2022/04/27

結局のところ犬の拡張型心筋症とフードに関連はあったのか?

 

Mat CoultonによるPixabayからの画像 

2018年7月にアメリカ食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration=FDA)が「獣医療機関から犬の拡張型心筋症(DCM)の症例が増えていると報告が届いている。患者の犬に共通していたのは、エンドウ豆、レンズ豆、ひよこ豆その他豆類やポテトを主原料とするフードを食べていることだった」という警告を発表しました。

そして約1年後の2019年6月に、新しいデータや証拠は何もない状態ながらFDAは拡張型心筋症と診断された犬が食べていたフードで10例以上の患者があった16ブランドを発表しました。(Acanaのフードが狙い撃ちにされていたのを覚えている方も多いはず!)

その後2021年8月にアメリカのタフツ大学獣医学部が「豆と芋を多く使っているフード」vs「豆と芋が含まれないフード」を比較分析した論文を発表しました。

グレインフリーフードと心臓病に関する新しい論文

上にリンクを貼った当ブログの記事にも書いていますが、この研究を発表したタフツ大学の研究所はネスレピュリナ社が出資したもので、この問題に関して独立した研究機関とは言えません。また上記の記事で紹介した論文の結論も仮説にとどまっており、結局は曖昧なままです。

では独立した研究機関による調査報告はなかったのか?

この点について、動物科学者/動物栄養士であるリンダ・ケース氏がご自身のブログにグレインフリーフードと拡張型心筋症に関する研究をリストアップして、その結果を検証していました。

簡単にざっと紹介しますと

2020年にアメリカのカンザス州立大学が発表した研究では、実験用に作った穀物使用フードと穀物フリーフードを2週間それぞれ6頭ずつのビーグルに与えて、便に排出された胆汁酸の量を調査しました。胆汁酸はタウリンと結び付いているので、これを調べることで体内のタウリンの状態が分かります。結果はタウリンの状態は穀物の有る無しの影響を受けていませんでした


2021年4月には、イタリアのナポリ大学が、市販の穀物フリーフードを1つのグループに、同じメーカーの穀物が使用されているフードをもう1つのグループに50日間与えて血中および血漿中のタウリン濃度を測定しましたが、やはり違いが見られませんでした。


2021年5月のカナダのサスカチュワン大学による研究では、豆類のような食物繊維を多く含むフードを長期的に与えるとタウリンの状態に影響する可能性が指摘されました。米(穀物)及び5種の豆類で6パターンのフードを作り、それぞれをビーグルに7日間与えた結果、食物繊維の多い豆類のフードではアミノ酸消化率の低下が見られたが血漿中のタウリン濃度は正常に保たれた。長期的にタウリンの状態に影響を与える可能性は上記下線のアミノ酸消化率の低下が理由です。


2021年10月にはセントキッツネイビス連邦のロス大学獣医学部が、タンパク質源がエンドウ豆タンパクの植物性フードと従来の動物性タンパク質フードをそれぞれ12週間与える対照実験を行なっています。植物性フードを与えられた犬たちは4週目で血中および血漿中のタウリン濃度が高くなっていました。12週後の測定では血液や心臓に臨床的な変化は認められませんでした。


2021年11月アメリカのイリノイ大学もビーグルを使って対照給餌実験を行い、その結果を発表しています。原材料の45%を緑レンズ豆で作ったフードと、チキンミールを使ったフードを3ヶ月間与えて、血中および血漿中のタウリン値を測定したところ、2つのフードに差異は見られませんでした。

上記のように2020年から2021年の間に主に犬の体内のタウリンの状態を調べるためにフードの比較実験が複数行われたわけですが、ものすごくザックリと簡単に平たくまとめると......

