ラベル コラム の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル コラム の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020/11/18

ファーストドッグのチャンプとメイジャー

これを書いている今の時点で大統領選挙からちょうど2週間経っていますが、現大統領は未だ敗北を認めず、実務上の支障が山積みになっています。

まあ、ここではそれはさて置き、4年ぶりにホワイトハウスに犬の姿が戻って来るということで次期ファーストドッグたちが注目を集めています。
アメリカの犬たちというブログタイトルで、このアメリカン中のアメリカンドッグのことを無視するわけには行きません。


バイデン次期大統領の愛犬で次期ファーストドッグとなるのはこの2匹。
手前が先住犬のチャンプで、奥にいるのが2年前に家族に加わったメイジャー。

(photo via Facebook https://www.facebook.com/DrJillBiden/posts/674378179837540 )


オバマ大統領が娘さんたちに「大統領に当選したら犬を迎える」と約束していたのは有名な話ですが、バイデン氏も妻であるジルさんに「当選したら犬を」という約束をしていました。

そしてあの2008年の熱狂の当選の後に迎えられたのが生後3ヶ月だったチャンプです。ちなみにチャンプという名を付けたのはお孫さん。

チャンプはペンシルヴェニアのブリーダーから迎えられたのですが、この時に「どうして保護犬を選ばなかったのか」と非難の声が上がりました。

(個人的にはそういうのは行き過ぎた干渉だと思うし、保護犬のことを多くの人に広めるための邪魔にしかならないと思うんですけれどね)

チャンプはしばしばホワイトハウスを訪れ、副大統領の後ろに控えて思慮深そうな顔で座っていました。

オバマ大統領の愛犬BOとは歳も近いけれど、一緒にいる場面というのは見たことがありません。公開していないだけ(または私が見たことないだけ)で仲良しだったのかもしれないけれど、どうだったんでしょうね。

バイデン氏は子供の頃にもジャーマンシェパードと暮らしていたそうで、この犬種への思い入れが深いそうです。アメリカでは常に人気ベスト5に入る犬種ですしね。

2016年の前回選挙の後の今回の選挙への出馬表明をする前の、まだ時間に余裕のあった時期だった2018年初頭にバイデン氏の娘さんが地元デラウェアの保護団体がジャーマンシェパードの預かりボランティアを募集していると教えてくれたそうです。

何があったのか具体的には知らないのですが、生後8週齢のジャーマンシェパードの子犬6匹が毒物を摂取してしまい、Delaware Humane Association(デラウェア人道協会)に持ち込まれたとのことでした。危険な状態を脱した子犬たちのフォスターファミリーになってくれる家庭が募集されており、バイデン家も名乗りを挙げました。

そして迎えられたのがメイジャー。Major 日本語にすると少佐です。
これは2015年に46歳の若さで亡くなったバイデン氏の息子ボーさんが軍隊に所属していた時の階級です。

メイジャーは数ヶ月をバイデン家の預かりっ子として過ごした後、正式に家族として迎えられました。預かりボランティアが犬に情が移ってアダプトしてしまうことは(多くの場合)愛情とユーモアを込めて「フォスター落伍者」と呼ばれます。2018年にメイジャーがバイデン家の子になった時、あちこちのドッグサイトでこの呼び名が見出しに挙げられていました。

メイジャーはホワイトハウスで暮らす初めての保護犬になることも話題を集めています。
(保護犬というのが保護団体出身という意味では初めてなのですが、60年代JFKの副大統領で後に大統領になったジョンソン大統領は娘さんが拾った雑種犬のユキと暮らしていたので、厳密にはどうなの?という気はします。)

「オバマ家の犬は保護犬じゃなかったっけ?」と思われた方もいるかもしれません。詳しくはこちらを

チャンプは4年ぶりにホワイトハウスに戻り、今回は大統領一家の居住エリアの住民となります。
メイジャーもホワイトハウスの広い芝生の庭や長い廊下を気に入ってくれるといいですね。

こちらはチャンプとメイジャーの紹介から始まって、過去のファーストドッグも登場するニュース映像です。




↑の映像で、チャンプとメイジャーの後に最初に出てくる父ブッシュ大統領の愛犬ミリーはイングリッシュスプリンガースパニエル。
ブッシュ大統領自身も愛犬家でしたが、妻バーバラさんは特にミリーを溺愛しており、後に出版されたホワイトハウスの回顧録のタイトルはMillie's Bookでした。

バーバラさんはミリーに子犬を産ませており、ミリーはホワイトハウスで出産した数少ない犬の1匹です。
このことは当時「大統領一家がこんなことをすると犬の自家繁殖を推奨するような結果になりかねない。無責任ではないか」と物議を醸したそうです。

息子のジョージWブッシュ大統領も大の愛犬家で、ミリーの子犬の1匹は彼の犬になりました。息子ブッシュの愛犬と言えばスコティッシュテリアのミス・ビーズリーとバーニーが有名ですけれどね。

クリントン大統領就任時には犬はいなくて、ソックスという名の黒白ハチワレの猫が一緒でした。その名の通り靴下を履いたように足先の白い猫でした。クリントン一家は二期目の夏にチョコラブのバディを迎えました。
バディは5歳という若さで天国に行ってしまったのですが、一家はその後再びチョコラブを迎えています。

新しく大統領が選ばれるたびに愛犬や愛猫のことが話題になり、歴代大統領のペットについての特集記事なども組まれるので、私も歴代大統領の犬についてはちょっと詳しいです(笑
この記事もほとんど資料なしで書けてしまったくらいです(後で確認はしていますが)

チャンプとメイジャーのことは今後もしっかりとチェックしていくつもりです😉

2020/09/16

犬や猫の避妊去勢は社会の問題でもある

 この記事の前にカリフォルニア大学デイビス校が発表した犬種ごとの避妊去勢手術と特定の疾患の関連及び手術のガイドラインの研究について6回に分けて書きました。

言うまでもなく、当該の犬種と暮らしている方やこれから迎えようと考えている方にとっては貴重な情報です。
そして「うちの犬は雑種だからどう考えたら良いか分からない」と思う方がいても当然で、雑種犬の体重別のガイドラインというのもありがたい情報だと思います。

けれど、特に最後の雑種犬の体重別ガイドラインをまとめながらどうしても引っかかると言うか、うっすらとわだかまる感じが離れずにいました。

そのわだかまりの理由ははっきりと分かっています。
雑種犬と言えば、その大半を占めるのは保護犬です。アメリカにおいて保護犬と避妊去勢手術は切っても切れないものですから「体重20kg以上の犬の避妊去勢手術は生後1年を過ぎてから」とタイプしながら、そんなこと言われても無理なものは無理じゃないさと悪態をついたりしていたのでした😓
避妊去勢手術をしなければ譲渡ができない保護犬の手術を1年や2年待っていたら、公営シェルターなら飼育する場所がなくなって殺処分になるかもしれない。預かりボランティアの家で保護されている場合、1年も2年も預かっている間のその家庭は他の犬を預かれない。預かり先を確保できないと殺処分になる犬が出る可能性もある。
保護犬の避妊去勢手術を年単位で保留することは、あっという間に犬たちの命を脅かすことにつながります。

