2018/12/27

年末のご挨拶と来年の所信表明



なんと!前回の更新が9月30日という、とんでもないご無沙汰ぶりです。

締め切りのあるものが優先になってしまって、Dogs in the U.S.がついつい後回しになっておりました。

書きたいことは色々あるので、来年は無理のない範囲でもう少し頻繁に書いていけたらと思っています。


元々このブログは閉鎖になってしまったdog actuallyにアップしていた私の記事を再掲載するという目的で始めたものです。

dog actuallyの記事は自分にとっては思い入れのあるものですが、再掲載に当たって読み返していると「今これを再掲載する意味があるだろうか?」と感じたものも少なくありませんでした。

昔、会社で仕事をしていた時に毎日毎日新聞やら企業レポートやらを読みまくって情報武装に明け暮れていました。一方で何度も言われていたのが「情報は出した瞬間から腐り始める」というものでした。

ビジネスの世界の情報の速さは確かにその通りの印象でした。
犬に関する情報はそこまで極端ではないものの、やはり他の全ての情報と同じように賞味期限があります。

どんなに時間が経とうと変わらない核の部分というものはあります。例えば「ブランベルの5つの条件」などがそうですね。

けれど犬の行動学や栄養学、トレーニングの方法などは研究が進めば見直されて変わって行く部分もありますし、動物保護の世界や法律などは時代に合わせて変化していきます。

そのような中、古い情報の再掲載をすることに「ちょっと違うかもしれないな」という思いが強くなっていたことも、更新が滞っていた理由の一部ではあります。



来年は、過去記事の掲載と共に「アメリカの犬たち」という部分をより意識した文章を書いて行きたいと思っています。

とは言っても、日本語で書く媒体ですから日本の皆さんに楽しんでいただけることは大前提です。

以前にガジェット通信で書いていた『犬おぼえがき』のようなエッセイもこのブログに時々書くつもりでおります。
覚えておきたい犬の思い出が頭の中にいっぱいになってきたから、アウトプットしておきたいという思いがあるので。

「所信表明」なんて大仰なタイトルをつけてしまいましたが、このブログに関する来年の心づもりです。

2018年も読んでくださってありがとうございました。

来年もSMILES@LA共々、どうぞよろしくお願い申し上げます。

2018/09/30

FDA警告とグレインフリーフードと心臓病


(image by GDJ )

2018年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)が発表した「獣医療機関から犬の拡張型心筋症(DCM)の症例が増えていると報告が届いている。患者の犬に共通していたのは、エンドウ豆、レンズ豆、ひよこ豆その他豆類やポテトを主原料とするフードを食べていることだった」という警告が出されたことはご存知の方も多いかと思います。

この件はアメリカでも大きな騒ぎとなり、ドッグフード市場はちょっとしたパニックに陥りました。

上記原材料はグレインフリー(穀物不使用)フードに使われていることが多いため「グレインフリーのフードを食べると心臓病になる!」と言うヒステリックな情報が飛び交いました。

日本でもFDAの最初の警告は犬関連のサイトなどで取り上げられましたが、その後の追加など詳細は届いていないですよね?
もっと早くに紹介できれば良かったのですが、なかなか手が回らず遅くなってしまいました。

前回の記事で紹介した「犬と炭水化物」についての考察を書かれたリンダ・ケイス氏の書かれた文章とFDAの追加情報をベースに、私の考えたところも交えて書いていきます。


最初にクリアにしておきたいこと

  • 最初の警告には「エンドウ豆、レンズ豆、その他の豆類、ポテト、これらのたんぱく質、デンプン、繊維などの成分が原材料一覧の前半に多く列記され、それらが主成分であることを示しているフード」と書かれており、グレインフリーのフードという言葉は出て来ていません。
  • さらにFDAは上記原材料と拡張型心筋症(DCM)の因果関係についても「今の所わからない」と発表しています。
  • FDAは最初の発表では症例の件数に言及していませんでしたが、のちに「最初の発表時には犬30件猫7件の心臓病が散発的に報告された」と述べています。また獣医学心臓医のコミュニティでは約150件の報告が寄せられているとのことです。
  • FDAの発表では具体的なメーカーやブランド名については一切触れられていません。

注目すべきはグレインではなくタウリン

FDAの最初の発表の後、アメリカの犬ブロガーや獣医師が無分別に「グレインフリーのフードが危ない」と書き立てたために、大げさ過ぎたり不確かだったりする情報が独り歩きしています。

リンダ・ケイス氏は犬情報サイトWhole Dog Journal に、この拡張型心筋症と食餌の関連について詳しいレポートを寄稿しています。
私がここで書いていることはケイス氏の記事から得た知識や情報を参照しています。彼女の書いたものが、たくさん読んだ記事の中で最も冷静で、過去の研究で明らかになっていることをベースにしており、公平だったからです。
また、自分自身がFDAの発表を読んだ時に感じたり考えたりしたことと共通する部分もありました。

今回FDAが特定の原材料とDCMの関連を取り上げていますが、DCMにはタウリン欠乏症が大きく関係しています。
簡単に言えばタウリンが欠乏すると心臓は健康な機能を保てなくなります。
今回FDAに報告された犬も血中のタウリン濃度が低下している犬が多く、タウリンの補充が有効だったことが判っているそうです。

実はドッグフードの原料とタウリン欠乏症の関連については、過去にも取り上げられ因果関係が明らかになっているものも多いそうです。
それを元に考えると、今回の豆類やポテト類のことも見えてくることがあります。

                              
(photo by ulleo )



タウリンの再利用、タウリンの排出

タウリンというのはアミノ酸の一種ですが、多くの場合は肉類に含まれているシステインとメチオニンという2種類のアミノ酸を使って体内で合成されます。

過去15年間で、犬のタウリン欠乏については「ラム&ライスフード」「大豆をベースにしたフード」「米ぬか(ライスブラン)」「ビートパルプ」「高繊維フード」との関連が取り上げられています。


「ラム&ライスフード」については、原材料のラムミール(ラム肉ではない。ラムの枝肉から人間用の食肉を取り分けた後の、肉・骨・腱・脂肪などを細かく挽き加熱〜乾燥させたもの)の加工の過程でタンパク質が高温加熱で損傷し、システインとメチオニンがタウリン合成に利用できない状態になったと推測されています。(推測であって、証明
はされていない)またタンパク質を高温加熱した時に発生する物質はタウリンを分解する腸内細菌を増加させることが判っています。

大豆をベースにしたフードは、脱脂大豆をタンパク源として使っているフードです。肉や魚には天然のタウリンが含まれていますが植物性のタンパク質にはタウリンは含まれません。


