2018/01/25

No Kill=殺処分ゼロは魔法の言葉か?

この記事も掲載当時にかなり反響が大きかったもののひとつでした。
dog actuallyに書いていた私の記事は「アメリカの犬事情」という前提があったので、アメリカのNO KILL事情を入口にしましたが、日本で「殺処分ゼロを!」と声を上げている人にこそ考えていただきたい問題です。



(以下dog actually 2016年2月22日掲載記事より)

アメリカの動物保護の活動においてNo Kill(厳密には違うけれど殺処分ゼロのイメージ)という言葉や考え方は、この10年ほどの間にかなり浸透した感があります。
しかし一方でNo Killというコンセプトに対する疑問や反論も、緩やかなものから激しい対立まで様々な形で勃発している状態です。
No Killは手放しで素晴らしいものなのか?No Killを問題にする人は何が悪いと考えているのか、ちょっと考えてみたいと思います。


そもそもNo Killとはどういった状態を指すのでしょうか。実はこの定義は団体によってまちまちです。
共通しているのは「健康な動物、病気や怪我をしていても治療可能な動物は殺処分しない施設」ということ。さらに多くの場合は「問題行動があっても、それが修正可能な動物は殺処分しない」という件も加わります。
また数値基準として、シェルターに入所した動物のうち最低限90%が処分を免れることという条件も付きます。

つまり治療不可能な怪我や病気を負った動物の安楽死、または極端な攻撃性など修正不可能な問題行動を持った動物以外は殺処分しない、処分に該当する動物は10%未満というのがNo Killのおおまかな定義です。
ただし「治療不可能」の範囲は当該の保護団体の持つ医療施設や資金力によって大きく変わります。
「問題行動」に関してはさらにその差が大きく、経験豊富なトレーナーや動物行動学者を多く抱える団体、問題のある動物を隔離して管理できる十分な広さの施設を持つ団体では問題行動が殺処分の理由になる率は低くなります。(または問題行動は処分の理由にならない。)

ほとんどの場合No Killのシェルターは私営の保護団体のもので、税金で賄われている公営のアニマルシェルターでは、個人や保護団体に引き取られなかった動物は殺処分となるのが一般的です。


No Killのアニマルシェルター、魅力的な響きです。2011年にAP通信が1118人のペットオーナーを対象に行った聞き取り調査では、約7割の人が「アニマルシェルターはNo Killのポリシーであるべきだ」と答えており、No Kill人気の昨今の世論を反映しています。
人々はNo Killを望んでおり、そのポリシーを掲げるシェルターも増え、全国的に殺処分率は低下傾向にあります。素晴らしい......しかし問題はそんなにシンプルではないのです。

アニマルライツ(動物の権利)を標榜する団体には、No Killは形を変えた動物虐待であると強い反対の声をあげているところもあります。
「収容場所や収容数の都合のために動物を殺処分することのない施設が増えれば、行き場のない動物は放置され市街に溢れて、施設での安楽死処分よりも過酷な最後を遂げることになる。」「No Killはレスキュー・ホーダーの増加を助長する。(レスキュー・ホーダーはこちらを参照)」などが反対の主な理由です。
主張にやや極端なところはあるものの、これらの問題は確かに真剣に取り組まなくてはいけないことです。

小規模な保護団体ではNo Killのポリシーを掲げたものの増える動物の数を支えきれずに破綻してしまった所、持ちこたえてはいるものの動物たちの世話が行き届かなくなった所、譲渡率を上げるために飼い主候補の審査が緩くなり長年築いた信用を落としてしまった所などの例が多くあります。

我が家のミニピンがお世話になっていたシェルターもNo Killの場所でしたが、100匹以上の犬猫を抱えて清掃なども行き届いておらず、当時「No Killなら良いってもんじゃないんだなあ」と思ったのを覚えています。また、No Killのポリシーを貫くため譲渡率を上げねばならず、そのため見た目の可愛らしい若い動物しか引き取らない保護団体という問題も浮上しています。
保護団体の中には殺処分に関するポリシーをNo Killの基準と同じに定めているものの、自らをNo Killシェルターと呼ぶことを拒否しているところもあります。動物の命を預かることはそんなシンプルな言葉だけで表現できるものではない。引き取り、譲渡、殺処分全てにおいて明確な基準を示していくためにNo Killという言葉は使わないという主張です。
結局のところ、No Killというのは不幸な動物を減らすための手段のひとつであって、それ自体が目的になってしまっては上に挙げたような問題が起こってしまうのでしょう。
ただ殺処分を行わないというだけでなく、ペットの頭数過剰問題の元栓を閉めるための対策に取り組まないと、市街もシェルターも行き場のない動物で溢れることになってしまいます。
これらの対策は過去にも色々な形で紹介してきた、パピーミル規制のための法律、ペットショップでの生体販売規制の法律、避妊去勢手術の普及などがそれに当たります。

また人手や資金、敷地に限りのある小規模団体のネットワーク化を進めて、相互に助け合い補い合う仕組みも大事な対策のひとつで、これも各地の大規模団体が中心となって拡がりつつあります。

No Killという口当たりの良い言葉だけが一人歩きして問題が噴出している現在ですが、今は過渡期にあるのだと私は思っています。「殺処分をしない」という点だけに固執した団体で問題が起きたからと言って「殺処分をするべき」という主張は、短絡的だと言わざるを得ません。

私が書いているのはアメリカでの話ですが、日本の動物保護の取り組みなどを見ていても、ここ数年は「殺処分ゼロを目指して」という言葉を頻繁に目にするようになりました。自治体がこのような目標を掲げて取り組んでいる例も多いようです。

それ自体は素晴らしいことですが、殺処分ゼロというのはたくさんの取るべき対策の中のひとつであって、それ自体を目的にしていると歪みが生じるということを多くの方に知っていただきたいと思います。これは同じく目標としてよく取り上げられる言葉「終生飼養」にも言えることです。

No Killも殺処分ゼロも終生飼養も、その状態に持っていくことだけが目的ではないのです。動物が動物らしく健全に過ごす結果としての状態でなければ、それこそ形を変えた虐待になってしまいます。
No Kill や殺処分ゼロと言った分かりやすい言葉は人々の目を惹きつけ関心を持ってもらうためのツールのひとつです。それを唱えたからと言って理想が叶う魔法の言葉ではありません。そのことを胸に刻みつつ、ものごとを良い方向に変えていきたいものです。

