2020/07/23

UCデイビス校獣医学部による35犬種の避妊去勢手術ガイドライン

避妊去勢手術と特定の疾患のリスク

2014年、アメリカの獣医師や心理学者、統計学者などの研究チームによってヴィズラの避妊去勢手術の有無、手術の時期、ガンの発病率の関連について大規模なインターネットアンケート調査が行われました。集められた2,500頭以上の犬のデータから、ヴィズラでは避妊去勢手術を受けた個体にガンの発病率が高いという結果が発表されました。

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この情報を初めて聞いた時のショックとザワザワした気持ちは忘れられません。(その理由は後述)

その後、カリフォルニア大学(UC)デイビス校獣医学部によって特定の犬種の避妊去勢手術と疾患の関連についての研究が発表されました。ゴールデンレトリーバー、ラブラドール、ジャーマンシェパード では避妊去勢手術を受けた個体で未処置の犬と比べてガンと関節疾患の発病率が有意に高いこと、特に6ヶ月齢以前に手術を受けた時のリスクの高さが指摘されました。
UCデイビス校は10年にわたってこの研究を続けており、さらに対象の犬種を広げてデータの分析を行っています。

同研究チームは2020年7月に35犬種について、避妊去勢手術が影響を及ぼすと考えられるガン(血管肉腫、肥満細胞腫、骨肉腫、リンパ腫)関節疾患(股関節形成不全、前十字靭帯断裂、肘関節形成不全)のリスクを小さくするため手術の時期に関するガイドラインを発表しました。
これには同校の獣医学教育病院で過去15年の間に検査や診察を受けた数千頭の犬のデータが使用されました。


ガイドラインが発表された犬種と注目点

35の犬種は以下の通り(カタカナ表記ですが、アルファベット順です)

  • オーストラリアンキャトルドッグ
  • オーストラリアンシェパード
  • ビーグル
  • バーニーズマウンテンドッグ
  • ボーダーコリー
  • ボストンテリア
  • ボクサー
  • ブルドッグ
  • キャバリアキングチャールズスパニエル
  • チワワ
  • コッカースパニエル
  • コリー
  • コーギー
  • ダックスフンド
  • ドーベルマンピンシャー
  • イングリッシュスプリンガースパニエル
  • ジャーマンシェパード 
  • ゴールデンレトリーバー
  • グレートデーン
  • アイリッシュウルフハウンド
  • ジャックラッセルテリア
  • ラブラドールレトリーバー
  • マルチーズ
  • ミニチュアシュナウザー
  • ポメラニアン
  • トイプードル
  • ミニチュアプードル
  • スタンダードプードル
  • パグ
  • ロットワイラー
  • セントバーナード 
  • シェトランドシープドッグ
  • シーズー
  • ウエストハイランドホワイトテリア
  • ヨークシャーテリア

各犬種ごとのガイドラインは別にアップしますが、全般的に注目したい点がいくつかあります。


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避妊去勢手術によって関節障害が発症するリスクは犬のサイズに関係しており、小型犬では手術によって関節障害のリスクが高まることはない

⧫小型犬種では、避妊去勢手術によってガン発病のリスクが高くなることはほとんどないが、上記リストのうち小型犬2犬種でガンの発病率が高くなっていた。
小型犬で避妊去勢手術とガン発病の関連が見られたのはボストンテリアのオスとシーズーのメス
それぞれ逆の性別では手術とガンの関連は見られなかった。ボストンテリアのオスは1歳になる前に去勢手術を受けた場合、シーズーのメスは2歳になる前に避妊手術を受けた場合にガン発病のリスクが高くなっていた。

⧫大型犬種では避妊去勢手術は関節障害発症リスクに有意に関連しているが、超大型犬種であるグレートデーンとアイリッシュウルフハウンドでは、手術を受けた時期がいつであろうと関節障害のリスクには影響が見られなかった。

ドーベルマンのオスでは、1歳での去勢でガン発病リスクがやや上昇、2〜8歳の去勢でさらに上昇という例外的なパターンが見られるため、1歳未満での去勢または去勢無しが推奨されている。

ゴールデンレトリーバーのメスでは、避妊手術の年齢がいつであってもガン発病のリスクが高くなる。

⧫全般的な傾向では、大型犬において手術をする時期についての注意が必要。多くはオス1歳以降、メス2歳以降が推奨されている。


犬の避妊去勢には社会的な問題という側面もある

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このガイドラインはこれから犬を迎えたいと考えている方、愛犬の避妊去勢について悩んでいる方にとって心強い指針になることと思います。
かかりつけの獣医師と話し合う際のツールとしても重宝なものになるでしょう。

一方で、以前に数犬種での研究が発表された時もそうでしたが、既に愛犬の手術を済ませた方が後悔したり落ち込んだりということがあるかもしれません。
しかし既に処置の済んだ手術によってリスクが高くなることを知っていれば獣医師と相談して対策を考える際にも、この情報は役立つものです。将来のリスクに備えてペット保険を見直す際の目安にもなります。

またこの研究はガンと関節障害のリスクをメインにしたものですが、避妊去勢手術で予防できる疾患もあることは忘れてはいけない点です。
2020年6月にワシントン大学の病理学者が発表した家庭犬の寿命についての統計では、避妊去勢手術をした犬の方が未処置の犬よりも平均寿命が長いという結果も出ています。

研究結果は単純に「だから避妊去勢をするべきではない」または「するべきである」と結論を出すものではなく、個々の犬にとっての最良を選ぶための有効なデータです。

「個々の犬にとっての最良」という点をもう少し掘り下げて考えてみましょう。

犬にとっての最良を決める時、医学的なデータだけでなく、もしも処置しないでアクシデントで子犬が産まれた場合の社会的な影響も考慮する必要があります。

今の日本ではアクシデントで子犬が産まれるべきではありません。
ましてや遺伝病や血統の知識のない素人が興味本位や小遣い稼ぎのために繁殖に手を出すのは言語道断です。
本来あってはならない子犬の誕生を完全に予防できる環境であるかどうかも、処置をするかしないかの重要なチェックポイントです。
もちろんこれは病気やその治療の研究をする科学者の守備範囲ではありません。
だからこそ、科学で判ったことを一般の飼い主に伝える時には『社会的な側面』を抜きにしてはいけないと私は考えています。

一番最初に書いたヴィズラの研究結果が発表された時に気持ちがザワザワしたのは「科学的な情報、しかも一般向けにかいつまんだものだけを読んで、やっぱり避妊去勢なんてしない方がいいんだ!という無責任な層が増えたら...」と考えずにいられなかったから。
それから間を置かずにゴールデン、ラブ、Gシェパードの研究が発表された時にはザワザワなんてもんじゃなかったですよ。

その頃私が心配していたのは個人レベルでの素人繁殖やアクシデントだったのですが、これらの研究結果を大規模保護団体が都合よく解釈して避妊去勢を行わないなどという、想像のはるか斜め上(いや、はるか斜め下)を行くような事態まで起こってしまって、犬の避妊去勢の社会的な側面を無視することの罪深さをまざまざと思い知りました。

このUCデイビスの研究のような避妊去勢のリスクの話になると、保護犬を迎えた人が「うちの犬は迎えた時に有無を言わさずに手術をされていた」と憤慨される声を聞くことがあります。
しかし保護犬の場合は存在そのものが社会的な問題ですから、その犬からさらに行き先のない犬が増えるようなことは社会的にあってはならない、つまり避妊去勢は最優先事項です。