また体内に取り込まれたタウリンは胆汁と結合して小腸に分泌され消化活動を助けるのですが、そのタウリンは本来はまた体内に戻って再利用されます。しかしその時に腸内に米ぬか、ビートパルプ、セルロース(不溶性食物繊維)が大量にあると、タウリンを便と一緒に排出してしまいます。これらの繊維源が低タンパク質のフードに含まれると犬の血中タウリンレベルを低下させることは、最近の研究で明らかになっているそうです。


これらのタウリン欠乏を起こさせると考えられる要因は複雑に絡み合っており、単純に「ラム&ライス」のフードを食べると心臓が悪くなる!というものではありません。ここに遺伝的な要素や、犬種特有の体質なども加味されて疾患へとつながるので、単純に「〇〇が含まれるフードはダメ」という主張は意味がないわけです。


今回FDAが問題にした原材料では、エンドウ豆やレンズ豆は植物性タンパク質が豊富な食材です。ですからこれらが多く含まれ、その分肉や魚が少ないフードではタウリン欠乏の一要素になり得ます。
またエンドウ豆、レンズ豆、ヒヨコ豆、その他豆類はどれも不溶性の食物繊維が豊富でもあります。
FDAが発表したリストの中のポテトにはジャガイモだけでなくスイートポテトも含まれます。スイートポテトも食物繊維が豊富な食品です。ジャガイモは不溶性の食物繊維はそれほど多くありませんが、含まれるデンプン質の一部が犬には消化しにくく食物繊維と似た働きをするのだそうです。

しかし、原材料一覧にこれらの食材が含まれていれば全てが危険というわけではありません。これらの原材料が使われているが、動物性のタンパク質も複数の種類が多く使われているフードや、問題の材料が使われてはいても原材料一覧の下位にある場合にはそれほど心配する必要はないと思われます。


グレインフリーに罪はない?


(photo by MartinPosta )

FDAの発表があった後、(あまり質のよろしくない)ブロガーや、フードや食事に関する知識があるとは思えない獣医師が「グレインフリーのフードは危険」と騒ぎ、中には特定のメーカーやブランドを非難する文章がネット上に溢れました。

そして非難されるメーカーやブランドは決まって小規模に高品質フードを作っている会社でした。


しかし、この騒ぎの最中にスーパーやペットショップで目につくフードの原材料一覧を片っ端から読んでいくと、グレインフリーのプレミアムフードどころか、動物性タンパク質が極端に少ないようなタイプのフードにも豆類やポテトが使われているものがたくさんありました。

また、FDAにDCMの症例が増えていると報告を出したのは心臓専門医を多く抱える循環器系専門病院でした。愛犬にそのような高度医療を受けさせる飼い主がグレインフリーのプレミアムフードを食べさせていても何の不思議もないのでは?と私は感じています。
(グレインフリーが本当に良いかどうかは別として)
反対に、スーパーで山積みになっている超低価格フードを食べている犬が心臓を悪くしても、気づかれることなく「寿命かな?」と亡くなっていくことがあっても不思議ではないと思うのです。
経済的なことを言うのは嫌らしい感じがしますが、統計を取ってみるとそうなるのではないかなと言う推測です。

しかし、そもそもグレインフリーが今までもてはやされて来たことには私は疑問を感じていました。犬は何千年にも渡って人間から穀物を与えられていたはずだからです。

......というわけで、豆類やポテトが含まれることが危険というわけではなく、フードの原材料一覧をよく見てバランスを考えてみてください。

そして、該当するフードを食べていても食べていなくても、何か具合が悪そうなことがあれば、迷わず病院に行ってくださいね。


《参考URL》











2018/09/05

犬と炭水化物、ブログThe Science Dogより


(photo by 137859 )


犬の食餌のことを考える時、手作りであれドッグフードであれ、常に悩ましく論争になりがちな問題のひとつが『炭水化物=でんぷん質』ですね。

「犬は本来肉食なのだから炭水化物は必要ない」「肉食である犬に炭水化物を与えることは体の負担になる」こんな意見もあれば、また一方で「犬は人間と長い年月一緒に暮らす間に炭水化物を消化できるように進化して来た」「エネルギー源としての炭水化物はある程度必要」という意見もある。

私はうちの犬たちには、炭水化物は常に与えて来ました。長い年月の間に何度か「え、やっぱりあんまり食べさせないほうがいいのかな?」と迷って炭水化物を減らし、犬たちの体重を適正に保てなかったこともありました。

そんな紆余曲折を経て、自分自身の中では結論が出ているのですが、この論争は相変わらずあちこちで火の手を上げています。

つい先日、普段よく読んでいるブログに「なるほど」と思った記事に出会いました。
ブログの名はThe Science Dog 著者はリンダ・P・ケイス氏、ドッグトレーナーで獣医学栄養士でもありサイエンスライターとして犬のトレーニングと栄養学について多くの記事を書いている人です。
(アメリカでの獣医学栄養士は、獣医師の資格を得た後にさらに大学で教育を受けて学位を取得しなくてはいけない難易度の高いものです。)

ケイス氏の文章を以下にまとめてみましたのでご覧ください。


(photo by Ella87 )


「犬と炭水化物」

このテーマが引き合いに出される時、必ず上がる2つの主題があります。

『犬は肉食動物であり、食餌に炭水化物は必要ない』?

この主題の前半は間違い、後半は本当です。
犬は雑食性の動物です。犬と雑食という言葉はしばしば議論の火元となりますが、雑食というのはただ単にその生き物が動物由来のものと植物由来のものを食べ、その両方から必要な栄養素を摂取できるという意味です。


「雑食性」という言葉は、犬が捕食者ではないとか、肉を食べることを好まないという意味はありません。肉からも野菜からも栄養素を得ることができる身体能力だけを表します。


後半部分に移りましょう。これはその通り、犬は栄養学的には炭水化物を摂取する必要はありません。
しかし調理済の炭水化物はとても消化の良いエネルギー源となり得ます。これはつまり犬の食餌に炭水化物が含まれているとそれがエネルギー源に回され、食餌中のタンパク質はエネルギー源となる必要がなくなり、身体組織の構築や修復、免疫系の支援のために利用できることを意味します。
したがって犬の食餌に一定の量の炭水化物が含まれることにはメリットがあると言えます。

 『犬は効率的に炭水化物を消化することができない』?

これは明らかに間違いです。犬は人間と同様に調理された炭水化物を効率よく消化します。

米、麦、トウモロコシなどを挽いて生の状態で犬に与えたときの消化率は約60%ですが、同じものを加熱調理した場合は消化率は100%近くまで上がります。


犬と炭水化物の消化については、2013年にスウェーデンのウプサラ大学のエリック・アクセルソン博士が、家畜化に関連する犬の遺伝的な変化を明らかにした論文を発表しています。


キーとなるのはAMY2Bと命名された遺伝子です。この遺伝子のコピー数は、膵臓で分泌するデンプン分解酵素の膵アミラーゼと関連します。
単純に言ってしまうと、AMY2Bという遺伝子のコピー数が多ければ、膵アミラーゼの分泌も多くなり、より高い炭水化物の消化能力を持つということです。
平均すると、犬のAMY2B遺伝子はオオカミの約7倍も多いことが判っています。人間が調理した穀類を食べ、犬がその残飯を食べていたことから、犬の身体は炭水化物を消化しやすい形に進化していったのだろうと考えられています。

このように、犬は炭水化物を消化吸収することができ、かつ炭水化物を摂取するメリットもあります。
しかし、それは犬が炭水化物の割合が高い食事を摂る方が良いということではありません。


ではどんなバランスの食餌が犬にとって理想的なのか?