レスキューホーダーという問題

レスキューホーダーを取り上げたこの記事も、たくさんの反響をいただきました。
2018年現在、日本では前代未聞の規模のレスキューホーディングが起こっています。
この記事に書いたアメリカの事例と違って、日本の場合は保護団体が破綻したら、その受け皿は別の保護団体しかないというところが頭の痛いところです。本来ならば、行政が公衆衛生の問題として部門を作るべきところが欠落しています。

ですから、日本の大規模レスキューホーダーには単純に「寄付しない」というマイナスの運動だけでなく、行政への働きかけがまずは先決かと思います。議員諸氏への直メールなどの継続、同志への呼びかけなどが団体への非難よりも優先事項。


(以下dog actually 2015年7月21日掲載記事より)


(photo by Timur85 )
このdog actuallyでも過去に何度かアニマル・ホーダー(病的に過剰な数の動物を収集する人)の記事がアップされて来ました。アニマル・ホーダーにもいくつかのタイプがありますが、今日はその中でも特に規模が大きくなりがちなレスキューホーダーというタイプのお話をしたいと思います。

大規模レスキューホーダー2例

2015年5月コロラド州で、チワワの保護団体代表を名乗っていた女性が動物虐待の容疑で逮捕されました。女性はロサンゼルスでチワワの保護団体を運営しており、常に200匹以上の犬を抱えていました。
当然ながら犬達の世話は行き届かず、不衛生な環境で痩せ衰えた犬達を見かねた人から通報や苦情が多く寄せられていました。
地元のアニマルコントロールやSPCA(動物虐待防止協会)などが犬を引き取り、本人は罰金や飼育禁止命令で処分されるということを何度か繰り返した後コロラド州に移住し、ここでも57匹のチワワを"保護"していた時についに逮捕となりました。この女性の裁判が今月に行われるため、このところニュースや雑誌で目にする機会が増えておりました。

また先月6月にはアラバマ州の私営アニマルシェルターにおいて、許可されている飼育数の3倍に当たる300匹近くの犬が深刻な飼育放棄の状態で発見されました。
シェルターにボランティアとして来ていた人が酷い惨状に耐えかねて警察に通報したことがきっかけで警察とASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)が立ち入り犬達は保護されました。
このアニマルシェルターのオーナーの女性は「私が保護しなければ、この犬達は路上で命を落とすか、公営シェルターで殺処分になっていた。警察への通報は陰謀だ。」と主張していましたが、調査の結果7月16日に動物虐待の容疑で逮捕となりました。

この2件の事例は、どちらも正式に認可され登録番号も持つ保護団体であり、当初は確かに動物を救うために活動をしていた人々という典型的なレスキューホーダーです。アラバマのシェルターのオーナー女性は元アニマルコントロールの管理職であった前歴さえあります。
犬達は小さなクレートやケージに閉じ込められて運動させてもらうこともなく、食餌すら満足に与えられていない酷い健康状態だったのですが、どちらのオーナーも「犬達は全く問題なく、健康に過ごしていた。」と本当にそう思っていたとしか見えない様子で主張しているところも典型的です。

(photo by Alexas_photos )

大手ペット用品店が運営する動物保護基金PetSmart Charitiesはアメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)とアメリカ動物保護協会(HSUS)の動物虐待調査部門の責任者にレスキューホーダーについてのインタビューを行ったことがあります。それによると、このようなレスキュー・ホーダーは増加の傾向にあり、ホーディングによって崩壊する保護団体も少なくないとのことです。
レスキュー・ホーダーに陥りがちな団体や人の傾向としては、以下のようなものがあると両団体の担当者は語ります。

自分の能力の限界を認識していない。

経済的資源、人的資源、施設の大きさ、精神的なキャパシティ、引き受ける動物の数がこれらの限界に達した時にはどんなに辛くてもNOと言うことができなくては、結局関わった全ての人も動物も不幸にするという結果になってしまいます。
レスキュー・ホーダーになってしまう団体や人はこの限界の見極めが甘い、または全く見極めができないために上にあげた2例のような状態が起こります。

恐怖感、不信感が非常に強い。

「里親希望者が来たけれど、この家に行くと犬が不幸になるんじゃないか。」
「自分が引き取らなくては、この犬は殺処分になってしまう。」というような恐怖を必要以上に強く感じており、里親希望者や他の保護団体を信頼することができない。
目の前の動物を救うことができるのは自分しかいないという思い込みが非常に強く、動物を家庭に送り出すことも他の団体に助けを求めることも良しとしない。その結果、動物は次々に入ってくるが出て行くことがないのでパンク状態となってしまいます。

これらの傾向を見ていると、以前に紹介したマサチューセッツ州の保護団体Northeast Animal Shelterの代表シャパイロ氏の言葉が改めて頭に浮かびます。
シャパイロ氏の言う通り、たとえ小規模であっても団体やグループの運営には適性や能力が必要です。これらが欠けた時、最も被害を受けるのは皮肉なことに彼らが助けたいと思っていた動物達という結果になります。
またアメリカ屈指の団体のひとつBest Friends Animal Societyは、ひとつの団体にかかる負担を分散するために大小様々なレスキューグループや個人活動家をネットワーク化して、相互の情報や人的資源を共有するノウハウを作り上げています。
自分の手に負えないことは周囲に助けを求めてみる。そのためには互いに助け合いやすい環境を整備しておくことが何よりも大切です。これは日本においても保護活動の今後の大きな課題のひとつでもあると思います。

一般的にホーディングというのは精神疾患が根底にあると考えられていますが、レスキュー・ホーダーの場合も当初は動物達を助けたいと本当に思っていたものの、コントロールし切れない状況で精神的に押し潰され、正常な判断ができなくなってしまうのかもしれません。それ故に早い段階で助けを求められることが重要です。

一般の人の側の問題では、レスキューホーダーという存在を知らないと「自分を犠牲にしてまでたくさんの動物を救おうとする素晴らしい団体(人)」という印象を持ち、寄付などの支援を行うこともよくあります。ホーダーに援助をすることは、依存症に対してのイネイブラー(意識せずに依存症を助長してしまう支援者の意)となってしまうことを意味します。善意のつもりで行った支援がさらに動物たちを苦しめることになるので、大きな注意が必要です。

動物保護団体に支援をする時には、
・実際に動物達がどのように扱われているのか(出来れば自分の目で確かめる)