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犬の避妊去勢の話になると、つい熱くなってしまいました😓

毎度同じことを繰り返していますが、普通の家庭犬でアクシデントでうっかり交配してしまうリスクを完全にコントロールできるなら、避妊去勢をするか否かは飼い主さんの判断することです。
ここで紹介したような研究は、その判断のための大切な要素です。

決して避妊去勢手術で健康を害することがあっても仕方がないと言っているわけではありません。
この件については、ぜひ以前に書いたこの記事も併せてご覧になってみてください。






長くなってしまったので、各犬種のガイドラインは別の記事で追い追いアップしていきます。



《参考URL》

Evaluation of the risk and age of onset of cancer and behavioral disorders in gonadectomized Vizslas
https://avmajournals.avma.org/doi/abs/10.2460/javma.244.3.309?journalCode=javma

Assisting Decision-Making of Age of Neutering for 35 Breeds of Dogs:Associated Joint Disorders, Cancers, and Urinary Incontinence.
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.00388/full

Lifespan of companion dogs seen in three independent primary care veterinary clinics in the United states
https://cgejournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40575-020-00086-8

2020/06/10

ドッグフードの『ヒューマングレード』具体的にはどういうこと? 

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“ヒューマングレードのドッグフード”

プレミアムフードと呼ばれる、価格が高めで原材料のこだわりをアピールしているフードの中には「ヒューマングレードです」とうたっているものも多いですね。

けれどそれらのフードの全てが『ヒューマングレードのペットフード』と呼べるかと言うと、厳密には違うのです。
このブログのタイトル「アメリカの犬たち」の通り、以下に書くのは全てアメリカの話ですが、日本でもアメリカ産のフードは広く利用されていますし、AAFCOの基準を採用しているメーカーも多いので、参考になさってください。

ヒューマングレードという言葉の意味は人間用の基準が適用されているということですが、もっと平たく言うとヒューマングレード=「食用(人間が食べることができる)」という意味です。
つまりヒューマングレードではない製品は「非食用(動物は食べることができるが人間の食用にはできない)」ということです。

昔、ニコが家に来てまだ1〜2年目の頃「だいじなニコが食べるものだから自分でも食べてみよう」とドッグフードをかじってみたりトリーツを食べてみたりしていたのですが、上記のような理由でヒューマングレードではないものを試食してみるのはお勧めしません。
(そんなことする人はあんまりいませんけれどね😅)


ヒューマングレードフードと表示しても良い条件とは

人間が食べることができるというのは、単に人間の食用の原材料を使っているというだけでは十分ではありません。
米国食品医薬品局(FDA)および米国農務省(USDA)が定める次の要件が満たされていればフードのラベルにヒューマングレードと表示することが許可されます。


  • 製品の全ての原材料が人間の食用に適していること
  • 製品の製造、梱包、保管が連邦規則第21条第110章に則って行われていること。  
人間の「食用」の製品は栄養価と安全性の両方を保つよう処理、輸送、保管されています。一方「非食用」の製品は栄養価や輸送保管中の品質の維持のための要件が食用よりもずっと緩くなります。
原材料だけでなく、製造ラインや製品のパッケージ、輸送保管方法にいたるまで人間の食品と同じ基準が適用されている場合に限り、「この製品はヒューマングレードです」と表示することができます。

つまりヒューマングレードのペットフードは、そうでないフードに比べて安全性が高いと言えます。(または安全である可能性が高い)
この厳しい基準のためヒューマングレードのペットフードを名乗ることができる製品はあまり多くはなく、価格はかなり高くなります。


ヒューマングレードとペットフードグレード

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「あれ?でも最近フードの説明でヒューマングレードってよく見かけるようになったけど?」と思われました?
よく見かけるのは製品そのものはヒューマングレードと呼ぶ基準を満たしていないけれど、原材料は人間の食用に適したものを使っているという製品です。

このヒューマングレードとペットフードグレードの差と言うのがまた曖昧なんですねえ。

鶏肉を例にとって見てみましょう。
ペットフードグレードの鶏肉というのはスーパーで売っているような胸肉やもも肉を切り取った後の鶏ガラです。鶏ガラと言うにはかなり肉が多く残っているものと考えてください。
(これに内臓肉や頭などを加えて高温加熱して脂を搾り、挽いて粉末にしたものがチキンミールです。ミールの場合は使用される肉の規定がまた少し違うのは、以前にも書いた通りです。)

フードの原材料一覧で鶏肉とかチキンとか書かれている製品では、肉が多く付いた鶏ガラが使われている場合が多いようです。
原材料の表示でわざわざ「骨抜きチキン」と書いてある場合は、鶏ガラではないですよという意味ですね。

「ヒューマングレードの鶏肉使用」と表示した場合は、精肉が使われています。
またヒューマングレードだからといってオーガニック(農薬不使用)というわけでもありません。

また、ペットフードグレードの鶏肉を使っている製品の品質が低いとは限りません。
ヒューマングレードの鶏肉を使った製品は高品質の場合が多いですが、ヒューマングレードの原材料使用がフードの品質を保証するわけではありません。


結局は総合的に判断することが大切

ちょっとまとめてみましょう。
ヒューマングレードのペットフードというのは、原材料の全てと製品管理や輸送保管など全てが人間の食品と同じ基準で製造されているという意味です。
価格もかなり高くなり、フリーズドライ、調理済みチルドタイプ(ホームメイドタイプを冷蔵で販売)、生食用冷凍パックなどが多いです。

ドライフードや缶詰フードで「ヒューマングレードの原材料使用」と表示されている場合、原材料(全てまたは一部)だけが人間の食用に適したものということです。

ヒューマングレードを標榜していなくても、高い品質のドッグフードはあります。ヒューマングレードの原材料使用という表示に必要以上に惑わされないことも大切です。

結局のところは原材料全体をよく吟味して判断しなくてはいけないということですね。

《参考URL》
https://thesciencedog.com/2019/01/15/tastes-like-chicken/
https://thesciencedog.com/2020/05/20/human-grade-dog-foods-some-science/

2020/02/28

ヴィックトリー・ドッグたちのストーリー3

前回の記事の最後に「次回に書きます」と書いたのが11月半ば。
その後、2月下旬まで放置されていたこのDogs in the U.S.のブログ😓😓😓

書く書く詐欺もたいがいにしなさいよ!ですね。すみません🙇




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前回はマイケル・ヴィックの敷地から保護(と言うよりも証拠物件として押収)された犬たちが、アニマルシェルターに預けられ関係者たちがその後の処遇に頭を悩ませていたところ、相談されたアメリカ動物虐待防止協会(ASPCA)の動物行動学者が犬の行動評価をスタートさせたというまで書きました。
前回のお話はこちら
前々回はこちら


犬たちの行動と反応を査定

ASPCAの責任者だったDr.Zは行動評価のためのチームを編成しました。
チームのメンバーはASPCA所属の動物行動学者や獣医師、そして北カリフォルニアのピットブルレスキューの主宰ドナ・レイノルズ氏とティム・レイサー氏の計10人でした。