                                             Image by 41330 from Pixabay 


殺処分を減らすために尽力して来た先人たち

うちの2匹の犬たちが保護犬であるため、思い入れがあるのも確かですが、ほぼ10年に渡って犬の記事を書くうちに読んだり、時にはお目にかかったりして来た、犬猫の殺処分を減らすために尽力されて来た方々の功績が頭に浮かんだということもあります。

70年代初頭、ロサンゼルス市は1960年に統計を取り始めて以来最高に達する数の犬猫の殺処分を行いました。その数は1年で11万頭以上。
ロサンゼルス市はアメリカで初めて公共サービスとして低価格の犬猫避妊去勢手術を提供し始めました。

公共サービスだけでなく、のちにアメリカの犬猫避妊去勢手術の師匠とも言える存在となったW.マーヴィン・マッキー獣医師が低価格の避妊去勢専門クリニックをオープンしたのが70年代中頃でした。
マッキー獣医師は1頭でも多くの動物を手術できるよう簡便でスピーディーな手術法を考案し、その方法を録画したDVDを世界中の動物保護施設に無料で配布しました。
日本を代表する動物保護団体であるアニマルレフュージ関西にもDVDが配布され、2012年に見学に伺った際にエリザベス・オリバーさんからそのコピーを頂いたのが、私がマッキー獣医師のことを知ったきっかけでした。

マッキー獣医師は早期の手術を推奨してこられました。21世紀の現在の獣医学では、それは必ずしも正しいとは言えないようです。
しかし1971年に年間11万頭以上の犬猫が殺処分されていたロサンゼルス市では、マッキー獣医師をはじめとする先人たちの努力によって2019年の殺処分数は年間3200頭を下回っています。LAの公営シェルターに連れてこられた犬猫の約90%は生きてシェルターを出て譲渡、預かり、返還されています。

新しい研究結果にはもちろん敬意を表し尊重したいと思います。しかし先人の辿ってこられた軌跡もまた敬意を持って憶えておきたいと思うんですよ。

ちなみに猫に関しては、現在も6ヶ月齢以前の避妊去勢手術が重要であると考えられています。犬と違って猫は生後6ヶ月ですでに妊娠出産する能力があるからです。

マッキー獣医師については以前にdog actuallyで詳しく書いた記事があります。


なぜ代替方法に言及しない?

以前にアレクサンドラ・ホロウィッツ博士が犬の避妊去勢手術について待ったをかけるコラムを発表した時に「大事なのはするかしないかだけじゃないんだよ」という記事を書いたことがあります。

性ホルモンの分泌を残したまま生殖能力だけを取り除く医療処置はいくつかあります。
(以前に書いた内容は少しアップデートが必要になっているので、また改めて紹介します)
UCデイビス校は、従来の避妊去勢手術による疾患の可能性をこれだけ述べているのに、なぜそのような代替の方法について言及しないんだろう?
これが私がわだかまりを感じていたもう1つの理由です。

それが論文の直接のテーマでないことは承知していますが、「保護犬は法律で手術が義務付けられていることもあり」という記述はあるのに、代替方法については何もない。

従来の方法が健康を害する可能性があるというなら、代わりの方法がありますよくらいのことは教えてくれても良さそうなものなのにねえ。


最後に

何度も同じことを書いていますが、犬や猫の避妊去勢は社会の問題でもあるという側面があります。
アメリカでも避妊去勢手術と疾患の関連が発表されて以来、犬猫の過剰頭数問題に取り組んで来た人たちと、医療関係者の間で議論が続いています。

アメリカでは多くの州で個人の自家繁殖を制限する法律があり、そのためにごく普通の一般家庭で飼い犬に子供を産ませることはほとんどありません。一般家庭でそんなことをするのはホビーブリーダーと呼ばれる犬種保存のために真剣に取り組んでいる人か(もちろん許可証を取っている)、全く反対に規制なんて気にも留めずに小銭を稼ぐために自家繁殖をするバックヤードブリーダーというちょっとまずい人々です。
(州法や条例が緩い所もあるので、悪びれずにアクシデントの繁殖を繰り返すような“普通の人々”もいるにはいる)

一方、日本ではペットの自家繁殖に何の制限もありません。そんな状態で「避妊去勢手術は健康に影響が出る」という情報が中途半端に蔓延すると、どうなるだろうか?😨


だから私は微力ながらも、避妊去勢手術と疾患の関連について書いた時には、このようにくどいくどい注釈を毎度毎度付け足しています。



《参考URL》



2020/02/28

ヴィックトリー・ドッグたちのストーリー3

前回の記事の最後に「次回に書きます」と書いたのが11月半ば。
その後、2月下旬まで放置されていたこのDogs in the U.S.のブログ😓😓😓

書く書く詐欺もたいがいにしなさいよ!ですね。すみません🙇




Image by OpenClipart-Vectors from Pixabay 



前回はマイケル・ヴィックの敷地から保護(と言うよりも証拠物件として押収)された犬たちが、アニマルシェルターに預けられ関係者たちがその後の処遇に頭を悩ませていたところ、相談されたアメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)の動物行動学者が犬の行動評価をスタートさせたというまで書きました。
前回のお話はこちら
前々回はこちら


犬たちの行動と反応を査定

ASPCAの責任者だったDr.Zは行動評価のためのチームを編成しました。
チームのメンバーはASPCA所属の動物行動学者や獣医師、そして北カリフォルニアのピットブルレスキューの主宰ドナ・レイノルズ氏とティム・レイサー氏の計10人でした。

テストはASPCAで保護犬の評価をする時に行われている手法で実施されました。


1. まずは犬の行動を観察。一匹ずつテストの場に連れてきて「落ち着いている」「緊張している」「攻撃的」などの評価を下す。


2. 担当者が犬の体を撫でて反応を観察。問題がなければ足を持つなど、もう少し踏み込んだ接触をして観察。


3. ロープやリングなどおもちゃを手にして遊びに誘う。うまく遊ぶことができるか、最後に速やかに遊びを止めることができるかを観察。


4. ボウルに入れたフードを与え、食べている最中に
ゴム製の手の模型を使ってボウルを引き離し反応を見る。

5. フードよりもさらに嗜好性の高いブタ耳などを与え、同じことをして反応を見る


6. 犬のぬいぐるみと、幼児の等身大の人形を近づけ攻撃性を示すかどうかを観察


さらにBADRAPの2人から、彼らが使っている以下の手法も加えることが提案されました。


  • ケージの金網越しに犬に近づき、反応を観察
  • ぬいぐるみではなく、本物の犬を近づけて反応を観察
  • 犬の顔にそっと息を吹きかけて反応を観察



テストの手法について解説

ここでちょっと、上記のテストについて解説します。
この評価が行われたのは2007年のことですので、ASPCAのテストが現在は使われていない古いものです。

上記4〜6の「食べているものを取り上げて反応を見る」「犬のぬいぐるみや等身大の人形を近づけて反応を見る」のテストで観察される反応は、実際の犬の行動を反映しておらず、犬の攻撃性の指標として有効ではないという研究の結果が出ています。
2010年代初頭からこれらの研究が、複数の動物行動学者や心理学者によって次々に発表されて来ました。

