2018/09/05

犬と炭水化物、ブログThe Science Dogより


(photo by 137859 )


犬の食餌のことを考える時、手作りであれドッグフードであれ、常に悩ましく論争になりがちな問題のひとつが『炭水化物=でんぷん質』ですね。

「犬は本来肉食なのだから炭水化物は必要ない」「肉食である犬に炭水化物を与えることは体の負担になる」こんな意見もあれば、また一方で「犬は人間と長い年月一緒に暮らす間に炭水化物を消化できるように進化して来た」「エネルギー源としての炭水化物はある程度必要」という意見もある。

私はうちの犬たちには、炭水化物は常に与えて来ました。長い年月の間に何度か「え、やっぱりあんまり食べさせないほうがいいのかな?」と迷って炭水化物を減らし、犬たちの体重を適正に保てなかったこともありました。

そんな紆余曲折を経て、自分自身の中では結論が出ているのですが、この論争は相変わらずあちこちで火の手を上げています。

つい先日、普段よく読んでいるブログに「なるほど」と思った記事に出会いました。
ブログの名はThe Science Dog 著者はリンダ・P・ケイス氏、ドッグトレーナーで獣医学栄養士でもありサイエンスライターとして犬のトレーニングと栄養学について多くの記事を書いている人です。
(アメリカでの獣医学栄養士は、獣医師の資格を得た後にさらに大学で教育を受けて学位を取得しなくてはいけない難易度の高いものです。)

ケイス氏の文章を以下にまとめてみましたのでご覧ください。


(photo by Ella87 )


「犬と炭水化物」

このテーマが引き合いに出される時、必ず上がる2つの主題があります。

『犬は肉食動物であり、食餌に炭水化物は必要ない』?

この主題の前半は間違い、後半は本当です。
犬は雑食性の動物です。犬と雑食という言葉はしばしば議論の火元となりますが、雑食というのはただ単にその生き物が動物由来のものと植物由来のものを食べ、その両方から必要な栄養素を摂取できるという意味です。


「雑食性」という言葉は、犬が捕食者ではないとか、肉を食べることを好まないという意味はありません。肉からも野菜からも栄養素を得ることができる身体能力だけを表します。


後半部分に移りましょう。これはその通り、犬は栄養学的には炭水化物を摂取する必要はありません。
しかし調理済の炭水化物はとても消化の良いエネルギー源となり得ます。これはつまり犬の食餌に炭水化物が含まれているとそれがエネルギー源に回され、食餌中のタンパク質はエネルギー源となる必要がなくなり、身体組織の構築や修復、免疫系の支援のために利用できることを意味します。
したがって犬の食餌に一定の量の炭水化物が含まれることにはメリットがあると言えます。

 『犬は効率的に炭水化物を消化することができない』?

これは明らかに間違いです。犬は人間と同様に調理された炭水化物を効率よく消化します。

米、麦、トウモロコシなどを挽いて生の状態で犬に与えたときの消化率は約60%ですが、同じものを加熱調理した場合は消化率は100%近くまで上がります。


犬と炭水化物の消化については、2013年にスウェーデンのウプサラ大学のエリック・アクセルソン博士が、家畜化に関連する犬の遺伝的な変化を明らかにした論文を発表しています。


キーとなるのはAMY2Bと命名された遺伝子です。この遺伝子のコピー数は、膵臓で分泌するデンプン分解酵素の膵アミラーゼと関連します。
単純に言ってしまうと、AMY2Bという遺伝子のコピー数が多ければ、膵アミラーゼの分泌も多くなり、より高い炭水化物の消化能力を持つということです。
平均すると、犬のAMY2B遺伝子はオオカミの約7倍も多いことが判っています。人間が調理した穀類を食べ、犬がその残飯を食べていたことから、犬の身体は炭水化物を消化しやすい形に進化していったのだろうと考えられています。

このように、犬は炭水化物を消化吸収することができ、かつ炭水化物を摂取するメリットもあります。
しかし、それは犬が炭水化物の割合が高い食事を摂る方が良いということではありません。


ではどんなバランスの食餌が犬にとって理想的なのか?

近年の栄養学では、多くの鳥類、魚類、哺乳類など幅広い種の生き物が、たんぱく質・脂肪・炭水化物が一貫して含まれる食べ物を自ら選択し、健康に最適と思われる摂取量を調整してバランスを取っていると言われています。

犬よりも先に研究されたイエネコの場合、猫たちは一貫してタンパク質と脂肪が多く炭水化物が少ない食事を選択することが判明しました。これは野生のネコ科動物と一致しています。

犬の場合、自主的に食べ物を選択させると脂肪およびタンパク質が多く炭水化物が少ない食事を選びました。
エネルギー量の割合で言えば、犬の選択は30〜38%のタンパク質、59〜63%の脂肪、3〜7%の炭水化物でした。ただし、実験開始当初はこのように高脂肪の食餌を好んだのですが、数日のうちに脂肪の割合が減りたんぱく質の割合が増えていきました。

犬が食事の栄養素の割合を選択できるようにする実験を10日間行った時、彼らはカロリーを過剰に摂取する傾向があり、平均すると10日間で約1.5kgの体重の増加があったそうです。


また、同じことをオオカミで実験すると炭水化物が1%しかない食べ物を選んだということです。




総合すると......

