2021/04/18

シェルターへの犬の持ち込みに「待て!」をかけるプログラム

2014年に書いた記事です。
これは再掲載する予定はなかったんですよ。
だけど今日yahooニュースで「沖縄の那覇で初めて犬の殺処分ゼロ達成、引っ越しするが連れていけないなどの理由での引き取りは断っている」という記事を目にして怒り心頭になってツイートしたら「でも保健所に持ち込んで来た人を説得するってどうしたらいいんだろうね」というツイートも見かけたので「そう言えば、LAの介入プログラムをかいたことがある」と古い引き出しをゴソゴソするように引っ張り出してきた次第です。

この団体は今も2014年当時と同じように活動をしています。ただコロナ禍のせいでサウスLA周辺は以前にも増してひどいことになっており、ホームレスの人たちも激増、寄付金も集まりにくい状況になっていると思います。

明日わずかながらこの団体に寄付しよう。



(以下dog actually 2014年9月16日掲載記事より)


2013年4月、ロサンゼルス市の公営シェルターのひとつサウスLAシェルターにおいて、自治体の機関であるシェルターと、そこに動物を持ち込む市民の間に動物保護団体が介入する新しいプログラムが開始されました。どうにかして動物がシェルターに置いて行かれることを食い止め、動物と飼い主にとってのより良い選択がなされるようにと始まったこのプログラムの内容をご紹介します。

まず最初にサウスLAシェルター周辺の環境を説明いたしますと、このエリアは4世帯に1世帯の世帯収入が貧困と定義されるラインを下回っており、平均世帯収入もロサンゼルス市の他の地域に比べてたいへん低いものです。高等教育を受けた住民の割合は1割に満たず、犯罪率は低下傾向にあるとは言え多くの面で厳しいエリア、それがサウスLAです。
こういった環境ですから、シェルターに動物が持ち込まれる理由の多くが経済的な事情から来ています。また動物に避妊去勢手術を施さずに子犬や子猫が産まれてしまった、犬にトレーニングを受けさせたことがないという飼い主も主流です。

そのサウスLAの公営シェルターと非営利動物保護団体Downtown Dog Rescue(DDR)及びFound Animalsがパートナーとなって開始したのが、最初に述べた介入プログラムです。プログラムの運営の中心となっているのはアマンダ・カザレス氏。
プログラムに関わる非営利団体のメンバーの中で給与を受け取って働いているのは彼女ひとりで、その他はボランティアの人々によって実施されています。カザレス氏の給与はFound Animalsから支払われています。

カザレス氏はシェルターの入り口にブースを設けて、動物を持ち込んできた人々の話を聞きます。
持ち込まれる動物の大多数は犬で、その理由は「アパートの契約の更新時に犬を飼うなら追加の保証金を払うように言われたが経済的に困難」「犬が吠えたり、攻撃的になったりするのでこれ以上飼い続けられない」など様々です。
プログラムでは犬と飼い主が一緒に暮らし続ける事を第一の目標として問題の解決を目指します。

犬のためのアパートの保証金250ドルが支払えない高齢の飼い主のためには団体の基金から保証金が負担されました。経済的困難が原因で犬をシェルターに持ち込む飼い主のためには、他にリードやカラー、ドッグフードなどの提供が実施されており、これらは団体への寄付金でまかなわれています。
脱走を繰り返す犬や、外飼いで通りかかる人に攻撃的な犬のためには家の周りにフェンスを設置したり、丈夫な犬小屋を提供したりもします。
こうしてまずは犬が飼い主と一緒にいられるようにした上で、団体で定期的に行われている無料のドッグトレーニングのクラスに犬と飼い主に通ってもらい、なぜ問題行動が起きるのか、なぜ運動や社会化が必要なのかということを教育していきます。
トレーニングを行うのはプロのドッグトレーナー。このような時間と技術の寄付は一般的に広く行われています。

医療費が支払えないという理由でシェルターに持ち込まれる動物も多くいます。治療が可能で適切な処置さえすれば犬と飼い主が一緒に暮らせる場合には、同プログラムのパートナーになっている動物病院を紹介して、低料金や分割払いでの治療を提供しています。
高齢や重症で回復が望めないと医師が判断した場合には、病院で飼い主に見守られながらの安楽死の処置を無料で行います。
これら金銭的な援助が生じた場合、飼い主には出来る範囲の負担とシェルターや団体でのボランティア活動をお願いする場合もあります。

それでもどうしても飼い主が動物を手放さざるを得ない場合には、DDRとFound Animalsが新しい飼い主または一時預かりを見つけるまでの間の数日間だけでも動物を手元に置いてもらうよう交渉し、動物がシェルターに入ることなく新しい家庭に移動できるよう手を尽くします。

プログラムの開始当初は年間で400頭の動物のシェルター持ち込みを食い止める事が目標とされていました。しかし開始から1年後の成果は予想を大きく上回って、実に2,041頭の動物のシェルター持ち込みを食い止めることができたそうです。内訳は犬1,789頭、猫241頭、うさぎ11頭です。

プログラム開始後最初の数ヶ月は、動物の持ち込みを食い止めるという目標自体は順調に達成していったもののカザレス氏を始めスタッフへの負担も大きく、厳しい財政状態からポケットマネーの持ち出しもある状態でした。
しかしこの画期的なプログラムがロサンゼルスタイムスやハフィントンポストなどのメジャーなメディアで取り上げられ注目を集め始めると、寄付や協力の申し出が多く寄せられるようになりました。
一番大きなものではアメリカ動物虐待防止協会からの資金バックアップによるクリニックの開設です。これは低所得者向けに無料の避妊去勢手術やワクチン接種を提供するもので、外飼いや飼育放棄での無計画な繁殖や病気の蔓延を防ぐために大きな役割を果たします。
またDDRとFound AnimalsはNKLAのネットワーク(過去記事参照)にも参加しており、このネットワークによって里親や一時預かり、搬送ボランティアを見つける事がとても容易になりました。
現在サウスLAの介入プログラムでは、シェルターの入り口で待っているだけではなく、地域の戸別訪問を行って犬の問題行動に悩んでいる人に無料トレーニングの案内をしたり、飼い犬や飼い猫の出産を繰り返している人に無料クリニックの紹介を積極的に進めています。人々がシェルターへ足を向ける前に問題を解決していこうというわけです。

ただ単にシェルターへの持ち込みを拒否したり説得して動物を連れて帰ってもらうだけでは根本的な問題は解決しません。世話をしてもらえない状態で手元に置かれる動物にとっても悲劇ですし、酷い場合には引き取ってもらえないならと山や路上に捨てる例も多くあります。
このサウスLAシェルターの保護団体介入プログラムは具体的にどうすれば持ち込みを食い止める事ができるのかを示して見せることで、他の地域のシェルター運営にも大きく影響を与え同種のプログラムも開始されています。

今年の6月に集計されたロサンゼルス市のアニマルシェルターにおける過去1年の殺処分率は約25%(治療不能な病気や怪我のための安楽死を含む)、毎年順調に低下し続けています。この数字にサウスLAシェルター介入プログラムが果たした役割が小さくないことは確かです。

0 件のコメント:

コメントを投稿

従来の不妊化手術と性腺温存型不妊化手術を比較

pic by  Mohamed_hassan from Pixabay 犬の不妊化手術(避妊去勢)の新しい流れ 犬の不妊化手術は飼い主にとって「どうする?」 の連続です。 10年ほど前に不妊化手術による健康上の影響についての研究結果が発表されるようになってからは、さらに悩みも増...