2020/08/04

35犬種の避妊去勢手術ガイドライン2 犬種別A〜B


まずはアルファベット順にA〜Bで始まる犬種について具体的な数字をご紹介していきます。ここで言うガンは血管肉腫、肥満細胞種、骨肉腫、リンパ腫のどれかを指します。また関節障害は股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全のどれかです。

上記のガンと関節障害の他に、乳腺腫瘍(2歳以前の避妊手術で予防効果が高いと言われる)、子宮蓄膿症(避妊手術で完全に予防できる)、尿失禁(避妊手術後に発症する場合がある)についても触れられています。ただしこれらの疾患は10歳以降に顕著に増加するのですが、このデータでは10歳以上の犬がほとんど含まれていないため、データとして限界があると研究者自身が述べています。

また各ガイドライン内で挙げられている疾患の発病率は、この研究対象集団(カリフォルニア大学デイビス校大学病院で診断された犬たち)の中での比率で、犬種全体の疾患の発病率ではないことにご注意ください。


オーストラリアンキャトルドッグ

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研究対象となったのは1,037頭、内訳は未去勢のオス261頭、去勢済みのオス189頭、未避妊のメス298頭、避妊済みのメス289頭
  • オス、メス共に避妊去勢手術の有無に関わらず関節障害の顕著な発病はなかっ
  • オス、メス共に避妊去勢手術の有無に関わらずガンの発病率は5%未満だっ
  • 未避妊のメスで乳腺腫瘍を発病したのは1%、28歳の間に避妊手術をした場合では4%(原文では28ヶ月となっているのですがタイポと思われます
  • 未避妊のメスで子宮蓄膿症の発病率は2
  • 避妊手術後の尿失禁の発生は見られなかっ
  • この犬種では避妊去勢手術と関節障害およびガンとの関連が見られないため、手術を受ける場合は獣医師と相談して個別に時期を決定することを推


オーストラリアンシェパード



研究対象となったのは440頭、内訳は未去勢のオス93頭、去勢済みのオス135頭、未避妊のメス76頭、避妊済みのメス136頭

  • オス、メス共に避妊去勢手術は関節障害のリスクの明らかな増加には関連していなかった
  • 未去勢のオスではガンの発病率が9%、未避妊のメスではガンの発病率は1%とかなりの差があった
  • オスが去勢手術をした場合にもガンの発病率の増加は見られなかった
  • 未避妊のメスでの乳腺腫瘍の発病はゼロだったが、28歳での避妊手術では8
  • 未避妊のメスで子宮蓄膿症の発病率は5
  • 尿失禁の発生は早期(おそらく6ヶ月齢以前)に避妊した場合で1
  • 推奨されるガイドラインは、オス犬では去勢手術によるリスクの増加が見られなかったので獣医師と相談の上個別に決定。メス犬では6ヶ月齢以降の避妊手術を推奨。(乳腺腫瘍の数字を見ると6ヶ月以降2歳未満が良いのでは?と思われますが)

  ビーグル

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研究対象は256頭、内訳は未去勢のオス42頭、去勢済みオス82頭、未避妊のメス45頭、避妊済みメス87頭
  • 未去勢のオスの関節障害発病の割合が2%に対し、1歳未満での去勢手術を受けたオスでは15%に増加している
  • メスでは避妊処置の有無にかかわらず関節障害は発病していなかった
  • オスメス共に避妊去勢済みでガン発病の増加は見られなかった
  • 避妊済み未避妊共に乳腺腫瘍の発病は見られなかった
  • 未避妊のメスで2例の子宮内膜症があった。
  • 尿失禁の発生は早期(おそらく6ヶ月例以前)に避妊した場合で2
  • 推奨されるガイドラインは、オス犬の去勢手術は1歳以降。メス犬ではリスクの増加は見られなかったので獣医師と相談の上個別に決定


バーニーズマウンテンドッグ

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研究対象は235頭、内訳は未去勢のオス59頭、去勢済みオス74頭、未避妊のメス37頭、避妊済みメス65頭

