2017/06/05

動物の為の科学捜査と法医学を学ぶ教育プログラム、アニマルCSI

「優良犬市民検定」の記事の追記部分でも触れましたが、この記事もプロフットボールのスター選手だったマイケル・ヴィックの違法闘犬の場から保護されたピットブルたちのストーリー「The LOST DOGS」からインスパイアされて書いたものです。

記事を書くにあたって書籍の中で触れられている部分だけでなく、マーック獣医師が携わった動物虐待罪のファイルなども読んだのですが、その内容に読むのが辛くて挫けそうになったのを思い出します。

2017年現在も、記事内で取り上げたフロリダ大学のプログラムはアメリカでの動物法医学の頂点です。と言うより、他の大学で動物法医学についての目立った動きはあまり聞こえて来ていません。けれどフロリダ大学のプログラム受講者は大きく増加し、日本も含めて世界中に拡がっています。

(以下dog actually 2011年8月29日掲載記事より)

日本でも海外ドラマはあいかわらずの人気ですね。その中でもこの数年すっかりジャンルとして定着した感のあるのが犯罪科学捜査や法医学をテーマにしたもの。『CSI:科学捜査班』や『BONES』などがその代表でしょうか。
アメリカではこの人気ドラマのタイトルにちなんで「Animal CSI」と呼ばれる教育プログラムが2010年にスタートしました。フロリダ大学とASPCA(米国動物虐待防止協会)が協力し合って、アメリカ国内のメジャーな大学では初めて本格的な動物の為の科学捜査と法医学のコースを設定したのです。
動物に対する虐待を犯罪として立証する場合、証拠を揃えていくことが何よりも重要になります。なぜなら被害者である動物は証言をすることができないのですから。しかし科学的な捜査を進め裏付けのある証拠を集めていくには、通常の獣医学や犯罪捜査とは違う知識やスキルが必要で、現在のところこれらのスキルを持つ人材が非常に少ないのです。
動物に対する犯罪をきちんと捜査して立証し防止していくためには、動物法医学のスペシャリストを育てて行くことが不可欠であるとして、ASPCAに所属するメリンダ・マーック獣医師が中心となって、このフロリダ大学とASPCAのコラボレーションが誕生したのでした。
マーック獣医師はアメリカの動物法医学のパイオニアであり、2007年にプロフットボールNFLの大スター選手だったマイケル・ヴィックが違法闘犬と動物虐待で逮捕された際の捜査の立役者でもありました。
マーック獣医師の足跡はアメリカにおける動物法医学の歴史でもありますので、この辺りを少しご紹介いたしましょうか。
90年代、マーック獣医師はジョージア州で開業医として働いていました。日々の仕事の中で、彼女はいくつもの虐待やネグレクト、アニマルホーダーなどの深刻な例を見て来ました。2000年にジョージア州が動物虐待を重罪として裁く法律を作ると決定した際に、州議会は捜査官や弁護士、獣医師、動物保護活動家を招集して委員会を発足させました。マーック獣医師もそこに参加し、動物虐待を捜査するための法医学について、講義やプレゼンテーションを行うことになったのですが、全く前例のないことばかりで彼女は全てを自分で構築することから始めなくてはなりませんでした。
人間の犯罪現場捜査のワークショップへの参加、人間の銃創鑑定、咬跡分析を勉強し、実際の人間の検屍にも立ち会って、必要な知識や技術を身につけていきました。医学的な知識だけでなく法律にも精通していくようになり、着々と動物犯罪科学捜査の手法とデータベースを作り上げて行ったのです。

(photo by keliblack)

そうして2003年、マーック獣医師は団体初の動物法医学者としてASPCAに採用されました。希少な動物法医学者として全国の深刻な動物虐待の事件に携わる中、2007年全米を驚愕させたマイケル・ヴィックの事件にも彼女は招集されました。
自宅敷地内で闇闘犬を開催し、50頭以上のピットブルを所有していたヴィック。闘犬だけでも十分に重罪なのですが、彼はさらに闘犬において成績の振るわない犬を殺害し敷地内に埋めたという証言がなされていました。
マーック獣医師の仕事は証言に基づいて掘り起こされた遺体を骨標本にして検証し、どのような暴力行為が加えられたのかを科学的に証明することでした。結果、ヴィックは有罪判決を受け約2年の服役と約1億円の犬達のリハビリ費用の負担が課せられることとなりました。
このアメリカに住む者ならまず知らない人はいないと思われる大事件で動物法医学が果たした役割は、獣医師や獣医学生達の大きな関心を引くことになりました。「動物法医学のスペシャリストを育てる場を!」という思いは大きな流れとなり、最初に書いたフロリダ大学での動物法医学の開講へとつながっていったのです。
現在、マーック獣医師はフロリダ大学で動物法医学の教鞭を取っています。教育の対象は獣医師や獣医学生だけでなく、アニマルコントロールの捜査官、法執行官なども含まれています。フロリダ大学のこのコースは現在約200名が参加。アメリカ全土のみならず、9カ国の国外からの受講者も受け入れ、国際動物法医科学連盟を創設すべく動いています。
講義の内容には、犯罪科学昆虫学(腐敗した遺体に群がる昆虫の状態から、経過時間などを推測する)、血痕分析(壁などに飛散した血痕のパターンから、動物に与えられた暴力を分析する。動物の血痕は人間のものとは違う付き方をするので、人間の血痕分析を適用すると評価が不正確になるおそれがあるそうです)、咬跡分析、動物犯罪現場処理などが含まれているそうです。
マーック獣医師は、子供の頃から動物を深く愛して育って来られた人ですが、動物が巻き込まれた犯罪を検証する時は、怒りや悲しみは脇に置いて、そこにある科学的な証拠だけに集中することにしていると言います。そうして自分の知識と経験を武器に犯罪を暴き、次の犯罪が起こることを予防することが動物達に対する務めであるからと。
8月27日に〆切となった、動物取扱業の適正化案に関するパブリックコメントの募集。今回は動物取扱業が対象でしたが、またいつか動物虐待を取り締まる法律に関しての案やパブリックコメント募集があるでしょう。そのような時に、動物を傷つけたり命を奪ったりすることに関して「器物損壊罪」として処理するのではなく、人間にするのと同じように科学捜査をして犯罪を立証している国の例があることを思い出して頂けたらと思います。






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