・動物の出入りの数がきちんと公表されているか、

・収支報告がきちんと公表されているか

などをチェックすることが大切です。
あまり楽しい話題ではありませんでしたが、まずは多くの人が知っておくことが第一歩です。

2018/01/23

犬にチョイスを与えること


このブログ、ほぼ2ヶ月近く放置して更新しておりませんでした。
2ヶ月の間dog actuallyの過去記事データを移すことに没頭して(と言っても合間合間にチビチビと)新記事を書く余裕がなかったんです。

改めてdog actuallyに書いた記事を読んでいると、未熟だったり妙に力んでたりで「あちゃー」と頭を抱えたくなるようなのが多々あったり、時事的な話題で「今更これを再アップしてもなー」という記事もあったり、まあとにかく自分の拙文にちょっと凹んだりもしていたわけです。

加筆したり、ちょこっと直したりしながら、またボチボチとアップしていきます。



さて、2018年最初の書き下ろし記事です。

少し前に「心にトラウマを抱えた犬をサポートするポイント」というテーマで文章を書いたことがあります。


その時に資料を読んでいて、ものすごく印象に残った一節があって、毎日散歩のたびに思い出しています。

「どんな生き物でも心にトラウマを植え付ける手っ取り早い方法は、すべての選択肢を取り上げること。」......というものです。

そんな風に植え付けられたトラウマは、生活の中で小さな選択の機会をできるだけ作ってやることで回復していきましょうと書かれていました。

最も酷い例で言えば、パピーミルで繁殖に使われている犬たち。彼らには寝る場所も運動も排泄も一切の選択の余地はないですね。
家庭で飼われている犬でも、外の小屋につながれたままで散歩はワンブロックを引っ張るだけなんていう状態では犬が自分で何かをチョイスするなんて無理な話。

衛生や安全に関わることでなければ、犬に自分で何かを選ぶチャンスを与えることが、犬の自信を築くためにも、健康な精神状態のためにも大切です。
散歩の時に何度かはどっちの方向に行くかを犬に任せる、どのおもちゃで遊びたいか犬自身が選ぶ、どこで寝るのかも犬に選ばせる、そういうことを積み重ねます。

これは「どんな生き物でも」と書かれている通り、人間でも同じですよね。
髪型から衣類、持ち物まで異常に厳しく管理するような校則、過干渉な親、横暴なブラック企業、こういうものが人格や精神にダメージになる理由のひとつは選択の機会が奪われていることですもんね。

そう思うと、生活の中のとても些細なことでも自分で考えて選ぶって素敵なことなんだなあと実感しています。

ニコニヤも1日に何度か何かを選択するというのをゲーム感覚で実行しています。
上の写真のニヤは妙に自信に満ち溢れてますが、これ以上自信満々になったらどうしよう(笑)


2018/01/22

ダンバー博士の犬の咬傷事故査定基準表

2012年に書いた記事ですが、この犬の咬傷の査定基準は今もまだ知名度が高くないと思うので、シェアなどしていただけると嬉しいです。

当時の記事では書いていないのですが、レベル1やレベル2の場合は犬の訓練だけでなく人間の訓練でかなりの数が防止できると思います。
人間が不躾に犬に触ろうとしたり、良かれと思ったことが犬にとってはとても不快なことだったりすると、イライラした犬が警告を発するというのはよくあることですね。
犬が発しているサインを読み取ることの大切さはもっともっと広めなくてはと思う今日この頃。


(以下dog actually 2012年7月2日掲載記事より)


(Image by Newhaircut)

Dr.イアン・ダンバーと言えば、犬の陽性強化訓練法の第一人者として日本でも多くの著書が翻訳され、講演も数多く行われているのでよくご存知の方が多いでしょう。
獣医師/動物行動学者であるダンバー博士は、1980年に当時はまだ珍しかった子犬向けのトレーニングスクールを設立して早い時期からの子犬の社会化の重要性を訴え続け、1993年にはペットドッグトレーナーの協会も設立しました。
現在は講演などで世界中を飛び回る一方、犬に関する様々な情報を提供するサイトDog Star Dailyの運営、同じく犬の情報サイトであるDogTime.comへの寄稿など精力的な活動を続けていらっしゃいます。
今日はそのダンバー博士が作成された6段階の「犬の咬傷事故査定基準表」をご紹介いたします。


レベル1

攻撃的な行動を見せるが、犬の歯と人の皮膚の接触は無い。

レベル2

犬の歯が人の皮膚に接触するが、歯による刺し傷は生じていない。
犬の歯が皮膚の上で動いたことにより、皮膚に深さ2.5mm未満の切り傷と少量の出血はあるが、皮膚に歯は突き立てられていない。

レベル3

1回の咬みつきにより1〜4カ所の歯による刺し傷が生じているが、どの傷も犬の犬歯の半分の深さには至らない。あるいは一方向への裂傷が見られる。
(被害者が咬まれた手を引いた、飼い主が犬を引き離した、犬が飛び上がって咬み、降りる際の重力がかかったなどの理由が考えられる。

レベル4

1回の咬みつきにより1〜4カ所の歯による刺し傷が生じており、そのうち少なくとも一カ所は犬の犬歯の半分以上の深さに至る。咬み傷の周囲に打撲傷が見られる。(犬が咬みついた後、そのまま数秒間押さえつけていたため)
または両方向への裂傷が見られる。(犬が咬みついた後、そのまま頭を振り回したため。)

レベル5

複数回の咬みつきにより、レベル4相当の傷が2カ所以上見られる。または、レベル4相当以上の傷を与える咬傷事故を複数回起こしている。

レベル6

被害者が死亡。

(Image by Indiamos)
全ての咬傷事故のうち99%以上を占めるのは、上記のレベル1とレベル2だと言われています。このレベルの事故を起こした犬は、危険な攻撃性があると言うよりも臆病であったり度の過ぎたやんちゃが原因である場合がほとんどです。これは根気づよく訓練を繰り返すことで、十分に修復が可能で再発も防止できるレベルです。

しかし、人を怪我させたという点にのみ焦点を当ててしまうと、非常に多くの飼い主がそれだけで犬をシェルターに連れて行って手放してしまいます。
そしてシェルターでは事故歴のある犬に引き取り手が見つかる率はたいへん低く、その結果、犬は殺処分になってしまうのです。

これでは十分に更正可能な軽犯罪で死刑になってしまうようなもので、犬にとって非常にアンフェアです。社会にとっても、飼い主の手で修復できる問題なのに税金を使ってシェルターに収容したり殺処分にするというのは、賢い選択とは言えません。
そのようなことのないように、査定をするための客観的な基準を設けることがとても重要なのです。