テストはASPCAで保護犬の評価をする時に行われている手法で実施されました。


1. まずは犬の行動を観察。一匹ずつテストの場に連れてきて「落ち着いている」「緊張している」「攻撃的」などの評価を下す。


2. 担当者が犬の体を撫でて反応を観察。問題がなければ足を持つなど、もう少し踏み込んだ接触をして観察。


3. ロープやリングなどおもちゃを手にして遊びに誘う。うまく遊ぶことができるか、最後に速やかに遊びを止めることができるかを観察。


4. ボウルに入れたフードを与え、食べている最中に
ゴム製の手の模型を使ってボウルを引き離し反応を見る。

5. フードよりもさらに嗜好性の高いブタ耳などを与え、同じことをして反応を見る


6. 犬のぬいぐるみと、幼児の等身大の人形を近づけ攻撃性を示すかどうかを観察


さらにBADRAPの2人から、彼らが使っている以下の手法も加えることが提案されました。


  • ケージの金網越しに犬に近づき、反応を観察
  • ぬいぐるみではなく、本物の犬を近づけて反応を観察
  • 犬の顔にそっと息を吹きかけて反応を観察



テストの手法について解説

ここでちょっと、上記のテストについて解説します。
この評価が行われたのは2007年のことですので、ASPCAのテストが現在は使われていない古いものです。

上記4〜6の「食べているものを取り上げて反応を見る」「犬のぬいぐるみや等身大の人形を近づけて反応を見る」のテストで観察される反応は、実際の犬の行動を反映しておらず、犬の攻撃性の指標として有効ではないという研究の結果が出ています。
2010年代初頭からこれらの研究が、複数の動物行動学者や心理学者によって次々に発表されて来ました。

そもそもシェルターというストレスの多い環境で暮らしている犬の行動を一回のテストで評価するというのは無理な話ですし、犬にとっては文字通り生きるか死ぬかの分かれ目にもなり得るのですから、不確かな指標を使っていたのはひどい話です。

現在のASPCAは当団体の施設だけでなく、全国の保護施設向けに次のようなアドバイスをしています。


  • わざわざテストの場を設けての行動評価は行わない
  • 犬が持ち込まれた時には元の飼い主から犬の情報をできる限り多く聞き出す
  • 施設のスタッフは犬を観察して日頃の行動を把握し、情報を共有する
  • 望ましくない行動を見せた犬に対して、スタッフの対応を全員が理解して統一する
  • 望ましくない行動がある犬を譲渡する場合はその情報をきちんと開示して飼い主への指導を行う

また「おもちゃを見せて遊びに誘う」というのも、この当時の闘犬場から保護された犬たちへの理解の足りなさをよく表しています。
闘犬のために自家繁殖されて、闘うための訓練(という名の虐待)と実戦しか知らない犬たちにおもちゃを見せてもその意図は伝わりません。
そもそも彼らには「遊ぶ」という概念すらなかったと思われます。

以前にも書きましたが、この当時は闘犬の証拠品として押収された犬は裁判が終われば殺処分になるのが普通だったので、元闘犬の行動評価をしたことがある人がいなかったのです。

この査定の場にBADRAPのお二人がいたことは犬たちにとって本当にラッキーなことでした。
そしてASPCAのDr.ZがBADRAPのお二人の意見を取り入れてくれたのも本当に良かった。

ちなみにDr.Zはこんなサンタクロースみたいなお方です。


いよいよ一匹ずつのテスト、その結果は?

さて、いよいよ最初の犬のテストです。
犬たちのハンドラーは全てBADRAPのティム・レイサー氏が務めました。

Dr.Zの目標は49匹の犬の10%つまり5匹の犬にリハビリテーションを受けさせ、家庭犬として譲渡することでした。
ドナさんとティムさんも5匹を目標としていました。

そしてチーム一同が見守る中連れてこられた最初の1匹は人間に対して全く攻撃性を示しませんでした。
と言うより、何の反応も示しませんでした。
おもちゃを見せても反応は無し、食べているものに手を出しても攻撃性は見られませんでした。
長い間虐待されていたせいで、刺激に対して反応しないでやり過ごすことを身につけてしまっていたのかもしれません。

しかし犬舎から他の犬を連れて来て対面させた時、その犬は嬉しそうに尻尾を振り、礼儀正しく匂いを嗅ぎ合うことができました。
つまり『合格』です。幸先の良いスタートを切りました。

その後も合格が続き、当初の目標の5匹にあっという間に達し、さらに合格の犬は増えて行きました。

犬たちは複数のシェルターに分かれて収容されていたので、他のシェルターでも同じようにテストが繰り返されました。

ハンドラーのティムさんの呼びかけや優しく吹きかけられた息に嬉しそうに反応する犬、怯えるあまり全ての行動を放棄して地面にぺったりと這いつくばってしまう犬、そしてもちろん攻撃的な態度を示す犬もいました。

(※注 地面にぺったりと這いつくばってしまう犬は「パンケーキ」と呼ばれました。パンケーキ状態になってしまう犬はかなり多かったのですが、後にこれらの犬はバベシア症にかかっており、身体がだるくて起き上がれなかった可能性が高かったことが判りました。
怪我をした傷口を手当てもせずに放置されていた犬たちはダニの格好の標的となって、バベシア症を患っている犬はとても多かったのです。)

全ての犬のテストが終わった時点で、Dr.Zは犬たちの選別基準を決めました。
Dr.Zのチームはテスト結果をかなり寛大に評価してくださったものと思われます。
少なくとも攻撃性を見せたら一発アウトというようなものではありませんでした。

選別基準は次の5つで、全ての犬は5つの基準のどれかに分けられます。

  1. 預かりボランティアのもとへ行く
  2. 警察犬など法執行機関で働く犬となる
  3. 保護施設へ行き、そこでリハビリ後譲渡先を探す
  4. 終生を保護施設で暮らす
  5. 殺処分
1は最も評価の高かった犬たちで、16匹が該当しました。
2は評価の高かった犬のうち、適性があると思われる2匹。
(ただしこの2匹も最終的には普通の家庭犬として譲渡されました。)
3は問題行動はあるものの、適切な施設でリハビリが可能と思われる犬たちで、20匹でした。
4は攻撃行動が多く見られ、家庭犬に適さない犬たちで10匹が該当。
そして5の殺処分には1匹だけが該当してしまいました。

殺処分以外の方法がないと判断されたのは黒いメス犬で、繰り返し繰り返し繁殖に使われた跡がうかがわれました。
酷い環境での虐待と度重なる出産で、その犬は身体だけでなく精神もボロボロになっていました。
目につくものすべてを激しく攻撃しようとしたその犬は、ティム・レイサーさんの手に負えない唯一の犬でした。

苦痛しか知らなかった彼女の一生はペントバルビタールナトリウムの点滴によって幕を閉じました。
センチメンタルに聞こえるかもしれませんが、彼女が今度は生まれ変わって普通の幸せな犬として生きていることを心の底から願います。

犬たちに名前をつける

目標と予想を大きく上回る48匹の犬たちにセカンドチャンスが与えられることになりました。
それはすなわち、犬たちの今後について決定権を持つ責任者が必要になるということです。Dr.Zは動物に関連する法律に精通しインディアナの大学の法学部で教鞭をとるレベッカ・ハス教授を責任者として推薦し、ハス氏はこの任務を受けました。