近年の栄養学では、多くの鳥類、魚類、哺乳類など幅広い種の生き物が、たんぱく質・脂肪・炭水化物が一貫して含まれる食べ物を自ら選択し、健康に最適と思われる摂取量を調整してバランスを取っていると言われています。

犬よりも先に研究されたイエネコの場合、猫たちは一貫してタンパク質と脂肪が多く炭水化物が少ない食事を選択することが判明しました。これは野生のネコ科動物と一致しています。

犬の場合、自主的に食べ物を選択させると脂肪およびタンパク質が多く炭水化物が少ない食事を選びました。
エネルギー量の割合で言えば、犬の選択は30〜38%のタンパク質、59〜63%の脂肪、3〜7%の炭水化物でした。ただし、実験開始当初はこのように高脂肪の食餌を好んだのですが、数日のうちに脂肪の割合が減りたんぱく質の割合が増えていきました。

犬が食事の栄養素の割合を選択できるようにする実験を10日間行った時、彼らはカロリーを過剰に摂取する傾向があり、平均すると10日間で約1.5kgの体重の増加があったそうです。


また、同じことをオオカミで実験すると炭水化物が1%しかない食べ物を選んだということです。




総合すると......

  • 犬は先祖のオオカミ(および現代のオオカミ)と比べて、炭水化物をよりよく消化することができます。
  • この消化能力のアップは、遺伝子の変化で膵アミラーゼ(消化酵素)の産生が増えたことも一因です。
  • そのため犬は調理された炭水化物を非常に効率的に消化します。
  • 犬の食生活に一定レベルの炭水化物を含めることは、効率の良いエネルギー源となり、タンパク質の有効利用にもつながります。
  • 犬は選択肢を与えられると、炭水化物が少なくタンパク質と脂肪が多い食事を優先的に選択します。このタイプの食餌を制御なしの自己選択で与えた場合、過剰消費と体重増加につながる可能性があります。




しかし、上記の情報のいずれも「犬が炭水化物を摂取しないこと」または「犬が一定量の炭水化物を摂取すること」が、犬の活力、健康状態を維持する能力、慢性的な健康問題の発症や寿命の長さになんらかの影響を与えるという証拠にはなりません。

また犬がタンパク質や脂肪が多く炭水化物が少ない食事を好むという事実は、そのような食餌がより健康的であるとか病気を予防する証拠であると混同してはなりません。
現時点では、私たちは単に知らないのです。

以上、緑の字の部分がケイス氏のブログを要約したものです。
「犬と炭水化物」について、きちんと判明していることと、未だ判っていないことがはっきりと述べられているので、情報の整理にも役立つのではないかと思います。

犬は他の動物に比べてあまりにも長く人間と一緒に暮らしているので、犬たち自身も食べ物の理想のバランスには自覚がないように見えますね。

この記事に先駆けて再掲した「犬に穀物、与えるべきか?避けるべきか?」を最初にdog actuallyにアップした時SNSなどで「だから結局どっちなの!?」というコメントがいくつか付いたことがありました。

でも生き物の体の問題は白か黒か、ゼロか100かでスパッと割り切れるものではないのです。
ケイス氏の文章はそのことをよく表していると思います。

やたらと炭水化物の割合が高い市販のフードも、「犬に炭水化物?とんでもない!」という極端な意見も、個々の犬に目を向けることを忘れている気がします。



下のリストはケイス氏が参照した論文です。興味のある方は読んでみてくださいね。

参照 The Science Dog ~Dogs and Carbs, Its Complicated 


  1. Axelsson E, Ratnakumar A, Arendt ML, et al. The genomic signature of dog domestication reveals adaptation to a starch-rich diet. Nature 2013; 495:360-364. https://www.nature.com/articles/nature11837
  2. Arendt M, Fall, T, Lindblad-Toh K, Axelsson E. Amylase activity is associated with AMY2B copy numbers in dogs: Implications for dog domestication, diet and diabetes. Animal Genetics 2014; 45(5):716-22. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24975239
  3. Arendt M, Cairns KM, Ballard JWO, Savolainen P, Axelsson E. Diet adaptation in dogs reflects spread of prehistoric agriculture. Heredity 2016; 117(5):301-396. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27406651
  4. Reiter T, Jagoda E, Capellini TD. Dietary variation and evolution of gene copy number among dog breeds. PLOSone 2016; 11(2):e0148899. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0148899
  5. Hewson-Hughes AK, Hewson-Hughes VL, Miller AT, et al. Geometric analysis of macronutrient selection in the adult domestic cat, Felis catus. Journal of Experimental Biology 2011; 214(Pt6):1039-51. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21346132
  6. Hewson-Hughes AK, Colyer A, Simpson SJ, Raubenheimer D. Balancing macronutrient intake in a mammalian carnivore: disentangling the influences of flavor and nutrition. Royal Society of Open Science 2016; 3:160081. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27429768
  7. Hewson-Hughes AK, Hewson-Hughes VL, Colyer A, et al. Geometric analysis of macronutrient selection in breeds of the domestic dog, Canis lupus familiarisBehavioral Ecology 2013; 24(1):293-304. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23243377
  8. Roberts MT, BErmingham EN, Cave NJ, Young W, McKenzie CM, Thomas DG. Macronutrient intake of dogs, self-selecting diets varying in composition offered ad libitum. Journal of Animal Physiology and Nutrition 2018; 102(2):568-575. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29024089

2018/08/30

犬に穀物、与えるべきか?避けるべきか?