多くの動物保護団体でもこのダンバー博士の査定基準を採用しており、咬傷事故を起こしてしまった犬の、その後のリハビリの可能性を探るスケールとしています。

日本の場合はシェルターではなく保健所に連れて行かれると、もうそこで望みは完全に断たれます。それだけにこのような明確な査定基準の必要性はさらに高いと言えるでしょう。
また反対に、レベル4くらいの深刻なケースであるのに周囲が軽く判断してしまって、その後の十分な対策や訓練を行っていない場合もあります。これも明確な基準があれば、事の重大さがわかりやすくなります。

ちなみにダンバー博士は、レベル3では飼い主が厳格にルールを守った上で長い時間と忍耐を持って犬の訓練をすれば、修復と再発防止が可能としています。
レベル4では犬の危険度がグンと上がり、犬のプロフェッショナルが飼い主になることが望ましく、更に来客などの折には犬を鍵のかかる部屋に隔離、外出時にはマズルの着用と、厳しい制限を求めています。訓練によって修復できる見込みは非常に低いとしています。
そしてレベル5とレベル6では犬の安楽死処分が勧められています。
レベル4以上の犬の処遇については賛否の分かれるところだとは思いますが、今回はこのような基準があるという点にフォーカスしたいと思います。

どんな犬であっても絶対に咬まないとは言えません。このような査定基準を使うことがないのが一番ですが、もしもの時に冷静に客観的に対処できるよう、心に留めておきたいと思います。

2017/11/12

働く犬に思う、それ本当にその犬に向いている?

(photo by WerberFabrik )

1ヶ月ほど前、CIA(Central Intelligence Agency=中央情報局)のブログに登場する犬たちが話題になりました。

CIAって、映画やドラマでスパイとかエージェントとかって出てくるあのCIAです。
え?そのCIAがブログ?しかも犬?って思いますよね。私も最初二度見しました。

国家の最高機密を扱う機関ですから、警備も最高レベル。施設では爆発物探知犬も任務についています。その探知犬たちはCIAが自前で訓練しているんだそうです。
ブログに登場したのはその訓練所に新しく入った犬たちのトレーニング日記。

興味深いと思ったのが、探知犬の候補を選ぶのにCIAのトレーナーが足を運ぶのは盲導犬など介助犬の訓練施設なのだそうです。そこで介助犬には向かないとされた犬をスカウトしてくるということ。
落ち着いていて我慢強く任務を遂行する必要のある介助犬と爆発物探知犬では求められる適性が全く違うそうです。言われてみれば、そりゃそうだって思いますね。

今秋の新入生としてスカウトされた6頭のラブラドールたちは全員介助犬になるにはエネルギッシュでハイパー過ぎると言われた犬たち。でもそのエネルギッシュさと好奇心は探知犬に必要な適性なのだそうです。

探知犬としての訓練を始めて2週間ほど後に、その6頭のうちのルルという黒ラブが「探知犬に向かない」として訓練から外されました。
SNSなどで話題になったのはこのルルのことでした。

ルルは決して能力が劣っていたわけではなかったようです。目的物をニオイで探すテストなどもちゃんと出来ていたそうです。ではなぜ訓練から外されたか?

トレーナーが言うには「ルルは訓練自体を全く楽しんでいなかった。時には命の危険もある任務に就いてもらうのに、好きじゃない楽しくないことを犬に強いることはできない。」とのことでした

ルルは2週間訓練を共にしたハンドラーの家庭に引き取られ、幸せな家庭犬として暮らしています。

私はこの話を読んでとても強い感銘を受けました。
介助犬と探知犬の適性の違いの話も深くうなずきましたし、何と言っても適性というのはただ単に「できる」というのとは違うのだという認識!
人間のために働いてくれる犬がその仕事を楽しんでできるかどうかに重きを置くという姿勢に嬉しくなりました。

(CIAの探知犬訓練日記はこちらで読めます。)

同時に思い出したのは7年前に自分のブログにも書いた、何度も何度も嘱託警察犬の試験に失敗したのに「努力」の末に合格したとして映画化までされたラブラドールの話でした。
あのブログ記事、かなり怒って書いたから今読むと激しいんだろうなあと思いながら読み返したら、確かに今なら使わないような言葉で書いているものの「なんだ、マトモなこと言ってるじゃないの」と思いました 笑。当時の自分にうん、そうだそうだって賛同しましたよ。)


そんなことを思っていたところに、昨日たまたま大手新聞のペット関連のサイトで、ある記事が目に入りました。

嘱託警察犬の試験に2回目で合格したという小型短頭種の犬のことを書いた記事でした。

(photo by carlosleucipo )

記事の中では「しつけ教室のトレーナーから、この子は物覚えがいいので警察犬に挑戦してはどうかと言われたのがきっかけ」と書かれていました。

家庭犬のしつけ教室の訓練で(いくら嘱託とは言え)警察犬の適性などわかるのか?

小型犬でも猟犬種ならまだしも、もともと愛玩犬として作られた犬種。しかも他の犬よりも嗅覚が発達していないと言われる短頭種。
犬自身が訓練を嫌がることもあったとか、物をくわえるのが苦手だったと記事に書かれていました。口の構造上、物をくわえるのが苦手なんて見ればわかることです。

CIAのルルの話を目にした後だったので、余計にこの記事を読んで心底がっかりしました。

ある任務について適性がないというのは、劣っているということではないし、克服しなくてはいけないことでもありません。
それを「努力」と呼び「美談」としてもてはやすのは人間のエゴだと私は思います。

犬は訓練次第で人間のために仕事をしてくれます。けれども彼らは言葉で「できるけど好きじゃない」とか「大好きな人がやれというからしてるけど本当はやりたくない」とか言うことができません。
だからトレーナーや飼い主は「できる/できない」だけでなく、本当に向いているのか、イヤイヤやっていないかをちゃんと見極めてやらなくてはいけません。

そして、犬の適性を無視して「努力して苦手を克服した素晴らしいストーリー」を作り上げるメディアに対して「おかしい」と思う感覚を忘れずにいたいものだと思います。



受刑者と犬のセカンドチャンス

働く犬のことを書きたいと思ったので、関連するdog actuallyの過去記事をアップしておきます。

この記事は2013年に書いたものですが、刑務所の受刑者がシェルターの保護犬を訓練するプログラムは現在も順調に増えています。
家庭犬としてのシンプルな訓練から、心的外傷を抱える退役軍人などをサポートするサービスドッグまで多彩なプログラムが展開されています。
フロリダの保安官事務所では刑務所で訓練を受けたサービスドッグを迎えて、犯罪被害者の事情聴取の際のサポートを担当してもらっている例もあります。精神的にダメージを負っている被害者、とりわけ被害者が子供の場合にはサポート担当のサービスドッグがそばにいるだけで、被害者の気持ちが和らぎ聴取がスムーズに進むそうです。