  • 未去勢のオスの関節障害発病の割合が4%に対し、2歳未満での去勢手術を受けたオスでは24%に増加している
  • メスの関節障害では6ヶ月齢以前に避妊手術をした場合は未避妊に比べて3倍超増加している
  • オスメス共に避妊去勢無しのガン発病率は9%、去勢済みのオスではガンの増加は見られなかったが、メスでは6ヶ月齢以前の避妊手術で2倍に増加している
  • 避妊済み、未避妊共に乳腺腫瘍の発病は見られなかった
  • 未避妊のメスで5%に子宮内膜症があった。
  • 尿失禁の発生は見られなかった
  • 推奨されるガイドラインは、オス犬の去勢手術は2歳以降、メス犬では関節障害、ガン共に増加は著しくはないので獣医師と相談の上個別に決定(「著しくはない」というのは、それぞれ3倍と2倍になっているが件数自体が少ないという意味。でも6ヶ月齢以降が無難な気がしますよね)



ボーダーコリー 

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研究対象は399頭、内訳は未去勢のオス105頭、去勢済みオス85頭、未避妊のメス88頭、避妊済みメス121頭
  • オスメス共に避妊去勢手術の有無は関節障害の明らかな増加に関連していない
  • 未去勢のオスのガンの発病率2%に対し、1歳未満での去勢手術では13%に増加している
  • 未避妊のメスではガンの発病が見られなかったのに対し、1歳未満の避妊手術では11%に増加している
  • 未避妊のメスの乳腺腫瘍発病は1
  • 未避妊のメスの子宮内膜症発病は4
  • 避妊済みメスの尿失禁の発生は1例のみ
  • 推奨されるガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術は1歳以降


ボストンテリア

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研究対象は292頭、内訳は未去勢のオス75頭、去勢済みオス67頭、未避妊のメス54頭、避妊済みメス96頭
  • オスメス共に避妊去勢手術の有無にかかわらず関節障害を発病した犬は0
  • 未去勢のオスのガンの発病率5%に対し、1歳未満での去勢手術では12%に増加している
  • メスの場合、避妊手術によるガン発病リスクの増加は見られなかった
  • 未避妊のメスの乳腺腫瘍発病は2
  • 未避妊のメスの子宮内膜症発病は7
  • 避妊済みメスの尿失禁の発生は2
  • 推奨されるガイドラインは、オス犬の去勢手術は1歳以降、メス犬では関節障害、ガン共に増加は見られないので獣医師と相談の上個別に決定


ボクサー

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研究対象は761頭、内訳は未去勢のオス220頭、去勢済みオス203頭、未避妊のメス128頭、避妊済みメス210頭
  • オスメス共に避妊去勢手術による関節障害の増加は見られない
  • 未去勢のオスのガンの発病率17%に対し、2歳未満での去勢手術では32%に増加している
  • 未避妊のメスのガンの発病率11%に対し、2歳未満での避妊手術では20%に増加している
  • 未避妊のメスの乳腺腫瘍発病は見られなかった
  • 未避妊のメスの子宮内膜症発病は2
  • 避妊済みメスの尿失禁の発生は1
  • 推奨されるガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術は2歳以降


ブルドッグ

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研究対象は558頭、内訳は未去勢のオス198頭、去勢済みオス156頭、未避妊のメス90頭、避妊済みメス114頭
  • 未去勢のオスの関節障害発病率は7%、未避妊のメスでは5
  • 関節障害は、6ヶ月齢未満での去勢手術でオス15%、同じく6ヶ月齢未満での避妊手術でメス18%(ただし件数自体が少ないため有意性は認められていない)
  • 避妊去勢をしていない場合、オスメスどちらもガンの発病率は67%で、手術をしても有意な増加は見られなかった
  • 未避妊のメスのガンの発病率11%に対し、2歳未満での避妊手術では20%に増加している
  • 未避妊のメスの乳腺腫瘍発病率は12
  • 未避妊のメスの子宮内膜症発病は2
  • 避妊済みメスの尿失禁は見られなかった
  • 推奨されるガイドラインは、オスメス共に避妊去勢手術の時期は獣医師と相談の上で個別に決定。関節障害について慎重になるなら6ヶ月齢以降。


