親から生まれた子犬たちも、生まれた瞬間から驚くほどそれぞれに違う。気質、身体能力、新しいことを習得するスピード、何が優れている劣っているということではない。それぞれに違うやり方で生き残るための作戦を立てている。

多くの人に犬の感情や認知能力の研究や進化の歴史を学んでほしいと思う。知ることで理解が深まり、犬と人間の絆が強く深くなる。
それぞれの個としての違いを受け入れ尊重することで、より良い関係を築いていけるのだ。



「頭のいい犬種ランキング」のようなものを目にするたびに感じていたモヤモヤをすっきり振り払えるようなコラムだったので、ぜひ紹介したいと思っていたんですよ。

そういうランキングの定番であるボーダーコリーの頭の良さと、介助犬の代表であるラブラドールの頭の良さの種類は全然違いますよね。
同じラブラドールでも、介助犬に適した能力と爆発物探知犬に適した能力は全く反対だそうですし。

ベコフ博士やヘア博士の言葉や考えが、たくさんの人に広まってほしいと心から思う次第であります。


《参考サイト》
https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-emotions/201803/my-own-dog-is-idiot-she-s-lovable-idiot







2018/04/16

See the Dog Not the Story

「すべての犬はみんな違う。犬を個として考える。」
これはとても大切なテーマで犬を迎える時に心しておかなくてはいけないことなのですが、同時に「犬という生き物」「○○という犬種」という意識も必要です。

どちらか一方だけではコミュニケーションはうまくいかない。

ビシッと上手に説明できないので、繰り返し手を替え品を替えて、書いていきたいと思っているテーマです。

まずは過去記事の「See the Dog Not the Story」をご紹介します。
タイトルのこの言葉、座右の銘のひとつにしたいくらい(笑)

そしてこの過去記事が、次の書き下ろし記事のテーマにもつながっています。



(以下dog actually 2015年9月14日掲載記事より)

保護犬を家族に迎える時、これだけは心に留めておいたほうが良いという大切なことってなんだろう?と考えてみたいと思います。

保護犬を迎えるにあたって気をつけることと言っても、犬の境遇、性格、受け入れる側の環境、その他諸々は千差万別。すべての例に当てはまる注意事項なんてありません。(またはあり過ぎます。)でも、どんな場合でも心しておくべきことをひとつだけ挙げるとしたら......なんだと思いますか?
複数の保護犬を家族に迎えた経験のある方、保護活動に携わっている方、経験豊富な皆さんが頭に浮かべたことはすべてが正解であると思います。

私が紹介したいと思ったのは、先日カレン・B・ロンドン博士のブログで目にした言葉です。ロンドン博士は動物行動学者/ドッグトレーナーであり、同じく動物行動学者であるパトリシア・マッコーネル博士との共著で成犬の保護犬を家族に迎える時のノウハウをまとめた本も出版している保護犬のエキスパートでもあります。
ロンドン博士が挙げていた言葉は「See the Dog, Not the Story」というもの。直訳すれば「犬を見よ、ストーリーではなく」となりますが、「犬が抱えている過去のお話に捉われるのではなく、その犬自身に注目しよう」ということです。
この言葉は前述のマッコーネル博士との共著に取り掛かっていた時期に、マッコーネル博士が自身のブログで「保護犬を迎える時に大切なことって何だろう?」と読者に問いかけ、意見を募った中で両博士がベストだと感じたものでした。
ひとくちに保護犬と言っても、生まれついての野良だった犬、パピーミルから保護された元繁殖犬、多頭飼い崩壊現場からきた犬、ごく普通に愛されていた家庭犬だったけれど飼い主と死別してしまったなど背景は様々です。どんな環境から来た犬であるのかを知っておくことは対応の仕方を考えるための情報としては有効ですが、いつまでもそこに捉われていては、犬のリハビリの進み具合や成長を見落とすことにもつながります。

たとえ過酷な状況にいた犬であっても、新しい環境できちんとした生活を始めると感情も行動も日々変わっていきます。また同じ現場から保護された犬であっても、それぞれの性格や体力により受けた影響もそれぞれに違います。
犬が抱えているストーリーにのみ注目していると、いつまでたっても「この子は以前虐待を受けていた可哀想な子なんですよ。」と過保護になって犬の社会化を妨げてしまったりする例も少なくありません。
「この犬はこういう犬だ」と決めつけることなく、今現在のその犬の状態に注目して対応することは保護犬に限らず、すべての犬にとって大切なことです。しかし保護犬を家族に迎える場合、ややもすると「可哀想な犬を救うのだ」という部分にのみ力を入れ過ぎてしまうこともありがちです。
もし、これから譲渡会などに行って保護犬たちに会ってみようとお考えでしたら、ぜひSee the Dog, Not the Storyを意識なさってみてください。それだけで、そこにいる団体の人やボランティアの方々に向ける質問の内容も、そして犬たちを見る目も変わってくるかと思います。

【参考サイト】
See the Dog, Not the Story / The BARK

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