受刑者、保護犬、社会全体のすべてにメリットがあるプログラムはこれからも伸びていってほしいなと思います。

(photo by paulbr75 )


(以下dog actually 2013年7月1日掲載記事より)

つい先日、島根県の社会復帰促進センター(刑務所)から「刑務所育ち」の盲導犬第一号が誕生したというニュースが報道されましたね。現在、日本で犬の訓練を行っている唯一の刑務所です。
このような刑務所での受刑者による犬の訓練については、アメリカに一日の長があります。今日はアメリカの刑務所で暮らしている犬達のことをご紹介します。
刑務所で受刑者のためのプログラムとして犬の訓練が取り入れられたのは、1981年ワシントン州の女性刑務所が最初でした。当時、財政難のために満足な更正プログラムもなく、まともな運営も出来ていなかった刑務所の現状を見かねた修道女のシスター・クインがプロのドッグトレーナーと共同でプログラムを作り導入したのでした。
当初は盲導犬や警察犬候補の子犬達を受刑者がトレーナーと共同で訓練して、立派な職業犬に育て上げるという島根のやり方とよく似たプログラムでした。
一般的なトレーナーと違って、受刑者達は犬と24時間、常に一緒にいることが出来ます。その分訓練も早く修了することができ、受刑者達は責任感や達成感、そしてドッグトレーニングのスキルを身につけることができるというこのプログラムは、すぐに他州からも取り入れたいという声が多数届き、現在アメリカのほとんどの州で受刑者による犬の訓練プログラムが実施されています。
国内だけにとどまらず、シスター・クインはこのノウハウを伝えるべくヨーロッパにも出向いて、イタリアの刑務所などでプログラム導入の指導を行っています。
ワシントン州では当初は女性刑務所だけでこのプログラムを行っていたのですが、この2~3年の間に男性刑務所でも犬の訓練をスタートする所が出て来ました。
訓練するのは地元のアニマルシェルターから連れて来られた犬達です。預かり期間を過ぎても引き取り手がなく殺処分にするしかないという犬達が、受刑者によって家庭犬としての訓練を受けて新しい家族の元へと送り出されています。

一般のシェルターでは、問題のある犬一頭一頭にじっくり向き合って訓練するだけの時間も人手もないのが現状です。時間さえかければ良い家庭犬になる可能性のある犬達が、受刑者によってセカンドチャンスを与えられるというわけです。
犬達は平均12週間の訓練期間を過ごし、基本的なコマンドやトイレの躾、人に飛びつかない事、人間や犬同士の社会化を身につけるので新しい家族を見つける事はずっと簡単になります。
犬にとって素晴らしいだけでなく、受刑者が犬と暮らすようになってから刑務所内での暴力沙汰が著しく減少したことも報告されています。
全ての受刑者が犬の訓練プログラムに参加できるわけではないのですが、参加者の再犯率はほぼゼロに近く社会復帰も容易だと言います。これは社会全体にとってもありがたいことですね。
こちらはルイジアナ州の刑務所で暮らす犬達の動画です。

この刑務所では、刑務所の施設内にアニマルシェルターを作るという大胆な試みが成されています。
シェルターには犬だけでなく猫も収容されており、42匹の犬と17匹の猫を5人の受刑者とシェルタースタッフが世話をしています。
掃除、食餌の世話、運動、訓練と、1日のほぼ全てが動物の世話に費やされます。動物を引き取りたい希望者は直接この刑務所内のシェルターを訪れる事ができます。
あのハリケーンカトリーナの際には、避難してきた動物達を所内のシェルターで一時預かりし、受刑者達が米国動物保護協会と共同で動物の世話をしました。
いかつい外見の受刑者達が愛おしそうに犬を見つめ、犬も信頼し切った様子でリラックスする姿を見ると、確かに彼らがお互いに助け合っているというのが実感できます。

また、カリフォルニア州では少年院での犬の訓練プログラムを積極的に取り入れています。

ここでも犬達は、ローカルのアニマルシェルターから来ています。受刑者の年齢が若い分、犬を通して責任感や連帯感、そして愛し愛される事を学んだ彼らは、高いレベルでの社会復帰が期待できます。
社会復帰の助けと言えば、アリゾナ州の女性刑務所ではアニマルシェルターから来た犬達の訓練に加えて、犬のシャンプーやトリミングを行うグルーマーの資格をとる支援をしている所もあります。
シェルターの犬達は綺麗にしてもらって基本的な訓練も終えて、新しい家族の元へ送り出されます。出所後の受刑者が再犯に走ってしまう主な理由は、仕事が見つからず経済的に困窮してしまうことです。手に職をつけて刑務所を出ることが再犯率の低下に大いに役立っています。
これら刑務所の受刑者とアニマルシェルターの犬達を結びつける活動は、民間のNPO団体が間に入って仲介や指導を行っており、ほとんどの場合税金が使われることはありません。
残念ながら、アメリカ全体で見れば犬の訓練プログラムを取り入れていない刑務所も多く、全国の犯罪率も年々少しずつ増加しています。
素晴らしい可能性を持ちながらも引き取り手がなく殺処分となっている犬もたくさんいます。

受刑者にも犬にも社会にも大きなメリットのあるこのプログラム、アメリカでもますます広がっていって欲しいと強く願います。
そして日本でも刑務所と動物愛護センターのコラボレーションが実施されて、多くの人間と犬が救われる日が来て欲しいものですね。

2017/11/04

カリフォルニア州のペットショップでの生体販売禁止の法律に反対した団体

(photo by Skitterphoto )


さて、前回からの続きです。

商業的に繁殖された犬、猫、うさぎを店頭で販売することを禁止するカリフォルニア州法の法案が提出された時に、当然ながら反対派も存在しました。

ペット業界合同諮問委員会や、ブリーダー及びペットショップなどの小売業協会は生産した(イヤな言葉ですね)動物を販売する機会が減るわけですから当然反対の立場でした。

そして反対派の筆頭に立ったのはアメリカンケネルクラブ(AKC)でした。
(AKCはパピーミル撲滅運動などの際には毎度毎度大規模な反対運動を展開するんですけれどね。)