頭文字C以降の犬種はまた順次アップしていきます。




《参考URL》
Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full

2020/07/23

UCデイビス校獣医学部による35犬種の避妊去勢手術ガイドライン

避妊去勢手術と特定の疾患のリスク

2014年、アメリカの獣医師や心理学者、統計学者などの研究チームによってヴィズラの避妊去勢手術の有無、手術の時期、ガンの発病率の関連について大規模なインターネットアンケート調査が行われました。集められた2,500頭以上の犬のデータから、ヴィズラでは避妊去勢手術を受けた個体にガンの発病率が高いという結果が発表されました。

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この情報を初めて聞いた時のショックとザワザワした気持ちは忘れられません。(その理由は後述)

その後、カリフォルニア大学(UC)デイビス校獣医学部によって特定の犬種の避妊去勢手術と疾患の関連についての研究が発表されました。ゴールデンレトリーバー、ラブラドール、ジャーマンシェパード では避妊去勢手術を受けた個体で未処置の犬と比べてガンと関節疾患の発病率が有意に高いこと、特に6ヶ月齢以前に手術を受けた時のリスクの高さが指摘されました。
UCデイビス校は10年にわたってこの研究を続けており、さらに対象の犬種を広げてデータの分析を行っています。

同研究チームは2020年7月に35犬種について、避妊去勢手術が影響を及ぼすと考えられるガン(血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、リンパ腫)関節疾患(股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全)のリスクを小さくするため手術の時期に関するガイドラインを発表しました。
これには同校の獣医学教育病院で過去15年の間に検査や診察を受けた数千頭の犬のデータが使用されました。


ガイドラインが発表された犬種と注目点

35の犬種は以下の通り(カタカナ表記ですが、アルファベット順です)

  • オーストラリアンキャトルドッグ
  • オーストラリアンシェパード
  • ビーグル
  • バーニーズマウンテンドッグ
  • ボーダーコリー
  • ボストンテリア
  • ボクサー
  • ブルドッグ
  • キャバリアキングチャールズスパニエル
  • チワワ
  • コッカースパニエル
  • コリー
  • コーギー
  • ダックスフンド
  • ドーベルマンピンシャー
  • イングリッシュスプリンガースパニエル
  • ジャーマンシェパード 
  • ゴールデンレトリーバー
  • グレートデーン
  • アイリッシュウルフハウンド
  • ジャックラッセルテリア
  • ラブラドールレトリーバー
  • マルチーズ
  • ミニチュアシュナウザー
  • ポメラニアン
  • トイプードル
  • ミニチュアプードル
  • スタンダードプードル
  • パグ
  • ロットワイラー
  • セントバーナード 
  • シェトランドシープドッグ
  • シーズー
  • ウエストハイランドホワイトテリア
  • ヨークシャーテリア

各犬種ごとのガイドラインは別にアップしますが、全般的に注目したい点がいくつかあります。


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避妊去勢手術によって関節障害が発症するリスクは犬のサイズに関係しており、小型犬では手術によって関節障害のリスクが高まることはない

⧫小型犬種では、避妊去勢手術によってガン発病のリスクが高くなることはほとんどないが、上記リストのうち小型犬2犬種でガンの発病率が高くなっていた。
小型犬で避妊去勢手術とガン発病の関連が見られたのはボストンテリアのオスとシーズーのメス
それぞれ逆の性別では手術とガンの関連は見られなかった。ボストンテリアのオスは1歳になる前に去勢手術を受けた場合、シーズーのメスは2歳になる前に避妊手術を受けた場合にガン発病のリスクが高くなっていた。

⧫大型犬種では避妊去勢手術は関節障害発症リスクに有意に関連しているが、超大型犬種であるグレートデーンとアイリッシュウルフハウンドでは、手術を受けた時期がいつであろうと関節障害のリスクには影響が見られなかった。

ドーベルマンのオスでは、1歳での去勢でガン発病リスクがやや上昇、2〜8歳の去勢でさらに上昇という例外的なパターンが見られるため、1歳未満での去勢または去勢無しが推奨されている。