レベッカ・ハス氏はとてつもない重圧と多忙な日々に身を投じることとなりました。彼女がその任務の一番最初にしたこと、それは犬たちに名前をつけることでした。

ヴィックの犬舎でもほとんどの犬は名前を付けられておらず、シェルターに保護されてからもチェサピーク54902とかハノーバー29といった風に、シェルターの地名と番号だけで識別されていたのです。
しかし彼らは1匹1匹名前をもらい、それぞれにオスカー、ローズ、ウバ、スイートピー、アーニーとなりました。

後にBADRAPのドナさんが「あの黒い犬に名前をつけてあげなかったことを今も悔やんでいます。せめて名前をつけて天国に送り出してやればよかった。」と語っていました。
いつまでもあの黒い犬のことを心に留めていてくれる人がいるということに少しだけ救われた想いになったのを覚えています。

こちらは行動評価の際にハンドラーの役目を引き受けたティム・レイサー氏。
イタズラ小僧がそのまんま大人になったようなティムさんです。


次回からは(今度はこんなに間を置かない!)いよいよ1匹ずつのストーリーを紹介していきます。



《参考URL》
https://www.aspca.org/about-us/aspca-policy-and-position-statements/position-statement-shelter-dog-behavior-assessments

2019/11/12

ヴィックトリー・ドッグたちのストーリー2

これはヤミ闘犬摘発に協力お願いのポスター。
ポスターの主であるのがThe Humane Societyであるのは皮肉だね。


前回から随分と間が空いてしまいました。

マイケル・ヴィックというNFLのスーパースターがいて、そのヴィックが幼馴染やいとこたちと、影でヤミ闘犬に手を出していて、成績の奮わない犬を残酷な方法で殺害していたこと。
2007年4月、それが明るみに出て、51匹のピットブルが保護されたというところまでをサラッと紹介しました。

2007年と言えば、我が家にはまだニコだけしかいなくて、私も犬を巡る社会問題などについて本当に無知でした。
それでもこのニュースは大スキャンダルとして連日報道されていたし「酷い話だなあ」とは思っていました。
でも後にThe Lost Dogsを読んだ時に、実態は報道されていたよりもずっと残酷で、犬たちに課せられていた負担は想像を絶する重さだったことを知りました。

51匹のピットブルたちの行方

4月25日の家宅捜索の際に保護された51匹のピットブルたちは「証拠物件」として扱われました。
ピットたちの体についた傷跡や生々しい怪我も全て「証拠」となります。
ですからヴィックの刑が確定するまで、証拠は厳しく「保管」されることになります。
(同時にビーグルやロットワイラーも保護されたのですが、この犬たちは闘犬には使われていなかったため普通の保護犬として扱われ、比較的早く新しい家族に譲渡されました。)

証拠物件である犬たちの所有権は、事件があった自治体のサリィ郡に移されました。
このような場合は公営シェルターでの保管が通常ですが、51匹という異例の数のため、犬たちは他の自治体のシェルターにも協力を頼み、6カ所に分けて預けられました。


サリィ郡のシェルターは本来の保管者であるにも関わらず、犬たちにとっては最も環境の悪い施設だったそうです。
このシェルターに預けられていた13匹の犬のうち2匹が、収監中に命を落としています。
原因などについての記録は残っておらず、真相は今もわからないままです。元々身体状態の良くない犬もいたので、そういうことがあっても不思議ではないのですが、せっかく助けの手が差し伸べられたところだったのに、楽しいことを何も知らないままこの世を去った2匹のことを思うと胸が締め付けられます。

その後、サリィ郡シェルターの犬たちは他の施設に移動となりました。
6カ所の施設に預けられた犬たちは、予定も計画もないままにシェルターの犬舎で過ごすことになり、その状態は9月上旬まで続きました。
施設によって、ボランティアなど人手が十分だったところもあれば、寝るところと食事を与えられるだけというところもあったようで、この数カ月は犬たちの精神状態に様々な影響を及ぼしたようです。

逮捕劇から判決までの人間たちの動き

犬たちが各シェルターの犬舎で無為な日々を過ごしていた数ヶ月の間、この事件に関連する人間たちの周囲にはめまぐるしい動きがありました。

ヴィックに先んじて逮捕された仲間は、有罪を認めると共にヴィックに関する証言も行い、それに伴ってヴィックも有罪判決を受けました。
但し、当時の法律では彼らが有罪となったのは違法な闘犬とそれにまつわる賭博などについてのみで、犬の殺害についてはカウントされませんでした。

ヴィックは所属していたチームを解雇され、ナイキなどのライセンス契約も打切りとなり、さらに犬たちのケアにかかる費用92万8千ドルの支払いが命じられました。
(後にヴィックは自己破産を申告しましたが、高級車や高級住宅地の自宅などの所有を理由に却下されています。)

ヴィックの弁護士は減刑ましてや無罪判決などという無理なことを求めれば、法廷で長期間争っているうちに身体的な選手生命が尽きてしまう、それよりも早期に罪を認めて服役し選手としての復帰を考えた方が良いという方針でした。

一方、ヴィック逮捕の立役者である地元保安官と政府機関の捜査官は、当初事件を管轄していたサリィ郡地方検事から嫌がらせとも言えるような仕打ちを受けていました。
地元出身のスタースポーツ選手を犯罪者とすることに対しての風当たりは、他の地域では想像もできないほど強いものだったようです。

この事態を重く見た保安官と捜査官は、ヴィックの裁判に先んじて事件の管轄をサリィ郡地方検事局ではなく米国連邦地区検事局に移すよう尽力しました。
ヴィック贔屓の色が濃かった地方検事とは違い、新しい管轄となった連邦検事は事件に関わった全ての被告に実刑を科すべきだと考えていました。
2007年8月27日にヴィックに下された判決は心情的には決して十分だとは思えない2年弱の懲役でしたが、当時の法律の範囲では上出来と言えるものでした。

犬たちの処遇を巡って動いた人々

捜索から判決までの間に、様々な人々が様々な活動をしていました。
中でも重要な役割を果たしたのは動物法医学者のメリンダ・マーック博士でした。彼女は殺害された犬たちの検視を手がけました。残念ながら犬の殺害の件については起訴されなかったのですが、検視の結果と目撃者の証言が一致したことは被告たちの有罪判決に大きく貢献しました。
(マーック博士については、dog actuallyで記事にしたことがあります。

さて事件の管轄が連邦検事局になったことから、犬たちの所有権もサリィ郡からアメリカ政府へと移りました。
しかし闘犬の裁判が連邦検事局の管轄となった前例は無く、裁判後の犬たちの処遇をどうするべきか頭を悩ませた連邦検事はマーック博士に相談を持ちかけました。博士がアメリカ動物虐待防止協会(以下ASPCA)の所属であったことから、同協会の動物行動学者のトップであるザウィストウスキー博士が紹介されました。
Dr.Zの愛称で呼ばれる博士は、まずは49匹の犬の査定をしようと引き受けました。

処遇に頭を悩ませると言うことは、この連邦検事マイク・ギル氏の頭には犬たちを無条件に殺処分にするという選択は無かったんですね。

当時、闘犬に使われたことのある犬は社会に出すには危険すぎるという理由で、証拠としての役目を終えた後は殺処分にするのが通例でした。
しかし2007年の春から夏にかけてこの事件が報道され続けたせいで、犬たちの存在は多くの市民や動物保護団体に知られており、全米から多くの嘆願書が連邦検事局に届いていたそうです。