(photo by beata_kom)


犬と炭水化物のことを書こうと思うので、それに先がけてdog actuallyに書いたことのある犬と穀物の記事を再掲載しておこうと思います。

ただ、この記事『穀物不使用』は『低炭水化物』という意味ではないことや、穀物不使用の『穀物』に含まれるものが何かということが抜けているので、下に記しておきます。


穀物不使用(グレインフリー)は一般的に、小麦・トウモロコシ・大豆を使っていないことを指す場合が多いようです。
プレミアムフードと呼ばれるものでは米・大麦・オーツ麦も穀物不使用に含むものが多いです。(むしろ含まないとおかしいですよね)

ただし上記の穀物を使っていないフードの場合、ヒヨコマメやタピオカ、イモ類を使っている場合が多いので、穀物不使用=低炭水化物ではありません。

もう一つ、グレインフリーと紛らわしいのが『グルテンフリー』
グルテンとは小麦・大麦・ライ麦などに含まれる植物性のタンパク質です。犬は小麦グルテンの消化酵素を持たない又は分泌が少ない個体も多いため、グルテンフリーのフードは一定の需要があります。
グルテン不耐性やアレルギー、自己免疫疾患の一種セリアック病がある場合にはグルテンは厳密に避けなくてはいけません。

一般的にグルテンフリーは上記の麦類(又はコーンと大豆グルテンも含む)を使用していないという意味です。
グルテンを含まない米を使っている場合もあるので、グルテンフリー=グレインフリー(穀物不使用)ではありません。


でもこの記事を書いた時、本当に言いたかったのは一番下の段落の内容だったんですよ。いろいろウンザリしてたんですよね。



(以下dog actually 2017年3月6日掲載記事より)

アメリカでは2月23日は『全国ドッグビスケットデー』なのだそうです。日本でも正式な祝日ではない『◯◯の日』がたくさんあるように、アメリカもほとんど毎日が何かしらの『全国◯◯デー』で、ドッグビスケットデーもそのひとつ。


ドッグビスケットデー自体にはたいした意味はなくて「今日は愛犬にビスケットをあげましょう」とか「愛犬のためにビスケットを作ってみましょう」という他愛のないものです。
1860年、商品としてのドッグビスケット(または元祖ドッグフード)がイギリスで初めて発売されましたが、特にこの日が2月23日だったということもないようです。
冒頭の写真は、去年のドッグビスケットデーに見つけたレシピで作ってみたビスケットです。
我が家の犬は小麦粉を多く取ると微妙に体調が悪くなるので、このビスケットは小麦粉は一切使わずオートミールで作っています。
若い頃は小麦を使ったクッキーでもパスタでも問題がなかったので、年齢とともに小麦グルテンの消化能力が落ちてきたのだろうと推測しています。

このドッグビスケットはとてもシンプルで簡単です。
材料は、オートミール300g、卵1個、無塩チキンスープ(鶏の茹で汁)130cc。

1.オーブンを170℃に予熱しておきます。
2.材料を大きめのボウルに入れてよく混ぜます。
混ぜた後5分ほど寝かせると、オートミールが水分を吸って粘り気が出てくるので、これを手でギュッとまとめます。
3.クッキングシートに生地を置き、上にラップを乗せてめん棒で5ミリ程度の薄さに伸ばし、型で抜くか包丁で切り目を入れます。
4.オーブンに入れて25分~30分焼いて出来上がりです。
チキンスープを水に代えてカツオ節を混ぜたり、スープではなくて無糖タイプの豆乳やココナッツミルクを使ったり、粗みじん切りのパンプキンシードやチアシードを混ぜたりと色々なアレンジも楽しめます。
日本の標準的な大きさのオーブンだと、半分の量の方が作りやすいかと思います。

さて、このように我が家では犬たちに日常的に穀物を与えています。お腹を下した時などは白米のおかゆや重湯を与えて回復を図るのもいつものこと。
けれど最近では巷のペット用品店の棚はGrain Free=穀物不使用をうたった製品が多くを占めています。特にプレミアムフードと呼ばれるものでは穀物不使用のフードが占める割合が高くて、店によっては穀物使用のフードを見つけるのが困難なほどです。

「少しでも愛犬の体に良いフードを」と考える人々の間では、なんとなく穀物は悪者という風潮がありますが、私自身は「それはちょっと極端すぎるんじゃないか?」と常々思っています。
犬は何万年にも渡って人間の残飯を分け与えられてきて、様々な種類の穀物も長年に渡って食べているはずなので、すべての犬に穀類がNGということはないはずだと考えるからです。
「犬はでんぷんを消化できない」という意見も時々見かけますが、犬は狼よりもずっと多くのでんぷん消化酵素の遺伝子のコピーを持つという研究も発表されており、犬は炭水化物を消化できるように進化してきたことが判っています。
我が家の犬たちは、ちょっと気を抜くとすぐに体重が減ってしまいます。与える肉類も適度に脂肪の付いたものを選んでいますが、穀類抜きでは理想体重の維持ができません。ですから我が家の犬については「穀物は与えるべき」と考えています。ただ、前述したように小麦はやや難ありなのでオートミールまたは白米、たまに豆類を選んでいます。小麦に含まれるグルテンは犬にとっては消化しづらい場合が多いので、与える場合は注意と観察が必要です。
シベリアンハスキーなど犬種によってはでんぷん消化酵素の遺伝子のコピーが少ない場合もあるので、彼らのような犬には『穀物不使用』のフードは身体に合う率が高いのでしょう。場合によっては穀類を避けた方が体調が良いということもあると思います。セリアック病やグルテン不耐性などの場合は、もちろん小麦などの穀類は避けなくてはいけません。
ペットフードの売り場で穀物不使用のフードが主流になっているからと言って「犬には穀類厳禁!」ということもないし、犬によって穀類の中でも合うものと合わないものがあるのも当然。犬種によっても個体によっても差があるし、すべての犬に当てはまる唯一無二の答えなどないということです。
大切なのは、自分の犬にとって一番良いものや方法がどれなのかは犬をよく観察して見極めること。
自分と違う選択をしている人が必ずしも間違っているわけではないと認識すること。
穀物のことだけに限らず食餌全般、ひいてはトレーニングからカラーやハーネスの選択、グルーミングや医療、すべてに言えることだと思います。
自分とは違うやり方に対して尊重する人が増えて(もちろん、命に関わることは話が別です。)犬を巡る社会が少し穏やかになればいいなあと考える今日この頃です。

2018/07/04

殺処分を減らすためにアメリカが選んだ方法

これは2012年に書いた記事で、いま読み返すとずいぶんと青臭くて恥ずかしい感じです。特に最後のNO KILLのくだりとかね。

この記事で紹介したマーヴィン・マッキー獣医師は現在も現役で活躍しておられます。マッキー先生がロサンゼルスの犬猫の殺処分数を減らすために立ち上がった1970年代に比べると、動物医療の研究も進み変化した部分もありますが、保護して譲渡するだけでなく「蛇口を締めることの大切さ」を訴えかけ働きかけた功績は、今の日本の現状にとって大いに参考になると思います


(以下dog actually 2012年3月掲載記事より)

前々回に書いた記事「ARK訪問記」で、大阪能勢町にあるアニマルレフュージ関西(ARK)さんを訪れた折のことでした。
私が「ロサンゼルスから来ました」と自己紹介をすると、アーク代表のエリザベス・オリバーさんが「ロサンゼルスにはマッキー先生がいますね。犬や猫の不妊手術の第一人者ですよ。マッキー先生は本当にユニークですごい人です。」と、ある獣医師のお話をして下さいました。