ゴールデンレトリーバーのメスでは、避妊手術の年齢がいつであってもガン発病のリスクが高くなる。

⧫全般的な傾向では、大型犬において手術をする時期についての注意が必要。多くはオス1歳以降、メス2歳以降が推奨されている。


犬の避妊去勢には社会的な問題という側面もある

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このガイドラインはこれから犬を迎えたいと考えている方、愛犬の避妊去勢について悩んでいる方にとって心強い指針になることと思います。
かかりつけの獣医師と話し合う際のツールとしても重宝なものになるでしょう。

一方で、以前に数犬種での研究が発表された時もそうでしたが、既に愛犬の手術を済ませた方が後悔したり落ち込んだりということがあるかもしれません。
しかし既に処置の済んだ手術によってリスクが高くなることを知っていれば獣医師と相談して対策を考える際にも、この情報は役立つものです。将来のリスクに備えてペット保険を見直す際の目安にもなります。

またこの研究はガンと関節障害のリスクをメインにしたものですが、避妊去勢手術で予防できる疾患もあることは忘れてはいけない点です。
2020年6月にワシントン大学の病理学者が発表した家庭犬の寿命についての統計では、避妊去勢手術をした犬の方が未処置の犬よりも平均寿命が長いという結果も出ています。

研究結果は単純に「だから避妊去勢をするべきではない」または「するべきである」と結論を出すものではなく、個々の犬にとっての最良を選ぶための有効なデータです。

「個々の犬にとっての最良」という点をもう少し掘り下げて考えてみましょう。

犬にとっての最良を決める時、医学的なデータだけでなく、もしも処置しないでアクシデントで子犬が産まれた場合の社会的な影響も考慮する必要があります。

今の日本ではアクシデントで子犬が産まれるべきではありません。
ましてや遺伝病や血統の知識のない素人が興味本位や小遣い稼ぎのために繁殖に手を出すのは言語道断です。
本来あってはならない子犬の誕生を完全に予防できる環境であるかどうかも、処置をするかしないかの重要なチェックポイントです。
もちろんこれは病気やその治療の研究をする科学者の守備範囲ではありません。
だからこそ、科学で判ったことを一般の飼い主に伝える時には『社会的な側面』を抜きにしてはいけないと私は考えています。

一番最初に書いたヴィズラの研究結果が発表された時に気持ちがザワザワしたのは「科学的な情報、しかも一般向けにかいつまんだものだけを読んで、やっぱり避妊去勢なんてしない方がいいんだ!という無責任な層が増えたら...」と考えずにいられなかったから。
それから間を置かずにゴールデン、ラブ、Gシェパードの研究が発表された時にはザワザワなんてもんじゃなかったですよ。

その頃私が心配していたのは個人レベルでの素人繁殖やアクシデントだったのですが、これらの研究結果を大規模保護団体が都合よく解釈して避妊去勢を行わないなどという、想像のはるか斜め上(いや、はるか斜め下)を行くような事態まで起こってしまって、犬の避妊去勢の社会的な側面を無視することの罪深さをまざまざと思い知りました。

このUCデイビスの研究のような避妊去勢のリスクの話になると、保護犬を迎えた人が「うちの犬は迎えた時に有無を言わさずに手術をされていた」と憤慨される声を聞くことがあります。
しかし保護犬の場合は存在そのものが社会的な問題ですから、その犬からさらに行き先のない犬が増えるようなことは社会的にあってはならない、つまり避妊去勢は最優先事項です。

Image by Sabine Runge from Pixabay   



犬の避妊去勢の話になると、つい熱くなってしまいました😓

毎度同じことを繰り返していますが、普通の家庭犬でアクシデントでうっかり交配してしまうリスクを完全にコントロールできるなら、避妊去勢をするか否かは飼い主さんの判断することです。
ここで紹介したような研究は、その判断のための大切な要素です。

決して避妊去勢手術で健康を害することがあっても仕方がないと言っているわけではありません。
この件については、ぜひ以前に書いたこの記事も併せてご覧になってみてください。






長くなってしまったので、各犬種のガイドラインは別の記事で追い追いアップしていきます。



《参考URL》

Evaluation of the risk and age of onset of cancer and behavioral disorders in gonadectomized Vizslas
https://avmajournals.avma.org/doi/abs/10.2460/javma.244.3.309?journalCode=javma

Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full

Lifespan of companion dogs seen in three independent primary care veterinary clinics in the United states
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-020-00086-8

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