中でも群を抜いて熱心に働きかけたのが、北カリフォルニアのオークランド市で活動しているピットブルのレスキューグループBADRAPの主宰ドナ・レイノルズ氏でした。
彼女は犬たちの命を助けてくれというだけでなく、BADRAPがピットブルのレスキューに費やした実績を資料として提出し、犬たちのリハビリに参加させて欲しいというものでした。ギル検事の元に届いた資料は手紙と言うより、小包というボリュームだったそうです。

一方対照的に、犬たちは全頭殺処分にするべきだと主張した団体もありました。
その1つはASPCAと双璧を成すアメリカ最大の動物保護団体The Humane Societyでした。

同団体の代表は「マイケル・ヴィックの犬たちは全米で最も攻撃的で獰猛なピットブルです。この国にはもっと大人しくて良い家庭犬の候補となるピットブルがたくさんいる。そんな犬でさえ譲渡先が見つからず殺処分になることもあるのです。私たちはヴィックの犬は全頭殺処分にすることを強く勧めます。」と声明を出しました。
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もう1つ、過激な行動で知られる団体PETAは裁判所の周辺でヴィックの酷い所業をアピールするデモを行いながら、犬たちは全頭殺処分にするべきだという主張をしていました。
広報担当者のコメントは「闘犬に使用された犬にはリハビリテーションという選択肢はあり得ません。彼らは殺処分にすることが最も人道的な選択だと考えます。」というものでした。
PETAという団体は譲渡やリハビリと言った活動は一切していないにも関わらず、何を根拠に殺処分を推すのか全く分かりません。
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The Humane Societyはこの声明に対して批判を受けたのか、この1年ほど後には闘犬の現場から保護された犬に関する方針を変更しました。
適切な査定の後にリハビリテーションを行い、家庭犬として最適と認められれば譲渡対象とするというものです。
同団体については、かなり後になりますがまたその活動について取り上げたいと思います。
PETAは全く変わっていません。ヴィックの犬たちのその後の活躍についても口を閉ざしたままです。
😡😡😡😡😡😡😡😡😡

たとえ数匹だけでも助けられるなら...

連邦検事は闘犬についても保護犬のリハビリについても、全く知識は持っていませんでした。
しかしこれだけ世間の注目を集めた犬たちを人道的に扱うことで、今後似たような状況で保護された犬たちの扱いを変えるターニングポイントになれるのではないかと考えていました。

49匹のうちの数匹、たとえ1匹だけでも殺処分を免れることができれば万歳だと思っていたそうです。

そして9月上旬、犬たちがいるバージニア州にASPCAのDr.Zと行動評価チームがやって来ました。
チームのメンバーは10名、うち6名がASPCAに所属する動物行動学者、そして2名はBADRAPのドナ・レイノルズ氏と彼女のパートナーでBADRAP設立者のひとりティム・レイサー氏でした。

このメンバーが犬たちがいるシェルターを訪ねて、1匹1匹査定をしていきました。
行動評価の様子と結果は次回に詳しく紹介します。


この動画はこの秋スタートのスポーツドキュメンタリー番組の予告編です。
どうやらマイケル・ヴィックの事件が取り上げられるようで、取材者がヴィックの犬舎があった場所を訪れています。
取材されているのは、49匹の犬の1匹だったチェリーを家族に迎えたご一家と、ヴィックの捜査に当たった政府機関のノール捜査官です。


次回は犬たちの査定と、何匹かの犬について書こうと思います。
その後はそれぞれの犬がたどった軌跡をご紹介していく予定です。

2019/10/25

犬の避妊去勢 検討のポイントは「するか」「しないか」ではない

Image by Manfred Burdich from Pixabay 


ホロウィッツ博士が書いたNYTのコラム

少し前にTwitterに書いたのですが、アレクサンドラ・ホロウィッツ博士(『犬から見た世界』『犬であるということ』著者、コロンビア大学バーナード・カレッジ犬認知研究所主宰)がニューヨーク・タイムズ紙に犬の避妊去勢についてのコラムを発表しました。

その内容を簡単に要約すると


  • 現在アメリカでは、飼い犬に避妊去勢処置を施すことは『責任ある飼い主』として当然のことと受け止められている。このことは大規模保護団体や獣医師たちにも支持されている。
  • 1970年代にピークに達した犬猫の殺処分数は、その解決策として作られた安価な避妊去勢専門クリニックの普及と避妊去勢処置を勧める自治体の方針から減少を更新し、過剰頭数の問題は一見議論の余地のない成功を収めたように見える。(殺処分数は2000万匹/年から約10分の1に減少)
  • しかし2010年代に入り、早期に避妊去勢処置をしたゴールデンレトリーバーをはじめとする大型犬の関節疾患が多発、一部の大型犬でガンのリスクが倍増という、避妊去勢と疾患の関連を示す研究が発表された。
  • 避妊去勢処置は性腺を摘出することで、犬の体内でエストロゲン、テストステロンなどの性ホルモンが分泌されなくなる為、生殖以外にも成長や全身機能に影響を及ぼすと思われる。
  • 犬の避妊去勢の推進は人間の都合だけを優先しているのではないか。ヨーロッパでは避妊去勢は一般的ではないが、ノルウェーやスウェーデンで野良犬が問題になっていることはない。
  • 避妊去勢の方法は、従来の性腺および生殖器摘出手術だけでなく、オス犬の睾丸への避妊薬注射、オス犬の精管切除、メス犬の卵管結紮など、ホルモン分泌の機能を残したまま避妊効果をあげるものもある。
  • 避妊去勢が広範囲に行われることで、犬の遺伝子プールから健全な犬が除外されてしまい、犬種の健全性が失われてしまう。そしてこのままではミックス犬、雑種犬と呼ばれる犬は絶滅してしまう。
  • 私たちは避妊去勢された犬を迎えることで、犬に対する責任を免除されたわけではない。犬の複雑なニーズや身体機能を、犬の行動やコミュニケーションサインを学習し理解しなくてはならない。修正すべきは犬ではなくて、我々の方だ。
ホロウィッツ博士の著作は犬という生き物を理解する上で大きな助けになるものです。犬認知研究所の研究も、興味深く重要なものです。
でもこのニューヨーク・タイムズに発表されたコラムは、間違っているわけではないけれど「博士、そこはちょっと詰めが甘かったり、理屈に無理があるのではないでしょうか」という部分があります。

しかし著名な博士が大メディアに発表したコラムですから、その影響は大きく知識層や動物保護団体の間ではちょっとした議論となっています。
これに応えるように、ワシントン・ポスト紙にも犬の避妊去勢についての記事が発表されました。

ワシントン・ポスト紙の記事の要約

WP紙の記事も事実関連についてはNYT紙とほぼ同じことが書かれています。
犬の避妊去勢により殺処分数が大幅に低下したこと、一方で避妊去勢処置と健康問題の関連が指摘されていることなどです。
しかしWP紙の記事は複数の専門家に取材して書かれているため、もう少し落ち着いた論調で現実的なものになっています。