今回のAKCは「この法律によって、カリフォルニア州のペットラバーは選択の幅が狭められ欲しくもない保護犬を押し付けられることになる。一般の人が犬に関する知識を持った専門家や責任ある良質なブリーダーに接触することをできなくするものだ。」というキャンペーンを実施しました。

これは言うまでもなく大ウソ誤りで、保護犬ではない純血種の犬を迎えたい人は小規模に家庭などできちんとブリーディングをしているブリーダーにコンタクトを取ることができます。
(ブリーダーに認められないと子犬を譲ってもらえないとか、何年も待たなくてはいけないとかいう場合はありますけれどね。)

きちんとしたシリアスブリーダーなら、ペットショップに子犬を卸すことなどあり得ないので、この法律が成立しても何の影響もありません。

反対派のブリーダーの中には
「この法律が施行されると、隣国のメキシコだけでなく遠く離れたエジプトや韓国などから犬を連れてきてペットショップで販売されるようになる。これらの国の犬は恐ろしい伝染病や寄生虫を持っているのが普通である。」と主張して、署名サイトで反対署名を募る者さえいました。
幸か不幸か、カリフォルニアだけで十分な保護犬が発生しますので、外国から犬を連れてくる必要はないんですけれどね。

(メキシコは隣だし、実際メキシコの保護犬がカリフォルニアに来ることはあるけれど、エジプトとか韓国とかどこから出てきたんでしょうね。それにしてもすごい主張だ 笑)

幸いにも反対派の活動は実ることなく、この新しい法律が制定されました。
法案が可決された影には議員だけでなく、ベストフレンズアニマルソサエティやラストチャンスフォーアニマルズなどの大規模保護団体の協力もありました。
(Last Chance for Animalsというのは以前にシーザーさんの番組でパピーミルに潜入取材をした時に協力していた団体です。こちらね。)

一般の人の中にも「保護犬なんか欲しくない」「家庭でやってるようなブリーダーは敷居が高い」として、ペットショップで動物が買えないことを不満に思う人はいるんですけれどね。売ってなければ仕方がないわけで、やっぱりこういう法律を作ってガッチリと根元を締めることは不可欠だと思います。

来年は5年に一度の動物愛護法改正の年。国民が意見を届ける場も設けられるはずです。そんな時、外国の例でも具体的な例を挙げることは説得力を生みます。
ささやかながら参考になれば幸いです。



2017/11/02

商業的に繁殖された犬・猫・うさぎの店頭販売を禁止、カリフォルニア州

(photo by JACLOU-DL )

9月、カリフォルニア州のペットショップでは商業的に繁殖された犬・猫・うさぎを店頭で販売することを禁止するという州法が可決されました。
前記事のdog actuallyのロサンゼルス市の事例と同じく、店頭で取引が許されるのは一定の基準を満たした保護施設やレスキュー団体経由の動物のみとなります。
これに違反した場合は500ドルの罰金が課せられます。
(罰金は動物1匹につき500ドル。10匹違法に販売すれば5000ドルの罰金。)

10月にはブラウン州知事が署名をして、無事に新しい法律が成立。
実際に法律が施行されるのは2019年1月1日からです。
現在アメリカでは230以上の市や郡などの自治体で同様の条例が施行されていますが、州としての州法の成立はアメリカ全体でも初めてです。

この法律の一番の目的はパピーミルやキティファクトリーと呼ばれる非人道的な繁殖施設で生まれた動物の流通経路を断つことにあります。

そしてもうひとつは、公営私営を問わず保護施設で新しい家族を待っている動物の引き取り先の間口を広げることを目指しています。

(photo by ksphotofive )


報道などでは「ペットショップではシェルターから来た犬・猫・うさぎだけしか販売することができない。」という表現も見られますが、実際にはペットショップの店頭を譲渡会の会場として提供するという形がメインです。大規模なペットショップでは常設のアダプションセンターがあり、主に猫が展示飼育されている場合もあります。

いずれにせよ『販売』という言葉から連想される、シェルターから子犬や子猫を仕入れてきて店頭でそれを販売するというような形ではありません。
カリフォルニアの大きな都市では、もう既に同様の条例が施行されているところが多いので、今さら特に変わることもないという感じですね。

ペットショップの店頭で譲渡が成立した場合の料金も、シェルターで動物を譲渡してもらった時と同じ条件とすることと法で定められています。
ペットショップに連れてこられた動物がもともと居たシェルターや団体の譲渡条件が適用されます。
(シェルターによって料金はかなり違うが、だいたい30〜300ドル。一番多い価格帯は200ドルくらい。)
料金には避妊去勢手術、ワクチン、マイクロチップの料金が含まれています。

今回成立した法律では店頭販売の禁止の他に、うさぎ、モルモット、ハムスター、ブタ、鳥、爬虫類などペットとして所有することが認められている動物が保護施設に連れてこられた場合の扱いも明確にしています。
どうやら従来は、これらの動物は犬や猫に比べて保護期間や譲渡条件などの基準が曖昧だったようで、今回の法律で犬や猫に定められているのと同じ基準を適用するとされました。
(従来の基準がちょっと見つけられなかったんですが、わかり次第追記します。)


このように、カリフォルニアの新しい法律については「州としては初めて」という大きな意味はありますが、内容自体は既に各地で施行されている条例とほぼ同じものです。
他の州でも同様の州法が成立していって欲しいものです。

今回の法律の可決に至るまでは、様々な団体からの反対運動もあったのですが、それは次回に紹介します。

どんな団体が反対したか、わかります?


