2017/06/23

病気のリスクの曖昧さ、一筋縄でいかない生き物の身体

前回の「胃拡張・胃捻転のリスク要因」おかげさまで多くの方に読んでいただくことができました。
いくつかご質問を頂いたり、体験談を書いてくださった方もいらっしゃるので、シェアしたいと思います。


食前食後の運動について

Purdue大学のレポートでは明確に述べられていないのですが、確かに食後に激しい運動をしていてGDVが発症したという例は多く見聞きします。けれども食事をした時間から何時間も経った夜中などに発症した例も多く、他の多くの要素と同じく「GDVの原因は食後の運動」と単純に言い切れるものではありません。
とは言え、人間だって食後すぐに運動すると気持ち悪くなるのと同じ、避けるに越したことはありません。食べ物を消化するためには胃周辺に血流が集まる必要がありますが、運動をすると体の他の部分に血流が回らざるを得ず、消化不良の原因となりますから、体に良くないことは明らかです。
食前の運動に関しても、長い長いロングウォークやアジリティの訓練などの後は、同じく血流のクールダウンが必要ですから水分補給だけしたら、食餌までは少し間を空けるべきですね。ただしお腹が空きすぎると早食いが過ぎて空気をたくさん飲み込んでしまうような犬ならば水分補給とともに少量のヨーグルトや茹でて小さく切った鶏肉などで落ち着かせることはリスク減少につながります。
また、ちょっとそこまでトイレ散歩なんてのはクールダウンが必要な運動には含まれませんよね。

食前食後の水分摂取について

ドライフードに水分を加えて与えることはリスク増加要素であるという統計結果が出ています。けれど、食前食後の水分摂取を極端に制限することもまたリスク増加要素とされています。適当な量の水は他の病気の予防のためにも飲まなくてはいけません。
Purdue大学のレポートは原因と結果の因果関係を解明するためのものでなく、この行動をしている場合この結果となった例がどれくらいあるかという相関関係の統計ですから、なぜドライフード(特にクエン酸を使用されているもの)に水分を加えるとリスクが高まるのかは明らかになっていません。
フードに水分はNGだが、フードを食べた後適量の水を飲むのはOKなのは、胃の中に入った食べ物は唾液や胃液に含まれる消化酵素に触れているからというのも一因ではないかと思います。(これは私の推測です。)
水を飲むことがリスク増加要因となるのは食後に極端に大量の水を飲むことです。


(photo by 584652 )


運動にしても水分摂取にしても「適量」とか「大量」とか曖昧な表現が多いですよね。でもこれは相手が犬という生き物ですから仕方のない部分だと思うのです。
工業製品ではない生き物の身体は「体重に対して何%の水」とか「運動というのは時速何キロ以上の速さで歩くこと」とか決められなくて当たり前。その一筋縄でいかないところが生き物と付き合う醍醐味でもありますよね。
GDVだけに限らず、犬の身体に良いこと悪いことを見極めるためには、正しい知識をベースにした上で自分の犬にとってのベストの塩梅は飼い主にかかっていると心しなくてはいけないと私はいつも思っています。

そして先にも書いたように、前回の記事で紹介したレポートは因果関係を科学的に解明しようという性質のものではなく、相関関係を統計で示したものですから、「明確な理由はわからないが○○をすると××という結果になった件数が全体の○%だった」という報告になるのは当然のことです。

そしてGDVが発症する明確な原因は未だ明らかになっていません。ですから何をした時に発症しているかの統計からリスク要素を減らしていくことが大切なんですね。


(photo by tpsdave )

さて、前回の記事に胃拡張が発症し始めた秋田犬の動画を貼り付けて「みるみるお腹が膨らむ」とか、「痩せている犬はお腹が膨らんだ時にわかりやすい」と書きましたが、そうではない例もあるようです。

Facebookでいただいたコメントを引用します。
3年ほど前に知人のワイマラナーが胃捻転から生還しました。
今までに聞いたことのない鳴き声をあげたのが始まりだったそうです。
胃のあたりはそれほど腫れておらず、ゲップや吐きそうにもしない。
けれど、口の中が白に近い薄いピンクになっていることなどから、すぐ病院へ。
レントゲンの結果、狭い胸郭に胃が入り込んでたために、体の外から胃の膨らみが分かりにくくなってたことも判明したそうです。

↑こんなこともあるんですねえ。
ワイマラナーの細いウエストなんて異変があればすぐに判りそうと思っていた私が浅はかでした。
とにかく異変があれば、すぐに病院に駆けつけることが大切だとよくわかる例ですね。

他にも、一般的に言われる大型のハイリスク犬種ではないけれど何度も胃拡張を繰り返した経験のあるダックスフントの例もありました。ダックスフントはあの体型のため、小型犬の中ではハイリスクグループに分類されます。

また、日本の獣医師のブログなどを読んでいたら、動物病院に勤務を始めて数年の若手の先生ですが、GDVの患者が来たことがないと書いている例もありました。大都市などで小型犬中心の病院ではそういうこともあるんですね。いざという時に頼れる病院を普段から確保しておくことの大切さを感じました。特にGDVの手術は規模の大きな施設が必要になりますので、普段のリサーチが生死を分けることにもつながります。


今までもSMILES@LAやdog actuallyでも何度も書いてきましたが、マニュアル通りの一筋縄ではいかないのが生き物の身体。ベースになる知識はしっかりと持った上で、最終的に判断してケアしていくことは飼い主にしかできません。
きちんと知って、しっかり観察して、普段から考える癖をつけておく。
自分自身にもいつも言い聞かせていることです。

【参考サイト】

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