  • 避妊去勢と相関して特定の疾患が起こるリスクは特定の品種と大型犬でより高く、手術をする年齢も発症率を左右する重要なファクターである。小型犬や雑種犬では避妊去勢による疾患リスクの上昇は確認されていない。米国獣医師会や専門家は、個々の犬によって事情が違うため決定はケースバイケースで行われるべきだとしている。
  • 避妊去勢によってリスクの高くなる健康問題が発表された一方で、避妊去勢による健康上のメリットがあることも確かである。乳腺腫瘍や子宮蓄膿症についてはリスク低下が明らかであり、避妊去勢を受けた犬は平均して長生きである。
  • ユタ州で活動する、あるドッグトレーナーは避妊去勢処置をしていない犬の管理についてのアドバイスを提供するFacebookグループを開始し、着実にメンバーを増やしている。このトレーナーも場合によっては、犬の精管切除や卵巣を残して子宮だけを摘出する方法などを推奨している。
ワシントン・ポスト紙の論調は「避妊去勢は一概にするべき!というものでも、絶対にダメ!というものでもなく、それぞれの犬の事情やリスクとメリットを考慮してケースバイケースで考えよう」というものです。
記事の最後の〆は、前述のドッグトレーナーの言葉で「私たちは誰だって、望まれない子犬が産まれてくるのを見たくはありません」としています。


アメリカで犬の避妊去勢を見直そうという声が上がること

前述のように、ホロウィッツ博士のコラムは獣医療関係者からは歓迎寄り、動物保護関係者からは困惑を持って受け止められているようで、議論が起きています。

しかしアメリカでは全州の3分の2で保護犬の譲渡時の避妊去勢を法律で義務付けています。保護犬でなくても飼い犬には基本的に避妊去勢処置を義務付ける自治体や、未処置の犬の登録料が処置済みの場合の4〜5倍に設定されている自治体もあり、飼い犬の約80%は避妊去勢の処置がされているというのが現状です。
つまり議論は起きても「避妊去勢はしない!」と決める飼い主が急増するわけではありません。

今のアメリカで飼い犬の避妊去勢をしていない飼い主は、犬の健康上の問題で免除の申請をしている人、ブリーダーとして登録している人、高い登録料も様々な不便さも乗り越えて信念を持って「しない」選択をした人、そして多分最も多いのは「法律なんか気にしない。時には小遣い稼ぎに子犬も売っちゃうよ〜」という人々です。
アメリカでは素人が犬の自家繁殖をして子犬を売るというのは「普通の人はやらないよね〜」という、逆の意味でハードルの高い行為です。つまり避妊去勢しないで素人繁殖をしてしまうのは、ちょっとヤバい人々。

犬の繁殖は事前に申請して許可証を取り、回数や飼育数に厳密な制限が有り、それを超える場合には許可証が発行されない、許可証の申請料自体も安くはないという規制をしている自治体も多いのです。
犬の避妊去勢をせずに素人繁殖をしてしまう人々を根絶することはできませんが、このような規制があることで、一般のごく普通の家庭で犬を自家繁殖するという選択を食い止める効果があります。

ホロウィッツ博士や彼女のコラムを受けてマーク・ベコフ博士が書いた別のコラムなどでは、北欧では犬の避妊去勢は一般的ではないが、かの地では野良犬は問題になっていないと述べています。
しかし国土の広さも地理的な条件も人口も人種や文化の多様性も、北欧とは全く異なる現在のアメリカでは、犬の避妊去勢を行わないというのはあまりにも無謀です。
(ヨーロッパの野良犬の話はまた場を改めて)
70年代から比べれば8〜9割は少なくなった犬猫の殺処分数が再び上昇カーブを描くことは誰も望まないはずです。

検討するポイントは何?

犬の繁殖を人間の手で制限しなくては殺処分される犬が増えてしまう、しかし従来の手術の方法では健康に問題が起こる可能性がある。
それなら、考えて検討するポイントは『どのように避妊去勢を行うのか』ということです。

ホロウィッツ博士もコラムの中で書いているように、オス犬なら精巣を摘出、雌犬なら子宮と卵巣を摘出する従来の手術とは違う避妊去勢の方法も色々とできるようになっています。
オス犬の睾丸に避妊薬を注射する方法は鎮静剤のみで全身麻酔は不要、処置は1回だけで避妊率は99.6%と言われています。
またオス犬の精管切除、メス犬の卵管結紮は人間の避妊手術と同じ手法です。
メス犬の手術では卵巣は温存して子宮だけを摘出するという方法もあるそうです。
これらの方法は全て、性腺を除去しないので性ホルモンが継続して分泌されるため、健康への影響が少ないと言われます。

※参考記事
Dogs in the U.S ~犬の避妊去勢、いろんな角度から

アメリカでこれらの処置をしてくれる獣医師はまだ多くはないそうですが、増加はしつつあるとのこと。

残念ながら日本語でこれらの情報はほとんど見つけることができませんでした。
(出てきたら自分のブログだったり😅)
メス犬の避妊手術も、日本語での情報は子宮は残して卵巣だけ摘出という反対のものが多くヒットします。

つまり日本でこれらの方法が実用化されるにはまだ少し時間がかかりそうだということです。

日本では犬や猫の避妊去勢について行政が口を出すことはありません。
本来ならそれで良いし、愛犬の避妊去勢をするか否かは飼い主が決めれば良いことだと思います。
しかし大都市以外の地方ではまだまだ外飼い、もっと言えば放し飼いさえも有り、そのような飼われ方の犬が避妊去勢処置を受けている率は限りなく低い。
毎年のように行き場のない子犬が産まれ、野犬になったり、そのまま保健所に連れて行かれたりする例が多く、殺処分が無くならない理由の1つでもあります。
日本にはごく普通の人々が素人繁殖をとてもカジュアルに考えている土壌もあります。

現在の日本において「アメリカの著名な犬の学者が避妊去勢を考え直そうというコラムを発表しました。避妊去勢は犬の健康に影響を及ぼします。」という情報が注釈なしに入り込んでしまうのは危険だと感じます。


アメリカと同じように、日本の社会もまだ犬の避妊去勢を必要としています。
従来の手術と違う方法はまだ日本には普及していないし、認可すらもされていないのかもしれません。
けれど、これら他の方法はすでに存在して実用化もされているということを多くの方に知識として持っていただきたいと思います。
まずは知らないことには変えて行くことができないですから。

さいごに

ホロウィッツ博士は犬の避妊去勢が広範囲に行われることで遺伝子プールが狭くなり、犬種の健全性が損なわれると述べています。確かにそういう一面はあるかもしれない。
でも、それは責任あるブリーダーが管理することでコントロールできる面でもあると思うのです。
それより怖いのは、避妊去勢処置をする飼い主が減り、遺伝病のチェックなどを行わないまま素人繁殖やアクシデントで生まれてくる犬が増えることです。
皆が避妊去勢処置をするようになるとミックスや雑種が絶滅してしまうというのも非現実的です。
現実にはそこまで徹底して避妊去勢が浸透することはまずないでしょう。雑種犬は規制から漏れた部分から繰り返しこの世に送り出される。
博士は避妊去勢された犬は面倒なことが取り除かれていると言うけれど、避妊去勢したからこその面倒さもありますし、ね。

でもホロウィッツ博士やマーク・ベコフ博士が犬への深い深い愛で、従来の避妊去勢の方法を見直そうと呼びかけることは、やはり大きな意味があると思います。

私がこのやたらと長いブログ記事を書いたのは、ホロウィッツ博士のコラムが注釈なしに日本語に訳されて、日本の犬メディアで発信されることを危惧したからです。

繰り返すけれど、アメリカも日本の社会も「犬は訓練次第で衝動をコントロールできるので、健康に影響を及ぼす避妊去勢をするべきではありません」という論理は残念ながら現状では通用しません。