マッキー先生ことW・マーヴィン・マッキー氏は現在70代ながら現役で活躍されている獣医師です。
1976年にロサンゼルス市内に最初の避妊去勢手術専門のクリニックを開業し、現在は3軒のクリニックを運営しています。彼のクリニックは避妊去勢手術のみに特化することで、低価格で、より多くの手術を提供することに主眼が置かれています。

最初のクリニックが開業した1970年代はアニマルシェルターの動物の暗黒時代でもありました。ロサンゼルスだけでなく、アメリカのどこのシェルターも行き場のない動物でいっぱいで、貰い手のない動物達は次々に殺処分。

1971年にはロサンゼルス市では11万頭以上の犬と猫が殺処分されました。これは1960年に統計を取り始めて以来最悪の数字で、さすがに行政側がなんとかしなくてはと腰を上げた最初の年となりました。

LA市がとった方法はとにかく無制限に産まれて来る犬や猫の数を減らすことでした。そのためにアメリカで初めて公共サービスとして低価格での犬猫の避妊去勢手術のためのクリニックを設置したのです。

マッキー獣医師もその流れに乗る形で76年に最初のクリニックを開業するとともに、ペットの頭数過剰問題に積極的に取り組み始めました。

獣医師仲間と共同で次々に避妊去勢手術クリニックを開業し、公営私営を問わずアニマルシェルターと積極的に協力し合って、シェルターにいる動物は必ず避妊去勢手術を施してから新しい里親に引き渡すというシステムも確立していきました。
現在は自治体と協力して、一定の所得以下の飼い主は申請をすれば無料で避妊去勢手術が受けられるシステムも出来ています。



(illustration by PaliGraficas )


マッキー獣医師のアニマルバースコントロールクリニックの手術料金は70ドルです。
他には特別車両を使った移動式クリニックというのも多く、定期的に地域を巡回して手術を受け付けているシステムもあります。
自治体による移動クリニックは無料の場合が多く、そうでない場合も30ドル〜50ドルというのが相場です。

マッキー獣医師のクリニックでは1日平均40頭の動物の避妊去勢手術が行われます。この数字を可能にしているのはマッキー獣医師が発案した安全で簡便な手術法です。この手術法をアメリカ全土の獣医師に広めるための活動も幅広く行われて来ました。その一環として実施されたのが、実際の手術の様子を録画し多くの獣医療関係者に無料で配布することです。
(アークさんにもこの手術方法のDVDのコピーが用意されておりました。マッキー獣医師の活動は今やアメリカ国内に留まらず、ヨーロッパ、日本、オーストラリア、ブラジル、メキシコなど多くの地域に広まっています。)

これらの活動が開始された1970年代にはアメリカ全土で避妊去勢手術を施された犬の率は10%未満でした。猫にいたってはさらに酷く、その率は1%以下。
ロサンゼルス市を皮切りに全国で始まった避妊去勢手術の普及が功を奏し、現在では手術を施された犬の率は全体の3分の2以上に、猫は80%以上が手術済みとなっています。

そしてその結果、ロサンゼルス市では2007年に犬猫の殺処分数が史上最低の15,009頭にまで抑えられました。史上最悪だった1971年から見れば86%の減少です。

アメリカ全土で見れば、1970年には年間2000万頭の犬猫が殺処分されていたのですが、2011年には約300万頭にまで減少させることができました。(残念ながら08年と09年にはリーマンショックに端を発した極端な景気の悪化により、シェルターに連れて来られる動物の増加、シェルターから引き取られる動物の減少が起こり、殺処分数は増加してしまいました。2010年以降は再び緩やかに減少基調に戻っています。)
しかもASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)によると、この40年の間に家庭で飼育されているペットの数そのものは約2倍に増えています。

確かに年間300万頭の犬猫が殺処分されているのは莫大な数字であり、まだまだ改善していかなくてはいけないことがたくさんあります。しかし避妊去勢手術の徹底によって殺処分数は確実に減らして行けることは実証されました。


(photo by jaminriverside )

先にも述べたように、アニマルシェルターや動物保護団体から動物を引き取る場合は、避妊去勢手術済みであることが大前提です。
しかし、ペットショップやブリーダーから購入した動物にまで避妊去勢手術を徹底させるためにアメリカはどのような方法を取ったでしょうか?
それは手術をすることで金銭的なメリットを発生させることです。

アメリカのほとんどの自治体では、犬を飼う際にドッグライセンスという名の犬の登録をしなくてはいけません。ライセンスは毎年更新しなくてはならず、その際にライセンス料を支払います。このライセンス料が、手術をしていない動物は手術済みの動物に比べて3〜5倍高くなります。

例えばロサンゼルス市の場合、手術済みの犬はライセンス料が年間20ドルであるのに対し、避妊去勢手術をしていない場合は100ドルになります。
ロサンゼルス市は避妊去勢手術の徹底に関しては厳しめで、条例には「原則としてペットには避妊去勢手術を施さなくてはならない。」と書かれています。
プロのブリーダーや、医療上の問題で手術ができない場合は所定の手続きを踏んで手術の延期または免除が認められます。

毎年支払うライセンス料で差を付けて、避妊去勢手術を受けさせることを徹底するというわけです。料金や差額については自治体によってかなりまちまちですが、ペットに避妊去勢処置をしないでいると毎年余分な出費があるというやり方はどの自治体も同じです。
こうして望まれずに産まれて来る命を減らすことが出来れば、シェルターの動物の環境も改善され、シェルターを訪れる人も増えます。訪れて悲しい気持ちになるような場所には人は集まらないですからね。

そしてネバダ州のリノ市のように公営シェルターながらNO KILLポリシーを掲げる所も出て来ました。これらリノのシェルターではNO KILL移行後は以前に比べて、犬の譲渡が51%増、猫の譲渡は2倍近くにまで増えました。

まだまだ殺処分ゼロに向けての道は遠いけれど、確実に良い方向には向かっています。いつの日かアメリカ全土のシェルターがNO KILLに変わることを願って、様々な活動に目を向けて行きたいと思います。

犬の避妊去勢、いろんな角度から

2016年に書いた記事です。この記事を書いた少し前に、犬の避妊去勢手術とガンや関節炎との関連についての論文が複数発表され、dog actuallyでも紹介されたという経緯があります。

それらの関連は無視できない問題ですし、特定のガンなどの発症率の高い犬種と暮らす人なら知っておきたい知識です。

けれども、そういう情報が発表されると見出しだけ見て本文は読まず「やっぱり避妊去勢とか不自然よねえ」という層に心底ウンザリもしていました。
そして避妊去勢無しでは成り立たない保護犬レスキューの世界を無責任に非難する人々や、安直な自家繁殖の格好の言い訳にする人々へのジリジリするような危機感も感じていました。

