2018/07/04

犬の避妊去勢、いろんな角度から

2016年に書いた記事です。この記事を書いた少し前に、犬の避妊去勢手術とガンや関節炎との関連についての論文が複数発表され、dog actuallyでも紹介されたという経緯があります。

それらの関連は無視できない問題ですし、特定のガンなどの発症率の高い犬種と暮らす人なら知っておきたい知識です。

けれども、そういう情報が発表されると見出しだけ見て本文は読まず「やっぱり避妊去勢とか不自然よねえ」という層に心底ウンザリもしていました。
そして避妊去勢無しでは成り立たない保護犬レスキューの世界を無責任に非難する人々や、安直な自家繁殖の格好の言い訳にする人々へのジリジリするような危機感も感じていました。

そんな「ウンザリ」や「危機感」への自分なりの返答として書いた部分もある記事です。

2018年7月現在、ウンザリもジリジリも解決どころか増幅しているんですけれどね😞😞😞


(photo by mariabostrom0 )


(以下dog actually 2016年6月13日 掲載記事より)
犬の避妊去勢と言えば、ほとんどの人は外科的な手術を思い浮かべることと思います。しかし医学の進歩とともに、手術以外の方法で避妊去勢をする方法も開発されています。アメリカのオレゴン州ポートランドには、手術以外の避妊去勢方法をバックアップするNPO団体があります。

団体の名はAlliance for Contraception in CATS&DOGS(「猫と犬の避妊法のための同盟」とでも訳しましょうか。以下ACC&D)。ACC&Dは直接犬や猫を保護して活動をするのではなく、ASPCAをはじめとするアメリカの主だった保護団体や保護基金、アメリカ以外の国の35団体、各地の獣医師団体、獣医学の研究施設、多数の小規模保護団体らのパートナーとして啓蒙教育活動を行っています。

アメリカでは犬に避妊去勢手術を施すことはとても一般的です。ロサンゼルスのように基本的に避妊去勢が条例で義務付けられている自治体も少なくありません(健康上の問題がある場合や許可を受けたブリーダーは例外)
各州政府や自治体が率先して避妊去勢を推進してきたために、過去40年の間に犬猫の殺処分数は10分の1以下に減少しています。

しかし健康上の理由などで手術を受けることができない動物、経済的な理由などで手術よりも簡便な方法が求められる地域などもあります。ACC&Dは「アメリカだけでなく、世界中各地で犬猫の頭数過剰問題を解決し、不幸な形でこの世を去る犬猫を減らすために避妊去勢を推進する。」という理念のもと、そのような手術以外の方法が必要な所に「こんな方法もある」という橋渡し役を務めています。

さて、気になる「手術以外の避妊方法」ですが、現在3つの
方法が取られています。

●Zeuterin/EsterilSol

これはどちらも製品として販売されている医薬品の名前です。生後3ヶ月以上のオス犬を対象にした方法で、アルギニンによって中和したグルコン酸亜鉛を犬の両方の睾丸に注射します。処置は一度だけ、鎮静剤のみの使用で全身麻酔は必要ありません。
処置により睾丸で精子が作られなくなり、避妊成功率は99.6%と発表されています。アメリカでは2014年2月から実用化されており、現在アメリカ食品医薬品局で認可されている唯一の犬の避妊薬です。

●Suprelorin

これも製品名です。生後6ヶ月以上のオス犬を対象にした方法で、性ホルモンの作用を阻害する物質をマイクロチップのように皮下に埋め込むことで、成分が継続的に供給されて効果を発揮します。
性腺を除去してしまう外科手術と異なり、性ホルモンのテストステロン値が未処置の場合の50%程度は分泌されるため、猟犬など去勢によって能力が低下することを危惧する場合にも勧められています。現在はオーストラリア、ニュージーランド、EU諸国において認可されています。


●黄体ホルモン擬似物質の投与

犬猫/オスメスの両方を対象にしており、注射または経口で投与します。黄体ホルモンが分泌されると性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されなくなりますが、擬似物質の投与で同じ働きをさせる方法です。アメリカでは副作用の懸念などから推奨されていませんが、複数の国では実際に使用されています。


(photo by framirezle0 )

どのような医療処置にもリスクと利益の両方があるように、これらの方法も手放しでどんな動物にも勧められるというものではありません。
けれども1番目に挙げたZeuterinなどはアメリカ国内の過疎地域、アフリカ諸国、南米諸国など、通常の動物病院が極端に少なくワゴン車の移動動物病院のみが頼りというような場所では、手術よりもずっと簡便なこの方法が犬の頭数過剰問題や野良犬の問題を解決するのに大きく貢献しています。

猫に対する手術以外の避妊方法も改善や開発が進めば、TNRや地域猫活動が容易になっていくことでしょう。このように犬や猫の避妊去勢処置は、社会全体の問題であることもしばしばあります。よく「アメリカでは頭ごなしに避妊去勢を勧めている」と、ややもすれば批判的な言葉を目にすることもありますが、犬猫の頭数過剰や殺処分を社会全体の問題として捉え、確実に成果を上げてきたのが現在のアメリカが取った方法です。そして現在の日本も、社会全体を見渡した時には避妊去勢の処置は不要とは言えない状態だと思います。

もちろん個々の家庭の愛犬たちが避妊去勢処置をするかどうかは、飼い主がリスクと利益を考えて結論を出すべき問題ですが、この「社会全体を見渡す」ことで変化することもあるのではないでしょうか。
避妊去勢手術が健康に及ぼす影響などが発表されるとレスキュー活動をしている人たちが批判されたりなどというのはその変えなくてはいけない最たるもので、どうかいろんな角度から広い視野で見渡す人が増えて欲しいと切に願います。

避妊去勢手術を受けたことで罹患率が高くなる病気もあるし、手術をすることでリスクが低くなる病気もある。
そしてそれ以前に、野放しの繁殖の結果として殺処分になる動物たちがいる。

ACC&Dがアメリカ国内だけでなく、アフリカや南米諸国の社会情勢や宗教、文化までを視野に入れて不幸な犬が増えないように運動している様を知り、犬の避妊去勢をいろんな角度から考えることで新しく見えてくることもあるのではないかと考えています。

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