そもそもシェルターというストレスの多い環境で暮らしている犬の行動を一回のテストで評価するというのは無理な話ですし、犬にとっては文字通り生きるか死ぬかの分かれ目にもなり得るのですから、不確かな指標を使っていたのはひどい話です。

現在のASPCAは当団体の施設だけでなく、全国の保護施設向けに次のようなアドバイスをしています。


  • わざわざテストの場を設けての行動評価は行わない
  • 犬が持ち込まれた時には元の飼い主から犬の情報をできる限り多く聞き出す
  • 施設のスタッフは犬を観察して日頃の行動を把握し、情報を共有する
  • 望ましくない行動を見せた犬に対して、スタッフの対応を全員が理解して統一する
  • 望ましくない行動がある犬を譲渡する場合はその情報をきちんと開示して飼い主への指導を行う

また「おもちゃを見せて遊びに誘う」というのも、この当時の闘犬場から保護された犬たちへの理解の足りなさをよく表しています。
闘犬のために自家繁殖されて、闘うための訓練(という名の虐待)と実戦しか知らない犬たちにおもちゃを見せてもその意図は伝わりません。
そもそも彼らには「遊ぶ」という概念すらなかったと思われます。

以前にも書きましたが、この当時は闘犬の証拠品として押収された犬は裁判が終われば殺処分になるのが普通だったので、元闘犬の行動評価をしたことがある人がいなかったのです。

この査定の場にBADRAPのお二人がいたことは犬たちにとって本当にラッキーなことでした。
そしてASPCAのDr.ZがBADRAPのお二人の意見を取り入れてくれたのも本当に良かった。

ちなみにDr.Zはこんなサンタクロースみたいなお方です。


いよいよ一匹ずつのテスト、その結果は?

さて、いよいよ最初の犬のテストです。
犬たちのハンドラーは全てBADRAPのティム・レイサー氏が務めました。

Dr.Zの目標は49匹の犬の10%つまり5匹の犬にリハビリテーションを受けさせ、家庭犬として譲渡することでした。
ドナさんとティムさんも5匹を目標としていました。

そしてチーム一同が見守る中連れてこられた最初の1匹は人間に対して全く攻撃性を示しませんでした。
と言うより、何の反応も示しませんでした。
おもちゃを見せても反応は無し、食べているものに手を出しても攻撃性は見られませんでした。
長い間虐待されていたせいで、刺激に対して反応しないでやり過ごすことを身につけてしまっていたのかもしれません。

しかし犬舎から他の犬を連れて来て対面させた時、その犬は嬉しそうに尻尾を振り、礼儀正しく匂いを嗅ぎ合うことができました。
つまり『合格』です。幸先の良いスタートを切りました。

その後も合格が続き、当初の目標の5匹にあっという間に達し、さらに合格の犬は増えて行きました。

犬たちは複数のシェルターに分かれて収容されていたので、他のシェルターでも同じようにテストが繰り返されました。

ハンドラーのティムさんの呼びかけや優しく吹きかけられた息に嬉しそうに反応する犬、怯えるあまり全ての行動を放棄して地面にぺったりと這いつくばってしまう犬、そしてもちろん攻撃的な態度を示す犬もいました。

(※注 地面にぺったりと這いつくばってしまう犬は「パンケーキ」と呼ばれました。パンケーキ状態になってしまう犬はかなり多かったのですが、後にこれらの犬はバベシア症にかかっており、身体がだるくて起き上がれなかった可能性が高かったことが判りました。
怪我をした傷口を手当てもせずに放置されていた犬たちはダニの格好の標的となって、バベシア症を患っている犬はとても多かったのです。)

全ての犬のテストが終わった時点で、Dr.Zは犬たちの選別基準を決めました。
Dr.Zのチームはテスト結果をかなり寛大に評価してくださったものと思われます。
少なくとも攻撃性を見せたら一発アウトというようなものではありませんでした。

選別基準は次の5つで、全ての犬は5つの基準のどれかに分けられます。

  1. 預かりボランティアのもとへ行く
  2. 警察犬など法執行機関で働く犬となる
  3. 保護施設へ行き、そこでリハビリ後譲渡先を探す
  4. 終生を保護施設で暮らす
  5. 殺処分
1は最も評価の高かった犬たちで、16匹が該当しました。
2は評価の高かった犬のうち、適性があると思われる2匹。
(ただしこの2匹も最終的には普通の家庭犬として譲渡されました。)
3は問題行動はあるものの、適切な施設でリハビリが可能と思われる犬たちで、20匹でした。
4は攻撃行動が多く見られ、家庭犬に適さない犬たちで10匹が該当。
そして5の殺処分には1匹だけが該当してしまいました。

殺処分以外の方法がないと判断されたのは黒いメス犬で、繰り返し繰り返し繁殖に使われた跡がうかがわれました。
酷い環境での虐待と度重なる出産で、その犬は身体だけでなく精神もボロボロになっていました。
目につくものすべてを激しく攻撃しようとしたその犬は、ティム・レイサーさんの手に負えない唯一の犬でした。

苦痛しか知らなかった彼女の一生はペントバルビタールナトリウムの点滴によって幕を閉じました。
センチメンタルに聞こえるかもしれませんが、彼女が今度は生まれ変わって普通の幸せな犬として生きていることを心の底から願います。

犬たちに名前をつける

目標と予想を大きく上回る48匹の犬たちにセカンドチャンスが与えられることになりました。
それはすなわち、犬たちの今後について決定権を持つ責任者が必要になるということです。Dr.Zは動物に関連する法律に精通しインディアナの大学の法学部で教鞭をとるレベッカ・ハス教授を責任者として推薦し、ハス氏はこの任務を受けました。

レベッカ・ハス氏はとてつもない重圧と多忙な日々に身を投じることとなりました。彼女がその任務の一番最初にしたこと、それは犬たちに名前をつけることでした。

ヴィックの犬舎でもほとんどの犬は名前を付けられておらず、シェルターに保護されてからもチェサピーク54902とかハノーバー29といった風に、シェルターの地名と番号だけで識別されていたのです。
しかし彼らは1匹1匹名前をもらい、それぞれにオスカー、ローズ、ウバ、スイートピー、アーニーとなりました。

後にBADRAPのドナさんが「あの黒い犬に名前をつけてあげなかったことを今も悔やんでいます。せめて名前をつけて天国に送り出してやればよかった。」と語っていました。
いつまでもあの黒い犬のことを心に留めていてくれる人がいるということに少しだけ救われた想いになったのを覚えています。