そんな「ウンザリ」や「危機感」への自分なりの返答として書いた部分もある記事です。

2018年7月現在、ウンザリもジリジリも解決どころか増幅しているんですけれどね😞😞😞


(photo by mariabostrom0 )


(以下dog actually 2016年6月13日 掲載記事より)
犬の避妊去勢と言えば、ほとんどの人は外科的な手術を思い浮かべることと思います。しかし医学の進歩とともに、手術以外の方法で避妊去勢をする方法も開発されています。アメリカのオレゴン州ポートランドには、手術以外の避妊去勢方法をバックアップするNPO団体があります。

団体の名はAlliance for Contraception in CATS&DOGS(「猫と犬の避妊法のための同盟」とでも訳しましょうか。以下ACC&D)。ACC&Dは直接犬や猫を保護して活動をするのではなく、ASPCAをはじめとするアメリカの主だった保護団体や保護基金、アメリカ以外の国の35団体、各地の獣医師団体、獣医学の研究施設、多数の小規模保護団体らのパートナーとして啓蒙教育活動を行っています。

アメリカでは犬に避妊去勢手術を施すことはとても一般的です。ロサンゼルスのように基本的に避妊去勢が条例で義務付けられている自治体も少なくありません(健康上の問題がある場合や許可を受けたブリーダーは例外)
各州政府や自治体が率先して避妊去勢を推進してきたために、過去40年の間に犬猫の殺処分数は10分の1以下に減少しています。

しかし健康上の理由などで手術を受けることができない動物、経済的な理由などで手術よりも簡便な方法が求められる地域などもあります。ACC&Dは「アメリカだけでなく、世界中各地で犬猫の頭数過剰問題を解決し、不幸な形でこの世を去る犬猫を減らすために避妊去勢を推進する。」という理念のもと、そのような手術以外の方法が必要な所に「こんな方法もある」という橋渡し役を務めています。

さて、気になる「手術以外の避妊方法」ですが、現在3つの
方法が取られています。

●Zeuterin/EsterilSol

これはどちらも製品として販売されている医薬品の名前です。生後3ヶ月以上のオス犬を対象にした方法で、アルギニンによって中和したグルコン酸亜鉛を犬の両方の睾丸に注射します。処置は一度だけ、鎮静剤のみの使用で全身麻酔は必要ありません。
処置により睾丸で精子が作られなくなり、避妊成功率は99.6%と発表されています。アメリカでは2014年2月から実用化されており、現在アメリカ食品医薬品局で認可されている唯一の犬の避妊薬です。

●Suprelorin

これも製品名です。生後6ヶ月以上のオス犬を対象にした方法で、性ホルモンの作用を阻害する物質をマイクロチップのように皮下に埋め込むことで、成分が継続的に供給されて効果を発揮します。
性腺を除去してしまう外科手術と異なり、性ホルモンのテストステロン値が未処置の場合の50%程度は分泌されるため、猟犬など去勢によって能力が低下することを危惧する場合にも勧められています。現在はオーストラリア、ニュージーランド、EU諸国において認可されています。


●黄体ホルモン擬似物質の投与

犬猫/オスメスの両方を対象にしており、注射または経口で投与します。黄体ホルモンが分泌されると性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されなくなりますが、擬似物質の投与で同じ働きをさせる方法です。アメリカでは副作用の懸念などから推奨されていませんが、複数の国では実際に使用されています。


(photo by framirezle0 )

どのような医療処置にもリスクと利益の両方があるように、これらの方法も手放しでどんな動物にも勧められるというものではありません。
けれども1番目に挙げたZeuterinなどはアメリカ国内の過疎地域、アフリカ諸国、南米諸国など、通常の動物病院が極端に少なくワゴン車の移動動物病院のみが頼りというような場所では、手術よりもずっと簡便なこの方法が犬の頭数過剰問題や野良犬の問題を解決するのに大きく貢献しています。

猫に対する手術以外の避妊方法も改善や開発が進めば、TNRや地域猫活動が容易になっていくことでしょう。このように犬や猫の避妊去勢処置は、社会全体の問題であることもしばしばあります。よく「アメリカでは頭ごなしに避妊去勢を勧めている」と、ややもすれば批判的な言葉を目にすることもありますが、犬猫の頭数過剰や殺処分を社会全体の問題として捉え、確実に成果を上げてきたのが現在のアメリカが取った方法です。そして現在の日本も、社会全体を見渡した時には避妊去勢の処置は不要とは言えない状態だと思います。

もちろん個々の家庭の愛犬たちが避妊去勢処置をするかどうかは、飼い主がリスクと利益を考えて結論を出すべき問題ですが、この「社会全体を見渡す」ことで変化することもあるのではないでしょうか。
避妊去勢手術が健康に及ぼす影響などが発表されるとレスキュー活動をしている人たちが批判されたりなどというのはその変えなくてはいけない最たるもので、どうかいろんな角度から広い視野で見渡す人が増えて欲しいと切に願います。

避妊去勢手術を受けたことで罹患率が高くなる病気もあるし、手術をすることでリスクが低くなる病気もある。
そしてそれ以前に、野放しの繁殖の結果として殺処分になる動物たちがいる。

ACC&Dがアメリカ国内だけでなく、アフリカや南米諸国の社会情勢や宗教、文化までを視野に入れて不幸な犬が増えないように運動している様を知り、犬の避妊去勢をいろんな角度から考えることで新しく見えてくることもあるのではないかと考えています。

2018/06/23

ペットフードメーカーに対する集団訴訟 2


前回のチャンピオンペットフードに対する訴訟の話題の続きです。

チャンピオン社の反応と、その後の対応

さて、訴えられたチャンピオン社の反応はどのようなものだったでしょうか。
3月19日にFacebookにて発表された声明では冒頭から「データの曲解に基づいた根拠のないもの」としています。

またアカナとオリジンのフードは、2つの第三者機関によって検査を受けており、高い基準の安全性を保っているとも述べています。


ごく微量の重金属についても説明がされています。
これらは自然界に鉱物として存在する微量の金属が、原材料を通じて製品に含まれているものだと言うことです。どんな農作物でも水産物でも微量の重金属を含んでいます。
原告からの訴状の中にもある通り、製品中に含まれるとされる重金属は米国食品医薬品局の上限基準を大幅に下回るもので、自然界の食品に含まれている範囲のものです。

また私の個人的な見解で恐縮ですが、私にはこのチャンピオン社の言葉は納得のいくものに思えます。

同社はこの訴訟を受けて、翌月4月13日に訴訟の却下の申し立てを行っています。
つまり全く取り合わないという姿勢を取ったわけですね。

言うまでもないことですが、製品のリコールの予定もありません。

ちなみにチャンピオンペットフード社は本国カナダとアメリカにおいては一度もリコールをしていません。2008年にオーストラリアにおいてのみリコールが行われていますが、これはオーストラリアがペットフードに対してガンマ線照射を義務付けており、同社がこの処置をしていなかったためです。同社はガンマ線照射はオーストラリア以外の国では行っていません。


