赤い表紙にとぼけた表情の赤毛のピットブルがレイアウトされたその表紙は、犬好きなら「おっ!」と手に取ってしまう愛らしいものでした。
私の「生涯の一冊」とも言える本。貼り付けた付箋も捨てられずにいます。
タイトルの下に書かれているとおり、これは「マイケル・ヴィックの犬たちと、彼らの救済と再生の物語」です。
2007年初夏から秋にかけて、アメリカ中が驚き注目したNFL(プロフットボールリーグ)の大スター選手のスキャンダルが連日テレビのニュースを賑わわせていました。
それがこの犬たちのオーナーだったマイケル・ヴィック。
マイケル・ヴィックはティーンエイジャー同士の両親の間に生まれました。貧しい出身ながら卓越したフットボールの才能を見せ、奨学金を受けて大学に進み、卒業を待たずに2001年NFLのアトランタ・ファルコンズに鳴り物入りで入団しました。
プロの世界でも輝かしい活躍を見せ、ヴィックはNFLの大スター選手となりました。
大スターになったヴィックですが、子供時代を一緒に過ごした友達や従兄弟たちとは変わらず付き合っていました。
ヴィックの援助を受けてドラッグの売買などをしていた悪友たちの中から、ピットブルを使った闘犬は儲かるらしいぞという話が出たのは、ファルコンズに入団した年のことでした。
ヴィックとその仲間たちは、数頭の犬を購入し、自宅敷地内に犬舎、トレーニング施設、闘犬のためのリングを作って、違法な闘犬賭博のビジネスを始めました。
2007年4月にヴィック一味の一人がマリファナの違法所持で逮捕され、家宅捜索が行われた際にこれらの闘犬賭博の証拠が発見されたのが、ヴィック・スキャンダル発覚のきっかけでした。
動物同士を闘わせる闘犬や闘鶏は、アメリカでは全ての州で動物虐待罪に該当する違法行為です。
それだけでなく、ヴィックと友人たちは戦績の悪い犬や怪我をして使い物にならなくなった犬を、たいへん残酷なやり方で殺害して敷地内に埋めていたことも明らかになりました。
この時に敷地内で飼育されていたピットブル51匹が保護されました。
闘犬に関わっていた連中は皆逮捕され、ヴィックはチームを解雇。裁判を経て約2年弱の懲役となりました。
犬たちのリハビリにかかる費用1億円弱もヴィックに負担するよう命令が下りました。
まあ、その後またNFLに復帰したんですが、その話は改めて。
The Lost Dogsは保護された犬たちを救うために奔走した人々と、犬たちの波乱に満ちた道のりの記録です。
本の中では4匹の犬がクローズアップされて紹介されていますが、もちろん他の犬たちと彼らに携わった人たちにもそれぞれのストーリーがあります。
2007年に事件が明らかになり犬たちが保護されて今年で12年。
犬たちの多くは天国に行ってしまいましたが、健在の犬たちもいます。
そして先日はワシントン・ポスト紙にA second chanceというタイトルで犬たちのその後が紹介されました。
このピットブルたちのストーリーにはまさに「アメリカの犬たち」と言えるエッセンスがいっぱい詰まっています。
ワシントン・ポストの記事を読みながら、私も8年ぶりに彼らのことを皆さんとシェアしたくなりました。
心身共にダメージを負った犬たちが当初はどんな風だったのか、それぞれどうやって立ち直って行ったのか、ヴィックの犬たちと関わったことで人生が変わった人々。
そんなことを紹介していきながら、犬たちの傷、救済、再生といったことを一緒に考えていただけたらと思います。
ちなみにタイトルのヴィックトリー・ドッグというのは犬たちの愛称で、ヴィックの名前とヴィクトリーという言葉をかけています。
シリーズでボチボチと書いていこうと思っていますので、お付き合いいただけると嬉しいです。
調べましたが日本語訳はまだ出ていないようですね。
返信削除ですのでこちらでご紹介いただけるのを心待ちにしています。
救助が間に合わず殺された無数の犬たちを
思うと、「楽しみにしています」とは言えないのがつらいです。
サムママさん、コメントありがとうございます。
削除日本語訳出ていないんですよ。
日本でウケるタイプの話ではないので、この先もきっと無さそうです。
助けられなかった犬のことを思うと辛いのですが、この犬たちは他の犬たちの未来を作ってくれました。
そんなことをお伝えしていければと思います。