《参考URL》
https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=201720180AB485



2017/10/31

ペットショップ新条例、ロサンゼルス市の場合

先日、カリフォルニア州がペットショップで商業繁殖された子犬や子猫の販売を禁止する法律ができたことは、すでにあちこちで報道されています。詳細をこのブログにも書こうと思っていますが、その前に2012年に同様の条例がロサンゼルス市で可決された時の記事をアップしておこうと思います。

犬のこととは別だけど、記事の冒頭が大統領選が終わったという件で始まってることに隔世の感。たった5年前なのにねえ。オバマ大統領が2期目を決めたばかりだった頃ね。あぁ、あの日に帰りたい...。




(illustration via comicvector )

(以下dog actually 2012年11月12日掲載記事より)

熱狂のアメリカ大統領選は幕を下ろしましたが、そのちょうど1週間くらい前にカリフォルニア州ロサンゼルス市で、ある条例が可決されました。
条例の内容は、ロサンゼルス市内にあるペットショップ、その他小売店や商業施設において、営利的に繁殖された犬、猫、うさぎを販売することを禁止するというものです。

新しい条例の条文では「営利的に繁殖された犬・猫・うさぎの販売は、行くあてがなくアニマルシェルターで命を終える動物が増加する一因となっている。
これら営利的に繁殖された犬・猫・うさぎの店頭での販売を禁止することは、アニマルシェルターにおける動物の殺処分率を低下させ、譲渡率を上昇させるために有効である。」と述べています。
ここで言う「営利的に繁殖された犬・猫・うさぎ」と言うのはパピーミルやキティファクトリーと呼ばれる大規模で非人道的な商業的繁殖施設や、
無許可で繁殖〜販売を行うバックヤードブリーダーのことを指します。
条例の施行は来年の6月からで、それ以降は実質的にロサンゼルス市内で犬・猫・うさぎの生体展示販売を行うことは違法となります。条文では「ただし、公営のアニマルシェルターまたは市の認可を受けたNPO団体やレスキューグループから来た動物は除く」とされています。これはもちろん、アニマルシェルターから動物を仕入れて店頭で販売するという意味ではなく、現在もう既に大手のペット用品店チェーンが行っているようなシェルターの動物の譲渡会のことを指しています。ペットショップが店頭で保護動物の譲渡会などを行う場合は、正式に認可されている団体から来ている動物であることを示す証明書を呈示することが義務づけられます。
同様の条例は北米の他の都市でも数多く施行されていますが、ロサンゼルスはその中でも最大の規模の自治体であるため、他の州の自治体への影響も大きく、現在シカゴでもロサンゼルスと同様の条例が検討されているところです。
しかし、この条例案が可決されるまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。当然ながら小売店側からの反発もあり、またペットショップでの動物の買い手である一般市民からも「動物をどこから手に入れるかは市民の自由であるはずだ」という声もあがっていました。
条例案は長年にわたって動物福祉に力を尽くして来たポール・コレッツ市会議員を中心に作られて来ました。また今回の条例可決に大きな役割を果たしたのは、全米で最大の規模の私営動物保護団体ベストフレンズアニマルソサエティでもありました。
(ベストフレンズアニマルソサエティとロサンゼルス市のコラボレーションについては、この記事で詳しく書いています)
同団体のパピーミル対策部門責任者であるエリザベス・オレック氏は、コレッツ市会議員とともに市長や市検事に2年半に渡って働きかけてきました。そこには、パピーミルへの潜入調査の報告なども含まれています。このペットショップ新条例は、議員と民間団体、それを応援する市民の声、そして行政の共同作業の賜物なのです。
店頭での動物の販売を禁止するこの条例では、許可を得て個人で活動しているブリーダーは対象になっていません。ロサンゼルス市では犬や猫を繁殖して販売をする場合、動物1頭につき年間120ドルの料金を支払って許可証を発行してもらわなくてはなりません。許可証は1家庭に対して2通まで発行され、1頭の動物は1年に1回の繁殖しか許されていません。
許可証申請以前の90日以内の間に動物が獣医での健康診断を受けていること、過去に動物虐待やネグレクトの前歴がないことなどの条件が課せられ、さらに、出産後は産まれた犬や猫が生後8週齢に達するまで母親から離すことの禁止、ワクチン接種をしていない幼齢動物の販売や譲渡の禁止といった規制もあります。
これらの要件を満たさずに動物の繁殖を行い、売買することは、違法なバックヤードブリーダーとみなされ取り締まりの対象となります。
2013年6月以降、ロサンゼルスにおいて犬が欲しいと思った人はシェルターや保護団体からアダプトするか、責任ある個人ブリーダーから直接子犬を購入するか、どちらかの選択になるということです。
2011年度のロサンゼルス市のアニマルシェルターに連れて来られた犬の数は約35,000頭、猫は約22,000頭。そのうち、犬の25%、猫の57%が殺処分となっています。治療のできない病気や怪我、改善不可能とされた問題行動などの理由よりもずっと多い主な殺処分の理由は、「貰い手がみつからない」というものでした。
健康で、人間の素晴らしい伴侶になる可能性のあった動物達が無駄に命を落とすことがなくなるよう、条例が正しく運用され、幸せな動物と人間が増えることを願って止みません。

ベストフレンズアニマルソサエティと、その新しい試み1

dog actuallyにてベストフレンズアニマルソサエティのことを初めて紹介した時の記事です。
アメリカの動物保護のことを書こうと思うと、マディ基金とベストフレンズのこと抜きには始まらないのでね。

どちらも規模の大きな組織なので批判意見もあるけれど、救われている人や動物がたくさんいるのも本当だし、ASPCAやHSUSとは違う方向のアメリカの大規模組織のこと紹介しておきたいというのは今も思っています。
真似してほしいとか、こうあるべきとか言うのではなく、他の事例を知っておくことって大切ですもんね。

長かったので2つに分けています。


ベストフレンズアニマルソサエティが発行している案内と教育用のリーフレット


(以下dog actually 2012年2月27日掲載記事より)