こちらは行動評価の際にハンドラーの役目を引き受けたティム・レイサー氏。
イタズラ小僧がそのまんま大人になったようなティムさんです。


次回からは(今度はこんなに間を置かない!)いよいよ1匹ずつのストーリーを紹介していきます。



《参考URL》
https://www.aspca.org/about-us/aspca-policy-and-position-statements/position-statement-shelter-dog-behavior-assessments

2019/11/12

ヴィックトリー・ドッグたちのストーリー2

これはヤミ闘犬摘発に協力お願いのポスター。
ポスターの主であるのがThe Humane Societyであるのは皮肉だね。


前回から随分と間が空いてしまいました。

マイケル・ヴィックというNFLのスーパースターがいて、そのヴィックが幼馴染やいとこたちと、影でヤミ闘犬に手を出していて、成績の奮わない犬を残酷な方法で殺害していたこと。
2007年4月、それが明るみに出て、51匹のピットブルが保護されたというところまでをサラッと紹介しました。

2007年と言えば、我が家にはまだニコだけしかいなくて、私も犬を巡る社会問題などについて本当に無知でした。
それでもこのニュースは大スキャンダルとして連日報道されていたし「酷い話だなあ」とは思っていました。
でも後にThe Lost Dogsを読んだ時に、実態は報道されていたよりもずっと残酷で、犬たちに課せられていた負担は想像を絶する重さだったことを知りました。

51匹のピットブルたちの行方

4月25日の家宅捜索の際に保護された51匹のピットブルたちは「証拠物件」として扱われました。
ピットたちの体についた傷跡や生々しい怪我も全て「証拠」となります。
ですからヴィックの刑が確定するまで、証拠は厳しく「保管」されることになります。
(同時にビーグルやロットワイラーも保護されたのですが、この犬たちは闘犬には使われていなかったため普通の保護犬として扱われ、比較的早く新しい家族に譲渡されました。)

証拠物件である犬たちの所有権は、事件があった自治体のサリィ郡に移されました。
このような場合は公営シェルターでの保管が通常ですが、51匹という異例の数のため、犬たちは他の自治体のシェルターにも協力を頼み、6カ所に分けて預けられました。


サリィ郡のシェルターは本来の保管者であるにも関わらず、犬たちにとっては最も環境の悪い施設だったそうです。
このシェルターに預けられていた13匹の犬のうち2匹が、収監中に命を落としています。
原因などについての記録は残っておらず、真相は今もわからないままです。元々身体状態の良くない犬もいたので、そういうことがあっても不思議ではないのですが、せっかく助けの手が差し伸べられたところだったのに、楽しいことを何も知らないままこの世を去った2匹のことを思うと胸が締め付けられます。

その後、サリィ郡シェルターの犬たちは他の施設に移動となりました。
6カ所の施設に預けられた犬たちは、予定も計画もないままにシェルターの犬舎で過ごすことになり、その状態は9月上旬まで続きました。
施設によって、ボランティアなど人手が十分だったところもあれば、寝るところと食事を与えられるだけというところもあったようで、この数カ月は犬たちの精神状態に様々な影響を及ぼしたようです。

逮捕劇から判決までの人間たちの動き

犬たちが各シェルターの犬舎で無為な日々を過ごしていた数ヶ月の間、この事件に関連する人間たちの周囲にはめまぐるしい動きがありました。

ヴィックに先んじて逮捕された仲間は、有罪を認めると共にヴィックに関する証言も行い、それに伴ってヴィックも有罪判決を受けました。
但し、当時の法律では彼らが有罪となったのは違法な闘犬とそれにまつわる賭博などについてのみで、犬の殺害についてはカウントされませんでした。

ヴィックは所属していたチームを解雇され、ナイキなどのライセンス契約も打切りとなり、さらに犬たちのケアにかかる費用92万8千ドルの支払いが命じられました。
(後にヴィックは自己破産を申告しましたが、高級車や高級住宅地の自宅などの所有を理由に却下されています。)

ヴィックの弁護士は減刑ましてや無罪判決などという無理なことを求めれば、法廷で長期間争っているうちに身体的な選手生命が尽きてしまう、それよりも早期に罪を認めて服役し選手としての復帰を考えた方が良いという方針でした。

一方、ヴィック逮捕の立役者である地元保安官と政府機関の捜査官は、当初事件を管轄していたサリィ郡地方検事から嫌がらせとも言えるような仕打ちを受けていました。
地元出身のスタースポーツ選手を犯罪者とすることに対しての風当たりは、他の地域では想像もできないほど強いものだったようです。

この事態を重く見た保安官と捜査官は、ヴィックの裁判に先んじて事件の管轄をサリィ郡地方検事局ではなく米国連邦地区検事局に移すよう尽力しました。
ヴィック贔屓の色が濃かった地方検事とは違い、新しい管轄となった連邦検事は事件に関わった全ての被告に実刑を科すべきだと考えていました。
2007年8月27日にヴィックに下された判決は心情的には決して十分だとは思えない2年弱の懲役でしたが、当時の法律の範囲では上出来と言えるものでした。

犬たちの処遇を巡って動いた人々

捜索から判決までの間に、様々な人々が様々な活動をしていました。
中でも重要な役割を果たしたのは動物法医学者のメリンダ・マーック博士でした。彼女は殺害された犬たちの検視を手がけました。残念ながら犬の殺害の件については起訴されなかったのですが、検視の結果と目撃者の証言が一致したことは被告たちの有罪判決に大きく貢献しました。
(マーック博士については、dog actuallyで記事にしたことがあります。

さて事件の管轄が連邦検事局になったことから、犬たちの所有権もサリィ郡からアメリカ政府へと移りました。
しかし闘犬の裁判が連邦検事局の管轄となった前例は無く、裁判後の犬たちの処遇をどうするべきか頭を悩ませた連邦検事はマーック博士に相談を持ちかけました。博士がアメリカ動物虐待防止協会(以下ASPCA)の所属であったことから、同協会の動物行動学者のトップであるザウィストウスキー博士が紹介されました。
Dr.Zの愛称で呼ばれる博士は、まずは49匹の犬の査定をしようと引き受けました。

処遇に頭を悩ませると言うことは、この連邦検事マイク・ギル氏の頭には犬たちを無条件に殺処分にするという選択は無かったんですね。

当時、闘犬に使われたことのある犬は社会に出すには危険すぎるという理由で、証拠としての役目を終えた後は殺処分にするのが通例でした。
しかし2007年の春から夏にかけてこの事件が報道され続けたせいで、犬たちの存在は多くの市民や動物保護団体に知られており、全米から多くの嘆願書が連邦検事局に届いていたそうです。

中でも群を抜いて熱心に働きかけたのが、北カリフォルニアのオークランド市で活動しているピットブルのレスキューグループBADRAPの主宰ドナ・レイノルズ氏でした。
彼女は犬たちの命を助けてくれというだけでなく、BADRAPがピットブルのレスキューに費やした実績を資料として提出し、犬たちのリハビリに参加させて欲しいというものでした。ギル検事の元に届いた資料は手紙と言うより、小包というボリュームだったそうです。

一方対照的に、犬たちは全頭殺処分にするべきだと主張した団体もありました。
その1つはASPCAと双璧を成すアメリカ最大の動物保護団体The Humane Societyでした。