参考までに日本の農林水産相や厚生労働省が農作物や水産物に含まれる自然由来のヒ素やカドミウム について説明しているサイトをリンクしておきます。
今回のペットフードの件とは関係がないのですが、微量の重金属は自然由来で日本の農作物にも普通に含まれているということの説明です。




訴訟はリコールとは別のものだということ




ある企業に対して集団訴訟が起きたという時、それが即「ここの製品は危険だ!」ということにつながるわけではありません。

海外のことなので、なかなか詳細が掴みにくいとは思いますが、もしご自分が利用している製品なら、冷静にその背景を調べてみることをお勧めします。

企業が製品をリコールした場合には、それは企業側が製品に問題があることを認めているわけですから、問題の所在は明らかです。

この点をしっかりと認識して、大切な愛犬の食べるものを見極めたいですね。


消費者が訴訟を起こせるのは悪いことじゃない

今回取り上げた、オリジンとアカナのフードに対する訴訟は、具体的な健康被害の報告もないし、根拠も非常に怪しいもので、私自身は取るに足らないことだと思っています。
最初に書いたように「訴訟は誰にでも起こせる」のです。

けれど消費者が企業を相手取って訴訟を起こすことができるのは悪いことではありません。損害を被った場合には訴訟を起こすことは正当な権利ですし、これができない社会は恐ろしいです。

例えば2015年に起きたネスレピュリナ社に対する集団訴訟。
(これはSMILES@LAに書いたことがあります。「ネスレピュリナ社ドッグフードの集団訴訟の件」


ピュリナのベネフルというフードを食べた後に具合が悪くなって命を落とした犬が1400匹以上、腎機能障害など深刻な健康被害の報告は数千件に上るという大規模な集団訴訟でした。

これ、本当に本当に腹立たしいのですが具合の悪くなった犬たちを診察した獣医師の証言は「毒物の専門家ではないので信頼性に乏しい」として無効にされ、最終的にピュリナ社が勝訴しました。
超大企業が全力をあげて弁護団を結成して対策を講じたのだと思います。

それでは訴訟を起こしたことは無駄だったのか?というと決してそうではないと思います。ピュリナのベネフルはその後もずっと「最低のフード」の地位を確立しっぱなしですし、この集団訴訟が世間に与えたインパクトは意味のあるものでした。

今回のチャンピオンペットフード社に対する訴訟と比べてみると、いろいろなことが見えてきます。


おわりに


アカナやオリジンのフードを買っている方は多いので、参考になればと思いこの記事を書きました。

このようなことがあると「何を信じればいいの?」と思われる方もいるかもしれません。
私自身は「自分の感覚を信じるしかない」と考えています。そのためにもペットフードの原材料一覧の読み方、それぞれの材料名が意味するところを勉強することが必要です。

私がお勧めしたいのは、とにかく色々なフードの原材料一覧を読みまくることです。
グリーンドッグさんなどは扱うフードの基準が明確で全てのフードの原材料が全部オンライン上で読めます。事あるごとに読んでいると、色々なことがだんだんクリアになってきます。
このブログにもフードのラベルが意味するところを説明した記事がありますので、ぜひ参考になさってください。

また各メーカーのリコールの有無や履歴も調べるとすぐにわかるので、フード選びの参考になさってください。

ところで、この記事のパート1でも「どれくらいおかしいかと言うと、ピュリナ社のフードが5つ星なんです」なんてことを書いたり、この記事でもピュリナの訴訟の件を例にしたり「そんなにピュリナが嫌いか?」と思われたかもしれません。

嫌いです。全く信用できないと思っています、個人的にね。

2018/06/21

ペットフードメーカーに対する集団訴訟 1



今年の3月、チャンピオンペットフードというメーカーが消費者から集団訴訟を起こされたとのニュースが報道されました。

チャンピオンペットフードと言われてもピンと来ないかもしれませんが、プレミアムフードの『オリジン』と『アカナ』のメーカーと言うと「あ〜、あの......えっ!?」という反応になる方も多いのではないでしょうか。

高品質でこだわりの原材料のフードとして、愛犬のために吟味を重ねる飼い主さんが選ぶタイプのフードですから驚きますよね。

最初に、この訴訟とフードについて私の個人的な意見を述べさせていただくと
「私がこのフードを買っていたとしたら、この訴訟のことはそれほど気にしないし、これからも買い続けると思う」です。
今このフードをお店で買ってきてうちの犬たちに食べさせられるか?と聞かれたら「余裕で食べさせられる」と答えます。

では、以下に詳しい背景をご紹介していきます。



チャンピオンペットフードが訴えられた理由

そもそもチャンピオン社はどんな理由で訴えられたのでしょうか?

最初に訴えを起こしたのは3名の消費者で「チャンピオンペットフード社の製品であるオリジンとアカナのドッグフードにはヒ素・水銀・鉛・カドミウムなどの有害な重金属と、内分泌かく乱物質であるビスフェノールAが含まれている。同社のフードは新鮮で自然な原材料を使用しているという虚偽の表示をしている。」というのが訴訟の理由です。

原告のうちの一人は「過去4年間オリジンまたはアカナのフードを愛犬に食べさせていたが、具合が悪くなった」と述べています。(ただし具体的な病名や医療記録は提出されていない。)

「最初に訴えを起こした」と書いた通り、その後も同様の内容で別の消費者グループからも訴訟が起きています。いずれもペットの具体的な健康被害の内容は示されていません。
(オリジンやアカナの製品が原因と思われる健康被害の報告もありません。)

一番新しい訴訟は6月にファイルされたもので「高品質のプレミアムフードだと宣伝されていたから高い価格でも購入したのに、虚偽の表示をしていたとのことなので弁済して欲しい」という内容です。(「え?マジっすか?」って思いますよね。)

ここで覚えておきたいのは「訴訟は誰でも起こすことができる」ということです。



訴訟のベースになっている数字はどこから?