「炭水化物が豆か米か」または「タンパク質が豆かチキンミールか」で比べたけれど、豆を使ったらタウリンが不足して心臓病につながるという確固とした証拠は見つからなかったよ! ってことです。

これらの研究は同じ条件で飼育されている研究用ビーグルを使って緻密に調査されているのですが、豆の割合が市販のフードでは見られないほど高かったり、動物性タンパク質のグレードがチキンミールまたはチキン副産物ミールで、過去に標的にされた”プレミアムフード”としての穀物フリーフードと比較するには無理があるなあという印象も持ちました。

豆を使用したフードで焦点となるのが食物繊維の多さなら、大豆ミールやコーンミールを使ったフードでも植物性の食物繊維の量はかなり多いはずで、参考にはなるが決め手にはならないという感じです。

Sanna JågasによるPixabayからの画像 

 しかし、2022年3月にアメリカのBSMパートナーズという獣医栄養学調査機関とミズーリ大学獣医学部が発表した調査結果は全く違う視点のものでした。フードの成分ではなく2010年以降のグレインフリーフードの売り上げと犬の拡張型心筋症の発症数の推移を比較してみたのです。

私がニコを迎えた2005年には穀物フリーのフードというのはまだ販売されていませんでした。穀物を使っていないことを売りにしたフードが出始めたのは2010年です。ちょうど人間の食べ物でもグルテンフリーが脚光を浴び始め、小麦を敬遠する人が目立ち出した頃です。

ペットフードでは小麦の他にコーンも粗悪原材料の筆頭に挙げられていたので、小麦やコーンを使っていないというのが穀物フリーフードのスタート地点だったと記憶しています。

話を調査研究の内容に戻しましょう。

穀物フリーフードまたは豆類を多く使ったフードを食べることで犬の拡張型心筋症が増えるなら、穀物フリーまたは豆類多めフードの売り上げ増加に比例して犬の拡張型心筋症も増えるはずでは?という仮説に基づいて、フードの売り上げと拡張型心筋症の発症数が調査されました。

穀物フリーフードが市場に存在していなかった2009年、当然ながら市場でのシェア率はゼロでした。10年後の2019年には穀物フリーフードの市場でのシェア率は全体の29%、ドライフードだけを見ると43%を記録しました。金額ベースで言えば2011年の9億ドルから2019年には54億ドルと6倍になっています。

では拡張型心筋症の方は増えていたのでしょうか?地域的な偏りがないようアメリカ全土の循環器専門動物病院88機関にデータの提供を依頼し、うち14の病院から計68,297件のデータを受け取ることができました。これらのデータの2011年から2019年にかけての件数の推移を分析したところ、発症数は増えも減りもしていない横ばい状態でフードの売上との関連は示されませんでした。

この結果について研究者は「データ収集に限界はあるものの、穀物フリーまたは豆を多く使ったフードを与えられている犬が激増しているにも関わらず拡張型心筋症の発症数は横ばいであった。これらのフードと疾患に関連があるという証拠は見つからなかった」と結論づけています。

私自身が2018年からこの穀物フリーフードの件を見てきた範囲では、穀物フリーフードと心臓病の関連を取り沙汰しているのはアメリカだけです。イギリスやオーストラリアでは全国の動物病院のデータを一括管理して怪我や疾患の統計を取るシステムがありますが、拡張型心筋症が増えているというニュースは見聞きしたことがありません。(私が知っている範囲では、ですが)穀物を使わず豆を多く使っているフードはイギリスでもオーストラリアでも、その他の国々でも多く製造販売されています。

拡張型心筋症というのは複雑な病気で、今のところ最も研究されているのは遺伝による要素です。食物による関連も無いとは言えませんが「市販の穀物フリーフードが疾患を引き起こす!」と言えるほど単純なものではありません。

そもそも市販の穀物フリーフードの原材料も処方も千差万別で一括りにできるものではないですしね。

今や時代は移り変わって、気候変動や戦争の影響で食材の確保が2010年代とは比較にならないほど厳しくなっています。世相としては「穀物フリーフードが云々」と悠長なことを言っている場合ではないという空気です。

植物性のフードが犬や猫の健康に影響するのかどうか?代替食として昆虫や外来種の魚などはどうなのか?と言った問題の方が重要とも言えます。

フードの原材料についてはSMILESブログで、アメリカを中心にしたフードを取り巻く環境についてはこのブログでまた紹介して参ります。

(筆が遅いのは許して😖🙏)








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