同団体の代表は「マイケル・ヴィックの犬たちは全米で最も攻撃的で獰猛なピットブルです。この国にはもっと大人しくて良い家庭犬の候補となるピットブルがたくさんいる。そんな犬でさえ譲渡先が見つからず殺処分になることもあるのです。私たちはヴィックの犬は全頭殺処分にすることを強く勧めます。」と声明を出しました。
😡😡😡😡😡

もう1つ、過激な行動で知られる団体PETAは裁判所の周辺でヴィックの酷い所業をアピールするデモを行いながら、犬たちは全頭殺処分にするべきだという主張をしていました。
広報担当者のコメントは「闘犬に使用された犬にはリハビリテーションという選択肢はあり得ません。彼らは殺処分にすることが最も人道的な選択だと考えます。」というものでした。
PETAという団体は譲渡やリハビリと言った活動は一切していないにも関わらず、何を根拠に殺処分を推すのか全く分かりません。
😡😡😡😡😡😡😡

The Humane Societyはこの声明に対して批判を受けたのか、この1年ほど後には闘犬の現場から保護された犬に関する方針を変更しました。
適切な査定の後にリハビリテーションを行い、家庭犬として最適と認められれば譲渡対象とするというものです。
同団体については、かなり後になりますがまたその活動について取り上げたいと思います。
PETAは全く変わっていません。ヴィックの犬たちのその後の活躍についても口を閉ざしたままです。
😡😡😡😡😡😡😡😡😡

たとえ数匹だけでも助けられるなら...

連邦検事は闘犬についても保護犬のリハビリについても、全く知識は持っていませんでした。
しかしこれだけ世間の注目を集めた犬たちを人道的に扱うことで、今後似たような状況で保護された犬たちの扱いを変えるターニングポイントになれるのではないかと考えていました。

49匹のうちの数匹、たとえ1匹だけでも殺処分を免れることができれば万歳だと思っていたそうです。

そして9月上旬、犬たちがいるバージニア州にASPCAのDr.Zと行動評価チームがやって来ました。
チームのメンバーは10名、うち6名がASPCAに所属する動物行動学者、そして2名はBADRAPのドナ・レイノルズ氏と彼女のパートナーでBADRAP設立者のひとりティム・レイサー氏でした。

このメンバーが犬たちがいるシェルターを訪ねて、1匹1匹査定をしていきました。
行動評価の様子と結果は次回に詳しく紹介します。


この動画はこの秋スタートのスポーツドキュメンタリー番組の予告編です。
どうやらマイケル・ヴィックの事件が取り上げられるようで、取材者がヴィックの犬舎があった場所を訪れています。
取材されているのは、49匹の犬の1匹だったチェリーを家族に迎えたご一家と、ヴィックの捜査に当たった政府機関のノール捜査官です。


次回は犬たちの査定と、何匹かの犬について書こうと思います。
その後はそれぞれの犬がたどった軌跡をご紹介していく予定です。

2019/10/04

ヴィックトリー・ドッグたちのストーリー1

アメリカでThe Lost Dogsという書籍が出版されたのは2010年秋のことでした。
赤い表紙にとぼけた表情の赤毛のピットブルがレイアウトされたその表紙は、犬好きなら「おっ!」と手に取ってしまう愛らしいものでした。

私の「生涯の一冊」とも言える本。貼り付けた付箋も捨てられずにいます。

タイトルの下に書かれているとおり、これは「マイケル・ヴィックの犬たちと、彼らの救済と再生の物語」です。 

2007年初夏から秋にかけて、アメリカ中が驚き注目したNFL(プロフットボールリーグ)の大スター選手のスキャンダルが連日テレビのニュースを賑わわせていました。

それがこの犬たちのオーナーだったマイケル・ヴィック。

マイケル・ヴィックはティーンエイジャー同士の両親の間に生まれました。貧しい出身ながら卓越したフットボールの才能を見せ、奨学金を受けて大学に進み、卒業を待たずに2001年NFLのアトランタ・ファルコンズに鳴り物入りで入団しました。
プロの世界でも輝かしい活躍を見せ、ヴィックはNFLの大スター選手となりました。

大スターになったヴィックですが、子供時代を一緒に過ごした友達や従兄弟たちとは変わらず付き合っていました。
ヴィックの援助を受けてドラッグの売買などをしていた悪友たちの中から、ピットブルを使った闘犬は儲かるらしいぞという話が出たのは、ファルコンズに入団した年のことでした。
ヴィックとその仲間たちは、数頭の犬を購入し、自宅敷地内に犬舎、トレーニング施設、闘犬のためのリングを作って、違法な闘犬賭博のビジネスを始めました。

2007年4月にヴィック一味の一人がマリファナの違法所持で逮捕され、家宅捜索が行われた際にこれらの闘犬賭博の証拠が発見されたのが、ヴィック・スキャンダル発覚のきっかけでした。
動物同士を闘わせる闘犬や闘鶏は、アメリカでは全ての州で動物虐待罪に該当する違法行為です。
それだけでなく、ヴィックと友人たちは戦績の悪い犬や怪我をして使い物にならなくなった犬を、たいへん残酷なやり方で殺害して敷地内に埋めていたことも明らかになりました。

この時に敷地内で飼育されていたピットブル51匹が保護されました。

闘犬に関わっていた連中は皆逮捕され、ヴィックはチームを解雇。裁判を経て約2年弱の懲役となりました。
犬たちのリハビリにかかる費用1億円弱もヴィックに負担するよう命令が下りました。

まあ、その後またNFLに復帰したんですが、その話は改めて。

The Lost Dogsは保護された犬たちを救うために奔走した人々と、犬たちの波乱に満ちた道のりの記録です。

本の中では4匹の犬がクローズアップされて紹介されていますが、もちろん他の犬たちと彼らに携わった人たちにもそれぞれのストーリーがあります。

2007年に事件が明らかになり犬たちが保護されて今年で12年。
犬たちの多くは天国に行ってしまいましたが、健在の犬たちもいます。
そして先日はワシントン・ポスト紙にA second chanceというタイトルで犬たちのその後が紹介されました。

このピットブルたちのストーリーにはまさに「アメリカの犬たち」と言えるエッセンスがいっぱい詰まっています。
ワシントン・ポストの記事を読みながら、私も8年ぶりに彼らのことを皆さんとシェアしたくなりました。

心身共にダメージを負った犬たちが当初はどんな風だったのか、それぞれどうやって立ち直って行ったのか、ヴィックの犬たちと関わったことで人生が変わった人々。
そんなことを紹介していきながら、犬たちの傷、救済、再生といったことを一緒に考えていただけたらと思います。

ちなみにタイトルのヴィックトリー・ドッグというのは犬たちの愛称で、ヴィックの名前とヴィクトリーという言葉をかけています。

シリーズでボチボチと書いていこうと思っていますので、お付き合いいただけると嬉しいです。

2019/01/27

犬のこと、バカって言う人がバカ!