ベストフレンズアニマルソサエティはアメリカはユタ州ケナブという街に本拠地を置く動物保護団体です。BEST FRIENDS ANIMAL SOCIETY
ケナブの国立公園の中にベストフレンズアニマルサンクチュアリという世界最大級の保護施設を擁し、犬、猫、うさぎ、馬、山羊、豚、鳥類、その他野生動物も含めて常時約2000匹の動物が施設で暮らしています。施設の敷地面積は3万3000エーカー(約4千万坪)東京ディズニーランド260個分以上と言うと、そのけた外れの広さが想像いただけるでしょうか。
ベストフレンズはNo Killをポリシーとする保護団体で、地元ユタ州を始め多くの地域をNo Killコミュニティとすることに力を注いでいます。No Killというのは書いて字のごとく殺処分を行わないという意味です。病気や怪我で治療の施し様のない動物を苦しみから解き放つための安楽死以外は、どのような理由があっても動物を殺さないというわけです。
攻撃性が強過ぎるなど、里親募集が不可能と思われる犬は多くの動物シェルターでは殺処分となるのが普通ですが、ベストフレンズではそういう動物も受け入れ、最大限のリハビリを施します。(それだけのノウハウも人材も設備も揃っています。)最終的に新しい家族を見つけることができなくても、動物は快適な環境で十分なケアを受けながら一生を施設の中で過ごします。
精神的なリハビリが困難な動物、高度治療が必要で普通のシェルターでは対応できない動物などが全国からベストフレンズに連れて来られ、心と体のリハビリを受けています。
ベストフレンズには立派な設備のクリニックが設けられ専属の獣医師が複数常勤しています。治療が可能で回復の見込みがあるならば、どれだけの費用がかかろうとも必ず治療するというのもポリシーのひとつです。施設内のクリニックで対応し切れない場合は専門医への協力も依頼します。
施設の運営は全て民間からの寄付でまかなわれていますが、寄付の集め方は単純に現金や小切手を集めるだけでなく、さまざまな工夫がなされています。団体の活動内容をドキュメンタリーにした書籍や雑誌の出版、魅力的なキャラクターグッズの販売、施設の見学ツアーの実施などが積極的に行われており、人の目が集まって、それにつれて資金も集まって来るという仕組みです。
サンクチュアリの中で犬達が暮らしている場所は「ドッグタウン」と呼ばれ、犬達がリハビリを受けながら新しい家族に引き取られるのを待っています。
ナショナルジオグラフィックチャンネルでは2008年から2010年まで「ドッグタウン」というタイトルで、ここに暮らす犬達や世話をする人々のドキュメンタリー番組を放送していました。日本でも放送されていたのでご存知の方もいるかと思います。番組は現在でも繰り返し再放送される人気番組で、ベストフレンズの知名度を上げ寄付金を集めるのに大いに貢献しました。
ドッグタウンに暮らす犬達は2~3頭で1つの犬舎をシェアしています。犬舎には小さなドッグランと屋内の寝室がついており、いつでも中と外を行き来できるようになっています。広大な敷地には山も川も谷も平原もすべて揃っているので、散歩や運動には事欠かない犬にとってはパラダイスのような場所です。
このユタ州のサンクチュアリだけでなく、ベストフレンズは全米各地で地元の保護団体とのコラボレーション企画も多く行っています。犬や猫の譲渡会、ドッグウォークなどのイベントは知名度の高いベストフレンズの名前があれば集客率が大きく変わります。小さく経験の浅い保護団体には運営のノウハウの指導も行い、アメリカ全土をNo Killの場所にして、ホームレス動物がいない世界を作るというのが彼らの目標です。
こちらはベストフレンズ制作のドッグタウンの紹介ビデオです。



ベストフレンズアニマルソサエティと、その新しい試み2




(以下dog actually 2012年2月27日掲載記事より)

ずいぶんと長い前置きになってしまいましたが、このベストフレンズアニマルソサエティがロサンゼルスで新しい試みをスタートさせました。
私営の動物保護団体として初めて、公の自治体と共同で動物保護施設の運営を始めたのです。
2012年2月16日、ロサンゼルス市北部のミッションヒルズにベストフレンズペットアダプション/避妊去勢手術センターがオープンしました。
この施設は2008年にロサンゼルス市が市営の動物シェルターとして1900万ドルをかけて建設したのですが、自治体の財政難による予算カットのため、十分なスタッフを揃えることが出来ず、ほんの申し訳程度にしか利用されていませんでした。
それに対してベストフレンズが「全ての運営費用を負担するので、この施設を市とベストフレンズの共同シェルター兼避妊去勢手術クリニックとして運営させてもらえないか」と提案をしたのです。 
市としては財政負担なしで施設の活用が出来、他の市営シェルターの犬や猫の移送もできるということで、議会の大多数の賛成を得てこの提案を承認したのが2011年8月のことでした。
その後、様々な手続きやインテリアの変更などを経て、つい先日センターはグランドオープンを迎える事が出来ました。オープンの日には市長やベストフレンズサポーターのハリウッドセレブも駆けつけての華やかなレセプションが開かれたようです。このオープンの日だけで合計30頭の犬や猫に新しい家族が見つかったそうです。
我が家からそう遠くない場所ですので、オープンの日ではありませんが私も見学に行って参りました。

センターの入り口部分。カリフォルニアらしいスペイン風を模したお洒落な外観。入ってすぐの受け付けや案内のコーナーも明るく洒落た雰囲気。インテリアは有名デザイナーの手によるものだが、これもデザイナーからの「労力の寄付」という形で無償で行われている。



現在この施設には犬が109頭、猫が35頭、新しい家族に引き取られるのを待っています。犬も猫も清潔で毛並みも良く、落ち着いた様子をしているのが印象的でした。ストレスフルに吠え立てる犬はおらず、犬舎に近寄ると好奇心から少し吠える犬がいる程度でした。
スタッフやボランティアの数も多く、特にスタッフは皆とてもフレンドリーで感じが良く、知識も豊富です。こちらが犬を見ていると、すぐに声をかけて犬の性格や特徴を詳しく教えてくれました。つまり犬達はきちんと個性を把握され、目も手も行き届いているわけですね。
また安価で避妊去勢手術を提供するクリニックがあるため、医療関係者の数が多いのが目につきました。


ゆったりくつろぐロットワイラー。左手前は水飲み器、後ろが寝室。もともと市の施設として作られたので、残念ながら犬舎は「ドッグタウン仕様」ではない。大型犬は一頭ずつ、小型犬は2頭で犬舎をシェアしている。


犬舎から運動場などに自由に行き来することはできませんが、スタッフやボランティアが入れ替わり立ち替わり犬達を散歩に連れ出していました。
施設内には散歩用のトレイルが設けられていて、里親希望者と犬のお試し散歩用にも使われます。
また近くには大きな公園もあり、犬の施設としては悪くない周辺環境でした。
犬や猫を引き取る際には、避妊去勢手術やマイクロチップの諸経費として100ドルがかかります。
里親希望の人とじっくり話をするためのコンサルタントルームも設けられ、シェルターから動物を引き取るのが初めての人でも色々な相談に親切に応えてもらえます。
何よりもその場のオープンで明るい雰囲気と親しみ易いスタッフの応対が来訪者に安心感を与える感じでした。

アメリカでも1、2を争う有名保護団体であるベストフレンズと、メジャーな大都市であるロサンゼルス市のコラボレーションは今後アメリカの他の自治体にも影響を与えていくであろうと大きな注目を集めています。
立派な設備は持っていてもそれを活かす運営のできない自治体と、運営のノウハウは持っていても新しい設備を建てる資金力を持たない保護団体。お互いが垣根を取り払って協力できれば、税金の無駄遣いも抑えられ、多くの命が救われることにもなります。
日本や他の国でも参考になる部分があればいいなと思います。

従来の不妊化手術と性腺温存型不妊化手術を比較

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