訴えの内容が書かれた訴状には、オリジンとアカナの製品それぞれに含まれるとするヒ素、水銀、鉛、カドミウム、BPAの数値を一覧にしたものが添付されています。

フードに含まれるそれらの重金属とやホルモン様物質の数値が訴訟の理由になっているわけですが、全ての数字は米国食品医薬品局が安全基準として定めている「これ以上含まれると安全ではない」という数値を大きく下回っています。
例えば、ヒ素は米国政府が定める安全基準の数値は食品1kgあたり12.5mgが上限とされていますが、チャンピオン社の製品の平均値はフード1kgあたり0.89mgでした。
カドミウム は安全基準が1kgあたり10.0mg、チャンピオン製品平均1kgあたり0.09mg
鉛は安全基準が1kgあたり10.0mg、チャンピオン製品平均1kgあたり0.23mg
水銀は安全基準が1kgあたり0.27mg、チャンピオン製品平均1kgあたり0.02mg

BPAについては、缶詰フードから検出されるならわかるのですが、訴訟の対象になっているドライフードから検出されるのは考え難く、???な部分です。

これらの数値を測定したとされるのはクリーンラベルプロジェクトというNPO団体です。
この団体は、同じ名前のウェブサイトで独自に行なった様々な製品の検査をベースにして、星の数でレーティングを行なっています。
このレーティングについては、今回の訴訟問題以前からペットフード関連の有名Webサイトや、さらには経済誌フォーブズなどでも判定基準の不透明さや不可解さが疑問視されていました。

どのくらい不可解かというと、クリーンラベルプロジェクトにおいてはピュリナのドッグフードのほとんどに最高評価の5つ星がついています。
原材料一覧を見たらため息しか出ないような、ピュリナブランドの中でも最安ランクの製品も星5つ。

そしてこのサイトで最低評価の1つ星には、アカナとオリジンのほとんどの製品、ロータス、GO!、HALOなど、通常のペットフード評価サイトで最高ランクの常連のブランドが並びます。

同サイトのレビューはこちらで見ていただけます。

そしてその評価の根拠となっている「独自に行なった調査の数値」は一切公開されていません。そこが他社数社から不透明さを指摘されている所以ですね。

つまり、オリジンとアカナの製品についての訴訟の根拠になっている数字の出どころが信頼の置けるものとは思えないのが、一番最初に書いた私の個人的な意見の理由です。


ちょっと長くなりそうなので、製品中の重金属についてや、チャンピオンペットフードの対応や声明、消費者が企業を相手取って行う訴訟についてなど、明日続きを書きます。


訴訟全文はこちら

2018/05/29

科学が見つけた「犬の魅力のピーク」と、科学では割り切れない「感情」

5月半ばの頃、ニュースサイトのAnimalやNatureといったカテゴリーや犬関連のサイトで多く取り上げられていた、ちょっと興味深いリサーチがありました。

それは『犬の魅力がピークになる時期』についてのリサーチと仮説でした。
感情に任せて言えば「犬は一生を通じてずっと魅力的」とか「今そこにいるその時が常に一番」なわけですが、リサーチ自体はとてもおもしろいものなので先にご紹介します。


『犬の魅力』リサーチの背景


(photo by JACLOU-DL)


リサーチを行ったのはアリゾナ州立大学の心理学者クライブ・ワイン博士。犬とオオカミの行動についての研究をしている人です。

オオカミの子供は生まれてから約2年間は母親や父親を含む群れのメンバーとして暮らすのだそうです。その期間の子オオカミは世話をしてもらい、独立のための訓練を授けられる立場です。

一方、犬はどうでしょうか。ワイン博士が研究しているのは飼い主のいない野良犬です。博士の同僚が研究しているバハマのストリートドッグを観察すると、子犬のそばにいるのは母犬だけ。そして子犬が生後2ヶ月くらいの時に母犬は母乳を与えることを止め、子犬のそばを離れるのだそうです。(ええっ!?って感じですよね。でも母犬も自分が生き延びるためにはそれがきっと限界なのでしょうね。)

バハマのストリートの子犬の約8割は1歳を迎えることができないそうです。

生き残ったラッキーな子犬たちは何が幸いしたのか?人間の庇護を受けるために可愛らしい姿形でいるという作戦が功を奏したのではないか?という疑問がリサーチの背景にあります。


犬はどの時期がいちばん魅力的か?


(photo by Alexas_Fotos )


リサーチはワイン博士が教鞭をとっているフロリダ大学の学生51人の協力を得て行われました。
この記事のトップの画像のカネ・コルソ、2番目の画像ジャックラッセルテリア、3番目の画像のホワイトシェパードの3犬種を対象に、1犬種につき12〜14枚の白黒写真が用意されました。
写真は出生直後から生後7ヶ月までの間のすべて違う週齢のものです。

写真を見せられた学生は「まったく魅力的ではない」から「非常に魅力的である」のスライダーで、それぞれの週齢の写真をランク付けしていきます。
結果は出生直後は『魅力スコア』が低く週齢が進むにつれてスコアが上がって行きました。魅力のスコアがピークだったのは、カネ・コルソが6.3週齢、ジャックラッセルが7.7週齢、ホワイトシェパードが8.3週齢で、10週齢以降はどんどんスコアが下がっていったとのことです。
「非常に魅力的」だとランク付けされた時期の週齢が、野良犬の親が母乳を与えるのをやめる時期とほぼ一致しています。

これだけでは「犬は母犬から離れた後に人間の庇護を受けるチャンスを得るために、その時期に可愛らしさのピークが来るように進化した」という結論は出せませんが、なかなかおもしろい結果ですね。

出生直後は母犬がいるので人間にアピールする必要はないし、生後半年くらいになれば自分で生きる力もついてくるので人間にアピールする姿ではなくなるのだろうとのことです。
スコアをつけたのが全員大学生というのはデータとして偏っていますし、犬種も3種類だけという少数なので、今後これらの点を改善したリサーチ、また写真ではなくビデオを使ってのリサーチなどをしていく予定だそうです。
また子猫やオオカミについての「人間が可愛いと感じるピーク」のリサーチが行われることも期待されています。


だけど、やっぱり犬は一生魅力的じゃない?



(photo by vargazs )

生後8週くらいの子犬は確かに文句なしに可愛らしいです。
たいていの幼齢の哺乳類は姿形も目も顔も丸っこくて、自然と庇護欲をかき立てるようになっていますから、それは当然ですね。

でも犬への愛のある人なら「それでもやっぱり犬生のどのステージでも魅力的だよ」と思いますよねえ。
そういう自然の戦略を超えたところで「成犬もたまらなく魅力的だ」とか「老犬のかわいさは格別」などと感じる人間の「感情」ってなかなかすごいじゃないか!と改めて思います。
(同時に「子犬の可愛い時期を過ぎたらもう飽きた」なんて言って世話をしなくなるような人間は原始的な感情しかないんだなと黒いことも思ったり。)

この記事の犬種の写真を選ぶ時、わざと成犬の写真を選んだのですがみんな魅力的ですよね。
1枚目のカネ・コルソはたまたま子犬と成犬がいっしょに写っている写真があったのでそれを選びましたが、子犬の後ろの成犬がいい味わいです。

実験に使用された写真の一部は、下記のワシントンポストの記事で見ることができます。
3犬種各々の「出生直後・スコアピーク時・生後半年前後」の写真です。

https://www.washingtonpost.com/news/animalia/wp/2018/05/19/puppies-cuteness-peaks-right-when-they-need-humans-most-study-finds/?noredirect=on&utm_term=.b999e976be1f


リサーチ全文はこちら
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/08927936.2018.1455454

従来の不妊化手術と性腺温存型不妊化手術を比較

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