(photo by skeeze )

このブログも含めていろんなところで「頭のいい犬種ベスト10」のような文章に異を唱えて来ています。
先日も「大型犬は小型犬に比べて頭が良いのか?」という文章を読んで「またくだらないことを」と思っていたところでした。
その文章とはブリティッシュ・コロンビア大学の心理学教授のスタンリー・コーレン博士が、科学誌「アニマル・コグニション」に掲載された「犬の脳の大きさと認知機能に関連はあるのか?」という内容の論文について書いたものでした。

コーレン博士、犬関連の学術記事が多いサイコロジー・トゥデイに寄稿しているので、私も彼の記事はちょくちょく目にするのですが「賛成できんなあ」と思うことが多いんですよね〜。

さて、前述のコーレン博士の文章に「大型犬は小型犬よりも頭がいいかと言う問いがある。確かに私の著書『犬の知性』でも作業と従順性の知性をランク付けしたところ上位20%に入っていた小型犬はパピヨンだけだった」という一文があり、なんじゃそれは!?と思って、ちょこっと検索してみたら出てきたのが「Dumbest Dog Breeds(バカな犬種)」というリストでした。(これは他の人がそう呼んでいるだけで、コーレン氏自身がそう言ったわけではない。)

スタンリー・コーレン博士という人は1994年にThe Intelligence of Dogs-犬の知性という本を著しており、そこに120の犬種の知能ランキングというものが掲載されているらしい。
😑
コーレン氏の言うところの知能とは次の三つ
1. 本能的な知能ー牧畜や狩猟のように、そのために育種されたタスクを実行する能力
2. 適応の知能ー自主的に問題を解決し、以前の経験から学ぶ能力
3. 作業及び従順の知能ー人間によって教えられたことを学ぶ能力

なるほど、ここまでは特に異論はありません。
けれど、本の中では何故か3番目の作業及び従順の知能だけが高い順からリストアップされているそうです。
私はこの本を読んでいないので、あまりどうこうとは言いませんが、この25年も前に出版された本の中のリストはいまだに色々なところで引用されており、その多くは私と同じく「はぁ?なんじゃそれは?」と批判的な論調です。

『犬の知性』が出版されてから、この25年の間に犬の認知機能に関する研究は大きく進み、新しく判ったことがあったり過去に発表されたことが覆ったりしています。
それなのに他の研究者による最近の論文について、四半世紀前の自著のデータをあたかも周知の事実のように堂々と書いているのは科学者として恥ずかしくないか?コーレン氏。

参考までに書きますと、コーレン博士による「作業及び従順の知能」が高い犬種のベスト10は

  1. ボーダーコリー
  2. プードル
  3. ジャーマンシェパード
  4. ゴールデンレトリーバー
  5. ドーベルマン
  6. シェトランドシープドッグ
  7. ラブラドールレトリーバー
  8. パピヨン
  9. ロットワイラー
  10. オーストラリアンキャトルドッグ
おなじみの感じですね。
でもボーダーコリーが従順かと問われたら「そうじゃない個体もいっぱいいるよ」と言いたくなるけどね。
従順じゃないからダメということではなくて「この指示に従う価値があるかどうか?」を自分で考えて判断するようなところがある気がします。
意地の悪い言い方をすれば、ボーダーコリーに認められる人でなければ飼えないような。

他の犬種だってみんなそんな単純なものじゃないですよね。
全部「賢い犬だから〜」って能天気に飼い始めたら痛い目に遭う犬種ばかりだ。まあそれはどんな犬でもそうですけどね。

(photo by Capri23auto )


そして、問題の最下位からの10犬種。これが色々なところで「じゃあこの犬たちは頭の悪い犬ワースト10だとでも言うのか?」と長年に渡って批判されているわけです。
  • アフガンハウンド
  • バセンジー
  • ブルドッグ
  • チャウチャウ
  • ボルゾイ
  • ブラッドハウンド
  • ペキニーズ
  • ビーグル
  • マスティフ
  • バセットハウンド
もうね「ふざけんな」ですね(笑)
頭が悪いとは言ってないとしても、ランキング付ければ下位ができるのは当たり前。しかもそのランキングの根拠も乏しいと来ては、怒ってもいいよね?

リストの10犬種のうち3つがサイトハウンド。アフガンハウンド、バセンジー、ボルゾイの3犬種。視力が優れていて目の端に動くものを見つけるのが得意で独立心に富む彼ら。確かに従順とは程遠く訓練はしにくいでしょうが、独立した自主性の高さは知性の証ですよね。

そしてセントハウンドも3犬種。ブラッドハウンド、ビーグル、バセットハウンドですね。
彼らはその素晴らしい性能の嗅覚を使って獲物をとことん追い詰め主人に知らせるというのに、作業と従順の知能が低いですって?ちょっと!あなたの知能は大丈夫か?って言いたくなります。

残りのブルドッグ、チャウチャウ、ペキニーズ、マスティフは頑固さに定評のある犬種で訓練をするには忍耐が必要です。でもそれは知能が低いこととイコールではないですよね。むしろ全然関係ない。失礼にもほどがある。

でも上で私が書いたような、犬種ごとに「こんな特徴があって、こんな性質」と一括りにすることもやっぱり無理があるんですよ。

犬は人間との長い共同生活の中で、働く目的に合わせて選択育種されて作り上げられて来た生き物ですから、犬種ごとの傾向は当然あります。
けれど例えばラブラドールでも、盲導犬と爆発物探知犬ではその適性が全く逆です。盲導犬の落第生の中から探知犬候補をスカウトして来る団体もあるほどです。
でも誰も盲導犬と爆発物探知犬はどちらが賢いか?なんて言いませんよね。

以下はコーレン博士と同じく、サイコロジー・トゥデイに寄稿している環境学と進化生物学者のマーク・ベコフ博士の言葉です。

「犬であれ他の動物であれ知能というものにはいくつもの種類がある。そしてもちろん個体差というものがある。
賢さにも種類があり、誰が一番賢いかなど決められない。皆それぞれの環境に賢く適応したのだ。」


↑これが全てですよね。
以前に「頭のいい犬種ベスト10?冗談じゃない!」という記事を書きましたが、今回はさらに悪くて「ふざけんな」なんて言ってしまいました。

でも犬の知能を一元的に捉えて、それをランキングにするなんて本当に馬鹿げていて、なんの役にも立たないことです。

最後にちょっと小学生みたいなことを言わせて。
犬のことをバカって言う人間が一番バカですーっ!







2018/04/17

頭のいい犬種ベスト10?冗談じゃない!