「私の犬はちゃんとできている!」と言う個々の飼い主さんや犬については別の話ですよ。社会全体を見渡した時の話です。
引き取り手がなくて殺処分されている犬はまだたくさんいます。
闇雲に「避妊去勢はしない」ヨーロッパ方式を真似して、犬の生き地獄を作ってしまった保護団体さえあります。

検討すべきは「するか」「しないか」ではない、どのような方法なら犬に負担が少なくて効果的なのか、日本に導入するにはどうすれば良いのか、そこだと思います。



《参考URL》
ニューヨーク・タイムズ紙のホロウィッツ博士のコラム

こちらはワシントン・ポスト紙


2019/10/04

ヴィックトリー・ドッグたちのストーリー1

アメリカでThe Lost Dogsという書籍が出版されたのは2010年秋のことでした。
赤い表紙にとぼけた表情の赤毛のピットブルがレイアウトされたその表紙は、犬好きなら「おっ!」と手に取ってしまう愛らしいものでした。

私の「生涯の一冊」とも言える本。貼り付けた付箋も捨てられずにいます。

タイトルの下に書かれているとおり、これは「マイケル・ヴィックの犬たちと、彼らの救済と再生の物語」です。 

2007年初夏から秋にかけて、アメリカ中が驚き注目したNFL(プロフットボールリーグ)の大スター選手のスキャンダルが連日テレビのニュースを賑わわせていました。

それがこの犬たちのオーナーだったマイケル・ヴィック。

マイケル・ヴィックはティーンエイジャー同士の両親の間に生まれました。貧しい出身ながら卓越したフットボールの才能を見せ、奨学金を受けて大学に進み、卒業を待たずに2001年NFLのアトランタ・ファルコンズに鳴り物入りで入団しました。
プロの世界でも輝かしい活躍を見せ、ヴィックはNFLの大スター選手となりました。

大スターになったヴィックですが、子供時代を一緒に過ごした友達や従兄弟たちとは変わらず付き合っていました。
ヴィックの援助を受けてドラッグの売買などをしていた悪友たちの中から、ピットブルを使った闘犬は儲かるらしいぞという話が出たのは、ファルコンズに入団した年のことでした。
ヴィックとその仲間たちは、数頭の犬を購入し、自宅敷地内に犬舎、トレーニング施設、闘犬のためのリングを作って、違法な闘犬賭博のビジネスを始めました。

2007年4月にヴィック一味の一人がマリファナの違法所持で逮捕され、家宅捜索が行われた際にこれらの闘犬賭博の証拠が発見されたのが、ヴィック・スキャンダル発覚のきっかけでした。
動物同士を闘わせる闘犬や闘鶏は、アメリカでは全ての州で動物虐待罪に該当する違法行為です。
それだけでなく、ヴィックと友人たちは戦績の悪い犬や怪我をして使い物にならなくなった犬を、たいへん残酷なやり方で殺害して敷地内に埋めていたことも明らかになりました。

この時に敷地内で飼育されていたピットブル51匹が保護されました。

闘犬に関わっていた連中は皆逮捕され、ヴィックはチームを解雇。裁判を経て約2年弱の懲役となりました。
犬たちのリハビリにかかる費用1億円弱もヴィックに負担するよう命令が下りました。

まあ、その後またNFLに復帰したんですが、その話は改めて。

The Lost Dogsは保護された犬たちを救うために奔走した人々と、犬たちの波乱に満ちた道のりの記録です。

本の中では4匹の犬がクローズアップされて紹介されていますが、もちろん他の犬たちと彼らに携わった人たちにもそれぞれのストーリーがあります。

2007年に事件が明らかになり犬たちが保護されて今年で12年。
犬たちの多くは天国に行ってしまいましたが、健在の犬たちもいます。
そして先日はワシントン・ポスト紙にA second chanceというタイトルで犬たちのその後が紹介されました。

このピットブルたちのストーリーにはまさに「アメリカの犬たち」と言えるエッセンスがいっぱい詰まっています。
ワシントン・ポストの記事を読みながら、私も8年ぶりに彼らのことを皆さんとシェアしたくなりました。

心身共にダメージを負った犬たちが当初はどんな風だったのか、それぞれどうやって立ち直って行ったのか、ヴィックの犬たちと関わったことで人生が変わった人々。
そんなことを紹介していきながら、犬たちの傷、救済、再生といったことを一緒に考えていただけたらと思います。

ちなみにタイトルのヴィックトリー・ドッグというのは犬たちの愛称で、ヴィックの名前とヴィクトリーという言葉をかけています。

シリーズでボチボチと書いていこうと思っていますので、お付き合いいただけると嬉しいです。

2019/07/04

FDAからの情報更新、グレインフリーフードと心臓病

Image by Ernesto Rodriguez from Pixabay 


2018年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)が、犬の拡張型心筋症(DCM)の増加とエンドウ豆、レンズ豆等の豆類およびポテト類を主成分とするドッグフードに関連があるかもしれないという警告を発表してから、ちょうど1年の2019年6月末に新しい情報が報告されました。
FDA Investigation into Potential Link between Certain Diets and Canine Dilated Cardiomyopathy

しかし結果から先に言いますと、確実なことは未だ何もわかっていない状態です。
FDAは、DCMと診断された犬の頭数や犬種など具体的なデータの発表と共に、診断された犬たちが食べていたフードのうち10例以上の報告があった16ブランドのリストも発表しました。

まずはFDAが発表した具体的な数字をいくつかご紹介します。

ここでカウントされている「FDAに報告された拡張型心筋症」とは犬または猫を対象として獣医師または獣医循環器専門医によって診断された症例を指します。
DCMと診断されなかった一般的な心臓に関する症状の報告は含まれません。

2014年1月1日から2019年4月30日までの間にFDAに報告されたDCMの症例は524件。
うち犬が515件、猫が9件。

一般的にDCMはドーベルマンやグレートデーンなど、大型犬〜超大型犬に多い遺伝性疾患と認識されています。

しかし515件のうち、複数の報告があった犬種は従来考えられていた犬種にとどまらず以下の通りです。

アフガンハウンド、オーストラリアンキャトルドッグ、
ビーグル、ベルジアンタービュレン、ボーダーコリー、
ボストンテリア、ブルテリア、チワワ、ダルメシアン、
イングリッシュコッカースパニエル、フレンチブルドッグ、
イングリッシュスプリンガースパニエル、
フラットコーテッドレトリーバー、ゴードンセッター、
アイリッシュセッター、ジャックラッセルテリア、
ソフトコーテッドウィートンテリア、マルチーズ、
ミニチュアシュナウザー、ポメラニアン
オールドイングリッシュシープドッグ、パグ
ポルトガルウォータードッグ、ローデシアンリッジバック、
ロットワイラー、ラフコリー、サルーキ、サモエド、
シュナウザー、シェパード、スタンダードダックスフント、
スタフォードシャーブルテリア、ヴィズラ、ウィペット、
ヨークシャーテリア、レトリーバー(G、L)

