2021年3月、ロサンゼルス市は公式にNO KILLの街としての基準をクリアしました。これをもってLAは全米最大のNO KILLシティとなりました。(州全体ではデラウェア州だけがNO KILLを達成している)
NO KILLというのは日本でいう殺処分ゼロと混同されがちですが、違う部分が多いです。
NO KILLの基準は保護施設に入って来た動物のうち90%が譲渡、返還、民間団体での引き取りなどで生きて施設を出ていくことができるというものです。
「10%は殺処分が行われているならNO KILLじゃない!」という声が上がりそうですが、これは回復の見込みのない病気や怪我、リハビリが不可能な行動上の問題があり、安楽死が人道的と判断される動物の割合が過去の統計からだいたい10%くらいとされていることから設定された数字です。
つまりNO KILLというのは「譲渡可能な動物は殺処分にしない」という意味です。
この辺りの詳しいことは2016年にdog actuallyに掲載した記事に書いています。
NKLAついに達成
SMILESのブログやdog actually でも何度も取り上げてきたアメリカ屈指の大規模保護団体のベストフレンズアニマルソサエティはユタ州を本拠地としています。
そのベストフレンズがロサンゼルス市にも拠点を置き本格的に活動を始めたのは2012年のことでした。
LAを NO KILLの街にしようという意味を込めてNKLAというプロジェクトも同時にスタートしました。
これも2013年にdog actuallyに書いています。
NKLAプロジェクトを始める前、ロサンゼルス市では公営シェルターに持ち込まれた動物のうち約3分の1が殺処分となっていました。
2012年にベストフレンズがLAに進出して以来、2箇所のアニマルシェルター設立の他に、安価な避妊去勢クリニックの開設、LAの中小保護団体をネットワーク化して預かりボランティアや輸送ボランティアの情報共有、大規模な合同譲渡会などが行われてきました。
(これについてはLAで古くから活動している団体からの不満も多く耳にしました。譲渡の審査が甘いとか、譲渡の際に実費として受け取る料金が安過ぎるとか......。
でも一般市民の目から見ると、ショッピングモールのパーキングの端っこで小規模に行われている譲渡会でグッタリしている動物を見ることはほとんど無くなったし、ベストフレンズのシェルターは清潔でボランティアの人も知識が豊富で親切だし、保護動物を抱え過ぎて過密状態になっているシェルターの動物をネットワーク内で割り振ったりできるようになったし、明らかに改善したとしか言えないんだなあ...。)
......とこんな感じで公営シェルターでの殺処分は年々減っていました。
そして2020年のロサンゼルス市のアニマルコントロールの統計が今年の3月に発表。公営シェルターから生きて出て行くことができた動物は90.49%!NKLAがついに達成されました。
猫のTNRを巡るロサンゼルス市の闘い
ベストフレンズが進出してきた2012年以来、LAはNO KILL達成まであと少し!と毎年のように言われていました。犬はもう数年前からシェルターでの殺処分率は10%を切っていたそうですが、猫がなかなか15%を下回らずにいたそうです。その理由はロサンゼルスでは猫のTNRができなかったから。
TNRはTrap(捕獲) Neuter(避妊去勢) Return(元の場所に戻す)の略で、捕まえて処分するのではなく人道的に動物の数を減らして行く方法として世界中で実行されているものです。
このTNRがLAにおいては2009年以降禁止されていたそうです。
私がこの驚きの事実を知ったのは、LAがNO KILLを達成したというニュースの中で触れられていたからで、つまり禁止されている間全然知らなかったんですよ。
TNRなんて基本中の基本だと思っていたので「なんでそんなことに?」とびっくりしました。
2009年まで、LAでは民間団体主導で猫のTNRが行われており自治体は非公式にそれをバックアップしていたそうです。野良猫の数が減るのは自治体としても歓迎ですから反対する理由がないですね。
ところが2005年に野生動物の保護団体から「TNRは猫の数を減らすのに効果がないだけでなく、最終的に元いた場所に放すため野鳥や野生の小動物に悪影響である」と市を相手取って訴訟が提起されました。
この団体は猫のTNRが自然環境に及ぼす影響をまとめた報告書を提出する必要があると主張し、2009年に裁判官がこの見解を支持したため、LA市ではこの報告書が完成するまで猫のTNRに対して差し止め命令が出されました。
そこから11年にわたって法的、政治的な争いを経て、環境影響報告書がロサンゼルス市議会に提出されました。「TNRは野良猫の個体数を制御する最良の方法で、外を歩き回る猫の数が減ることで野生動物や環境に対してむしろ良い影響を与える」というその内容は市議会に全会一致で承認されました。
こうして、ようやく2020年12月にロサンゼルス市内で猫のTNRを実行したり指導したりできるようになりました。
子猫レスキューの限界で開いた扉
上に書いたように、ロサンゼルス市議会が報告書を承認したことで猫のTNRにGO!が出たのは2020年の12月です。つまり2020年は猫のTNRはまだ実施していなかった状態で公営シェルターでの殺処分率が10%を切ったということです。
これは殺処分される動物の3分の1が子猫で占められていたことから、NKLAネットワークで子猫に重点を置いたプログラムを作って実行していたせいです。
例えばベストフレンズでは公営シェルターから子猫を可能な限り引き取り、子猫授乳ボランティア、子猫預かりボランティアを大々的に募集して対応してきました。しかし蛇口の栓を閉めていない状態では毎年子猫たちが際限なく生まれてきて「もう限界」という状態になっていたそうです。
そんな「次の子猫の季節はどうすればいいのか?」という不安が生まれていた矢先のTNR再開、それに続くNO KILL達成のニュースにNKLA連合は湧き上がりました。
「殺処分ゼロ」に反射的に反応しないで
ロサンゼルス市で猫のTNRが差し止められていた10年の間に生まれてきてすぐに殺処分となってしまった動物のことを思うとやり場のない怒りがこみ上げてきますが、同時にこの命令を出した裁判官の責任の大きさも改めて実感します。
司法や行政の場では「動物福祉」という概念が存在していない場合もあります。残念ながら日本の地方行政の場では動物福祉の概念など無い所の方が多いように感じます。
自治体の行政は殺処分ゼロという数字を作り上げることにばかり力を入れて、実態は全く動物のためになっていない状況を作り出す。
行政を監視するはずの市民も「殺処分ゼロって素晴らしい!」と反射的に反応して、その先考えることをしないでいる。残念ながらこんな構図がたくさん目に付きます。
上にリンクを貼った過去記事でもTwitterなどでしつこくしつこく言い続けていますが、動物の福祉を考えない状態でケージに入れておくだけ、飼育放棄をしようとしている人に終生飼育が大切だからセンターでの引き取りはできませんと断るだけ、その結果自治体で殺処分を実行する数が減っても意味がありません。
鎖でつないで死なない程度にエサを与えるだけで一生飼い続けるくらいなら、飼育放棄して新しい飼い主を探す方が動物のためになります。
数値基準を定めて、安楽死に該当する基準も定められているNO KILLと殺処分ゼロは違う部分が多いと最初に書いたのはこういうことです。