犬に関する情報サイト、巷に溢れかえっていますね。情報の質は玉石混交(正直、「玉」を探すのが難しいのが現状)

そういう数多のサイトの情報で私が「石」だと思うもののひとつが「頭のいい犬種ベスト10」とか「IQの高い犬種ベスト5」とかいうものです。

そういうランキングに無縁のミニピン。でもズル賢いんですよ。


こういう見出しを見るたびに苦々しい気持ちになるのですが、これがまたあちこちで目にしますね。日本語の情報だけじゃなくて、英語の犬サイトでも同じ。

「訓練がしやすい犬種」とか「独立心の強い犬種」とか言うならまだわかるんですが、こういう場合の「頭がいい」って人間に都合がいいと言うことですよね。

......と、常々腹立たしく思っていたら、私の大好きなマーク・ベコフ博士が動物の知性について素敵なコラムを書いてらしたので、それをご紹介します。

ベコフ博士はコロラド大学の環境学と進化生物学の教授で、動物福祉や動物の感情について多くの論文を発表してらっしゃいます。
特に犬についての実験や観察はおもしろくて興味深いものが多いです。


知能の種類はひとつだけではない


ベコフ博士のコラムが掲載されていたのはPsycology Today。
コラムの冒頭でブライアン・ヘア博士の言葉を紹介しています。

ヘア博士は犬の知能や認知機能についての著書があり、犬の認知機能研究センターの設立者でもあります。
2013年のサイエンティフィック・アメリカンのインタビューからの引用です。

「犬の心について人々が持っている最大の思い違いは何でしょうか?」

それは『頭のいい犬』と『頭の悪い犬』がいると思っていることです。未だにこんな知能に関する一次元的な解釈があるんですよ。知能というものがたったひとつの種類しかないとでも言うようなね。」


(インタビュー全文はこちら

ヘア博士の言葉がすべてですよね。「頭がいい」とか「賢い」っていろんな種類がある。

ニコとニヤだって、何か目的を達成したい時のアプローチの仕方、頭の使い方が全然違う。でもどっちが賢いとかバカだとかでなく、ただ違うんです。

ベコフ博士のコラム全文を訳すと随分長くなるので、要約して以下にご紹介しますね。


犬であれ他の動物であれ「知能」というものにはいくつもの種類がある。
そしてもちろん個体差というものがある。
「それぞれに違う」というのは自然界のルールだ。「違いがある」ということは決して例外ではない。

「知能」とは一般的に、知識を獲得して、それを使い、さまざまな状況に適応する能力のことを指す。生きるために必要なことを実行して生き残るためのものだ。

例えば、メキシコのストリートの野良犬たち。
食べ物を素早く盗むことに長けた者、敵から逃げるのがうまい者、人間に愛想をふりまいて食べ物をもらう者、皆それぞれに知能を使っている。
私がフォスターとして預かった犬の中には、私たち家族や飼い犬の食べ物を鮮やかに素早く盗んでいく者もいた。
彼らのうち誰が一番賢いかなど決められない。皆それぞれの環境に賢く適応したのだ。
しかし人間の都合から言えば彼らはバカ犬だ。

ある犬を他の犬よりも賢いとかバカだとか決めつけることは、それぞれを個体として認識する機会を失い、犬それぞれの本当の姿を見誤ることにつながる。



犬に求めるもの、犬が望むもの


アリゾナ州立大学の犬研究者ワイン博士は「頭のいい犬というのは時に厄介なものだ」と述べる。
「年中動き回って、すぐに退屈し、しょっちゅうトラブルを巻き起こす。私たちが犬に求めるものは頭がいいかどうかよりも、その犬がどれだけ愛情深いかどうかだ。」

ちょっと待って!すべての犬は厄介になり得る。でもそれは彼らの知能の程度のせいではない。
すべての犬は愛情深い。それは知能とは無関係だ。

犬の頭がいいとか、愛情深いとかに価値を置くことは、我々が犬に対して何を求めているのかを反映している。犬が何者であるか、犬が何を望んでいるかは反映していない。
犬が厄介になるのは、人間が犬の言わんとすることを理解していないからだ。

それでもなお、人は私に問う。
「では本当にバカみたいな振る舞いをする犬はどうですか?本当に頭の悪い犬というのはいないんですか?」


ハンガリーの解剖学者János Szentágothai博士の言葉を借りよう。
「頭の悪い動物などいない。あるのは乏しい観察力と拙い設計の実験だけだ。」
(動物の知能の研究では、実験を行いその間の観察から結論を出す。)


イルカとカラス、カナヅチとノコギリ


そしてまた、この種の質問も非常によく聞かれる。
「犬は猫よりも頭がいいですか?」「鳥は魚より賢いですか?」

動物はそれぞれの種の遺伝子の乗り物として、自分がしなくてはならないことをする。それだけだ。

そして数多くの人間以外の生き物が、さまざまな形で人間よりも優れている点があることも覚えておかなくてはならない。
異なる種の比較は意味がない。イルカとカラスのどちらが賢いかという問いは、カナヅチとノコギリはどちらが優れた道具かと問うようなものだ。

犬をそれぞれの「個」として見る


犬をバカと呼ぶことは間違っているし、異なる種の知能を比べることは無意味だ。
これらはキャッチーで人目を引くための手段として使われていることは承知している。しかしそれはただ紛らわしく、誤解を定着させていくだけだ。
そういう考え方や言葉をやめて、犬を「個」として見てほしい。

ある犬が頭が悪いとかバカだと呼ぶことは、犬が何かを習得するのに時間がかかったり、人間の望む結果が得られないことへの言い訳だ。
人間の方が努力して、犬を理解し受け入れることで犬の行動も変わるのだ。

同じ親から生まれた子犬たちも、生まれた瞬間から驚くほどそれぞれに違う。気質、身体能力、新しいことを習得するスピード、何が優れている劣っているということではない。それぞれに違うやり方で生き残るための作戦を立てている。

多くの人に犬の感情や認知能力の研究や進化の歴史を学んでほしいと思う。知ることで理解が深まり、犬と人間の絆が強く深くなる。
それぞれの個としての違いを受け入れ尊重することで、より良い関係を築いていけるのだ。



「頭のいい犬種ランキング」のようなものを目にするたびに感じていたモヤモヤをすっきり振り払えるようなコラムだったので、ぜひ紹介したいと思っていたんですよ。

そういうランキングの定番であるボーダーコリーの頭の良さと、介助犬の代表であるラブラドールの頭の良さの種類は全然違いますよね。
同じラブラドールでも、介助犬に適した能力と爆発物探知犬に適した能力は全く反対だそうですし。

ベコフ博士やヘア博士の言葉や考えが、たくさんの人に広まってほしいと心から思う次第であります。


《参考サイト》
https://www.psychologytoday.com/us/blog/animal-emotions/201803/my-own-dog-is-idiot-she-s-lovable-idiot







2018/01/23

犬にチョイスを与えること


このブログ、ほぼ2ヶ月近く放置して更新しておりませんでした。
2ヶ月の間dog actuallyの過去記事データを移すことに没頭して(と言っても合間合間にチビチビと)新記事を書く余裕がなかったんです。

改めてdog actuallyに書いた記事を読んでいると、未熟だったり妙に力んでたりで「あちゃー」と頭を抱えたくなるようなのが多々あったり、時事的な話題で「今更これを再アップしてもなー」という記事もあったり、まあとにかく自分の拙文にちょっと凹んだりもしていたわけです。

