2019/01/05

繋がれて生きる犬

2016年に書いた記事の再掲載です。

自分が住んでいる場所の関係で、アメリカの動物保護活動や法律についてコラムにすることが多いのですが、何度もしつこいくらいに書いているとおり、アメリカは決して動物保護の先進国ではありません。

けれども、動物保護活動ということに関しては実にユニークな多様性があると常々感じています。
色々と事情や環境が違うので、今すぐ日本で取り入れることはできなくても「こういう視点もあるんだ」というウェイクアップコールになればいいなと思って、紹介する記事を書いています。

このDDBという団体もユニークな活動をする団体のひとつです。
寄付金を集めて大きな施設を作り、犬をただ引き取り続けることを動物保護活動だと考える人が増えて欲しくない、そんな思いを込めての再掲載です。



(photo by vicart26 )


(以下dog actually 2016年9月5日掲載記事より)

インターネットで、写真にちょっとボケたセリフを付けて楽しむお笑いサイトがありますね。先日「犬のお笑いセリフ」というのが目に入ったので覗いてみたら、ほとんどは楽しく笑わせてもらったのですが、ひとつ「ふーむ、やっぱりそうか。」と考え込んでしまったものがありました。

それは、ちょっと嫌がる様子の柴犬の両前足を飼い主が軽く握っている写真に「大丈夫だよ。隣のドーベルマンは繋いであるから怖くないんだ。さあ散歩に行こう。」というセリフのついたものでした。

ドーベルマンが怖い犬のアイコンになっていること、そしてそのドーベルマンは庭先に繋がれているという前提が当たり前に笑いのネタになっていること。多分、犬と暮らしていない人が作った作品なのだろうなと思いつつ「犬は繋いで飼うもの」という考えは未だに一般的なのだと改めて感じた次第です。

私が住んでいるカリフォルニア州では、3時間以上連続して犬を繋いだり、クレートに閉じ込めておくことは州法で禁止されています。ですから近所では、庭仕事をする飼い主さんを木陰に繋がれて眺めている犬をたまに見かけるのがせいぜいです。
とは言っても、すべての人が法律を守るわけではないし、そもそもそういう規制のない州や自治体も多くあります。地域によっては庭に小さな小屋と鎖に繋がれた犬がポツンと1日中過ごしている光景が珍しくないこともあります。そういう繋がれて孤独に生きる犬たちを助けようというNPO団体と、その活動を紹介したいと思います。

団体の名はDogs Deserve Better(=犬たちはもっと良い暮らしに価する。以下DDB)DDBの活動は2002年、最初の犬を鎖から解放したことから始まります。
DDBのメインの活動は鎖に繋がれた犬の生活を、もっと犬らしいものに改善することです。DDBの救済の対象となるのは、24時間外に繋ぎっぱなしで散歩にも連れて行ってもらっていない犬たちです。屋外で暮らしていても暑さ寒さをきちんと防ぐ犬舎があり、フェンスに囲われた庭で運動をしているような犬は対象外です。

彼ら自身の調査活動や近隣住民の通報などから、つなぎ飼いの犬の飼い主の元に出向き、説得をすることから活動は始まります。庭にフェンスがないので繋いでおかなくては仕方がないという場合には、フェンスを提供して少なくとも庭のフェンス内では犬が自由に動けるようにする場合も多々有ります。躾が出来ていないので家の中に入れられないという場合にはハウストレーニングを1から提供し、適切なトレーニングと運動を指導します。

(photo by BlazingFirebug )

犬を屋外でつなぎ飼いしている家庭では、多くの場合犬にほとんど医療費をかけておらず、避妊去勢手術も施されていません。
低料金の避妊去勢手術、無料の健康診断とワクチン摂取の提供をする場合もあります。これらの資金はすべて団体への寄付金で賄われています。(多くの犬はフィラリア陽性と慢性の関節炎に侵されています。)

こういった直接のレスキュー活動だけでなく、さまざまなイベントを通して地域への啓蒙教育活動も行っています。犬は群れで生きる社会的な生き物です。飼い主である人間とも他の犬ともほとんど接触せずに繋がれたままの生活は犬としてあるべき姿とはかけ離れています。また全く社会化されないままにストレスを溜め込んだ犬は、咬傷事故を起こす可能性がたいへん高く危険な存在でもあります。

アメリカ疾病予防管理センターの統計では、つなぎ飼いの犬による咬傷事故件数は、つながれていない犬の2.8倍にのぼるとされています。「犬のつなぎ飼いは誰のためにもならない」という基本的な教育を広めていくことは時間はかかるけれど、社会にとっても犬にとっても確実に効果が望める方法です。
難しいことは置いておいて、群れのメンバーであるはずの家族から離れたところで、撫でられもせず楽しいことも目新しいこともなくポツンと繋がれて生きることの辛さを想像しただけで、それが間違っているってわかりますよね?と私は言いたい。
DDBでは「近所でつなぎ飼いの犬を見かけて、何とかしたいと思った時のために」として、メッセージを書いたドアハンガーやチラシなども準備しています。DDBに直接出向いて説得して欲しいとリクエストがあった場合にも、犬の飼い主には通報者の名前は伝わらないようになっています。

DDBの説得を受けて「それならもう犬はいらない」と犬を手放す飼い主も珍しくはないようです。その場合は犬を引き取って、必要な医療処置を全て施した後で新しい家族を募集します。
引き取られたラッキーな犬たちはThe Good Newz Rehab Centerという広大な敷地の施設で、リハビリを受けながら新しい家族を待っています。
実はこの施設、プロフットボール選手のマイケル・ヴィックがヤミ闘犬と動物虐待を行って大きなニュースになったその場所です。
悪名高き「訳あり物件」となっていた敷地を買い取って、犬のリハビリ保護施設にするとは心憎いですね。

日本でも、犬は室内で飼うことがかなり浸透してきていますが、暑い日も寒い日も家の外で鎖に繋がれている犬の姿も地域によっては多く見受けられます。
外飼いで避妊去勢の処置もされていない犬は、行く先もないままに生まれてきて殺処分や野犬となる犬の原因のひとつです。
DDBには日本の動物保護について、行政が参考にするべき点があるのではないでしょうか



【参考サイト】

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