  • 犬は先祖のオオカミ(および現代のオオカミ)と比べて、炭水化物をよりよく消化することができます。
  • この消化能力のアップは、遺伝子の変化で膵アミラーゼ(消化酵素)の産生が増えたことも一因です。
  • そのため犬は調理された炭水化物を非常に効率的に消化します。
  • 犬の食生活に一定レベルの炭水化物を含めることは、効率の良いエネルギー源となり、タンパク質の有効利用にもつながります。
  • 犬は選択肢を与えられると、炭水化物が少なくタンパク質と脂肪が多い食事を優先的に選択します。このタイプの食餌を制御なしの自己選択で与えた場合、過剰消費と体重増加につながる可能性があります。




しかし、上記の情報のいずれも「犬が炭水化物を摂取しないこと」または「犬が一定量の炭水化物を摂取すること」が、犬の活力、健康状態を維持する能力、慢性的な健康問題の発症や寿命の長さになんらかの影響を与えるという証拠にはなりません。

また犬がタンパク質や脂肪が多く炭水化物が少ない食事を好むという事実は、そのような食餌がより健康的であるとか病気を予防する証拠であると混同してはなりません。
現時点では、私たちは単に知らないのです。

以上、緑の字の部分がケイス氏のブログを要約したものです。
「犬と炭水化物」について、きちんと判明していることと、未だ判っていないことがはっきりと述べられているので、情報の整理にも役立つのではないかと思います。

犬は他の動物に比べてあまりにも長く人間と一緒に暮らしているので、犬たち自身も食べ物の理想のバランスには自覚がないように見えますね。

この記事に先駆けて再掲した「犬に穀物、与えるべきか?避けるべきか?」を最初にdog actuallyにアップした時SNSなどで「だから結局どっちなの!?」というコメントがいくつか付いたことがありました。

でも生き物の体の問題は白か黒か、ゼロか100かでスパッと割り切れるものではないのです。
ケイス氏の文章はそのことをよく表していると思います。

やたらと炭水化物の割合が高い市販のフードも、「犬に炭水化物?とんでもない!」という極端な意見も、個々の犬に目を向けることを忘れている気がします。



下のリストはケイス氏が参照した論文です。興味のある方は読んでみてくださいね。

参照 The Science Dog ~Dogs and Carbs, Its Complicated 


  1. Axelsson E, Ratnakumar A, Arendt ML, et al. The genomic signature of dog domestication reveals adaptation to a starch-rich diet. Nature 2013; 495:360-364. https://www.nature.com/articles/nature11837
  2. Arendt M, Fall, T, Lindblad-Toh K, Axelsson E. Amylase activity is associated with AMY2B copy numbers in dogs: Implications for dog domestication, diet and diabetes. Animal Genetics 2014; 45(5):716-22. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24975239
  3. Arendt M, Cairns KM, Ballard JWO, Savolainen P, Axelsson E. Diet adaptation in dogs reflects spread of prehistoric agriculture. Heredity 2016; 117(5):301-396. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27406651
  4. Reiter T, Jagoda E, Capellini TD. Dietary variation and evolution of gene copy number among dog breeds. PLOSone 2016; 11(2):e0148899. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0148899
  5. Hewson-Hughes AK, Hewson-Hughes VL, Miller AT, et al. Geometric analysis of macronutrient selection in the adult domestic cat, Felis catus. Journal of Experimental Biology 2011; 214(Pt6):1039-51. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21346132
  6. Hewson-Hughes AK, Colyer A, Simpson SJ, Raubenheimer D. Balancing macronutrient intake in a mammalian carnivore: disentangling the influences of flavor and nutrition. Royal Society of Open Science 2016; 3:160081. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27429768
  7. Hewson-Hughes AK, Hewson-Hughes VL, Colyer A, et al. Geometric analysis of macronutrient selection in breeds of the domestic dog, Canis lupus familiarisBehavioral Ecology 2013; 24(1):293-304. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23243377
  8. Roberts MT, BErmingham EN, Cave NJ, Young W, McKenzie CM, Thomas DG. Macronutrient intake of dogs, self-selecting diets varying in composition offered ad libitum. Journal of Animal Physiology and Nutrition 2018; 102(2):568-575. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29024089

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