加筆したり、ちょこっと直したりしながら、またボチボチとアップしていきます。



さて、2018年最初の書き下ろし記事です。

少し前に「心にトラウマを抱えた犬をサポートするポイント」というテーマで文章を書いたことがあります。


その時に資料を読んでいて、ものすごく印象に残った一節があって、毎日散歩のたびに思い出しています。

「どんな生き物でも心にトラウマを植え付ける手っ取り早い方法は、すべての選択肢を取り上げること。」......というものです。

そんな風に植え付けられたトラウマは、生活の中で小さな選択の機会をできるだけ作ってやることで回復していきましょうと書かれていました。

最も酷い例で言えば、パピーミルで繁殖に使われている犬たち。彼らには寝る場所も運動も排泄も一切の選択の余地はないですね。
家庭で飼われている犬でも、外の小屋につながれたままで散歩はワンブロックを引っ張るだけなんていう状態では犬が自分で何かをチョイスするなんて無理な話。

衛生や安全に関わることでなければ、犬に自分で何かを選ぶチャンスを与えることが、犬の自信を築くためにも、健康な精神状態のためにも大切です。
散歩の時に何度かはどっちの方向に行くかを犬に任せる、どのおもちゃで遊びたいか犬自身が選ぶ、どこで寝るのかも犬に選ばせる、そういうことを積み重ねます。

これは「どんな生き物でも」と書かれている通り、人間でも同じですよね。
髪型から衣類、持ち物まで異常に厳しく管理するような校則、過干渉な親、横暴なブラック企業、こういうものが人格や精神にダメージになる理由のひとつは選択の機会が奪われていることですもんね。

そう思うと、生活の中のとても些細なことでも自分で考えて選ぶって素敵なことなんだなあと実感しています。

ニコニヤも1日に何度か何かを選択するというのをゲーム感覚で実行しています。
上の写真のニヤは妙に自信に満ち溢れてますが、これ以上自信満々になったらどうしよう(笑)


2017/08/20

God Made a Dog


dog actuallyの過去記事を再掲するというこのブログも、最近は更新が遅くて面目無いしだいです。

このGod Made a Dogの記事はちょっとした息抜き記事としてアップしたのですが、自分でもなかなか気に入っているもののひとつです。

このビデオを見るたびに「犬って本当に可愛いよなー」としみじみ胸を熱くしております。


(以下dog actually 2015年2月22日掲載記事より)

今年の2月、アメリカの国民的スポーツ行事・スーパーボウルの時に流れるテレビCMで、クライスラー社が「God Made A Farmer(神は農夫を創られた)」をテーマに自社トラックのコマーシャルを放送しました。このCMはたいへん好評で話題になったのですが、その10日ほど後にそのスタイルを真似た形で「God Made a Dog」というビデオが作られ、Youtubeにアップされました。
ビデオは6月の下旬にインターネット新聞のハフィントンポストで紹介されたのをきっかけに、ツイッターやフェイスブックなどSNSで爆発的に広がり大人気となりました。
犬を愛する人なら必ずやクスッと笑った後、ジーンと胸が熱くなるこのビデオ、まずはご覧くださいませ。




ナレーションの日本語訳は以下の通りです。
-------------------------------------------------------------------------------
そして9日目に、神は自らが創造された純真な目の子供らを見下ろし、こう言われた。
「あの者達には友が必要じゃ」
そこで神は犬を創られた。
神は言われた。
「朝には喜んで飛び起きてキッスの雨を降らし、
樹の根元にシッコを引っかけて、1日中眠りこけ、
また起きてまたキッスの嵐、
そしてテレビの光を浴びながら真夜中までも起きている。
そういう者が必要じゃ」
そこで神は犬を創られた。


神は言われた。
「自ら進んでオスワリをして次はマテ、
それからゴロンとでんぐり返り。
広い心で、必要の無い帽子をかぶせられても、
わけの分からない衣装を着せられても文句も言わぬ、
そういう者が必要じゃ。
気にすることも考えることもなく屁を放ち、
尻尾をクルクル追いかけて、
股ぐらをフンフン嗅ぐ。
棒をくわえて持って来て、
ペロッとなめて元気をくれる、
そういう者が必要じゃ。
そなたが何も成さなかったとしても、
何も得られなかったとしても、
勝利を収めなかったとしても、
成功しなかったとしても、
そんなことまるで気にせず評価することもなく、
ただいつもと同じように愛してくれる、
そういう者が必要じゃ。」

そこで神は犬を創られた。

神は言われた。
「橇を引いて走るほどに、
爆弾を探し出すほどに力強く、
それでいて赤子を愛し、
盲人を導くほどに心優しい、
そういう者が必要じゃ。
心が傷ついた時にはそっと頭をもたせかけ、
優しい瞳で慰めながらソファーの上で何もせずに1日中付き合ってくれる、
そういう者が必要じゃ。」
そこで神は犬を創られた。
(photo by skeeze )


「たとえ孤独の中にあっても、
我慢強く忠実な、
そういう者でなくてはならぬ。
いつもそなたを気にかけ、寄り添い、
鼻を押し付け、元気づけ、心鎮め、
イビキをかき、ヨダレをたらし、
ゴミを漁り、リスを追いかける、
そういう者が必要じゃ。
明るい無私の心で家族をひとつにする、
そういう者が必要じゃ。
一番の親友が「ドライブに行こうか」と言うと
ワンワン吠えてハアハア息を切らし、
尻尾をブンブン振って返事をする、
そういう者が必要じゃ。」
そこで神は犬を創られた。
(photo by TessDeGroot )

-------------------------------------------------------------------------------
いかがですか?
少し解説を付け加えますと、このナレーションの下敷きになっている「God Made A Farmer」というのは、1978年に大規模な農業のコンベンションにおいて、当時の人気ラジオパーソナリティーだったポール・ハーヴェイ氏が行ったスピーチです。聖書の第一章「創世記」の中で1日目~6日目に神が光や天地や人間を創造され、7日目に休息を取られたという説話を基に、「そして8日目に神は自らが創造された大地を見下ろし、これを世話する者が必要だと言われた。そこで神は農夫を創られた。」というフレーズで始まったスピーチで、農業に従事する人々を讃えるものでした。犬の讃歌であるこのビデオは、農夫に続いて神が創造されたのは犬であるということで、「そして9日目に」で始まっているというわけです。
さて、良かったらもう一度、ビデオを見返して愛犬のそばに腰を下ろしてみて下さい。目尻を下げて「もう、まったく犬ってやつは」って笑いたくなったり、愛犬を抱きしめたくなったり(こういう場合、たいてい犬は迷惑そうですが 笑)、優しい気持ちになっていらしたら幸いです。

従来の不妊化手術と性腺温存型不妊化手術を比較

pic by  Mohamed_hassan from Pixabay 犬の不妊化手術(避妊去勢)の新しい流れ 犬の不妊化手術は飼い主にとって「どうする?」 の連続です。 10年ほど前に不妊化手術による健康上の影響についての研究結果が発表されるようになってからは、さらに悩みも増...