ここに1匹ずつの症例報告の犬種もプラスしたら「どんな犬種でもDCMに罹る可能性がある」と言えるくらいの種類の多さです。

また遺伝型DCMは7歳くらいのシニア期以降に表れる傾向がありますが
報告された症例はこれにも当てはまりませんでした。

診断された犬の平均年齢は6.6歳 年齢の幅は4ヶ月齢〜16歳
同じく 犬の平均体重は30kg     体重の幅は1.8kg〜96kg

性別は オス58.7% メス41.3%

診断された犬たちが食べていたものを調べると、515件中452件がドライフードでした。
他にはウェットフード、混合、手作り食、生食がありました。

診断された犬が食べていた市販のフードは91%がグレインフリーフードで、93%にエンドウ豆、レンズ豆が含まれていました。
動物性のタンパク質源は多様で、最も一般的だったのはチキン、ラム、魚でした。他にはカンガルーやバイソンなどのエキゾチックミートも含まれていました。
タンパク質源はどれかの種類が取り立てて多勢という傾向はありませんでした。

DCMにはタウリンの欠乏が関連しています。タウリンはタンパク質源に含まれるシステインとメチオニンの2種のアミノ酸から体内合成されます。
診断された犬たちが食べていたグレインフリーフードはどれもシステインとメチオニンの必要量を満たしていました。

FDAは該当する犬の血液、尿、便、DNAを採取して病理組織検査を行なっています。
検査は定期的に繰り返し行われているそうです。
フードも様々な方向からテストが繰り返されています。

(FDAのレポートは、どんなテストをしているかの説明に大半を費やしており、そのほとんどの行き着く先は「今のところ判らない」「さらなる調査を続ける予定」となっています。とてもカジュアルに言うと肝心な中身のないレポートです。)  

テストの内容の他に列記されているのは、FDAがどんな団体や研究者と協力しているかということで、これも消費者にとって役に立つ情報ではありません。

様々なメディアがセンセーショナルに取り上げている「拡張型心筋症に関連する可能性のある16ブランド」のリストですが、反対に言えばこれくらいしか他のメディアで取り上げられる情報がないからです。

しかしFDA自身がレポートの中で
"DCMの診断テスト及び治療は、複雑で高額な治療費がかかる可能性があるため、FDAへの症例の報告は実際よりもずっと少ないと考えられる"
と書いている通り、現実の世界で拡張型心筋症を患っている犬は報告されているよりもずっと多いはずで、その犬たちが何を食べているのかを調べる方法はありません。

以前にも同じことを書いていますが、愛犬を大学病院や循環器専門医に連れて来る飼い主がアカナのフードを食べさせている確率が高くても不思議はないでしょうし、ペディグリーなどの超低価格フードを食べさせている飼い主の割合は限りなく低いはずです。
そしてそういう激安フードを食べている犬がDCMを発症していたとしても気づかれない可能性も高いでしょう。

そのような側面を考えると、このリストに挙げられた16ブランドを避けることが問題解決につながるとは思い難いです。

とは言っても、愛犬にこのリストの中のフードを与えることは心配だという方のお気持ちは良くわかります。
その場合、単純にフードのブランドを変えるだけなく、いくつかのブランドをローテーションすることが大切です。
ローテーションすることで同じ種類の食材を長期間食べ続けることをある程度は防ぐことができ、影響を小さくすることができます。

またゴールデンレトリーバーやコッカースパニエルのように遺伝的にタウリン欠乏症になりやすい犬種はもちろんのこと、そうでない犬種もタウリンのサプリメントを摂ることは心臓の健康をサポートするために有効です。

タウリンのサプリメントについては一応かかりつけの獣医さんに相談してみてください。
良いサプリメントを処方してくださる場合もあるし、アドバイスを頂けることもあるかもしれません。
(残念ながら、相談しても満足の行く答えをもらえない場合もあります。)

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さて、ここからはFDAのレポートの内容とは別に、その裏側と言うか、ちょっとウンザリする話です。
                                     Image by Tumisu from Pixabay 
このレポートの中にFDAが協力を依頼している3名の獣医学及び獣医栄養学博士の名前が挙がっています。
その中の一人、タフツ大学のリサ・フリーマン博士は2018年にグレインフリーフードとDCMの関連について非常に”面白い”署名記事を書いています。

原文はこちら
A broken heart: Risk of heart disease in boutique or grain free diets and exotic ingredients

昨年FDAが最初の警告を出した直後の8月に発表された記事です。
フリーマン博士は犬の心臓病に関連する危険な食餌はグレインフリーフードだけでなく、ブティックフードと呼ばれる小規模な会社が作っているフード、エキゾチックと呼ばれる非伝統的な食材が使われたフード(カンガルーやバイソン、変わった果物など)そして手作り食や生食だと述べています。

博士の主張は以下の通り。
穀物は伝統的にドッグフードに使われている原料で悪者にされるべきものではない。
小規模なフードメーカーが風変わりな原材料で作るフードは、巧みなマーケティングで良いものだと思い込ませているだけ。
賢明な飼い主はフード製造の長い実績を持つ大規模メーカーが穀物やチキンなど従来の原材料で作ったフードを与えるべき。
そして何より、一般の飼い主はドッグフードを選ぶ時にラベルの原材料一覧を読むのをやめるべき!

びっくりして開いた口がふさがらなくなるか、鼻で嗤ってしまうか、怒り心頭になるかはお任せします。

そしてアメリカンケネルクラブは今回のFDAのレポートを紹介するに当たって、このフリーマン博士の言葉を引用しています。
未だ具体的な因果関係はわかっていないけれど、としながらも、専門家の意見として小規模メーカーを非難する言葉を誘導的に使っている。
原文→  What Dog Owners Need to Know About FDA's Grain-Free Diet Alert

タフツ大学にはピュリナが資金を出して設立し、大学の獣医学部と共同で運営している研究施設があります。もちろんフリーマン博士もこの施設の運営に携わっています。

また別の獣医学博士が所属するカリフォルニア大学デイビス校はロイヤルカナンやペディグリーのメーカーであるマースペットケアと、共同で研究をしたり研究施設を設立したりと言った40年に渡る協力関係があります。

3人の博士のうちの最後の方が所属するフロリダ大学もピュリナからの様々な形の寄付、共同研究を行っています。

ヒルズもまた、3つの大学の全てに寄付をしています。

大学を含めて研究機関はどこも資金集めに苦労していますし、企業が寄付や共同研究という形で資金援助をすることは悪いことではありません。社会全体としてはむしろ望ましいことです。

しかしFDAという公共の機関がドッグフードの安全性について調査をするに当たって、利害の絡む企業に関連する博士を採用するのは避けるべきでしょう。

マーズもピュリナもヒルズもトウモロコシや小麦などの穀類をたっぷり使ったフードを製造販売している大企業です。彼らにとって小規模メーカーがこだわりの原材料で作る高価格フードが売れることは、都合の良いことではありません。

このグレインフリーフードと心臓病の関連について、私が感じているモヤモヤを分かっていただけたでしょうか?

従来の不妊化手術と性腺温存型不妊化手術を比較

pic by  Mohamed_hassan from Pixabay 犬の不妊化手術(避妊去勢)の新しい流れ 犬の不妊化手術は飼い主にとって「どうする?」 の連続です。 10年ほど前に不妊化手術による健康上の影響についての研究結果が発表されるようになってからは、さらに悩みも増...